フィジギフゴリラのデビルハンター   作:リーグロード

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リベンジ

 

 一週間、マキマに岸辺を紹介され、その間デンジとポチタは指導という名の岸辺の暴力をひたすら受け続けた。デンジは全身が痛みに襲われ、ポチタは半殺しにされた回数がとうとう三桁に達していた。

 だが、それに見合う成果は確かにあった。アルコールで頭が回らなくなっていても、やはり腐っても最強のデビルハンターを名乗るだけの実力はある。

 最低限生き延びられればいいという甚爾の訓練とは違い、本気で痛みを伴うしつけのような岸辺の指導は、デンジとポチタに膨大な経験値を与え、彼らを大きく成長させた。

 今の二人が一週間前の自分達と戦えば、間違いなく圧勝に近い勝利を収めるだろう。

 

「まあ、今日はこのくらいにしといてやる」

 

 既に今日の指導が始まってからかなりの時間が過ぎていた。

 昼飯も抜きに朝から晩まで四六時中、デンジとポチタは岸辺にしごかれ続けた。

 その甲斐あって、二人はようやく岸辺から合格点を貰うことができたのだ。

 

「あ~……、やっと終わった……」

「ワフゥ……」

 

 一週間ずっと指導を受けていたとはいえ、慣れたわけではない。

 終わりの一言でデンジとポチタが糸が切れたように脱力していると、岸辺が二人めがけてナイフを投げつけてきた。

 真っ直ぐに飛んできたナイフを、デンジはあっさりキャッチし、ポチタはチェンソーで弾き返した。

 

「へへ、獣が狩人の言葉を信用するなでしょ、先生」

「ワウッ!」

 

 自慢げに言うデンジとポチタ。それを見た岸辺は、満足そうに懐から酒を取り出し、一口だけ飲んでから、二人に合格と一言告げた。

 今度の言葉に噓は無いと判断したデンジとポチタは、互いに見つめ合ってハイタッチを交わす。

 

「よし、これで指導は毎日から週一に変更する。ハイな時でも頭はクールに動かせ。まあ、既にお前達はそれが出来かけてはいるが、デンジの方はまだ甘い。そこのサポートはポチ太郎、お前がしろ」

「了解で~す」

「ワウッ!」

 

 岸辺の言葉に元気よく返事するデンジとポチタ。

 どんなに強くなれるとしても、毎回命の危険を感じる訓練はやっぱり厳しい。それが毎日から週一に減るなら、嬉しくなるのも無理はない。

 

「ああ、それと、今までの指導を踏まえて、明日に実戦だ」

「実戦?悪魔と戦わせるんすか?」

「そうだ。それもただの悪魔じゃない。姫野達を殺して、お前らを半殺しにしたサムライソードとヘビ女を俺達全員で捕まえに行く。新4課のお披露目式だ」

 

 それを聞かされたデンジとポチタは、恐れるどころか好戦的な笑みを浮かべる。

 強くなった今の自分達の実力を試せる機会と、散々好き放題にされ、この地獄のような環境に送り込んだ原因であるサムライソードへの復讐の機会が同時にやってきたのだ。

 そんな明日のために、二人は指導の疲れを取るために、いつもよりも早めの帰宅を許された。

 

 そして作戦当日、岸辺と共に、デンジとポチタはヤクザがいるであろうビルに向かい合っていた。

 

「作戦はない。特異課全員をビルにぶち込む」

 

 シンプルな内容の命令を告げられて、アキ、デンジ、ポチタ、コベニの4名がビルの中に突入する。

 

 そこにいたのは銃を構えたヤクザではなく、ゾンビと化した元人間たちが蠢いていた。

 その醜悪さに顔をしかめたのも一瞬、日頃から悪魔と戦い慣れているデビルハンターにとっては、ゾンビなど取るに足らない存在だった。

 

「おらおらオラァ!!んだよ、雑魚しかいねえじゃねえか?」

「ワウッ」

 

 気合いを入れて突入したのに、ノロノロ動くゾンビばかりでデンジとポチタは腹を立てる。

 こんなの相手する為に、あの地獄のような指導を受けてきた訳ではないと憤慨しながらも、油断なく周囲のゾンビを片っ端から始末していく。

 時折、銃を持ったヤクザが現れて発砲してくるが、近くにいるゾンビを盾にして防ぎ、それを投げつけると、それだけで無力化出来る。

 

「お前ら、ここは魔人達に任せて、サムライソードとヘビ女を探すぞ」

「おっしゃ!待ってました!!」

「ワフゥ!!」

 

 アキからの指示にようやくかとゾンビを殺すのに飽きたデンジとポチタがはしゃぐ。

 ゾンビの溢れる部屋を出て、エレベーターに乗り込んで迷わず最上階のボタンを押す。

 

「こういう場合、悪党ってのは一番上の部屋にいるのが定番なんだよな」

「ワン!」

 

 エレベーターの表示が12階手前になった瞬間、ポチタのスターターロープを引いてエンジンを吹かす。敵もそう馬鹿じゃないだろうから、きっともうエレベーター前で待ち構えているはずだ。

 やがてエレベーターが目的の階に止まり、チンという音とともに扉が開いた。

 すると、案の定、ラーメン屋で襲ってきたモミアゲ野郎と取り巻き二人が待ち構えていた。

 

「モミアゲマン発見!」

「まあ、待て。俺らはなにもお前と争いたい訳じゃない。お前が俺らの要望を聞いてくれるなら、俺らは投降するつもりだ」

「はい、噓ぉ~!そんな子供でも引っ掛からない言葉に騙される訳ねえじゃん!」

 

 馬鹿にするように舌を出して、デンジはモミアゲマンに返事を返す。

 その態度に、モミアゲマンは額に青筋を浮かべるが、激昂することなく冷静に話し合いを続ける。

 

「まあ、お前がそう思うのも無理はないだろう。だけど、話は最後まで聞いてくれ。デンジ、お前はこいつらの仲間と俺のじいちゃんを殺した。その償いとして、その手に持っている悪魔と甚爾の居場所を教えてくれさえしてくれればいい」

「テメェのお仲間もじいちゃんも、ゾンビになったから殺したんだぜ」

「噓つくんじゃねえ!学のねえ馬鹿はすぐ噓つきやがる。まあいい。それが仮に本当だったとしてだ。ゾンビも元は人間、そいつらを殺して、お前は心が痛まないのか?」

 

 真剣な表情でそう聞いてくるモミアゲマンに、デンジとポチタは思わず意表を突かれてぶふっ!と吹き出してしまう。

 

「何が可笑しい?」

「じゃあ、逆に聞くけどよ。学のねえガキ騙くらかして、親の借金背負わせるのに心は痛まなかったのよ?」

「ワン!ワン!」

「……それとこれとは話が違うだろ。金と人の命を比べるな」

 

 痛いところを突かれたのか、苦々しい顔で論点をズラす。

 

「俺だって、沢渡の奴に色々とされて、心臓が刀の悪魔になっちまってるみてえだが、ゾンビを殺した夜には眠れなかった」

「だったらお前、ヤクザなんか向いちゃいねえよ。あのジジイだったら、ゾンビの一匹や二匹殺したところで、その日の夜はぐっすり快眠だろうからな!」

「っ!デンジぃぃぃ!!!」

「ようやく本性現しやがったな、クソモミアゲマン!!!!」

 

 左手首を引き抜き、刀の悪魔であるサムライソードへと姿を変えた。

 すると同時に、取り巻きのヤクザが銃をデンジに向けて発砲するが、デンジはすでに射線から外れており、そのままポチタのチェンソーで取り巻きのヤクザ二人の腕を切り落とした。

 

「「があああぁぁぁっ!!!?」」

「テメェ!デンジ、よくもぉぉぉ!!!」

「人様殺そうとしておいて、腕斬られたぐらいでピーピー!喚いてんじゃねえよ!!」

 

 そこからは怒涛の攻防戦。サムライソードも前回の戦いから鍛え直したのか、以前より動きが鋭い。だが、その程度の動きでは今のデンジとポチタには通用しない。デンジは迫り来る両腕の刀の猛攻をすべて避け、弾き、受け流す。

 その合間に、ポチタのチェンソーが何度もサムライソードの体を抉り、傷つけていく。

 

「へっ、特訓でパワーアップした俺ら相手じゃ、お前なんて役不足なんだよ!!」

「クソがぁ、調子に乗りやがっ──!!?」

 

 生意気な口をきくデンジを、殺さない程度に切り刻んでやろうとサムライソードが振り上げた右腕は、カウンターの要領でデンジに切り落とされた。

 

「わ、若!?」

「ちっ、使えねぇ役立たずが!」

「へっ? があっ!? わ……か……?」

 

 最初に腕を斬られて怯え、縮こまっていた仲間が心配して駆け寄ってきたのを無視し、残った片腕でそいつの胸に刀を突き刺した。

 

「あ?自分で自分の仲間殺すとか、馬鹿じゃねえのか?」

「学のねえ馬鹿は、すぐに見たまんまの事でしか物事を判断しねえ」

 

 刺した仲間を頭上に掲げ、垂れる血を口で受け止めて飲み込む。すると、切り落とされた右腕がトカゲの尻尾のようにみるみる再生していった。

 

「そういや、お前も悪魔なら血を飲めば復活できるんだよな。けどよ、それで仲間を自分から刺すなんざ、テメェの方が人の心ねえんじゃねえの?」

「ワンワン!!」

「使えねえ奴を役立てただけだ。これもいわゆる必要悪ってやつなんだよ!!」

 

 傷が完全に癒えるまで血を飲んだサムライソードは、刺し殺した仲間の遺体をゴミのように投げ捨てた。

 今や彼に人の心どころか、油断も怠慢も欠片すらない。持てる限りの攻撃を繰り出そうと、居合の構えを取った。

 

「させっかよ!」

「ぐっ!デンジ、きさまぁぁぁ!!!」

 

 どれだけ鍛えていても、目に見えない速度で振るわれる居合を使われたら勝ち目はない。それはこの一週間、岸辺からの指導でも何度も注意されてきた。

 だからこそ、それを繰り出す前の余裕ある態度のときに仕留めるのが理想だったが、それが無理だと判断した瞬間、次の策に出た。

 それは単純に技が発動する前に攻撃して止めるというものだ。どんなに居合の一撃が防御も回避も不可能な技でも、発動には必ず予備動作がある。そこを恐れず攻め込めば、居合も封じられるはずだ。

 

「ここまで近づけばよ!テメェの反則居合斬りも出来ねえだろ!!」

「バッ、バウ!」

 

 デンジはサムライソードと鍔迫り合いに持ち込んだが、その選択にポチタが警告の鳴き声を上げたものの、すでに手遅れだった。

 

「お前、デンジよぉ!いくら俺の居合を防げたからって、俺とお前との力の差ってのを忘れてんじゃねえか?」

「あ゛ぁ?」

 

 居合の予備動作である中腰姿勢のまま立ち上がり、鍔迫り合い中のデンジを押し返す。

 その瞬間、デンジはようやく自分が悪手を打ったことに気づいた。

 

「ちょっ、おい!まてまて待て!!」

「もう遅い!!」

 

 ビルの窓めがけてデンジごと突っ込んだ。人間のデンジと悪魔のサムライソードでは身体能力に大きな差がある。

 その差を考えず鍔迫り合いに持ち込んだのはデンジのミスだった。窓を突き破り地上12階から叩き落とされれば、いくらタフなデンジでも即死は避けられない。

 

 パリーン!とビルの窓を割ってサムライソード諸共、ビルの最上階から落下するデンジ。

 

「ヤベェ!超ヤベェェェ!!どうにか出来るか、ポチタ!!?」

「ワ……ワゥ!!!」

 

 ポチタはチェンソーのチェーンを伸ばし、ビルに引っかけて落下速度を緩める。そうなれば、鍛え上げられたデビルハンターのデンジなら、多少の怪我を覚悟すれば着地は難しくない。

 ただし、悪魔ゆえに落下ダメージすら耐えられるサムライソードが先に下で待ち構えていなければの話だが……。

 

「っ、ポチタ!!チェーンを解いてあいつに巻きつけろ!!」

「っ!?バウッ!!」

 

 デンジの指示通り、ビルに引っ掛けたチェーンを解いてそれをサムライソードに巻き付けようと伸ばす。

 

「馬鹿が、そう簡単に俺を縛れると思ってんじゃねえ!!」

 

 両腕の刀で迫るチェーンを弾き返す。それでもデンジとポチタは諦めず、再びチェーンを伸ばしては刀で弾き返される攻防を何度も繰り返す。

 しかし、二人は落下を続け、地面まであと僅か。着地の瞬間を狙うサムライソードの餌食になりかねないこの危機的状況で、デンジはここで別の一手を打った。

 

「オッラァ!!」

「なっ、ぐあっ!!?」

 

 ポチタのチェーンを引っ込ませ、デンジが頭から頭突きの態勢でサムライソードへと突っ込んでいったのだ。

 その行動に意表を突かれたサムライソードは、迎撃することを躊躇ってその一撃をモロに喰らった。

 

「いってぇぇぇ~~~!!!」

「がっ、ぐぅ……。馬鹿かテメェ!?自分から命を捨てる気か!!」

「はっ、信じてたんだぜ!お前はアニキの居場所を聞き出すまでは俺を殺さねえってな。まあ、おかげで頭はめちゃくちゃ痛えけどよ!!」

 

 サムライソードとぶつかった衝撃で額が割れ、血を流すデンジは、その血を指で拭い舌で舐め取った。

 

 

 

 


 

 

 

 

 警察と公安の物々しい動きに、今日が新4課の初出場の日であると睨んだ右半身を火傷で包帯巻きにした甚爾が付近に潜入する。

 

「あ~、まだ火傷の傷が響きやがるな。だがまあ、動けねえ程じゃねえし、様子見くらいは頑張るとしますかね」

 

 周囲に小動物に見張られているような気配はない。怪我を負った一般人のふりをしながら、ビル内部を覗けそうな建物を探すが、この辺りに12階建ての建物はない。

 無理にビル内に侵入する方法もないため、外から何らかの動きがあるまで待機し、機会を窺うことにする。

 

 新4課がビルに突入してしばらくすると、最上階の窓からデンジとポチタ共々、サムライソードが降ってきた。チェンソーマンでもないただの人間であるデンジがあの高さから落ちれば助からないと判断した甚爾は、瞬時の判断でその超人的な身体能力を発揮して駆け出す。

 あの高さから地面に落下するまでおよそ3秒、ここから2.5秒で落下地点に到達するのは無理でも、地面にぶつかる前にデンジとポチタの予想落下地点より高く跳び上がり、縄の悪魔を召喚して救出することは可能だと踏んだ。

 

「縄──!?」

 

 落ちるデンジとポチタだったが、ポチタが伸ばしたチェーンがビルへと引っ掛け、二人の落下速度が緩やかになった。

 それを見て、これなら自身の救けはいらないと判断したところで、自分が何をしようとしていたのかに気が付く。

 

(馬鹿か、俺は……。もしあの落下で死んでも、悪魔であるポチタが即死じゃないなら、原作の通りに契約してチェンソーマンとして復活するだろうが。余計な真似して出しゃばった結果、不用意にマキマに今見つかるのは不味いってのは分かるだろうが!!)

 

 初志貫徹も出来ない自分自身にイラつきながら、一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 

「まあ、助かったならよかった。なんか、意味不明な攻撃してたが、デビルハンターならイカレてる方が生き延びやすいもんな」

 

 落下して頭突きを決めたデンジを見て、流石はこの世界の主人公だと納得しながら、この先の展開を思い出してゆっくりと観戦出来る場所へと移動した。

 




次回でサムライソードとの戦いは終了。読者の意見を聞くならば、甚爾をここで参戦させるべきなんですが、そうなると構想が滅茶苦茶になって、このサムライソードとの戦いで完結。あるいは連載ストップになってしまうので、もう少し先で介入します。

レゼ編のどこらへんで出すかも、今ちょっとお悩み中です。
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