公安っていう立派な職に就いて、今までのあばら家みたいなボロい家じゃなくて普通の家に住めるようになった。飯もアニキが悪魔を倒して稼いだ金で焼肉や寿司とか、たまにいいものを食わせてもらってたけど、何でもない日に焼いたパンにジャムやバターを塗って食べられる日が来るなんて、想像もしてなかった。
「へへ、甘いものとしょっぱいものを交互に食うのがうめぇってアニキが言ってたけど、だったら一緒に食ったらそりゃ最強の組み合わせだろ!!」
テーブルの上にあったイチゴジャムとバターを、焼いたパンにたっぷり塗ってサンドイッチみたいに挟んで食べる。ちょっと変な味になったけど、生の食パンじゃなくて焼いたパンに調味料を塗るとやっぱり最高にうめぇや!
「ポチタも食うだろ、俺考案の最強パン!」
「ワンッ!」
「テーブルを汚すんじゃねえ!」
風呂だってアニキが俺が臭い時は銭湯っつうデカイ風呂に入れてくれたりもしたけど、自分家でお湯に浸かれるなんて考えもしなかった。
「ワオッ!ワオッ!ワオッ!」
「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」
「風呂長いし、近所迷惑になるから合唱せずにさっさと上がれ!」
公衆トイレはたまに俺よりも臭い所があっけど、先輩の家のトイレは普通に綺麗で寝ちまえるくらいに快適だ。
「おいっ、トイレで寝るな!さっさと出ろ!」
「んおっ!ふぁ~い」
こんな暮らしをアニキも一緒にできたらなと思いながら、俺は今日もこの暮らしを続けるために、ポチタと一緒に公安でデビルハンターを続けるぜ。
『東練馬区住宅内に『魔人』発生。現在、民間人の避難と現場の封鎖は完了しています』
警察からの報告を受けてマキマさん直々の命令で先輩と一緒にその魔人?つうのがいる家に来ている。
「なあ、魔人ってナニ?」
「……はぁ?お前義務教育受けて……いや、悪い」
「あん?んだよ急に謝ってきて?」
「いや、お前ってガキの頃からヤクザの元で借金返してたんだろ」
「あ~、もしかして同情とかしてんの?別にいらねえよ。アニキは言ってたぜ、学校なんざ漢字と小学2年の算数まで覚えてりゃ世の中立派に生きれるってな。だから俺は学校なんざ行ってなくても不幸だなんて思っちゃいねえよ」
実際に漢字は未だにちょっと怪しいし、算数も最近ようやく九九を覚えられたところだ。でも俺は毎日が充実しているからそれで十分だと思ってる。
学校なんざ行ってなくても、デビルハンターの仕事で結構稼げるし、悪魔に殺される心配はあるけど、それを補って余りあるくらいに今の生活は楽しいと思ってる。
「あっそ、なら遠慮はしねえ。それと、魔人は人の死体を乗っ取った悪魔のことを指す。一番の特徴は魔人の頭は特徴的で見れば一発でわかる」
「へぇ~、じゃあ間違えて普通の人間を殺す心配はねえってことだな」
「そういうことになるな。……この部屋だ」
2階の奥の部屋に辿り着くと、先輩が扉を蹴破って中に入る。それに続いて部屋の中に入ると、確かに頭がクワガタみたいなおっさんがいた。
「なるほど、こりゃ確かに見りゃ一発だ」
「魔人の人格は悪魔だ。今回はお前とその悪魔で殺せ。ちゃんと殺せたなら、お前らが使えるモンだって認めてやるよ」
「けっ、上から目線で偉そうに!まあ、いいぜ!速攻で俺とポチタでこの魔人を殺してマキマさんに褒めてもらうんだ!」
「ワウッ!」
ポチタの尻尾にあたるスターターロープを引っ張って、戦闘態勢になると魔人が怯えて部屋の隅に逃げる。
「なっ、なんで悪魔がデビルハンターと一緒に組んでんだ!?こっちに来るな、殺すぞ殺すぞ殺──」
「よっ!」
ザギュウウン!!!
半狂乱になって暴れようとした魔人の頭をポチタのチェンソーであっさりと斬り殺した。
正直、魔人だなんだと言われたけど、これなら普通の悪魔の方がよっぽど強かった。
「なあ、先輩。これでいいっすか?」
「……まあ、マキマさんが俺の部隊に入れる程度に強いってのは認めてやるよ」
万が一に備えて背中に背負っていた刀から手を離し、下にいる警察に魔人討伐の報告をするために降りていった。
「へへ、見たかよポチタ。さっきのアイツの顔よ。俺らが予想以上に強くってビビッてやがったぜ!」
「ワンッ!」
「にしても、こいつが部屋の隅に逃げてくれて助かったぜ。おかげでここに置いてあるエロ本に血がつかずに済んだぜ」
火事場泥棒みたいでちょっと気が引けるけど、代わりに乗っ取った悪魔ぶっ殺したんだから報酬として貰ってもいいよな。
「おいっ、いつまでそこにいるつもりだ。魔人の死体の回収が始まる。俺らはマキマさんのとこに戻って今回の一件の報告にいくぞ」
「おっ、じゃあさ、俺とポチタがあの魔人をやっつけたってちゃんと言ってくれよな」
「この程度の魔人を殺しただけで、マキマさんが喜ぶとは思えねえけどな」
「んだよ。だったらよ、どんな悪魔ならマキマさんは喜ぶんだよ?」
「お前なんかじゃ、……いや、1匹だけ確実にマキマさんが喜ぶ悪魔がいる」
お前なんかじゃ無理だと言いかけた先輩は、一瞬考え込んでから、マキマさんが確実に喜ぶであろう悪魔が1匹だけいると答える。
「おっ!どんな悪魔だよ。俺とポチタでその悪魔をぶっ殺してやるから教えろよ」
「無理だな。その悪魔は銃の悪魔って呼ばれている」
「銃?なんか聞いた気がするな?」
「グルルルルッッッ……!!!」
銃の悪魔と聞いた瞬間、ポチタが急に唸り始めた。
「どうやら、お前よりもそっちのポチタっていう悪魔の方が賢いみたいだな」
「んだと!その銃の悪魔ってのはそんなに強いのかよ!?」
「当たり前だ。世界中のデビルハンターがその悪魔を殺すことに躍起になっている。当然、俺もその一人だ」
「なんだよ、先輩もマキマさんに褒めてもらいたいのかよ」
そう茶化すように言った瞬間、俺の頭を掴んで壁に叩き付けられた。
痛ってえな、何しやがんだこの野郎!と文句を言おうとした時、先輩が真剣な顔つきで睨んでくるから何も言えなかった。
「いいか、覚えとけ。俺が公安に所属したのは銃の悪魔を殺すためだ。あいつは昔、たくさんの人を殺した。その犠牲者の中には俺の家族もいた。だから俺は銃の悪魔を殺したいし、他の悪魔もできる限り苦しませて殺してやりたい。今公安にいる連中のほとんどは、俺と同じように銃の悪魔を殺したいと思っている連中ばっかりだ。お前みたいに金やマキマさん目当てでやってる、中途半端な覚悟の奴はいねえんだよ」
「そうかよ。そりゃたいそうご立派な目標だな。けど、そんなの俺には関係ないぜ。アニキが言ってたかんな、他人がどんだけいい夢とか持って生きててもよ、弱い奴は死ぬし、強い奴は生き残る。思いの強さ程度で死なねえなら、臆病者は悪魔なんかに殺されねえってな!」
「っ!なら、せいぜい死なないように気をつけるんだな」
壁に押さえつける先輩を吹っ飛ばして自由になる。正直、その銃の悪魔がヤバくて悪いやつなのは分かった。先輩もその銃の悪魔をぶっ殺すために公安に入った理由もすげえよくわかるぜ。
でも、俺には俺の生き方があるし、それを先輩にとやかく言われる筋合いはねえ! 俺は銃の悪魔をぶっ殺してマキマさんに認められるぐらいのデビルハンターに成り上がってやるぜ!!
「デンジ君とポチタ君には今日からバディを組んでもらいます」
「バディ?なんすかそれ?」
「公安では小規模任務とかパトロールは安全の為、二人一組で行動する事になるんだ。デンジ君にはポチタ君がいるけど、やっぱりいざという時に単独でも十分に動ける人がいると心強いからね」
そう言うと廊下からズカズカと音を立てて誰かがやって来る気配を感じる。
そうしてノックもなしに部屋に入ってきたのは頭に赤い角を生やした女だった。
「おうおう!ひれ伏せ人間!!ワシの名はパワー!バディとやらはウヌか!?」
「パワー!?名前パワー!?つーか魔人なの!?魔人がデビルハンターなんてやってもいいのか!?」
「ワウゥッ!?」
まさかの魔人の登場に度肝を抜かれる俺とポチタ。最初は反対した俺だったけど、胸のある女が相棒になるなら魔人なんて別に大したことねえぜ。
「まぁいいか!!よろしくなあ!」
「ワウッ!」
「なんじゃ、ウヌは悪魔の癖に人間なんぞと仲良くやっておるのか?悪魔の風上にも置けん奴じゃ、このこの!!」
「ワッ、ワウッ!?」
小さいポチタを弱そうと判断したのか、ジャイアンばりにポチタをイジメるパワー。
「おいっ、テメェ!ポチタに何しやがんだ!?」
「あ゛ぁん?見て分からんか、この雑魚悪魔にワシが喝を入れてやっておるんじゃ、おうおう!」
まるで自分が正しいことをしているかのように誇らしげに話すパワーは気付いていない。
今、いじめられているポチタを見て静かに怒りを燃やしているマキマの様子がどうなっているのかを。
「ねえ、パワーちゃん……君は何をしているのかな?」
「ひぃっ──!!」
「ま、マキマさん?」
ポチタがイジメられているのを目にしたマキマは、普段通りの無表情ながらも、恐ろしい気迫を放っている。そんな普段は見せない雰囲気を漂わせるマキマに、アキがおそるおそる声をかけるが、マキマはそれに答えず、怯えるパワーを連れてどこか別室へと消えていった。
「なあ、これから俺らどうすりゃいいんだ?」
「とりあえず、マキマさんがパワーを連れて帰ってくるまで待機だ。まあ、パワーが一緒に帰ってくるかはマキマさん次第だが……」
その十数分後、酷く怯えたパワーを連れてマキマが帰ってきた。
バディの件は変更なく、デンジとポチタの相棒にパワーがなることに決定した。ちなみに、帰ってきたパワーは真っ先にポチタに対して土下座をして謝罪したようだ。
「これで銃の悪魔の肉片は300グラムってとこか……」
血塗れの悪魔の死体のそばで、弾丸のような肉片を手にしながら甚爾は呟いた。
順調に自身の切り札となる悪魔の育成が進んでいるにもかかわらず、甚爾の胸には空虚な想いが漂っていた。
「まさか、俺がデンジとポチタからちょっと離れただけでもう寂しいなんざ思うとはな。案外、あの馬鹿騒ぎしていた時間が好きだったのかね?」
自分でも意外なことにセンチメンタルな気分に浸りながら、もうすぐここにマキマが支配していると思わしき小動物がやって来ることを感じて逃走の準備をする。
「さて、行くとしたら北か南か……」
どちらに行こうかと悩んでいる風に口にしながら、甚爾の足は北へと向いていた。
ポチタをもっと作中で絡ませたいけど、台詞がワンぐらいしかないから滅茶苦茶難しい。
近くにマキマさんがいればやりやすいけど、もっとアキ君と心の距離縮められる描写を書きたいぜ。