仮面ライダーウイニング/仮面ライダーラセン Cross Dimension 作:赫牛
激戦から、少し後。
ディヴェルトの力によって、CDによる被害は全て元通りに癒えていった。どんな世界の、どんな理屈の物か゚は知らないが、どうやらあれは私達の想像を遥かに超える代物らしい。霧島さん達は初めてではないようだから、本当に世界は広い。
なんて感傷に浸るのは、見送りが終わってからでも遅くないだろう。
「折角ならもうちょっとゆっくりしていって良いんですよ?」
「そう言う訳にはいかないよ。まだまだ救いに行かなきゃならない世界があるからね」
「僕も授業の用意が、ね」
一旦自宅に戻りほっと一息ついたのも束の間、二人の霧島さんは自分の世界に戻らないといけないらしい。勝利の余韻を分かち合おうと思っていたのだが、こうなると少し寂しい。まあでも仕方無い。二人にもやるべき事があるんだから。
「それにディヴェルトがいつまでいてくれるか分からないしね。もしかしたらこの世界に置いてけぼりかもだから」
「そんな気まぐれなんですか、ディヴェルトって?」
「そうそう、役目が終わったと思ったらすぐどっか行っちゃうからねーこれ」
「仮に置いて行かれても僕が送るけどね?」
黒い服の霧島さんが苦笑しつつ返す。霧島さんが世界を渡る技術にも、ライドシステムが使われているらしい。つくづく便利なシステムだ、開発者には是非とも会ってお礼がしたい。
「まあ連絡とかせずにこっちに来ちゃったから。心配かけたくないし」
「それはすぐ帰ってあげてください」
白い服の霧島さんとそうやり取りしていると、もう一人の霧島さんの顔が少し曇った。それを見た弟子クンが尋ねる。
「どうしました?」
「いや……そう言う人いるの、なんか良いなって……」
唇を尖らせながらそう言うと、もう一人の自分に肩を叩かれる。
「その内できるって、大丈夫だよ」
「いいようるさいなぁ……」
「そうですよ、楓さんなら出来ますって」
「無責任な……そう言う自分はどうなのよ」
「え!?あ、俺は……そのぉ……」
質問を返された弟子クンの目が泳ぐ。
「どしたの?誰か良い人でもいる?」
「え?いやいや、えっと、あ、あははは……」
弟子クンの態度は露骨に何かを誤魔化しているそれだ。私の知らない内に彼女でも出来たのだろうか。それとも好きな人?いつの間に、一体誰だろうか……。
暫く推理していると霧島さん達、それに風雅くんまでもがにやついていた。
「何か?」
「いや……まあ大変だなぁと」
「え?」
「頑張って、応援してます」
「は?」
何だ何だ、話が見えてこないぞ?
訝しむ私をよそに白い服の霧島さんが手を叩く。
「さて、じゃあ僕達はそろそろ行くよ」
「そうだね」
黒い服の霧島さんが頷くと、その腰から黄金の光が現れ宙を漂う。少しの後、空間に穴が開き七色の光が溢れる通路が現れた。白い服の霧島さんは一歩踏み出し、振り返る。そこには笑顔が輝いていた。
「じゃあね。色々大変だったけど楽しかった!またね!」
「はい、また。会えるなら」
「またです!」
「ありがとうございました!」
霧島さんは優しく微笑むと、今度こそ前に歩み出し光の中に消えていった。それを見送っていると、背後からエンジンの起動音がした。黒い服の霧島さんがバイクに跨り、ヘルメットを被る。
「僕も行きます……ありがとうございました。おかげでCDを倒せた」
「私達の方こそです。もし何かあればまた来てください。いつでも力になります」
「力強いですね」
霧島さんは微笑み、エンジンをふかす。そして発進しようとした。
「楓さん!」
その背中を弟子クンが呼び止める。
「どうしたの?」
「あの……今度、皆でパーティーしましょう!世界を救った記念の!」
霧島さんは驚いた様な顔になり、それから笑顔になった。
「分かった、向こうの僕にも伝えとく」
「はい!……じゃあまたいつか!」
「うん。またね」
手を上げて、それから前を見て、霧島さんはバイクを走らせ通路に入っていく。通路が徐々に閉じていき、最後に小さくなった背中が目に焼き付いた。
「行っちゃったね」
「はい……」
そこまで騒がしかった訳ではないけど、やっぱり寂しいものは寂しい。でも私達の他にも仮面ライダーがいると言う事が、皆自分の世界で頑張っていると言う事実が、たまらなく嬉しい。そう思うと寂しさも紛れる様な気がした。
「あのぉー」
「うん?」
「そろそろ俺も行った方が良い感じです?」
風雅くんが所在無さげに尋ねてきた。
「いや、いても良いんだよ?」
「あはは……ああでも、そろそろ帰んないと怒られそう」
ふぅと息を吐き、風雅くんはぺこりと頭を下げる。
「改めてありがとうございました。俺の意味分かんないお願いに付き合ってもらっちゃって」
「良いんだよ。君がいてくれたから勝てた様なもんだし……それで、このクリスタルは貰っちゃって良いの?」
「勿論。真哉くんの方がちゃんと使ってくれそうだし」
弟子クンの手には黒いクリスタルが握られている。聞いた話によると、眷属達との戦いでこのクリスタルを使ったらしい。確かに問題無く使用できるのなら、手札が増えるに越した事は無い。
「分かった。大切に使う」
「うん!……楓さん、真哉くん……これからも頑張ってください」
「ありがとう、頑張るよ」
「正体とか絶対に言いませんから!」
「分かってるよ」
念押しするのが可笑しくつい笑ってしまう。
そんな風にしながら基地の階段を昇り、玄関まで来た。風雅くんはもう一度私達に向き直り、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあまたです!またいつか!」
「またね」
「うん、また」
一礼した風雅くんが扉を開け、良く晴れた空の下へ歩いて行く。少し重い音を立てて扉が閉まると、急に肩の力が抜けた。
「なんか、終わったなーって感じ」
「はい……頑張れって言われちゃいましたね」
「だね」
ふと気になって懐から四つのクリスタルを取り出す。緑、青、赤、紫。融合したクリスタルは戦いの後再び分かたれ、ディヴェルトの力で修復されていた。これならまだ街を守って、私は仮面ライダーでいられそうだ。
皆の期待、皆の想い、皆の明日。そう言うのを背負うのも、仮面ライダーの仕事。そしてそれに応えたいと私は思う。
「二人で頑張ろうね」
「……はい!」
弟子クンと笑い合うとぐぅと大きな音が鳴った。どちらのお腹からなったか分からなかったけど、顔を見合わせて同時にまた笑う。
「あーあ、お腹空いたね。何か食べに行く?」
「良いですね。ニシノ行きます?」
「あり」
他愛無い話をしながら、外食へ行くただの日常。
それが嵐の前の静けさだとしても、この時間を掴む事ができたのを、私は嬉しく思う。
「さあ、行こっか」
「はい!」
虹の光に満ちた通路を、スピードを出して駆け抜けて行く。風を切っていくこの心地良さも、今僕の中にある火の暖かさには勝てない。
最初は一人で戦おうと思ってた。一人でやれると思っていた。
でもそれは間違いで、皆がいたからこそ守る事ができて。一人ではできない事もあるんだと、改めて知った。
「やっぱ……良いなぁ」
傷つくのは僕だけで良いと思って、誰かと組むのは避けていた。同じライドエージェントでも、行った世界の人達とも。
でも、たまには。
そう言うのもまたやってみても良いかもなと、漠然と思った。
今なら、彼の言葉の意味も分かる気がする。
所々に血が滲む、傷だらけの服と肌。震える手をしっかりと握って、彼に呼び掛ける。
「CDは倒した、僕らの勝ちだ!もう大丈夫、大丈夫だから……」
「そう、ですか……」
そう呟いた彼は満足そうに微笑み、目を瞑る。
「駄目だ、駄目だ!君がいなくなったら誰がこの世界を守るんだ!?まだやるべき事がある!だから死んだら——」
「大丈夫、ですよ……」
彼は消えかかった目の光を輝かせ、最期に力強く言葉を伝えた。
「仮面ライダーは、何度だって立ち上がります、から」
自然と笑みが零れるのもそのままに、僕は走り続ける。僕を待っている人の元へ。僕を必要とする世界へ。いつか終わりが来るまで、僕は応え続ける。
だって、僕は仮面ライダーだから。
炎の燻った跡。倒壊した建造物。腐った海。昔の人間の言葉を借りるなら、正に世紀末の様相。
最早奪う物すら無い様なこの星にも、何故だかそれを自分の物にしようとする輩はいる。
「ハハハハハ!この街は全部俺達の物だ!」
生き残った人々がつつましく暮らす街に、突如として脅威が訪れる。およそ言葉を操るのが信じられない様な荒々しい異形が、覆面を付けた雑兵をぞろぞろと従え攻め入ってきたのだ。人々は怯え、逃げ惑い、命を乞う他無かった。
その時までは。
「待て!」
鋭い声が辺りに響き渡る。異形が振り向くと、そこにいたのは金色に輝く戦士だった。その凛々しい佇まいに、異形達は今までにない恐れを感じた。
「誰だ貴様は!?」
誰何された戦士は瞳を輝かせ、高らかに宣言する。
「私は……仮面ライダーだ!」