仮面ライダーウイニング/仮面ライダーラセン Cross Dimension   作:赫牛

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向かい風

 三人のライダーが走り出す。紫の姿のラセンはロッドを振るい、ウイニングとヴルムは拳を握りCDに波状攻撃を仕掛ける。それらを躱し、いなし、受け止めたCDはヴルムの腕を掴み、力任せに振り回し放り投げる。ヴルムは慌てる事無く着地し、闘志を漲らせる。ヴルムの気配に視線が吸い寄せられたCDは針を放とうと手をかざし、その隙を見逃さなかったラセンがロッドを振り上げて撃つ。注意がラセンに逸れた所で更にウイニングが神速の一撃を見舞う。

 

「小癪な……!」

 

 仰け反ったCDが地面を腕で突くと先程よりも大きな結晶の柱が次々と突き出し、仮面ライダー達に迫る。それを後ろに飛び退いて躱し、両者の間に距離が出来た。CDは全身に力を漲らせ水晶の針を飛ばす。

 

「弟子クン、壁!」

「はい!」

 

 指示に反応したヴルムが炎の壁を展開し針を受け止める。そしてラセンは緑の姿にも劣らない俊敏さで跳躍しCDの背後に回る。地面を抉り土を巻き上げながらロッドをCDに叩きつけ、反撃を受ける前に離脱。更にロッドに土を纏わせ重量を増した攻撃を仕掛ける。

 しかしロッドを受け止めたCDが足払いをし、転倒したラセンを蹴り飛ばす。追撃を妨げようと跳びかかったヴルムを振り払い拳で撃ち、迫るウイニングを結晶の柱で牽制する。起き上がったラセンが巻き上げた土を一塊にして放つが物ともせず、結晶を潜り抜けたウイニングの拳を受け止め取り付く。

 

「雑魚が幾ら群れようが同じだ……!」

「そうだとしても、僕は諦めない!」

 

『Winning・Attack』

 

 ウイニングがロインクロスのトリガーを引き出力を上げる。力を込めてCDを引き剥がすと凄まじい速さでCDの懐に潜り込み拳を連続して叩きつける。そして渾身のアッパーで身体が浮いた所に回し蹴りを叩き込む。

 吹き飛ばされたCDはすぐに体勢を立て直し水晶の針を降らす。ライダー達は左右に分かれて躱し、ウイニングを先頭にしてCDへと走る。だがCDが自分の周囲に結晶の柱を発生させた事により遮られた。そして再びCDが全身へ力を漲らせる。

 

「無駄だと言って——」

「来た!」

 

 その動きを確かに捉えたラセンがドライバーを叩き、CDに向かって地面から巻き上げエネルギーを纏わせた土を浴びせる。土はCDに纏わりついて凝固し動きを阻害する。

 が。

 

「むうんっ!」

 

 CDが力を込めると土が弾け拘束はすぐに解かれてしまった。

 

「何をしようと、俺には効かない」

「そうかな?そうでもないみたいだけど」

「何……?」

 

 聞き返した瞬間、CDの全身を覆っている結晶、その大部分が音を立てて砕け散った。

 

「なっ……!?」

「そろそろ頃合いだと思ってたよ」

 

 困惑し苦しむCD。ラセンは指で下を……地面を示す。

 

「どんな鉱物にも硬度って数値があってね。所謂硬さの事なんだけど、それが同じかそれ以上の物と擦れ合うと鉱物には傷が付くんだ」

 

 ラセンの言う通り、砕けた結晶の破片は表面に無数の傷が付いていた。

 

「土や砂の中には石英、つまり水晶と同じ物が多く含まれている。それらを擦れ合わせる事で傷を付けた。そして傷が付いた水晶は、大きな衝撃で割れてしまう……と言う事。お前が土を振り払う時の衝撃で、結晶を破壊したんだ」

「何だと……!」

「お前の言う無駄でもこんな事ができるんだ。私達を甘く見たね」

 

 ロッドでCDを指すラセンは、仮面の下で不敵に笑った。

 

「さあ行くよ、二人とも!」

「はい!」

「ええ!」

 

『Winning…Impact!!』

 

 ラセンとヴルムがドライバーを叩き、ウイニングがトリガーを引く。エネルギーを解放したライダー達からオーラが立ち昇る。

 ラセンが再び土でCDを拘束し、三人は同時に跳躍する。雄叫びを上げながらラセンはロッドを、ヴルムとウイニングは脚を突き出す。三つのエネルギーを纏った攻撃が、CDを貫く……。

 

 

 

 

 

 かと思われたその時、CDが小さく舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 突如風が吹く。凄まじい速度で移動する何かが爪を振るい、ライダー達が吹き飛ばされた。

 

「何……?」

「えっ……!?」

 

 攻撃が中断され地面に倒れたライダー達、そして隠れていた渡風雅を含めた四人が、新たに現れた存在に驚く。

 それは長く鋭く光る爪を持ち、まるで全身が水晶で出来ているかの様に透き通らせた人型の何かだった。イヌの様な頭部は禍々しく歪み、色の付いた眼を獰猛に光らせる。それはCDの横に侍ると、ライダー達を威嚇する様に唸る。

 

「保険で創っておいた眷属が役に立つとはな……」

「そんなの、いつの間に……」

「甘く見ていたのは……どうやら貴様らのようだな!」

 

 CDが地面を突き、再び結晶の柱がライダー達に迫る。

 

「くっ……!」

 

 ラセンが二人を庇う様に立ち土の防壁を展開するが、すぐに防壁は破壊されライダー達を結晶が襲う。吹き飛ばされたラセンの変身が解け、飛び出した紫のクリスタルが砕けた。

 

「そんな……」

「くっ……まだだ!」

 

 立ち上がったヴルムはCDに向かう。立ちはだかった眷属の爪を躱し、反撃の拳を繰り出す……が、眷属は物ともせず爪を振るいヴルムの鎧を引き裂く。火花が散り、地面を転がったヴルムの変身が解除された。

 

「まずい……」

 

 次々と倒れた二人を見て、ウイニングの脳内でアラートが鳴る。

 

「あまり使いたくないけど……そんな事言ってられない!」

 

『Account・Frustration』

『New Winning』

『Neo Wind』

 

 そう言って取り出したブレスレット型の端末……ウェアラブレスを左腕に装着し、イートリッジが二つ重なった形状のダブル・イートリッジを取り出して分割、起動させロインクロスとウェアラブレスに装填し一度外したブートトリガーを再びロインクロスに差し込む。

 

『True Power・Further Change・Winning…Catharsis』

 

 二つの端末が音声を響かせ、緑の鎧が緑と黒の混じる物に上書きされていく。新たに鎧を重厚かつ鋭利に研ぎ澄ましたその姿の名は、仮面ライダーウイニングカタルシス。

 

『Catharsis・Crush』

 

 カタルシスはトリガーを引き力を二段階解放、両手から竜巻を起こしCDと眷属の動きを止める。

 

『Catharsis・Zeugma(ゼウグマ)

 

 その隙にウェアラブレスのグリップを押し高速でCDに接近、身体を掴んで押し込み眷属から引き離す。

 

「ほう……さっきよりはやるようだな」

「この力で、絶対にお前を倒す!」

「その割にはつらそうだな?」

「くっ……」

 

 かつて違う世界でウイニングとして戦った少年は人ならざる存在であり、彼の支配下にある状態ではカタルシスの能力も十全に発揮できていた。しかし今ここにいる霧島楓はただの人間である。彼にとってはカタルシスに強いられる負担は大き過ぎ、本来の性能も発揮できない上に反動も大きかった。

 しかしそれでも使わなければならないと、霧島楓は判断したのだった。

 マフラーをたなびかせながら風を貫く連撃を次々と撃ちこむカタルシス。CDは防戦一方ながらも、決定的な攻撃を的確に防いでいた。

 そしてそれを黙って見ている眷属ではない。カタルシスの背後に回り込み、鋭い爪を突き立てる。

 

「しまっ——」

 

 焦るあまりCDに集中し過ぎていたカタルシスは攻撃をもろに受け、体勢が崩れる。すぐさまCDが腕から伸ばした結晶の刃が鎧を切り裂き、火花が散る。カタルシスは膝を突くが、眷属の追撃を両手で受け止めた。

 

「まだだ……まだ倒れない!」

 

 解放されたままのエネルギーを風に変換して眷属を吹き飛ばし、CDに再び立ち向かう。

 

「霧島さん……うぅ……」

 

 そんなカタルシスの姿を見ていた青葉楓が、震えながらも立ち上がる。既に体力は限界だったが、それでもカタルシスを一人で戦わせまいと己を鼓舞し、赤いクリスタルをドライバーに装填した。

 

『FLARE』

 

「変身!」

 

 ドライバーから炎が噴き出し青葉楓の体を覆い、赤い姿のラセンへと変身する。手元に現れた赤い銃でカタルシスの背後を取ろうとしている眷属に狙いを定め、炎の弾丸を発射する。弾丸が命中し怯んだ眷属は、ラセンに狙いを変え跳びかかる。爪での一撃をラセンは寸での所で躱し、すれ違いざまに炎の弾丸を撃ち込む。

 

「はああああっ!」

 

 ドライバーを叩き、向かってくる眷属にカウンターのパンチを叩き込む。炎を纏った拳は眷属の腹を貫く。

 しかし眷属は止まらなかった。貫かれたままの状態でラセンに爪を振るい、防ぐ事ができなかったラセンは吹き飛ばされる。変身は解除されなかったものの、かなりのダメージを負ったラセンがそれでも立ち上がろうと全身を震わす。

 

「師匠……!」

「青葉さん……!」

 

『Catharsis・Sigma』

 

 カタルシスが力をもう一段階解放しCDに迫る。神速で繰り出されるパンチをCDは受け止めようとするが勢いを殺しきれず押し込まれる。更に向かってくるカタルシスをCDは迎撃しようとするがカタルシスは目にも留まらぬ速さで攻撃を躱し、カウンターのパンチを放つ。

 大きく後退ったCDは地面を突く。それに対しカタルシスは地面の動きを注視し、そして自身の足元が蠢くと同時に跳躍、そして突き出してきた結晶の柱を足場にして更に高く跳躍した。

 

「何ッ!?」

「これで決める!」

 

『Catharsis……Break・Against』

 

 好機と見たカタルシスがブートトリガーを三回引き、力を最大まで解放する。同時に身体中に痛みが走るが、カタルシスは歯を食いしばり空中で右脚を突き出す。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 風の力で加速したカタルシスのキックが、今度こそCDを貫くと思われた。

 しかしカタルシスとCDの間に眷属が割り込み、キックを受け止める。

 

「それでもっ!」

 

 眷属ごと貫かんとカタルシスは更に力を込める。しかしこの衝突で出来た僅かな隙をCDは見逃さなかった。

 カタルシスの全力のキックが眷属の身体を徐々に割り、そして完全に粉砕し。

 そのままがら空きになっているカタルシスの身体に、エネルギーを込められ光るCDの結晶の刃が走った。

 

「うあああああっ……!」

 

 吹き飛ばされ地面に叩きつけられたカタルシスの鎧が解け変身が解除される。左腕のウェアラブレスにはひびが入り、火花が散っている。

 

「ああ……!」

「楓さん!」

「俺には届かん。そして……貴様もいい加減に終われ」

 

 悲痛な叫びを聞いて立ち上がったラセンに、CDは刃を薙いで光の斬撃を飛ばす。エネルギーはラセンに触れると爆発し、炎が鎮まった後には膝から崩れ落ちる青葉楓の姿があった。ドライバーから転がり落ちた赤のクリスタルも、紫と同様に砕け散る。

 

「これでもう戦えまい。最初から大人しく従っていれば良いものを……」

「まだ、だ……」

 

 傷だらけになり、息絶え絶えでも、それでもまだ諦めていないとでも言う様に青葉楓は砕けたクリスタルを掴み握りしめる。

 そんな青葉楓には意も介さず、CDは駆け寄った渡風雅へと確実に歩みを進める。

 

「逃げて……風雅くん」

「でも、皆……!」

 

 渡風雅がライダー達を置いて逃げる事を躊躇う間にもCDは近づき、後数メートルと言う所で炎の壁が両者を分断する。

 発生源はヴルムだった。CDが気を取られている隙に鳴神真哉が再び変身し、力を溜めていたのだった。

 

「逃げます!楓さんは風雅くんを乗せてください!」

「……分かった!」

 

 燃え盛る炎がCDの行く手を阻む間にヴルムは青葉楓を抱きかかえてバイクに跨り、先程の爆発で開いた穴から外へと出る。後ろに渡風雅を乗せた霧島楓もそれに続き、廃墟の中には炎の中に佇むCDのみが残された。

 

「往生際の悪い……まあ良い、傷を治さなければどのみち意味が無い」

 

 そう呟いたCDは崩れゆく廃墟から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 目を覚ますと良く見慣れた場所にいる事に気が付いた。独特の空気とつんとした匂い、雑多に置かれた工具の数々。

 花恵大学にある藤堂教授の作業場だ。

 いつの間にと思うと同時に、自分が何かを強く握っている事に気付く。手を広げて見ると、それは砕けた赤のクリスタルの破片だった。

 

「ああ……」

 

 懐をまさぐり、同じ様に砕けてしまった紫のクリスタルを取り出す。

 先生から受け継いだ力を、二つも失ってしまった。

 

「師匠」

 

 部屋の反対側にいた弟子クンが私に気付いて駆け寄ってくる。

 

「立てますか?」

「分かんない……CDは?」

 

 弟子クンは首を横に振る。

 

「そっか……負けたんだ、私達」

 

 CDを弱体化させるための策も意味を成さず、あと一歩と言う所で虚を突かれ、圧倒的な力の差を思い知らされた。

 これまでに無い大敗北だった。

 

「藤堂教授は?」

「今手当の準備をしてくれてます。いきなり押しかけてしまったから慌ててました」

「良いよ、正解だと、思うから……」

 

 立ち上がろうとするけど、やっぱり力が入らない。多分死にはしないだろうけど、ラセンドライバーの治癒能力があってもすぐには動けない。

 

「何が正解ですか」

 

 鋭い言葉が飛んでくる。向かいの壁にもたれかかっていた霧島さんが立ち上がり、私を睨みつける。

 

「敵わないと分かってるのに突っ込んで、こんなにぼろぼろになって……こんなの命が幾つあっても足りないでしょう!?」

「それは……」

「こんなの間違ってる!あなたは自分の命を軽く見過ぎだ!……やっぱり、僕一人で行くんだった」

 

 そう言って霧島さんは作業場を出ていってしまった。

 残された沈黙の中、私の頭に霧島さんの最後の呟きが木霊していた。

 

 

 

 

 

「じゃあね、勇太郎」

「ああ、またな!」

 

 とある夕暮れの下、全身を白のコーデで固めた男は友人と別れ帰路についていた。久しぶりに休日の予定が合い、近況を話そうと言う事で集まった帰りだった。

 この年から社会人となった彼は仕事に忙殺されながらも、平穏な日々を過ごせている事に喜びを感じていた。かつて自分達が戦い、勝ち取った平和を噛みしめていた。

 本来ならば、彼が戦う事はもう無かっただろう。数多いる次元の超越者に、この世界の人類は脅威であると認められていたからだ。

 と。

 

「誰……?」

 

 誰かに名前を呼ばれた様な気がして男は振り返る。勿論そこには自分以外誰もおらず、静かに風だけが通り過ぎて行った。

 気のせいかと思ったその時、また聞こえる。それは音の形を成していないが、自分を呼んでいるとはっきりと感じられた。

 そして男の前に、七色の光を湛えるゲートが現れた。

 

「君は……もしかして」

 

 男には自分に呼び掛ける存在に心当たりがあった。それが強く自分を望んでいる事も、それがどの様な道に続いているのかも、男には分かった。

 分かってしまったから、男に迷いは無かった。

 

「分かった、行くよ」

 

 男は躊躇う事無くゲートへと踏み出す。そして懐かしい気配に連れられ、光の向こうへと消えていった。

 

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