仮面ライダーウイニング/仮面ライダーラセン Cross Dimension   作:赫牛

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異次元のライダー

「俺達以外の……仮面ライダー?」

 

 謎の通路から現れた緑の戦士に対して思わずそう漏らした俺を、戦士はちらりと見て、また視線を異形……クリスタルデストロイヤーに戻す。

 

「ちっ……いい加減お前もしつこいな」

 

 風雅くんを狙っていた異形は悪態をつく。それに対し緑の戦士はバイクから降りて拳を握り、臨戦態勢をとる。

 

「とっとと……消えろ!」

 

 異形が針を飛ばす。目にも留まらぬ速度で飛翔するそれを、戦士は風の如き速さで移動し躱す。散乱した楽器や機材が破壊される中、戦士は確実に距離を詰めていく。そして跳躍した戦士の跳び蹴りが異形を怯ませる。

 戦士は間を置かずに素早い連撃を浴びせる。的確かつ流れる様なコンビネーションで異形を追いつめていく。まだまだ経験の浅い俺だが分かる。あの戦士、相当手練れだ。

 

「くそっ!」

 

 異形が腕の水晶を伸ばし、剣の様になったそれで斬りかかる。それを見た戦士は即座にベルトのバックル部分に手をかけ、トリガーを引く。

 

『Winning・Attack』

 

 ベルトから音声が鳴り、戦士の存在感が一段と増す。襲い来る刃を身体を捻って躱しつつ、同時に右の拳を剣に繰り出す。振り下ろされる途中で横腹に一撃を受けた刃は音を立てて砕け散った。

 

「何ィ……!?」

「はっ!」

 

 驚く異形を、一段威力を増した蹴りが吹き飛ばす。宙を飛び観客席に叩きつけられた異形は、壊れた座席の破片を散らしながら唸る。

 

「やはり俺の能力はお前には適用されないか……厄介だな」

 

 そう吐き捨てた異形はくるりと背を向けて跳躍、扉をくぐり、ガラスを突き破って外へと逃亡する。

 

「逃げたか……」

 

 戦士は一瞬追いかける素振りを見せたがすぐ立ち止まり、ベルトのバックル部分に付いた銃のグリップと、挿入されていたカートリッジを引き抜く。すると戦士の緑の装甲が消え、インナースーツが粒子となって宙に解けていった。

 中から出てきたのは緑がかった黒髪の青年。パーカーの上にジャケットを羽織りカジュアルな印象を受けるビジュアルとは裏腹に、険しい目で異形が逃げた先を見ている。

 青年は俺達を一瞥するとこちらに向かって歩いてくる。そして腰を抜かしたままの風雅くんに手を差し伸べた。

 

「大丈夫?」

「あ……はい」

「二人も……大丈夫そうですね。じゃあ僕はこれで」

 

 手を取って立ち上がらせた青年は、恐る恐る立ち上がった俺達を見て背を向けて立ち去ろうとした。

 

「待って!」

 

 その背中を、師匠が呼び止める。振り返った青年は怪訝な顔をする。

 

「何か?」

「貴方は……貴方も仮面ライダー、なんですか?」

「まあ、そうですけど……ああ、そう言う」

 

 眉をひそめていた青年は、俺達の腰に巻かれた物を見て得心がいった様だった。しかしまた俺達に背を向けてしまう。

 

「あの!」

「えっと……まだ何か?」

 

 戸惑いながらも青年はバイクに跨った。

 

「貴方はどこから来たんですか?あの怪物も、一体何がどうなって……」

「うーん、話すと長くなるんですけど……まあ大丈夫です。僕が何とかしますから」

「何とかって……じゃあ私達も、何かできる事を——」

「いやいや、現地の人に迷惑はかけられませんから」

 

 青年がまたカートリッジをベルトに挿入し引き金を引くと、カートリッジから出た粒子が集まり何の変哲もないヘルメットが現れていた。

 

「迷惑って……俺達だって仮面ライダーだ、何もしない訳には——」

「大丈夫ですって、お二人に僕の仕事を手伝わせるのは忍びないですから。任せておいてくださいよ」

「む……」

 

 何を言ってものらりくらりと躱されてしまう。物腰が柔らか過ぎて逆に腹が立ってくるが、ここで言い合ってもしょうがない。

 

「じゃあせめて説明あっても良いだろ!そもそもあんたに任せて大丈夫かとか、分かんないじゃないか!」

「それは……その、兎に角信じてもらうしか。あ、もう行きます。さっきの探しに行かないと」

 

 銃のグリップをバイクに挿し、青年は走り去ろうとする。

 

「あの!」

「えー……まだ何か?」

「行く当てとかあるんですか?」

「無いですけど……それが?」

「今夏ですよ?」

 

 初夏は既に過ぎ、太陽が眩しいこの季節。確かに彼の格好ではすぐ汗だくになるだろう。

 

「ホテルに泊まるよりかは、うちに来た方が安上がりだと思いますけど」

「……なるほどね」

 

 観念した、と言う様に青年はため息をついた。

 

 

 

 

 

 扉が開き、しっかり空調の効いた基地へと帰還する。私と風雅くんの後に続いて謎の青年、その後ろに弟子クンが入ってきて扉が自動でロックされる。

 私と弟子クンが定位置にバイクを停める傍ら、青年はグリップを外してバイクから降りると懐からカートリッジを取り出しスイッチを押す。すると突如バイクが光の粒に分解されて雲散霧消した。

 

「ええ……?」

「ど、どうなってるんですこれ?」

「これは……えっと、その……僕もあんまり分からなくて」

「分かんないんだ……」

 

 ジャケットを脱いだ青年は手で顔を扇ぐ。ふうと一息つくと、基地の一角に設けられた巨大な端末に近づく。

 

「これは?」

「クリスタルの反応を感知する装置ですね」

「へー、どう言う仕組みで?」

「分かりません」

「分かんないんだ……」

 

 まあまあ、そこはお互い様と言う事で。

 

「さて、それじゃあ説明してもらえますか?」

「……分かりました」

 

 青年は居住まいを正し、私達三人を見る。

 

「この世界の危機です」

 

 

 

 

 

 そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。

 僕は霧島楓(きりしまかえで)と言います。

 

「楓?」

 

 どうかしました?

 

「あ、失礼しました。私も同じ名前でびっくりしてしまって……青葉楓と言います。こっちは弟子クン……鳴神真哉と、成り行きで同行している渡風雅くんです」

 

 そうなんだ、奇遇ですね……おっと、いきなり話が逸れましたね。続けます。

 僕はライドエージェントの仕事でこの世界に来ました。ライドエージェントって言うのは……そうですね、色んな世界を守る人達で、取り敢えず大丈夫です。その仕事で、あのCD(シーディー)を追って来ました。

 

「CD?」

 

 そうかそれも知らないのか……CD、カンケルデータの略です。文字通り、世界を蝕む癌。これまで僕は様々なCDと対峙してきました。あいつ……クリスタル(Crystal)デストロイヤー(Destroyer)もその一人です。

 

「確かに、頭文字がCDだ……」

「カンケルデータ……」

 

 奴は次元間を繋ぐ通路を利用しこの世界にやって来ました。その際僕の世界を経由したので、緊急で対応したんですが……。

 

「倒せなかった……」

 

 互いに有効打が無くそのまま逃げ切られてしまいました……すみません。

 

「謝る事じゃないですよ」

「ヴァーミンに逃げられるのなんて日常茶飯事ですからね」

「微妙にフォローになってないよ、弟子クン」

 

 逃がしてしまった責任はちゃんと取ります。それに奴を放っておく訳にはいかない。

 

「と言うと?」

 

 仲間に解析してもらって分かったんですけど、あのCDはこの世界に存在する特殊な物質を取り込む事で力を増すみたいなんです。その物質と言うのが……。

 

「クリスタルって事か……」

 

 そうです。だからこそ奴はこの世界にやってきた。今はまだそこまで脅威ではないですが、このまま力を着け続けるとどうなるか分からない。この世界のだけじゃなく、あらゆる世界の脅威となり得てしまう。

 

「そうなる前に何としても阻止する、って事ですね」

「確かにそれはやばいな……」

 

 心苦しいですけど、皆さんが手伝ってくれると言うのは……正直助かります。それくらい奴は手強い。

 世界のためにも、早く奴を止めないと。

 

 

 

 

 

 どうやら私達が想像していたよりも、事態は深刻らしい。

 違う世界からの来訪者……以前はとある事件で時間を越えた事があるが、今度は次元と来たか。マルチバース理論を唱える学者が聞いたら両手を挙げて喜びそうなものだが。いや今はそう言う話をしている場合ではない。そんな事より考えるべき事がある。

 

「すみません霧島さん。手伝うと言いましたが……もしかしたら私達ではあまり力になれないかもしれません」

「それは、何故?」

「まだ力を着けてないと言ってましたが……恥ずかしながら、それでも私達では全く歯が立ちませんでした」

 

 二人がかりで立ち向かったのに、ほとんど何もできずにやられてしまった。圧倒的なまでの力の差を、一体どうすれば良いのか……。

 

「まあそれはあのCDの性質上仕方ないと言いますか……あのCDは、名前の通りクリスタルを壊す者。クリスタルに対して『特攻』を持っているんです」

「特攻、ですか」

「ええ、そのライダーのスペックが如何に高くてもそれを受け付けず、簡単に破壊する。そう言う力が奴には備わっています」

「正に天敵、と言う事ですね……」

 

 クリスタルを使って変身する弟子クンと私には特攻が適用され、違う世界の技術を使う霧島さんには適用されずに実力のまま戦えた。

 それはつまり仮に戦闘になったとして、霧島さんにかなりの負担を強いる事になる。勿論私達だって戦うが、役に立てるかは別の話。

 それに……。

 懐から取り出した青い破片が痛々しく光る。

 こんな風にクリスタルを破壊されてしまっては、いよいよ戦えなくなってしまう。その辺の野良クリスタルでも変身できる弟子クンのドライバーと違って、私のは調整されたものでないとちゃんとした運用ができない可能性がある。CDを倒したとしても、その後に現れるヴァーミンと戦えなくなってしまうのは困る。

 

「私達では満足に戦えないかもしれませんが、その分サポートはするつもりです」

「ありがたいです……じゃあすみません、早速一つ良いですか?」

「何でしょう?」

 

 できる事なら何でもしよう。それがこの街、いや世界を危機から救う仮面ライダーの使命なのだから。

 

「あの……お腹空いちゃって。朝食べてなくて」

「……分かります」

 

 そう言えば、今日まだ何も食べてなかったや。

 

 

 

 

 

 弟子クンと二人でささっと作った朝食を食べ終えた後。

 一先ず落ち着いた私達4人はそのまま今後の対策について話し合う事にした。

 

「CDの狙いはクリスタルを取り込んで自身を強化する事。そしてこの街には、明るみに出ていないだけで相当数のクリスタルがばら撒かれている……と私は考えています」

 

 私が口火を切り、現在判明している情報を霧島さんに共有する。

 

「なら奴が次に狙うのはクリスタル所持者、ないしヴァーミンである可能性が高い。ただ問題なのは、まだどこにも目撃情報が無くて足取りがつかめていない事」

 

 あの異形が暴れまわったら少なからず情報が出回るはずだが、今の所アリーナでの戦い以降の動向が観測されていない。

 

「つまりは潜伏しているか、目立たない程度に行動している、って事ですか?」

「そうですね。霧島さんが来ているから慎重になっているんだと思います……ただいつまでもじっとしているとは思えない。後で何かしら行動を起こすはず」

「その何かしらが分かれば苦労しないんだけどなぁ……」

「それを考えるのが私達の仕事でしょ、弟子クン?」

 

 とは言っても、相手は未知の生物。思考をトレースできるかなんて分からないし、そもそもどう言う事ができるのかも分からない。

 それでも、観ていれば分かる事もある。

 

「あのぉ……俺ってここにいても良いんですか?」

 

 風雅くんが恐る恐る挙手しながら尋ねてくる。確かに仮面ライダー3人に挟まれる一般人、と言うと場違いではある。しかし。

 

「役に立つか立たないかは置いておいて、風雅くんにはここにいてもらわないといけないの」

「なんでです?」

「野放しにすると、君が真っ先に狙われる可能性があるからね」

「えっ!?」

 

 本当ならばクリスタルを預かってさっさとお帰り頂くべきなのだけれど、そうもいかないようで。

 

「CDは私達を倒した後、私達じゃなくて君を狙ってたでしょ?それは君……と言うよりも君が持っているクリスタルを狙っているからかも」

「これを……?」

 

 風雅くんが黒いクリスタルを取り出す。その手は震えていた。

 

「手当たり次第にクリスタルを取り込みたいなら、風雅くんよりも数を持っている私の所に来るはず。そうしないって事は……」

「取り込むクリスタルを選別しているか、それともそのクリスタルが本命か……」

 

 霧島さんの言葉に頷いて肯定する。

 そもそも、私達が戦っている所にピンポイントでCDが来た事も不可解ではある。勿論偶然と言う事もあるだろうが、だとしても私達が邪魔をする事で霧島さんに追いつかれるのは明白だし一旦退くのが正解だろう。ならば、リスクを冒してまでも達成したい目的が何かしらあったはず。

 つまりはそれが、この黒いクリスタルなのだろう。

 

「少なくとも、君はあいつに目を付けられた。だから一緒にいてもらった方が良い、と言う事」

「……分かりました」

 

 ぐっと奥歯を噛みしめる風雅くん。そう、怖いのは当然。いきなりどうしようもないものに目を付けられて、理不尽に危険に晒される。

 ああ言う奴らは、いつだってそうだ。

 

「つまりはCDはこの子を狙ってくる可能性が高い……それを待つ、と言う事ですね」

「そうです。守らなければならないものが明確が故に、守り易くもある。当面我々は風雅くんの護衛に当たり、CDの襲撃に備えます」

 

 霧島さんと弟子クンが頷き、一先ず方針が固まった。

 私は立ち上がって、風雅くんの肩に手を置く。

 

「怖いだろうけど大丈夫。仮面ライダーに任せてほしい」

「……はい、信じます」

 

 暗かった顔がぱっと明るくなって、つられて私も笑顔になる。

 

「じゃあそう言う事で……一先ず今日は休みましょう」

「もう……?まだ昼にもなってないし、もうちょっと何か対策をしても良いんじゃ」

「あー、それはですね……」

「師匠のドライバー、凄く燃費悪くて。しかもやられた後だし、なんなら俺もちょっと休ませてほしいなーって……」

「ああ、成程」

 

 ラセンになって本気を出すと半端なくエネルギーを消費してしまう。この効率の悪さだけは昔からなんとかならないものかと思っているが、今の所はどうしようもない。故に今は休息が必要なのだ。

 

「と言う訳で、私はちょっくら昼寝ならぬ朝寝をしてきますね。あ、言ってもらえれば食事とかは用意しますんで、弟子クンが」

「まあそうですよね」

「分かりました。お気遣いありがとうございます」

「ではー」

 

 ひらひらと手を振ってリビングを出て、階段を昇って自分の寝室に入る。

 ごろんとベッドに寝転んだ瞬間、凄まじい疲労感と眠気が襲ってくる。さっきまで気を張っていたせいか、いつもよりひどい気がする。

 意識が落ちる前に、懐をまさぐって青いクリスタルだったものをかざす。

 このクリスタル、と言うより、今のラセンが持つ戦力は全部前任である先生……柳生明人(やぎゅうあきと)から受け継いだものだ。その一つが、敢え無く失われてしまった。

 これまで7年、積み上げてきたものが、全て否定される。そんな相手に私は勝てるのだろうか。

 

「どう思います……お父さん(先生)?」

 

 次第に力が抜けていって、私は深く沈んでいった。

 

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