フィジギフゴリラのデビルハンター   作:リーグロード

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毎日投稿って難しいね。


幸せが壊れる時は血が香る

 

 公安のデビルハンターとしての主要な仕事の一つである担当区域でのパトロール。本来はパワーとバディを組んでいるデンジだが、昨日の新人歓迎会の際にパワーが血抜きのためマキマに連れて行かれたため、今回はアキと姫野と3人でのパトロールとなった。

 

「今日の飯はここにするか」

「賛成!」

「ポチタもここでいいよな?」

「ワン!」

 

 今日の昼飯にと選んだのは、少々古びた店構えのラーメン屋だった。

 滅茶苦茶美味いという訳ではないが、普段食うレベルならばまったく問題のない美味さのラーメンが出された。

 

「ほら、ポチタ。餃子だぞ」

「ワン!」

「デンジ君もだけど、ポチタ君も本当によく食べるね」

 

 気前のいい食いっぷりで餃子を頬張るデンジとポチタに、姫野が感心した声をあげる。

 どこまでも穏やかな風景だ。悲劇の気配など全くない平和な食卓に、それを断ち切る音が響いた。

 

「なんだこん音……」

「ウ~~ッ、グルルルルッッ!!」

「どうした、ポチタ?」

 

 外から聞こえてきた奇妙な音にデンジが反応すると、ポチタが警戒するように低く唸り始めた。

 そのポチタの異常な反応に、悪魔でも現れたのかとアキも警戒を強め、箸を止めて店を出ようとする。

 

「ここのラーメンよく食えるな……、味酷くないか?」

 

 デンジ達以外で唯一店内にいた客が急に話しかけてきた。

 

「誰……?」

「俺は普通にうまいけどな」

「ガルルルルッッ!!?」

 

 見知らぬ男が突然話しかけてきたことで、姫野は警戒心を抱く。一方で吞気なデンジとは対照的に、ポチタはさらに強い警戒心を見せる。

 

「味の良し悪しが分からないんだな。まあ、仕方ない事だ。幼少期に同じような味のモンしか食べてないと、大人になってバカ舌になるらしい。舌がバカだと幸福度が下がる」

「店出るか」

 

 謎の男が訳の分からない事を喋っていると、アキが箸を置いて会計の準備に入る。

 それと同時に、ポチタの異様な警戒する態度から、謎の男から見えない位置でコンの構えを取っていた。

 

「俺のじいちゃんは世界一優しくてな。高い店でいいモン食わせて貰ったな~」

「…………」

 

 味の話からじいちゃんの話にすり替わった男に、デンジは妙な胸騒ぎを覚えた。

 

「じいちゃんヤクザだったけど、正義のヤクザでさあ……。必要悪っていうのかな……、じいちゃんみたいな人はさ、女子供も数えるほどしか殺した事ないんだと」

「…………ポチタ」

 

 ヤクザという言葉に、デンジはポチタにいつでも戦えるように声を掛ける。

 

「薬売った金で欲しいモンなんでも買ってくれてさ……。み~んなに好かれた江戸っ子気質のいい人だった……」

 

 懐から一枚の写真を取り出して見せてきた。そこに映るのは、紛れもなくゾンビの悪魔に騙されて死んだジジイの姿だった。

 

「なんのつもりだテメェ……」

「知り合いか?」

 

 アキがデンジに尋ねると、デンジは答えることなく、目の前に置かれているラーメンの器に手をかける。

 

「銃の悪魔はてめぇの飼ってる悪魔の心臓が欲しいんだとよ」

 

 写真を懐にしまい込むと、別の物を取り出して、デンジに向ける。

 その瞬間、デンジの次の動きは早かった。

 

「っしゃらぁ!!」

「がぁっ!!?」

 

 男が立ち上がると同時に、デンジは持っていたラーメンを男の顔面に投げつけた。熱々のスープが男の顔に直撃し、器が頭に当たって粉々に割れる。その拍子に、男が取り出した物がデンジの足元に転がり落ちた。

 

「なんだこりゃ?」

「──っ、馬鹿!?それは銃だ!!絶対に使ったりするなよ、デンジ!」

「そんなの言われなくても、これの使い方なんざ知んねえよ!」

 

 アキの叫ぶような警告に、デンジはそれが危険物だということだけは理解し、目の前の男に取り返されないよう、服の中に隠した。

 

「っ糞がぁ!!俺のコートがどれだけ高いか知ってんのか!?それをこんな不味いラーメンで汚しやがって!!!それと、俺の銃を返しやがれ!!」

「人のタマ狙ってくる奴の服の値段なんざ考える方が馬鹿だろう!!それに、こいつって持ってちゃダメなもんだろ?だったら、公安の俺が回収すんのが筋だよな!!!」

 

 器が頭に当たって血を流し、片膝をついている男は、銃を奪ったデンジを鋭く睨みつける。

 だが、そんな睨みに全く怯まないデンジは、ニヤニヤ顔で目の前の片膝をついた男を挑発する。

 

「お前、ジジイの孫ってことはヤクザなんだろ?ヤクザって奴はみ~んな馬鹿だよな!!昔っから、アニキを襲うヤクザは武器持たなきゃ喧嘩もできねえ野郎ばっかだからよ、懐に手を入れた瞬間から武器出すって分かってたぜ!お前らみてぇな雑魚ヤクザの行動をなんていうか知ってっか?ワンパターンって言うらしいぜ!あひゃっひゃっひゃ!!!」

 

 そう言って、デンジはポチタを抱えてチェンソーの刃を男に向ける。男がその態度に苛立ち、立ち上がろうとした瞬間、デンジの背後から現れたアキがそれを制止する。

 

「挑発するな、デンジ。それと、そこのお前。銃の不法所持は重罪だ。警察が到着するまで大人しくしていろ。従わない場合は、悪魔の力の行使も視野に入る。それに、お前さっき銃の悪魔と言っていたな。警察が来るまで、詳しい内容を全部話してもらうぞ」

 

 アキは冷静な表情で男に向けて、狐の形を作った手を見せつけて威圧した。男は一瞬怯んだ様子を見せたが、それでもデンジへの憎悪は消えなかった。

 お互いに緊張感が高まり、一触即発の空気が漂う中、男が口を開いた。

 

「なあ、デンジ。お前がもしじいちゃんに恩を少しでも感じてるなら、大人しく俺の言うことを聞け」

「はあ?頭沸いてんじゃねえの、お前?なんで俺がジジイに感謝してるってことになってんだよ。俺が感謝してるのなんざ、アニキとマキマさんだけだっての」

 

 デンジの返答に、男は頭を掻いて溜息を吐く。

 

「おい、動くな。次に許可なく動いたら、容赦なくお前を悪魔の餌にする」

「餌にするね……。随分と大きな口叩くじゃねえか、公安のイヌ風情がよ。果たして、餌になるのはどっちかな?」

 

 アキの忠告に、呆れたような声を出す男は左手首を掴んで引き抜いた。

 

「コン……!」

 

 アキはすぐさま狐の悪魔を呼び出し、男を丸飲みにさせた。本来なら聞きたいことも多々あったが、相手がどんな悪魔と契約しているかわからない以上、悠長に構えている時間はない。ベテランデビルハンターとしての勘に従い、即座に行動を選んだのだ。

 

「ガブッ!!」

 

 狐の悪魔が現れたことによって、ラーメン屋の建物は粉々に破壊された。弁償の2文字が浮かぶが、今は目の前の敵を仕留めることに集中する。

 そうして、狐の悪魔が男を丸飲みにし終えたと思った瞬間だった。

 

「早川アキ……、私の口にとんでもないモノを入れてきたねえ……。人でも悪魔でもなっ……」

 

 喋っている途中で、狐の悪魔の言葉が止まった。

 その次の瞬間、狐の悪魔の額が内側から突き出た刀によって切り裂かれた。

 

「なに……あれ……?」

 

 狐の悪魔の中から現れた、頭と両腕に刀が生えた異形の怪物を目にして、姫野は呆然と呟く。

 アキは狐の悪魔が殺されたことにより、刀を鞘から抜く準備を整える。一方、デンジは異常な唸り声を上げるポチタを抱えながら、すでにスターターロープを引き、チェンソーを回転させていた。

 

「随分とやってくれたじゃねえか、公安のイヌ野郎。だがどうやら、俺は餌にはならなかったようだな!」

 

 狐の悪魔の頭から飛び降りたサムライソードが、アキに襲いかかった。

 

「ゴースト!!」

「ぐおわっ……!?」

 

 飛び降りている最中、見えない何かに殴り飛ばされたサムライソードは、そのまま床に叩きつけられた。

 その隙にアキは鞘から刀ならぬ釘を抜いた。

 

「アキ君!それを使ったら──」

「そんなこと言ってられません。既に狐は殺された。アイツが銃の悪魔と関係のある悪魔なら、コレは今が使い時です!!」

 

 姫野の必死に止める声に、アキは釘を握る手にさらに力を込める。

 その間に、サムライソードは起き上がり、首をコキコキと鳴らしてこちらを鋭く睨みつけてくる。

 

「なんか知らねえけど、早パイがそれ使ったらヤバいんだろ。だったら、俺とポチタであのサムライ野郎をぶっ倒してやるぜ!」

「バウッ!!」

 

 釘を構えるアキの前に、デンジとポチタが躍り出る。

 そして、デンジはチェンソーの刃を向けると、サムライソードは右腕を大きく上げて襲い掛かってきた。

 

「おっらぁ!」

「へっ、そんな大振りの攻撃が当たるかよ!」

 

 まるで避けてくださいと言っているような雑な攻撃を、デンジは横を通り抜けざまにサムライソードの腹にチェンソーを押し当てる。

 

「がああぁぁぁ!!!」

「悪魔になろうが、ヤクザはやっぱし弱えなぁ!!」

 

 回転するチェンソーの刃がサムライソードを斬り裂く。

 だが、サムライソードは痛みを堪えながら、デンジに反撃しようと手の刀を振り回す。

 

「させないよ!!」

「ぐおっ!?」

 

 デンジに集中していたサムライソードの右手を、姫野のゴーストの右手が掴んで動きを止める。再び見えないナニカに動きを封じられたサムライソードは、止められた右手に視線を向ける。

 その隙をデンジが見逃すはずもなかった。

 

「っしゃあ!これで悪魔駆除完了!!」

「っ!?ぐおわああああっっっ!!!」

 

 デンジが隙だらけなサムライソードの顔面にポチタのチェンソーを突き刺した。

 顔の上半分をチェンソーで削り取られたサムライソードは、痛みのあまり絶叫する。

 そして、そのままデンジがチェンソーを引き抜くと同時に、サムライソードの体は糸の切れた人形のように前のめりに倒れていった。

 

「よっしゃ!どんな強い悪魔かと思ったけど、意外と楽勝だったな!」

「ワフッ!!」

 

 勝利を確信したデンジは、抱えていたポチタを下ろし、ハイタッチで勝利を祝った。

 そんなデンジとポチタの浮かれた様子に、いつでも釘を打ち込めるように構えていたアキの肩の力が抜ける。

 

「はぁ~……、姫野先輩。大丈夫ですか?」

「私の方はなんともないよ。アキ君こそ、それ使わないでって言ったじゃん!」

「仕方ないでしょう。狐がやられて、俺の出来ることなんてこれくらいしか無かったんですから」

 

 釘を鞘にしまうと、状況報告の為に携帯を出そうとするアキの後ろに、見知らぬ女が現れた。

 

「さすが銃の悪魔に狙われるだけの悪魔だな。いや、この場合はその契約者が強いってことか……」

「どこから来た……?そいつの仲間か?」

「ん?女か?あっ、もしかして、あそこで倒れてる悪魔のこれか?」

 

 勝利に浮かれているデンジは、倒れているサムライソードに近づく女に向かって小指を立てる。しかし、女は冷ややかで嘲笑うような目をデンジに向け、中指を立てて返す。

 彼女がしゃがんで倒れているサムライソードに何かをすると、顔の上半分が削り取られていたサムライソードの顔がみるみる再生され、元通りになったサムライソードは何事もなかったように起き上がった。

 

「どうして負けた?」

「油断した。マジで油断した」

「じゃ、さっさと殺して」

 

 立ち上がったサムライソードを前に、デンジは先ほどまでの浮かれた表情を引き締め、ポチタを抱えながら再びチェンソーを起動させた。アキと姫野もそれに続き、いつでも動けるようにサムライソードの動きと隣に立つ女の挙動に集中していた。

 

「まずは、デンジ。お前からだ」

「──っ!?」

 

 中腰の居合切りを彷彿とさせる構えを取ったサムライソードに、デンジは嫌な予感を抱き、ポチタのチェンソーを構えた。

 

「無駄だ──」

 

 気づけば、サムライソードはいつの間にかデンジの背後に回り込み、ポチタのチェンソーごと砕いて、デンジの胴体を斜めに一閃で斬り裂いていた。

 

「「っっ!!?」」

 

 デンジの胴体が斬られたその瞬間、アキと姫野は驚愕し、戦慄を隠せなかった。まるで瞬間移動のような目にも止まらぬ速さの一撃により、サムライソードの危険度は一気に跳ね上がった。

 

「イッでぇぇ~~っ!?」

 

 倒れたデンジが痛みに苦しみの声を上げたのを聞いて、アキと姫野はまだデンジが生きていることに、心の中で安堵のため息を吐く。

 だが、デンジが生きているのを知ったのは敵も同じこと。

 

「おい、まだ生きてるぞ。その悪魔のチェンソーを盾にしたんだろう。さっさとトドメをさせ」

「断る。デンジにはまだ聞きださなきゃならねえことがあるからな」

 

 女の指示を無視したサムライソードが、血溜まりの中に倒れ込んでいるデンジに近づき、その目線を合わせる。

 

「なあ、デンジよ。俺の狙いは二つある。一つはさっきも言った通り、そこの悪魔の心臓を銃の悪魔が欲しがっている。そいつを渡せば俺らの組は銃を手に入れてより強くて強大な組織になれるんだ」

「知っ……るかよ……」

 

 デンジは痛みに耐えながら、サムライソードの言葉を拒絶する。そんな態度が気に入らなかったのか、サムライソードは立ち上がってデンジの背中を踏んで傷口を広げる。

 

「ぎゃあああ!!!」

「これだから学のねえ馬鹿は嫌いなんだ。今のてめぇの立場を弁えて喋るんだな……」

 

 痛みに悲鳴を上げるデンジを助けようとアキと姫野が動こうとした瞬間、サムライソードの仲間と思われる女がその前に立ちはだかった。

 

「私はあの悪魔の心臓さえ回収出来ればそれで問題ないんだけど、アイツがあの契約者に聞きたい話があるみたいでさ、それまで動かずにジッとしてくれる?」

「ゴースト……」

「嫌だ……、あの女からは嫌な気配を感じる……」

 

 パーカーのポケットに手を突っ込んだまま、戦闘態勢を見せない女に、姫野が先手を打とうとゴーストに指示を出したが、幽霊の悪魔はそれを拒否した。

 これまでにこんなことは一度もなかったため、姫野は目の前の女の危険度をサムライソードと同等か、それ以上だと判断した。

 

「まあいい。二つ目の狙いこそ、今こうしてお前がまだ生きている理由だ。デンジ、甚爾の居場所を吐け」

「……アニキの?なんでてめぇがアニキの居場所を知りたがる」

「まあ、当然の疑問だよな。アイツは俺のじいちゃんの組が隠してた金に手を付けて逃亡しやがった。それに、俺の組から銃を持たせた組員が2名失踪した。状況から見て甚爾の奴が関わったとしか思えねえ」

 

 デンジの質問に律儀に答えるサムライソード。

 その理由を聞くと、デンジはニヤニヤと笑い始めた。

 

「へっへっへ、なんだよ、アニキの奴。ヤクザの金で豪遊してんのかよ。ちくしょ~、羨ましいな……」

「下手な演技はよせ、お前がアイツの居場所を素直に吐くなら、苦しまずに済ませてやるからよ」

 

 そう言いながら、デンジの背中をグリグリと踏みつける足に力を込めるサムライソード。デンジは痛みに耐えつつ、あえて挑発的な態度を崩さない。

 

「けっ、バ~~カ!!たとえ俺がアニキの居場所を知ってたとしても、お前なんかじゃアニキには勝てないに決まってるぜ!」

 

 舌を出して挑発するデンジの言葉にカッとなったサムライソードは、勢いよくデンジの横腹を蹴り上げた。

 

「ぐふっ!?」

 

 蹴られた衝撃で傷口からさらに血を垂れ流すデンジだが、その痛みに麻痺していた手足の感覚が戻ったのか、蹴られた勢いでそのまま立ち上がる。

 

「──ポチタぁ!!俺の血を飲め!!!」

「ワァンッ!!!」

 

 開いた傷口から流れ出る血を掌に集め、それを駆け寄ってきたポチタに飲ませた。

 すると、ポチタの砕けたチェンソーが再生して、元の状態へと戻る。

 

「覚悟しろよ、今度は復活出来ねえように、粉微塵になるまで切り刻んでやっからよぉぉ!!!」

「吠えるなよ、クソガキがぁぁぁ!!!」

 

 傷の痛みをテンションで誤魔化すデンジに、サムライソードが刀を構えて襲いかかる。

 こうして、再びデンジとサムライソードの戦いが幕を開けたのだった。

 

 


 

 

「さて、今日の昼飯はどうするか……」

 

 昨日のデビルハンターとはまた別ベクトルでイカレたサラリーマンのおっさんに触発されてか、昼飯にこだわりが出来てしまった俺は、満足のいきそうな飯屋を探して街中をウロウロしていた。

 

「ん?あれは……」

 

 そんな探索中、一般人とは違う剣呑な空気を纏う集団が目に留まった。

 俺は奴らに気付かれる前に物陰に身を潜め、集団にバレないよう観察する。次の瞬間、奴らは懐に隠していた銃を引き抜き、発砲した。

 

「あ~、なるほど。公安襲撃編が始まったわけね……」

 

 今の日本で銃を乱射する事態なんて、他に考えられはしない。俺は付近の住人たちが発砲音に引き寄せられて野次馬となる前に、昼飯のことなんて後回しにして行動を開始した。

 

 今の状況では、マキマは京都に応援を呼びに行っているはずなので東京にはいないだろう。ただし、小動物を使った遠隔監視の目がある以上、油断はできない。

 さらに、監視だけでなく遠隔コスり攻撃もある。あれの詳しい条件や防ぎ方は原作でも記されていなかったはずだから、俺は警戒を重ねてマキマに見つからないよう慎重に行動していた。

 

「付近に小動物の気配はなし。仮にあっても不用意な行動は俺が甚爾であるとバラすようなものか。民間人を装いつつ、現状がどういった風向きで動いてるのか確認しねえとな」

 

 俺というイレギュラーが割り込んだせいで、世界は原作とは違う道を歩んでいる。その最大の変化は、ポチタが生きていて、デンジがチェンソーマンになっていないことだ。

 原作主人公が武器人間になっていない事が、マキマの動きにどういった変化を起こすのかが、俺にとって最大の注意点だった。

 

 現時点で俺が倒せそうにないのは、マキマを筆頭とした根源的な恐怖の悪魔だろう。あくまで原作を読んだ上での感想だが、実際に戦ってみたら大したことないと言えるなら、それに越したことはないんだがな。

 このクソったれな世界でも幸せを謳歌したいという願いを叶えるには、悪魔の存在が一番の障害だ。

 チェンソーマンの一部だけなら銃の悪魔戦に少し介入するだけで済んだが、二部の存在が厄介すぎる。俺の知っている原作では、戦争の悪魔が核兵器で力を取り戻したところで終わっている。

 この世界に転生して、原作知識も朧気で細かい詳細を忘れてしまったため、知識に頼らない強さを求めた結果、いくらフィジカルギフテッドでも限界があると悟っただけだった。

 

「原作でも、呪力のない甚爾は4級の呪霊すら払えない。単純なフィジカルだけでは対処できない存在を前にすると、俺なんてそこら辺にいる普通の人間と同じカテゴリーだよな」

 

 それでも、呪具を持てば呪力ゼロの甚爾でも特級を払えるように、俺も悪魔の力を契約で手に入れられれば根源的な恐怖の悪魔とだって渡り合える筈だ。

 

「知恵を働かせろ。行き当たりばったりの考えだけで行動するな。いつだってステイクールだ」

 

 俺は自分に言い聞かせるように呟くと、周囲の小動物の気配を避けながら、ビルの内部へと侵入する。

 ここならば、マキマに見つかるリスクを減らしつつ、デンジの居場所も追えるだろうと判断しての行動だ。

 

 その行動は正解だったようで、ビルの窓から隠れるように周囲を見渡していると、少し離れた場所から狐の悪魔の顔が建物を壊して現れた。

 

「ビンゴ!」

 

 公安襲撃の際、デンジらが襲われたのは銃の発砲音がしてからだったと記憶していた俺の考えは見事に的中していた。

 狐の悪魔が派手に暴れたおかげで、デンジの今いるであろう居場所を把握できた俺は、上空を飛んでいるカラスの目に注意しながら、隠れ潜んでデンジらの戦いを観戦出来る場所を探して移動する。

 

「デンジがチェンソーマンにならない世界線がどういった結末を辿るのか、あるいは今回の事件でチェンソーマンになるのか、見届けさせて貰うぜ」

 

 デンジの今現在の強さを確認するために、俺はちょうど向かいの建物の中に侵入を成功させ、最上階から眼下に広がる戦いの様子を観察する。

 

 甚爾の圧倒的な視力で戦場を見渡すと、ポチタを抱えた傷を負ったデンジがサムライソードと一騎打ちを繰り広げている。

 その近くで沢渡に睨まれて動けないでいるアキと姫野の姿も確認できた。

 

「パワーの姿がないのは逃げたからか?まあ、それはどうでもいいか?」

 

 ぶっちゃけ、パワーの活躍は公安襲撃編ではほとんどない。岸辺の特訓と、ゾンビを倒すくらいか。

 

「遠隔攻撃がない場合は助けに行った方がいいだろうが、ひとまずはここで観戦させてもらうぜ、デンジ」

 

 原作にはない活躍を期待しながら、俺はデンジとポチタの戦いを見守った。

 

 

 




次回はデン虐になります。原作よりも酷い扱いを受けさせる予定なので、愉悦勢がワインを準備して待機する内容になるだろうね。
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