仮面ライダーウイニング/仮面ライダーラセン Cross Dimension   作:赫牛

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眩き戦士達

 不思議と人通りの無い花恵の中心に近い大通りを、CDが堂々と歩いていた。仮面ライダー達によって付けられた傷は完全に回復し、更に近くにいた所有者を襲ってクリスタルを強奪し吸収する事で力を増したCD。眷属を今度は三体も従え、万が一の敗北の可能性を排除して目的とする気配に近づいていく。自身をより高みへと押し上げるCDの目論見は、後一歩と言う所まで達成されている。

 だが、それを阻もうとする者は、まだ諦めていない。

 CDは気配のする場所まで辿り着く。しかしそこに渡風雅の姿は無く。

 待ち構えていたのは青葉楓ただ一人だった。

 夏にも拘わらず黒いライダースジャケットを羽織った青葉楓は、CDを見つけ不敵に笑う。

 

「待ってたよ。このクリスタルの所に来ると思ってたんだ」

「お前一人か、諦めて命乞いでもしに来たのか?」

「まさか」

 

 青葉楓はCDに見えるように黒いクリスタルをかざす。そしてそれをもう片方の手に持った台型の装置に置き、スイッチを押す。

 するとクリスタルの姿が揺らめき、黒い粒子となって装置に吸い込まれていった。

 

「何ッ!?……貴様何をした!」

「ライドシステムさ!」

 

 CDの後方から声がした。声の主は黒い服を着た霧島楓、CDを鋭い眼光で捉えながら背後を抑える。

 

「超細かくした物質を特定の座標で再構築するシステム……だったかな。僕のロインクロスを解析して簡易的な物を作ったんだ」

「藤堂教授が徹夜を押してやってくれてね……それを使ってクリスタルを別の座標に転送させてもらったよ」

 

 CDが感覚を研ぎ澄ませると確かにクリスタルの気配は遥か遠く、街の外れまで移動していた。

 

「小賢しい……!」

 

 踵を返そうとしたCDは、正面から白い服を着たもう一人の霧島楓の姿を認めた。

 

「なんだと……?」

「悪いけど、行かせないよ」

「チッ……!」

 

 舌打ちしたCDは念を送り、眷属達をクリスタルの座標に向かわせる。

 

「ここを通りたいなら僕達を倒してからだ、ってやつだね」

「ならばそうするまで……!」

「できないよ、僕達は負けない」

 

 霧島楓の言葉と共に、三人はそれぞれの変身ベルトを装着しアイテムをセットする。

 

『GALE』

『Winning』

 

「必ず勝つ……お前をここで倒す、クリスタルデストロイヤー!」

 

 三人が構えて心を研ぎ澄まし、叫ぶ。

 

 

 

 変身!

 

 

 

 風が吹き荒れる。ベルトから放たれたエネルギーが大気を巻き込み、大きなうねりを作る。風が三つ、重なりそれは草木を巻き上げ、その場にいる者が動けなくなる程に強く、激しく吹きすさぶ。混じる粒子が徐々にスーツと緑の鎧を形成し、三人の体を覆っていく。そしてそれが全身に至った瞬間、集まった風が解放され街を吹き抜けていく。二人のウイニングとラセンの複眼が光り、強い闘志を宿した。

 三人のライダーはCDを見据え油断無く構え、ほぼ同時にCDに走る。三方向から放たれる拳をCDは結晶の柱で防ぐ。更にそれを仮面ライダーに向かって突き出す様に展開しライダー達を牽制する。

 

「おっと……これは」

「油断しないで、相手は簡単に世界を壊せるんだから」

「分かってる!けど!まだ本調子じゃ!なくてさ!」

 

 ウイニングの注意に応えつつ、もう一人のウイニングはCDの拳を躱し、的確にカウンターを決めていく。久方ぶりの変身にも拘わらず、軽口を叩く余裕すらある。それは彼が長らく世界を守ってきた証左でもあるだろう。

 身軽な動きに業を煮やしたCDは拳をウイニングではなく地面に突き立て、結晶の柱での範囲攻撃に切り替える。

 

「うわ!」

 

 咄嗟に反応しきれなかったウイニングは防御の構えを取る。攻撃を防ぐその横腹にCDの刃が迫る。

 

「させるか!」

 

 しかしそれをもう一人のウイニングが妨害し、CDがたたらを踏んでいる間に攻撃を防ぎきったウイニングも加勢して二人で同時に拳を見舞う。更にCDが反撃しようと身構えた所にラセンが横槍を入れ攪乱する。CDの周りを俊敏に動き回り、狙いの的を絞らせない。

 

「ちょこまかと……!」

 

 CDが刃に力を集め、光の斬撃を飛ばす。身体を捻り紙一重で躱したラセンが、すぐさま来た追撃を見切って飛び退き距離を取る。

 両陣営共一瞬睨み合い、再び走り出す。

 

 

 

 

 

「来た!」

 

 師匠の指示通り街の外れで待機して数十分、遂に黒いクリスタルが転送されてきた。

 

「掴まって!」

「はい!」

 

 風雅くんにクリスタルを預け、バイクのエンジンを点火し走り出す。

 クリスタルが転送されたのを確認したらできるだけ遠くまで移動し、師匠達にCDが足止めされている内に引き離す、と言う作戦。転送までは成功したが、この後どうなるか。もしCDに逃げられたら連絡が来るはずだが、まだ着信が無いと言う事は一先ず足止めには成功しているのだろう。

 なら俺は、信じて走るだけだ。

 

 

 

 

 

 しかしCDがただで逃がしてくれるはずもなく。

 程なくして、俺の持つ橙のクリスタルが熱くなる。敵が近い合図だ。

 

「来るぞ!」

「っ……!」

 

 風雅くんが息を呑んだのとほぼ同時に後ろからイヌの遠吠えが聞こえてくる。ミラーには結晶で構成されたヒト程の大きさのイヌ……CDの眷属が三体確認できる。一体だけでも強かったのに、かなりCDは慎重になっていたのだろう。故に安心していたからこそ、その隙を突いた師匠の作戦が刺さっている。

 ここまで来たら、俺も頑張らないと。

 眷属を引き連れたまま街中に入る。なるべく人のいない道を選ぶが、それでも少なくない人数が蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。眷属はお構いなしにこちらを追いかけてくれているようだが、なるべく早く戦える場所を探さなければ。

 狭い所で相手の数的有利を失くすのも良いが、その場合追いつめられた時に風雅くんを逃がせなくなる。だから広い所、広い所……。

 

「あった!」

 

 豪奢な噴水が飾られた広場にバイクを走らせ、眷属達を誘導する。急ブレーキをかけ停車しバイクから降りて、ドライバーを装着しクリスタルを装填する。一定の距離を保ちながら俺を囲む眷属達が威嚇する様に唸り、それを跳ね返すつもりで叫ぶ。

 

「変身!」

 

 ドライバーから噴出した炎が俺を包み、ヴルムへと変身させる。身体中に漲るエネルギーを感じながら、左腕を胸に引いて右腕を前にかざして腰を落とす、いつものファイティングポーズ。

 左右から眷属が跳びかかってくるのを姿勢を低くして躱し、背後から近づいてくる気配をバク宙で避ける。変身中もドライバーの中のクリスタルが俺に熱を伝え、攻撃が来るのが感じ取れる。それに俺が反応できるかどうかはまた別だが。

 三つの爪が波状攻撃を仕掛けてくるのに正面から飛び込み、地面を転がって眷属達の間を縫い躱す。ドライバーを叩き、振り向きざまにエネルギーを込めたパンチを近くにいた一体に繰り出す。すぐさま離脱し、向かってきたもう一体の足を払って転倒させる。そして跳躍し最後の一体に上空からのキック。怯んだ所に更に飛び蹴りをお見舞いする。

 

「行ける……!」

 

 ヴルムのスペックならこいつらにも負けない。ラセンと比べれば持久力もあるし、このまま押し切れば……。

 しかし、そんな甘い考えは即座に否定される。

 立ち上がった眷属の一体が突如遠吠えをする。それに共鳴する様に他の二体も吠え、大気が振動する。

 

「なんだ……?」

 

 困惑する俺の前で三体が寄り集まり、光を放つ身体が重なる。一つのシルエットになったそれがひび割れ、余分なパーツが剥離していく。

 そして発光が収束し、そこに立っていたのは先程に比べ圧倒的な存在感を放つ水晶の怪物だった。細身から重厚に、鋭利だったのがより洗練されたそれは、獣の様だった三体の時と違い理性的な佇まいを見せる。頭部にイヌの三つ首を冠したそれは正しく。

 

「ケルベロス……か」

 

 新たな姿になった眷属……CC(クリスタルケルベロス)とでも言うべきだろうか。それは構えた次の瞬間には俺の前に立ち、握り込んだ拳で胴を撃ってきた。

 

「がはっ……!?」

 

 地面を転がり、立ち上がろうとした所に胴を蹴られ、更に転がる。何とか立ち上がり敵を捉えようとするが、どれだけ眼で追っても微かな残像しか見えない。そうしている内に後ろから衝撃が来てまた吹き飛ばされる。

 痛みに呻きながらCCの速さと力の大きさに驚く。さっきまでとは段違いでパワーアップしている。こんな切り札を隠し持っていたとは。

 クリスタルからの熱を感じ、追撃を間一髪で避ける。そして反撃の拳を繰り出すがCCは微動だにせず、CCが軽く手を払っただけで俺は吹き飛ばされた。橙の鎧にひびが入り、破片が飛び散る。

 

「真哉くん!」

 

 地面を転がった俺に風雅くんが駆け寄った。かつてない程のダメージを受け立てない俺を支えようとする風雅くんの顔が、CCを見て歪む。

 

「こうなったら……俺が……」

 

 懐から取り出した黒いクリスタルを見て、思いつめた様に呟く。それだけで、彼が何をしようとしているのか分かった。

 

「駄目だ……それを使うのは」

「でも!そうしないとこのままじゃ……!」

 

 どうする。相手の力は絶大。こちらは満身創痍。正に絶体絶命のピンチ。

 何か、この状況を打開する策は……。

 そうか。

 あるじゃないか、とっておきのが!

 

「風雅くん、そのクリスタル、俺に預けてくれないか?」

「え?」

「大逆転、見せてやるから。信じて」

 

 風雅くんはクリスタルを見て、それから俺を見る。そして頷いた。

 

「分かった……信じる」

「ありがとう」

 

 クリスタルを受け取り立ち上がる。こちらを警戒するCCに向き直り、トレイを引き出して橙のクリスタルを取り外し、代わりに黒のクリスタルを装填する。

 

SLAYER(スレイヤー)

 

 能力を表す音声が鳴り、ドライバーから黒い炎が噴き上がった。うねる炎が全身を包み、揺らめく橙の鎧を黒く染め上げていく。同時に全身に力が補充されていく感覚。視界がクリアになり、よりはっきりとCCの気配を感じ取れるようになった。

 人生初のフォームチェンジを終え、仮面の下で不敵に笑ってみせる。

 

「俺を倒さないと、クリスタルは奪えないぜ」

 

 忌々し気に唸るCC。俺は鋭く息を吐き、呼吸を整える。

 そしてCCが動く。目にも留まらぬ速さで駆け拳を振り抜く。

 その動き全てを、俺は視る事ができた。

 CCの動きに合わせて身体を捻り、最小限の動きで攻撃を躱す。驚いたCCに、カウンターのパンチを放つ。先程までは微動だにしなかったCCの身体が浮き、数メートル後退した。

 一回の攻防で、俺はこのクリスタルの能力を理解した。対峙する敵の動き、呼吸、気配に対して極限まで集中し反応する事ができるようになる感覚の強化と、解析でもあったように物体に対する特攻の付与。確かに仮想敵がいなければ身体強化で片付けられてしまいそうな能力だ。

 

「これならいける!」

 

 距離を詰めてCCの懐に潜り込み、拳を数発撃ち込む。しかし怯んだ隙に力を込めた一撃は躱され、あちらのカウンターが胸に刺さる。先程までと変わらないダメージ。こちらの防御力は上がっていない。

 

「ガチのどつき合いって事ね……!」

 

 与えるダメージは多く、受けるダメージも多い。互いに得物無しの、ステゴロ勝負。しんどいけど、土俵に上がれただけまだましだ。

 ドライバーを叩き、両腕にエネルギーを集めるイメージ。黒い炎が腕に纏わりつき火の粉を散らす。対峙するCCも両腕に結晶を纏い構える。同時に走り、同じ構えで拳を突き出す。互いに胸を撃ち合い、後退る。歯を食いしばって拳を撃つ。すぐに拳が返ってくる。頭を狙うそれをぎりぎりで避けて二の矢を受け止め、隙だらけの顔面に頭突きを見舞う。視界が霞むが深く深呼吸して相手に焦点を合わせる。が、CCの反撃の速さに反応が遅れ、肩に拳がめり込む。痛みをこらえてこちらも反撃するが、相手の拳も同時に命中し互いに後退る。

 

「っ……おおおおおっ!」

 

 叫びと共に繰り出したパンチが、CCのそれとぶつかり、せめぎ合う。一瞬の後に弾け、俺とCCは吹き飛ばされた。

 

「くっ……」

 

 立ち上がろうとするも上手く力が入らず膝をついてしまう。殴られた所がじんじん痛む。息も荒い。心なしか体力の消費もいつもより多い気がする。限界ぎりぎりだ。

 ふらつきながらもCCは立ち上がり、結晶で爪を生成しオーラを纏わせる。どう見ても強力な攻撃が来る前触れ。対処しないと……。

 動け、俺の身体。動け、動け、動け。

 でも、身体は言う事を聞かない。CCはもう目の前。

 

「ここまでか……」

 

 光る爪の切っ先が、突き出されて——。

 

 

 

 

 

「負けるな、仮面ライダー!」

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

 その叫びを、願いを聞いた瞬間身体に力が戻り、寸での所でCCの腕を受け止めた。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 立ち上がってCCを押し返し、炎を纏った拳で吹き飛ばす。咄嗟の攻撃が、しかしCCに確かな隙を作った。

 決めるなら、今だ!

 ドライバーの右側面を叩き、溢れる黒い炎を左脚に集める。腰を落とし、助走を付けて跳躍。空中で体勢を整え、左脚を突き出す。

 

「たああああああっ!」

 

 黒炎を纏うキックがCCを捉える。破片と火花を撒き散らしながらCCは吹き飛び地面を転がる。再び立ち上がって腕を伸ばすが胸の中心に撃ち込まれたエネルギーが眩さを増し。

 光が炎に代わった瞬間、爆発した。炎が治まった後に怪人の姿は無く、燻る結晶片が散らばるのみだった。

 倒せた。勝った。

 

「ふぅ……つつ」

 

 気が抜けた瞬間に変身が解除され、痛みに襲われ倒れ込んだ。

 

「真哉くん!」

 

 駆け寄ってきた風雅くんに起こされ、俺は深く息を吸う。安堵と達成感がじわじわと染みてきて、危うく涙が出かかった。

 

「君のおかげで勝てた……ありがとう、信じてくれて」

「……うん!」

 

 日差しが暑い、体が熱い。だけどすっと眠りに落ちてしまいそうな程疲れ果てて。

 クリスタルはまだ敵の存在を知らせているけど、ちょっと今は行けそうにないかも。

 師匠……。

 

「後は、頼みます……」

 

 

 

 

 

 三つの風が戦場を吹き抜ける。街の風を味方につけた三人のライダーは、即席とは思えぬ見事なコンビネーションでCDを追いつめていく。結晶の刃を振るうCDに対し素早い身のこなしで攻撃を躱し、的確に反撃を叩き込む。有効打を持つウイニング二人の隙をラセンが攪乱してカバー、確実にダメージを蓄積させていた。

 

「ッ……鬱陶しい!」

「離れて!」

 

 ラセンの号令通りにウイニング達が距離を取り、結晶の柱での攻撃を避ける。CDの動きからどの攻撃が来るかをラセンが予測、ウイニング達に注意を促す事により被弾を最小限に済ませる。それによりウイニング達は攻撃に集中する事ができると言う好循環が生み出されていた。

 磨き上げられた水晶の様だったCDの外殻は、今や傷つき、欠け、くすんでいた。圧倒的な力を見せたCDが、目に見えて弱っている。形勢は、過剰とも思える程にライダー達に傾いていた。

 

「たあっ!」

「グ、ウゥ……貴様らッ……!」

 

 二人のウイニングの拳がCDを同時に捉え、吹き飛ばされたCDは胸を押さえて苦しむ。ライダー達は同時にこれが好機と察し、頷き合うとベルトを操作しエネルギーを解放する。

 

『Winning……Impact!!』

 

 三人のライダーは跳躍し、風を身体に纏う。二人のウイニングはマフラーをたなびかせ、ラセンは背にチョウの翅を顕現させ、右脚を突き出しCDにキックを繰り出す。それらはCDが発生させた結晶の壁を貫き、本体を撃ち抜いた。ライダー達が振り返る中CDは悶え苦しみ、声を漏らす。CDの身体から火花が散り、ひび割れから光が溢れる。強大な敵の、余りに神秘的な最期。

 

 

 

 

 

 そう思っていたのだ。CD以外は。

 

 

 

 

 

「フ、ククッ……!」

「……何が可笑しい?」

 

 笑みを漏らすCDにウイニングが疑問を投げかける。表情の読み取れないCDの顔は、今ばかりは確かに嗤っていると感じられた。

 

「素晴らしかったぞ、あの攻撃のエネルギー……喰らったクリスタル共を馴染ませるには丁度良かった!」

 

 CDの身体から漏れる光が、緑から透き通った青へと変わっていく。まるでそれさえも自分のものとしてしまったかの様に。

 

「一体何が……」

「すぐに分かるとも。見るが良い……」

 

 そう言うとCDは呻き声を上げながらうずくまり、光が収まっていくのと同時に完全に静止した。(いろ)を失い死骸の様に見えるそれが、しかし終わりを意味するものではないとライダー達は気付く。

 終わりではなく、始まりであると。

 CDの背中に一際大きな亀裂が入り、何かに押し広げられる様に大きくなりせり上がっていく。動きが止まったと思った一瞬の後、亀裂から勢い良く透き通った何かが飛び出す。上半身にも見えるシルエットのそれは身体を逸らし、腕をだらりと垂らす。まるで誕生の余韻に浸る様に。

 

「あれは……?」

「CD、なのか……?」

 

 恐ろしくも神秘的な光景にライダーが動けずにいる中、それは先程までの肉体を脱出し宙に浮くと、悠然とライダー達を見下ろした。

 シルエットだけ見るならば何の変哲もない、マネキンの様に特徴のない身体。しかしそれは全て透き通った水晶で構成されており、頭部には眼も鼻も口も無く、一切の表情を伺う事ができない。生命体である事を超越した様な何かにも見えるそれは、風貌に見合わない高らかな声で嗤う。

 

「ハハハハハハ!……素晴らしい、生まれ変わるとは正にこの事よ!」

「お前は、一体……」

「全ての生命は進化するもの、俺もそれに従ったに過ぎない……」

 

 CDが手をかざした途端、凄まじい衝撃がライダー達を襲う。立っているのもやっとな程の重圧の中、降り立ったCDが手を振りかざすと何も無い空に突如として無数の水晶の針が発生し、雨あられと降り注ぐ。碌に防御もできなかったライダー達の装甲が傷つき、火花が散る。

 

「なんて強さだ……」

「でも、まだだっ!」

 

 地面に伏したライダー達は諦めず、CDに攻撃を仕掛ける。ウイニングがエネルギーを解放し殴りかかるが、それはCDの目前で突如発生した結晶の盾に阻まれる。

 

「何っ……!?」

「フン!」

 

 そしてCDが腕を一振りする事で発生した結晶塊に吹き飛ばされ、変身が解除される。白い衣類は所々が破れ、血が滲む。

 それを見たラセンともう一人のウイニングが同時に跳び込み必殺のキックを再び放つ。しかし、それも無から生み出された盾に防がれ動きを封じ込められる。CDは容赦無く腕を振るい、鋭い刃がラセンを切り裂いた。地面を転がったラセンの変身も解除され、弾き出された緑のクリスタルが儚く砕け散る。

 

「ぐうっ……!」

「フゥ……この程度だったとはな、仮面ライダーとやらは」

「何を……!」

 

 首を掴まれ締め上げられながらもウイニングは戦意を失わない。抵抗するが、CDはそれを嘲笑うかの様に右腕に光を集め、ウイニングの腰へと振り抜いた。

 

「うわあああああっ!」

 

 吹き飛ばされたウイニングは並木をなぎ倒し、建造物の壁に叩きつけられてようやく止まった。小さく呻く霧島楓の腰に巻かれたロインクロスにひびが入り、火花が散る。明らかに修繕が必要だと分かった。

 

「終わったか……」

 

 その様を見てCDはほくそ笑む。三人の内二人を変身不能にし、残る一人も息絶え絶え。どうあがいても勝ち目はCD側にあった。だからこそCDは邪魔者がいなくなった安堵と、これから自分が行うであろう破壊の数々を想像し歓喜に震えていた。

 だが。

 

 

 

 

 

「まだ、終わりじゃない……!」

 

 

 

 

 

 怪訝そうに見上げたCDの視線の先には、先程倒したはずの霧島楓がいた。血を拭い、ふらつきながらも立ち上がり、壊れた変身アイテムが崩れ落ちるのも構わずに、真っ直ぐにCDを見据えて歩みを進める。

 

「まだ終わってない……僕達はまだ諦めていない!」

「そんな体で、今更何ができる」

「できるさ!」

 

 応えたのは白い服を着た方の霧島楓。口元に不敵な笑みを湛え、すっと立ち上がる。

 

「体があればまだ戦える。パンチだって、キックだってできる。食らいついてでもお前を倒すまで諦めない」

 

 その迫力に、CDが唸りを上げる。強大な力を持つはずのCDが、丸腰の相手に対して威嚇してしまった。

 そして、最後の一人も立ち上がる。

 

「すべき事を果たすまで、何度だって立ち上がってみせる。力尽きたとしても、意志は受け継がれる……貴方が勝つ事は決して無い!」

 

 青葉楓の鋭い眼光が、まだ戦意が失われていない事を示す。表情の伺えないCDだが、その声色は得体の知れないものを見るように震えていた。

 

「何だ……何なのだお前達は!」

 

 歩みを止め、体を震わせながら前を見る霧島楓の目に、決して消える事の無い光が灯った。

 

 

 

 

 

「僕は……僕達は、仮面ライダーだ!」

 

 

 

 

 

 世界の癌に立ち向かう最終戦士。

 その力は、世界を超え、時間を超えてまた別の世界へと舞い降りる。

 

 

 

 

 

 荘厳な鐘の音が鳴り響く。それが現れる事を知らせる様に。壊された街を癒す様に。

 奮い立つ彼らを、讃える様に。

 

「この鐘の音は……!?」

 

 CDと青葉楓が困惑を見せる一方、白い服の霧島楓は優しい笑みを浮かべる。

 そして、自分が何者であるかを示した者の前に、光が舞い降りる。

 

「君は……まさか」

 

 光は霧島楓の腰に収束し、その姿を金色のベルトに変える。

 

「ディヴェルト……」

 

 それは彼が待ち望み、そして諦めたはずの力だった。

 

「もう一度、一緒に戦ってくれるの?」

 

 霧島楓の言葉に応える様にベルトの端が光る。

 すぅと息を吸い、顔を上げた霧島楓が一歩前に出る。力強く拳を握りしめ、そして叫ぶ。

 

 

 

 

 

変神(へんしん)!」

 

 

 

 

 

 眩い光が街を包み込む。それは始点へと還り、霧島楓の体を覆う鎧へと形を変え、救世主へと変神させる。純白の装甲、黄金と白亜の体、金色の装飾が織りなす究極の超人。

 

「お前は……!」

 

 そして緑の瞳を輝かせる戦士は、高らかに宣言する。

 

「僕は仮面ライダー……仮面ライダーディヴェルトだ!」

「グ……黙れエエエエエッ!」

 

 激昂し結晶の雨を降らすCD。しかしディヴェルトには傷一つ付かない。一歩、また一歩。徐々に間隔を狭め、走り出す。

 

「クッ……!」

「おおおおおっ!」

 

 CDが結晶の盾を発生させるが、ディヴェルトの振り抜いた拳はそれを容易く貫通し、CDの胸を撃ち抜いた。生まれた衝撃波が金色に染まり、もう一人の霧島楓を包み込む。

 

「これは……良し!」

 

 頷いた霧島楓の瞳が虹色に輝き、腰のロインクロスが全く別のドライバーに置き換わる。上部のレバーを左にスライドさせ変身待機状態へ移行すると、本体右部のトリガーへ指を掛け、強く引く。

 

「最終変身!」

『F―――INAL・Change』

『I.N.T.E.G.R.A!!』

 

 虹色の波動と粒子が霧島楓を包み込み、新たな戦士の姿を顕現させる。深緑のスーツと白い装甲、間のラインに虹色の光が輝く。自由を統べて想いを合わせる。極光纏いしその姿こそ。

 

「仮面ライダーインテグラ!」

 

 名乗りを上げたインテグラが跳躍し、ドライバーのトリガーを引く。

 

『Elemental Power・Active』

「バーン!」

 

 インテグラは脚を炎で包み、落下の勢いを乗せた膝蹴りを繰り出す。CDは盾で防ぐが、インテグラは更にトリガーを引く。

 

『Elemental Power・Active』

「アイアス!」

 

 巨大な盾にも似たエネルギーを纏ったインテグラの拳が、CDの盾をすり抜けて頭部を抉る。怯んだCDに、更にディヴェルトが追い打ちのキックを放つ。発生した衝撃波が、今度は青葉楓を包み込む。その光は握ったままの緑のクリスタルの破片と、そして懐から飛び出した三つのクリスタルの破片に宿った。

 青葉楓が見守る中、四つの破片は螺旋を描きながら収束し、手のひらの上で一つへと混じり合う。緑、青、赤、紫の輝きが一点で交わる、チョウの図柄が刻印されたクリスタルが誕生した。それを握りしめ、青葉楓はドライバーのトレイを引き出し、クリスタルを装填する。

 

ELEMENTS(エレメンツ)

 

 ドライバーから音声が鳴り大気が振動する。両腕を交差して胸まで引き、右腕を左前へ突き出して叫ぶ。

 

「変身!」

 

 認証がなされるのとほぼ同時にドライバーから風、水、炎、地、四つのエネルギーが解放される。渦巻くそれらはインナースーツの上に纏われ、空気中の分子を取り込んで鎧へと変貌する。やがて完全に装着され、その姿を現した。

 シルエットは緑のクリスタルを使うゲイルフォームとほぼ同じ。しかし鎧の細部は異なり、風を模した緑だけでなく水の青、炎の赤、地の紫と、四色に輝いている。螺旋を描きながら結束したそれは、正にその者に相応しい。

 そして戦士は名乗りを上げる。

 

「私も……私は、仮面ライダーラセン!」

 

 新たな姿となったラセンはファイティングポーズを取り、力を溜めて走り出す。その姿がかき消えるのと同時にCDの目の前に出現し、拳を繰り出す。

 

「何ッ……グウッ!?」

 

 驚いたCDが盾を発生させるより速くラセンの拳が頭部にヒットする。

 

「この速さ……なら!」

 

 ラセンも自身の身体に満ちるエネルギーに驚くが、すぐに思考を切り替えCDに向き直り駆ける。疾風の如き目にも留まらぬ速度に、CDは翻弄され攻撃を受けきれずにいた。

 

「僕もだ!」

『Elemental Power・Active』

「霹靂!」

 

 インテグラがぐっと腰を落とし、地面を蹴った次の瞬間にCDの胴を雷を纏ったキックで撃つ。自身に稲妻の性質を付与し、ラセンと同等以上の速さで移動し攻撃するインテグラ。二人の高速攻撃に盾の生成が追い付かず、確実にダメージを与えていく。

 

「何だこの力は!?お前の攻撃は効かないはず……!」

「そんな勝手な理屈より、私の心の方が強い!」

 

 ラセンが正面から殴りかかるのを、CDは盾を生成して受け止める。だがラセンの全身からエネルギーが溢れ拳へと集まっていく。

 

「はあああああっ!」

 

 渾身の一撃が盾を砕き、本体を殴り飛ばす。結晶の欠片を散らしながら吹き飛んだCDが体勢を立て直し、両腕に長大な刃を生成し振り下ろす。攻撃を振り抜いた反動で動けないラセンを刃が襲う——。

 しかしその寸前で刃が止まる。ラセンの両側にディヴェルトとインテグラが立ち、刃を受け止めていた。

 

「霧島さん!」

「今だ!」

「チャンスだよ!」

 

 二人の言葉に頷いたラセンはドライバーを叩き、螺旋状に折り重なるエネルギーを拳に宿す。そしてそれを真っ直ぐに突き出すと、拳から四つの属性を内包したエネルギーの塊が撃ちだされ、CDに当たって爆ぜる。

 

「馬鹿、な……」

 

 膝をつくCD。三人のライダーは視線を合わせ、頷き合う。

 

「これで終わりだ、CD!」

 

 宣言したディヴェルトが脚に光を集め、高く跳躍する。

 

『Integra・Crush』

 

 ドライバーのレバーを押し、トリガーを二回引いたインテグラも同時に跳躍する。

 

「これが……私達の意思(こころ)だ!」

 

 そしてラセンがドライバーの上側面を叩き、左脚を引いて腰を落とす。力を溜め、助走した後に跳躍。その背と右脚に四色のエネルギーが集まっていく。

 立ち上がったCDは絶叫し天を仰ぐ。そしてかざした両腕の間に巨大かつ鋭利な結晶塊を生成する。

 空中で並んだライダー達は体勢を変え、右脚を突き出す。強烈な光と力を纏った、トリプルライダーキック。それがCDの撃ち出した結晶とぶつかり合い火花を散らす。

 

「うおおおおおおっ!」

「たああああああっ!」

「はああああああっ!」

 

 ライダー達が叫ぶと共に均衡は破られ、結晶が音を立てて砕け散る。そして舞い散る結晶の向こうから、三人のライダーキックがCDを貫いた。

 仰け反ったCDを背にライダー達は着地し残心する。CDの胸部には穴が開き、そこから黄金の光が溢れだす。

 

「まだ、俺は……俺はアアアアアアッ!」

 

 断末魔を上げると同時にCDの中で暴れていたエネルギーが爆発する。爆風に乗って結晶片が散り、熱がアスファルトを焦がす。

 炎が鎮まった跡には何もおらず、ただ焼け跡と僅かに燻る炎の静けさばかりが残るのみだった。

 

「終わった……?」

 

 ぽろりと呟いたラセンの言葉に、インテグラが頷く。

 

「うん……終わったんだ」

 

 ディヴェルトもそれに頷き、空を見上げた。

 今日の花恵は快晴、でも時々強い風が吹く。

 そんな当たり前を取り戻した戦士達を、太陽が照らしていた。

 

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