仮面ライダーウイニング/仮面ライダーラセン Cross Dimension 作:赫牛
青葉さんがリビングを出た後、僕は気になっていた事を真哉くんに尋ねた。
「真哉くんってさ」
「はい」
「ここに住んでるの?」
「はい」
「ここって青葉さんの家だよね?」
「そうですね」
「……ふーん」
「なんですかふーんって」
いやいや、仮面ライダーと言えど人間なのだからそう言う事もあるだろう。それとも先にそう言う関係だったのだろうか。
「言っときますけど、全っ然そんなのじゃないですから。全くもって一切!」
「とか言いつつー?」
「案外余裕そうだなターゲットくん?」
「うっ、思い出させないでくださいよー」
してやったりと笑う真哉くんの頬も、心なしか朱が混じっている。これはもしかして自覚が無いか、或いは芽生えつつあって指摘されると怒るタイプかな?
恋をして、気楽に話せる同年代もいて、か。なんだか凄く漠然とした言葉になってしまうがこう、青春と言う感じがして良いと思う。
本当に、羨ましい。
「母さん……父さん!」
どこかの誰かが起こした世界改変の影響で、
「勇太郎……勇太郎!ねえ!」
でも、それでも僕は、両親と親友……僕の大切なものを守る事ができなかった。
つらくて、悲しくて、怖くて、憎かった。だけどその気持ちに飲み込まれない様に自分を奮い立たせて、新たにやってきたCDを倒した。それからライドエージェントになって、世界を渡り歩いて、各地に現れるCDと戦って、戦って、戦って……。
思えば無我夢中で駆け抜けた二年間だった。大抵一人で戦っていたし、偶に誰かと組む事はあっても必要以上に踏み込んだ事はしなかった。そんな余裕は無かった。心を許せる存在は、強いて言うなら僕の世界で協力者になってくれた
でもそれで良いんだ。
きっと、僕が大切に思ったものは、この手から零れ落ちてしまう……。
「楓さん?」
名前を呼ばれて我に返った。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん……何でもない。それより名前」
「え?」
「『楓さん』だとややこしくない?」
「良いんですよ。俺にとって師匠は師匠ですから、ちゃんと呼び分けできてます」
「……そっか」
名前。最近は藤村兄妹以外から呼ばれる事が無くて、ちょっと不意を突かれた。
せめてここにいる間くらい、慣れないとな。
「と言う事で、今から散歩に行きたいと思います」
「……どう言う事で?」
昼を通り越して夜、いや深夜も近くなった頃に起きてきた青葉さんはいきなりそんな事を言い始めた。
「何故散歩を?当面はここで風雅くんを守るって話でしたよね?」
「勿論それも継続しますが、しかし待っているだけと言うのは愚策です。我々も積極的に動かなければ」
「それは……まあそうですが」
「と言う事で散歩……もとい、釣りを実行したいと思います」
釣り……まさか。
「風雅くんを、おとりにすると!?」
「え!?」
「有り体に言えばそうなりますね」
「そんな!危険過ぎる!」
まだ対処可能だとは言え相手はCDだ。一般人を連れながらどうこうなんて無茶が過ぎる。説明したのに、危険性が伝わっていなかったのか?
「普段貴方達が相手にしているのとは勝手が違う……相手はその気になれば世界だって滅ぼす。それが分かってるんですか?」
「リスクは承知の上です。その上で安全は確保できるから提案してるんです……見くびられては困ります」
「でも……!」
「こうやって言い合っている内に、CDは力を付けているかもしれない。多少の危険は飲み込んで行動するべきでは?」
「それは……」
ごもっとも、なのだが。でもだからと言って容認できない。CDは一般人だろうと容赦無く巻き込んで世界を破壊する、そう言う連中だ。
「……俺は良いですよ」
「駄目だ風雅くん——」
「こう言うのって、誰かがやらないといけないんですよね……じゃあ俺、行きます」
そう言って浮かべた笑みは引きつっていて、手だって震えていて、どう見たって強がりだと分かる。
「真哉くんは、君はどうするんだ!?」
「俺は……」
真哉くんは一瞬目を伏せるが、すぐに顔を上げた。
「俺もすぐ行動すべきだと思います」
「……そっか」
「大丈夫です。師匠が何の策も無くこんな事を提案する訳無い……何か考えがあるんですよね?」
「勿論」
「じゃあ俺は賛成です」
成程、つまり反対しているのは僕だけか。
ああもう、だから現地のライダーと協力するのって嫌なんだ。
「どうしますか?」
「……分かりました。でも危険だと思ったらすぐに撤退します」
「ではそう言う事で。そうですね、30分後くらい目途で出発しましょう。私は晩御飯食べてくるので、用意お願いしますね」
そう言って青葉さんはキッチンに行き冷蔵庫を探りだした。
無意識に出てしまったため息を残して僕はリビングを後にした。
燃え広がる炎。倒壊していく建造物。腐る海。そして、救えなかった人々。
この世界に現れたCDは強大だった。反応をキャッチしてこの世界に来た時、既に多くの犠牲が出ていた。
その中には仮面ライダーだった者もいた。彼らは自分の世界を守るために戦い、敗れた。
僕の腕の中で横たわる彼も、その一人だ。
「目を開けて……しっかりしろ、おい!」
「楓さん……CDは……?」
彼はこの世界に残った最後のライダーだった。僕は彼と共に決死の作戦を決行し、そして勝利する事ができた。
彼の命を代償にして。
所々に血が滲む、傷だらけの服と肌。震える手をしっかりと握って、彼に呼び掛ける。
「CDは倒した、僕らの勝ちだ!もう大丈夫、大丈夫だから……」
「そう、ですか……」
そう呟いた彼は満足そうに微笑み、目を瞑る。
「駄目だ、駄目だ!君がいなくなったら誰がこの世界を守るんだ!?まだやるべき事がある!だから死んだら——」
「大丈夫、ですよ……」
そう言って、彼は息を引き取った。
燃え広がる炎。倒壊していく建造物。腐る海。そして、救えなかった人々。
僕が救えなかった人々。僕が巻き込んだから失われてしまったもの。
僕が彼と一緒に戦ったから、失われてしまったのか。
僕が一人で行っていれば、死ぬのは僕だったかもしれない。僕が死んで、それで世界が救われたのかもしれない。
それで、良かったじゃないか……。
トンネルを抜け、三つのヘッドライトが夜道を照らす。それなりに音を立てながら、僅かに降った雨で出来た水たまりを散らして走る。都市部は遠く彼方、夜の山は夏だと言うのに虫の声すら聞こえず、ただ風が木々を揺らしていた。
前を行く青葉さんがウインカーを点滅させる。曲がった先には小さな公園があり、そこで停車する。
「ちょっと休憩しましょうか」
青葉さんはそう言ってバイクを降り設置してある自販機に向かう。時計が時間を刻む中で、端末の音と缶が落ちる音がやけに響く。
「そう言えば師匠、あのクリスタルの能力って調べてましたっけ?」
戻ってきた青葉さんに真哉くんがそう問いかける。青葉さんは手に持った飲み物を真哉くんに全部渡し、懐から取り出した携帯を操作して画面をこちらに見せる。
「
「身体能力の向上……これだけ?」
「そう。実は詳しい能力は分かってなくて、兎に角高い攻撃力を引き出せるらしいんだけど」
「これをCDが……」
話を聞く限りクリスタルには固有の能力が秘められている……僕のイートリッジを始めとした、仮面ライダーの力の源と同じ様なものなのだろう。そして狙われているクリスタルは、二人の反応からしてさして珍しいものでもない。だとしたらそれをCDが狙う理由は単に秘められたエネルギー量が大きいのか、それとも知らないだけの特別な何かがあるのか……。
渡された缶コーヒーを開けて口に含むと思っていたより冷たくて苦みがはっきりと感じられた。そのまま一気に飲み干して、少し離れた所にあるゴミ箱に捨てに行く。
「すみません、ちょっとお手洗いに……」
「どうぞ……待ってる間に周りの様子、見とくよ」
振り向くと風雅くんと青葉さんがそれぞれ別方向に向かって行く所だった。バイクに跨って、黙っているのもなんなので待っている真哉くんに問いかける。
「藤堂教授ってどんな人なんです?」
「え……ああ、近くの大学の教授やってる人なんですけど、師匠の先代からの付き合いみたいで。ラセンの装備とか作ってくれたらしいですよ」
「へー、おまけにデータベースもあるなんて。それ本当に大学教授なんですか?」
「……どうでしょうね」
冗談のつもりだったのに、真哉くんは曖昧な笑みを浮かべた。僕の困惑を読み取ったのか、真哉くんは口を開く。
「初耳なんですよ。その人が記録持ってるの」
「え?」
「今まで使う必要が無かったのか、隠してたのか……兎に角俺は知らなかったです」
小さな照明が作る光が、真哉くんの顔に影を落とした。
「多分他にもあるんです。師匠は俺にまだ話してない事がある……そろそろ世話になって半年なんですけどね」
「それは……」
隠し事は良くない。ライダーに関わる事なら尚更。
でもそれに僕が口を出す権利は無いだろう。
言葉に詰まっていると、真哉くんは顔を上げぱっと笑ってみせた。
「でもたかが半年です。まだまだこれから、修業が足りんって事なんでしょきっと」
「でも——」
「良いんです。今までだって頑張って、だからここまで信頼されている。だったらもっと頑張ってもっと信頼されれば良い、でしょ?」
そう言ってのけたその目には曇りが無くて。そうできると自信に溢れていて。
強がりだとしても、眩しい。
「……脳筋だね」
「なっ……どこが脳筋なんですか!」
「いや、その……言ってる事が……」
「ちょっと、笑わないでくださいよ!」
充分に休息を取り、再び街の外れに向かって走る。鬱蒼とした黒い森が延々と続き、どれくらい経ったかも分からない程、風になった。
そして遂に、それが来る。
「近いです、気を付けて!」
先頭を走る真哉くんが何かを察知し、呼びかける。誰かが息を呑んだ音がした直後、地面が揺れる。
進行方向のアスファルトがひび割れ、それを突き破って水晶の柱が乱立する。急ブレーキをかけUターンするも、前からも横からも水晶が迫る。
「こっちだ!」
唯一塞がれていない方向にバイクを走らせ、細い木々をなぎ倒しながら進む。その間にも背後では水晶塊がせり出し続けスピードを緩めるのを許さない。
誘導されている、そう分かってはいつつもこのまま進むしかない。わざわざ敵が回りくどい手段を取ってくれているんだ、ここは油断を誘うためにも乗っておく他無い。
程なくして目の前に現れたのは物々しい雰囲気を漂わせる廃墟。扉の無い入口から侵入する。結晶が迫ってくる事は無かったが中は完全に行き止まりになっていた。停車し、バイクを降りる。
ほぼ同時に、入り口の前に立ち塞がる様にしてCDが現れる。風雅くんを庇う様にして僕達三人はCDに対峙する。
「もう逃げ場は無い。大人しくクリスタルを寄越せ」
「それで大人しく渡すなら、今ここにいないよ」
青葉さんが啖呵を切り、同時に懐からベルトを取り出す。それを見て僕も真哉くんも変身ツールを取り出し、頷き合う。
CDは姿勢を低くして唸る。
「無駄な事を……」
「CD、今度こそお前を倒す」
そう宣言し、僕はベルト型の変身ツール、ロインクロスを装着した。
『Account・Winning』
ロインクロスが装着者を識別し認証する。
『
『BLAST』
『Winning』
青葉楓と鳴神真哉がクリスタルを装填するのと同様に、霧島楓はウイニングイートリッジを起動し、ロインクロスに差し込む。二人がそれぞれ構えを取る横で起動キーであるブートトリガーをロインクロスにセットし、引き金に手をかける。
そして、三人の声が重なる。
変身!
『Change・Winning』
ラセンドライバーとヴルムドライバーが音声を感知しクリスタルからエネルギーを引き出し、トリガーが引かれたロインクロスが認識音声を響き渡らせる。三人の体が粒子に覆われインナースーツを纏い、更にその上に鎧が装着される。そして余剰エネルギーを放出し、仮面の瞳が煌めいた。
「正義を叫びライドする仮面の戦士!その名もまさしく……仮面ライダー!」
仮面ライダーラセン、仮面ライダーヴルム、そして仮面ライダーウイニング。
今、脅威に立ち向かうために三人の戦士が並び立つ。