爆裂道中英雄記   作:ぽおくそてえ

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皆様お久しぶりの方はお久しぶりです、ぽおくそてえです。

オリジナル作品の始まりです。月一、あるいは二ヶ月に一回の投稿となると思います。

何卒よろしくどうぞ


第一話 英雄記、その序章

「ああ、暇だ。酒が飲みてえ」

「移動ばかりで気が滅入るのは分かりますが、まだあとしばらくは移動ですよ師匠」

「仕事じゃなけりゃ途中で放り出してるんだがなあ」

「熱意が見受けられませんよ。それでも高難度ミッション常連ですか?」

「カトレア、俺は仕事自体はきちんとこなす。長時間の移動が嫌いなだけだよ」

「ならばそれまでミッションの予習でもしててください」

「はー、生真面目な奴だな、お前も」

 

今回師匠と呼ばれるフィリーとその弟子カトレアはギルド『天使の涙』のある場所から少し離れた人口5000万の王国ハルモニア王国の中心都市グラン・フィレーンから遠く離れた漁村に依頼を受けて向かっている。通常ミッションの上にある上級ミッション、その更に上には高難度ミッションがあるが、彼、フィリー・ゲイルは今回上級ミッションとして依頼を受け、馬車や列車に揺られながら遠路はるばるやってきているのだ。途中で休憩と乗り換えを挟む為に馬車を降りたのだ。

 

「お待たせしましたフィリーさん、カトレアさん。少し休憩なさってください」

「また乗り換えか。ケツが痛えのなんの」

「辺境の島の海賊退治。そこから1日かかる程離れてる私達のギルドに依頼が来るなんて、珍しいですね」

「近くに有力なギルドが無かったか、危険度が高くて人員が出なかったか。はたまた条件面で断られたか。大体そんな感じだろ」

「依頼主は近くの漁村ですね。裕福ではない方だそうですが」

「じゃあ金回りや報酬だろうぜ。ウチは小さな子供や異民族、即ち魔族からの依頼でもクリア不可能、裏稼業の仕事と判断しなきゃ基本受けるからね」

「そうですね。あとどれくらいでしょうか?」

「ここからは1時間ほどで依頼主の元には着きます」

 

到着すれば即戦闘が起こると考えられる。フィリーはカトレアの雷光魔法には期待している。師匠フィリーの爆破魔法も高難度常連である事から強力であり、カトレアは自分自身の魔法の威力は師ほどではないと謙遜している。

 

「何を言う。俺に弟子入りする必要がある程、弱くは無かろう?」

「能力の強化というより経験を積む為、とでも言えば良いでしょうか?」

「そうか」

 

最寄りの駅から数時間、ようやっと辺境の漁村に辿り着いた。ずっと座っていた為、尻や腰を痛めているが、休む間も無かろう。快適な列車は途中までしか来ず利益が出ないし、延伸すると道中魔物に襲われるリスクも増える事からこれが限界なのだ。依頼人が待ち受けているだろうから、急いで向かう事になった。そこで待ち受けていたのは村長と思われる男性だが、面会とはいえ服が豪勢だ。

 

「わざわざこんな村にまで来ていただけるなんて、ありがたい事ですな」

「その為のギルドですから」

「近場のギルドは割ける人数や、欲しい報酬。少し離れたギルドは所属地域からの遠さなどの条件から受けていただけませんでした。お二方に来ていただき、感謝しておりますぞ」

「俺らは特に金銭などで困っちゃいません。誰かの役に立つなら、魔法も使い甲斐がありますね」

「ありがとうございます」

「(裕福って訳じゃねえのに服装が派手だな。出された料理や皿も豪華だ)」

 

少し警戒しながら詳しく説明を聞くと、海賊団が近場の島に数ヶ月前から(たむろ)していて、最初は抵抗していたものの、自分達だけでは危険と判断してギルドに依頼を通したという。ガレシア団と呼ばれる彼らはかなりの人数だそうだ。目的地は物見台から見える島だ。相手は武装しているから2人で大丈夫かと心配されたが、こういう戦いは幾度となく潜り抜けてきている。

 

「双眼鏡で覗けば物見櫓が見えますな」

「100人ほどがたむろしているとの事です」

「よし。カトレア、準備に取り掛かるぞ」

「はい」

「魔法道具を使ったり魔導剣、魔導杖を扱うだろう。注意してあたるぞ」

「そんな事もあろうかと小型魔導砲を用意しました」

「準備が良いね。船から先手で撃ち込み、牽制するぜ」

「小型舟で近くまでお連れします」

 

大人数相手なら不意打ちこそ定石だ。小型舟で島の裏側まで接近し、魔法道具を使うという寸法だ。危険な船頭役を買ってくれた人物が避難できる位置、尚且つ弾薬が届く範囲へ位置取った。敵の勘付く前に先手を打てば混乱を誘って精神的優位に立てる。

 

「あそこですね。丁度基地の裏側でしょうか」

「よし、一発撃ち込むぞ。ほれ!」

「命中しました。混乱しています」

「船頭殿、今のうちに避難を」

「カチコミじゃあ!」

「敵だ、であえー!」

「ひゃっはー!」

「いえっひー!」

「まずは手始めに。円撃烈破!」

「ぶひゃあ!」

「ぎぇあ!」

 

腕を横に広げながら回転すると、周囲360度の敵が吹っ飛んでいく。爆破魔法は距離が離れていても当てられるのだ。多少の動揺を誘えるかと思っていたが、複数人ダウンさせただけで大きな乱れは見られない。話を聞く限りボスはまだ姿を現していない。そのボスをとっ捕まえるのが今回の実質的なゴールだろう。

 

「物量で圧倒しろ!ボスには会わせるな!」

「数で攻め立てるか。背中は任せたぜ」

「わかってます。それでも油断禁物ですよ」

「理解してるさ」

「先手を打ちます。雷光の雨弾(ライトニング・レイン)!」

「あばっ!?」

「ぐぇっ!」

「隙あり!」

「甘い」

「ばはっ……」

 

フィリーとカトレア、互いに信頼しているからこそ、背を預け合える。カトレアは実力で言えば師匠並みかそれ以上あるのだ。経験さえ積めばいくらでも化ける可能性を秘めているのだ。お互いに雷光の光線や剣、爆風や爆拳で対処していく。

 

「雷帝鞭、行くわよ」

「うおっ!」

「があっ!」

「やるね。直線爆拳!」

「なんて連携力だよ!」

 

何度も同じ仕事に行っていれば自然と連携も取れていける。1人が隙を作れば、そこに追撃の攻撃を突っ込んで与えてすぐ引っ込む。互いを危険に晒す事なく、1人ずつ華麗に倒していくのだ。痺れを切らしたのか遂に魔法道具を持ち出してきた。魔法道具は魔力を持ち合わせてなくても発動できるから、国の全人口の0.02% 、1万人ほどしか居ない魔導士以外でも戦えるのだ。

 

「魔導杖だ!一列目、構えよ!」

「やはり道具使いがいるか。目ぇ瞑れ」

「はい」

「発光弾、爆裂」

「ぎぇっ!?」

「な、なんだ!」

「足元注意だ」

「うおっ!」

「べへっ!」

 

発光弾による目潰しから出来た隙を見逃さず、一気呵成に攻め立てる。20人ほど居た第一陣は次々にやられていき、遂には陥落した。それを見た小隊長が次の陣営に指示を送る。

 

「第一陣が、崩壊……?」

「なんて奴らだ……」

「第二陣、出ろ!」

「まだ居るか。魔力を温存しておけよ、全容がまだ見えねえ」

「無論です」

「待て、あんたらじゃ敵わねえよ」

「ボス!」

「おう、うちの連中がボロボロじゃねえか。随分可愛がってくれたみてえで。傷つけられた借りはあたしが返す」

「ここは私が……」

「下がってな。こいつぁ並大抵の女じゃねえ」

 

仲間の撤退を促す女傑はどうやらこの団のリーダーの様だ。溢れ出す魔力から並大抵の女魔導士ではなく、思わず唾を飲み込む。だがそれはあちらも感じている事の様で、放つ空気から実力を推し量ってきた。互いにジリジリと距離を取りながら、いつでも戦える様に拳を握る。

 

「へへっ、放つ空気でわかる。あんたは強え」

「そりゃこっちの台詞だ。だが遊んでる暇はこちらには……ない」

「(踏み出す足から爆撃を出して、直進を!)」

「おっと危ねえ」

「これを躱すか」

「当たり前だ。これでも頭領だぜ?」

「ならばこれで、どうだ?」

「おっと」

 

まず仕掛けたのはフィリーからだ。直進からのパンチ、足払い、肩での爆破と連続攻撃となる。一部は当たったが、効き目は薄そうだ。そこで今度は相手から攻め立てる。金と銀の斧を使った攻撃だ。金属の錬成と思われる魔法を操る彼女に警戒しつつ次々に躱していく。金属魔法は土属性に分類される魔法だが、弱点となる魔法はこちらには使い手が居ない。

 

「おらぁ!」

「金と銀の斧ですか?」

「切れ味抜群なんだよね、多分。これでどうだ?」

「おおう、ギリギリ……」

「ただの蹴りじゃねえぞ」

「軌跡の先で発光?」

「まさか……くっ!」

「爆光だ!」

 

爆風を纏った蹴った足の先から煌めきが起こる。これはただの蹴りではない。そう、足先からも爆破を起こす二段構えとなっているのだ。流石に危ないと判断したのか、距離を取るが、かなりの範囲を爆破した為、当たったのだ。だが、効果のほどは薄い。

 

「ダメージほぼ無し、ってか。硬化魔法と金属を扱う魔法。自信たっぷりなわけだ」

「これであちこち冒険してきてたんだよ」

「柔よく剛を制すという。絞技や関節技などは効くんだろ?」

「よく分かってるな。だが、やらせるとでも思うか?」

「だよなあ」

「師匠。援護します」

「そうかい?危険だぜ?」

「このままではお互いジリ貧ですから」

「お前が戦いたいなら良いが」

 

2対1の数的優位を活かす為、互いに前衛と後衛を交代しながら務める。銅の鞭を使ってくる敵にまずは空気を爆破せしめた。顔を逸らして鉄の槍をフィリーに向かって突きつける。片手が使えない状況に横から雷を纏った蹴りを喰らわせにかかる。

 

「おっと、見えてんだよ」

「これはどうだ?切り裂け、飛刃・爆爪斬!」

「くそ、めんどくせえ!」

「ボス、後は我々が……」

「いや、下がってろ。あたしに任せておけ」

「ボス、大変です!」

「どうした?」

「潜水艇が三艇、浮上してきたんです!大砲をわんさか積んでます!」

「あの旗は……あの村の?」

「なるほど、嵌められたか」

「どう言う事ですか」

「村長含めて、あの村全体が偽造されたものだったんだよ。俺達を戦わせて弱った所を狙い撃ちって寸法よな」

「元の村長を買収して地盤を引き継いだんだろ」

「でもどうして気づいたんです?」

「食い物も、食器も、着ている服も面会用とはいえ豪勢なもんだった。辺境の村にしては、些か豪華でね」

 

先程感じていた違和感。それはあの村の者達こそがギャングであり、衣服や食事などの豪華さは宝やみかじめ料などで得た金品から支給されていたのだろうという事。つまり本来の敵はあの村のメンツであり、彼女らは話を聞く限り味方に近い義賊なのだ。そこで手を組むべきだろうと判断し、一時休戦すべきと提案する。

 

「あんた、名前は?」

「ナンナ・ガレシア」

「そうか。俺はフィリー・ゲイル。ナンナ、この状況を打開する為に協力するぞ」

「あ?あんたらに何のメリットが?」

「あいつら、ギルドの魔導士相手に喧嘩を売ったんだ。やり返す為には仲間がいる」

「師匠、良いんですか?」

「盗賊とはいえ義賊なんだろ?後でいくらでも国軍に口利きして罪を軽減してやる」

「はっ……はっはっはっ!面白い!こんな状況で先を考え、あたしらに恩を売るとは!あんたら、共に抵抗するぞ」

「応っ!」

「まずはあそこの真ん中の船を襲う!義賊の出番だ、続け!」

「応っ!」

「俺達はあっちへ行く。ナンナ、生き残れよ」

「応ともよ」

「カトレア、行くぞ」

「はい!」

 

3隻ある船の内、右の物を狙いにいく。魔力と体力を消費しているとはいえ、まだ全力は出せる段階だ。それぞれの戦いが始まる中、ナンナ達は真ん中の船を撃沈せしめた。そんな状況下で、敵は次々に投降していく。

 

「オラオラァ、その程度かぁ!」

「暴れてるねぇ。俺達も続くぞ」

「ええ。行きます、シャイニング・ソード!」

「手刀爆砕!」

「こいつら、やりやがるぞ!」

「おやおや、我々に味方するかと思ったんですがね」

「偽村長さんよお、やってくれたね」

「気づいていたのか、対応が柔軟でしたね」

「あの段階で判断できなかったのが残念だが」

「だとしても、すぐに消えてしまうだけで結果は大して変わらなかったでしょう」

 

あの村長は仮初(かりそめ)の姿。本当はギャングのボスであり、魔導士だ。フィリーとカトレアの2人はこの男がが直々に消してみせると宣言。左右の手を振るって見せた。そうすると、どこからか突風が吹き荒び、カトレアを吹き飛ばしていく。

 

「なんですか、あの魔法」

「であっ!」

「くっ!」

「大丈夫か、2人とも?」

「大丈夫、来るな。こいつは俺らの相手だ」

 

この段階で経験だけは一人前のフィリーは友の扱う魔法と類似している事に気づき始める。再び数秒後に左手をかざすと、揺らめきが来るのが偶然ながら見えた。そして放つと同時に少しばかり左に避けた結果、肩に傷ができる程度で済んだのだ。この見えない魔法の力の正体、可能性としてはかなり絞られてくるのだ。慌てるカトレアを制し、再び前を向く。

 

「師匠、肩に傷が!」

「寄るな。互いに距離をとる」

「は、はい」

「ほう、これをその程度の傷で抑えますか」

「もしかしたら、アレかなと検討がついた」

「ほら」

「おっと」

「避けた?」

「避けれた?(さっきもそうだが、空気が少し歪んで見えたが。ジョージ曰く風魔法の……)」

「我が魔法を見抜きましたか?」

「空気、あるいは空間に作用する能力か?」

「ここまで早く答えた輩は貴方が初めてです。能力名は『空の見えざる手』、それ即ち風系の能力」

「おう、やっぱりそうか」

「ジョージさんと同じ風使い……」

「見抜いた所で連続で避けられますかな?」

「俺はな、コツを少し見つけたんだよ。普段から風使いと共闘してるんでね」

「ほう?では、やってみなさい!」

 

そう、見えない魔法の正体は風系統、即ち大気を振動させて刃に変えたのだ。ギルドの強者で友たる男ジョージと同じ魔法だから見切れた部分もある。連続で放つと公言しているボスだが、フィリーは癖を見破っている。早速攻撃を仕掛けてきた相手に避けてみせる。

 

「せい!」

「ほっ」

「でやっ」

「おっしゃ」

「被弾率が激減してる……いや、全く当たってない?」

「やるねえ。フィリー、こっちは粗方片付いたぞ」

「了解」

「くそっ……」

「(風が緩んだ。今ぞ!)」

「がっ!」

 

ほんの数秒程度の隙を見逃さず、拳を振るい、爆風でダメージを与えていく。こんな筈はない、何かの偶然ではないかと動揺する相手に一切妥協せずに攻め立てる。距離が無いと自滅しかねない空気砲を相手に徐々に距離を詰めていき、限界まで近づいて砕空破という空気を爆破させて攻撃する手を1発放った。攻撃の仕組みは知識として、経験としてあったからこそ看破できたのだ。

 

「くっ、私の魔法のクセを分かったと?」

「発動前に空間が少し歪む。経験すればそれを見抜くのも難なくできる。それに発動後5秒くらいはクールダウンとして使えないと見た」

「でも先程ほぼ同時に……」

「それも解明済みだ。同時発動できる歪みは両手の数、即ち二つまで。違うか?しかも普段から多用してて、発動すると手や腕への負担が大きいんじゃないか?」

「良き観察眼ですな。その通りです。そこまで答えられた人物はそう多くはありません」

「理屈は分かった。カトレア、行くぞ」

「は、はい!」

 

一度看破し、法則性さえ掴めてしまえば後は突破していくだけ。数多の修羅場を潜り抜けたからこそ出来うる戦い方だ。普通はこう上手くはいかない。

 

「でやぁ!」

「来た、ほいっと!」

「あれが歪みですか。落ち着けば見えますね」

「なんて奴らだ。こんな短時間で適応、順応するなんてな」

「なんか身内に風使いがいるらしいですぜ?」

「へえ?」

「ここで回避されるとは」

「今だ。かかれ」

「はい!サンダー・インパクト!」

「ぐあっ!」

「気爆掌底!」

「ごふっ……」

 

片や攻撃が見破られて当たらず、もう一方は攻め方が分かったので次々に攻撃が当たっていく。徐々にボスも弱っていき、遂にはダウンしてしまう。この程度で倒れる訳にはいかない。だが、体はもう動かない。プライドだけで体を動かそうとしたが、終幕は呆気なく訪れる。

 

「私は、この程度で……」

「いや、あんたはここまでだ」

「なっ、貴様!ほどけ!貴様も私の魔法の餌食にしてやる!」

「遂に本性を現したな」

「銀の輪の縄か。器用なもんだ」

「封魔の術式を使える奴がうちの海賊団に居てね。利用させてもらったよ」

「ボスの為なら何のそのですぜ」

「ありがとよ」

 

ボスと戦っている間に他の船の連中は捕縛されており、これで全員お縄についた。船の荷台には連絡用の道具があり、ここは社会的信憑性の比較的高いフィリーから国軍に連絡する次第となった。ナンナから話しても信用されないだろうし、弟子であるカトレアは実績がまだ少ない。自然と連絡役はフィリーが適任の様な流れになった。

 

「なあ、軍は信用してくれるか?この状況を」

「貴族が好かんからあんまり使いたくねぇが、これでも一応はナイトの称号を得ている。勤倹って訳じゃねえが『武で以て民を守る』をモットーにしていたらいつの間にか戴けてね」

「へえ、驚いたな」

「この称号を使うと、今までの実績から色々と察してくれる筈だ。称号をくださった前の国王陛下は平穏公と呼ばれるほど良きお方だった。あのお方が目指す平和な国政の為なら尽力する次第だ」

「一年半前に急逝されて、今はご令孫が跡を継がれたんだったか?」

「ああ。マシュー陛下の後継、ロイド様だな」

 

数十年にわたり国王陛下を務めた先代国王(マシュー陛下)は戦争を嫌い、必要最小限の防衛以外は起きたがらなかったという平和主義者として知られ、そんな時代に武で貴族入りしたフィリーは特殊中の特殊な例だ。

 

『もしもし?』

「ああ、ナイトのフィリー・ゲイルだ。ちょいと軍の一部を動員願いたい」

『フィリー殿!?動員とは、いかがなさいましたか?』

「村民に扮していたギャング一味を捕まえた。詳しくは後ほど伝えよう」

『了解いたしました。50名ほど遣わします』

「頼む」

 

伊達にナイトの称号を得ていない。すんなり話は進み、捕縛した者どもは連れられて行く事となった。スムーズに進んだ事に感心していたが、貴族とはいえ一番下っ端のナイトである。影響力は限定的だ。

 

「それでもですよ。叩き上げで貴族になられた方は今現在では少ないですから」

「聞く限り貴族嫌いのあんたがよく爵位を受け取ったな」

「マシュー陛下の世を武だけではなく知によって治めるというお志に触れたから。そうでもなければ貴族の端くれなんぞになるかよ。一代限りの職だろうし、いつかは返上するつもりだ」

「武断派の筆頭格にも見えるが?」

「知だけでは(おさま)らないのが今の国政だ。治安を守る為にも今回の様な仕事をこなす輩が必要さ」

「それも道理だな」

 

連絡してから一刻(2時間)弱、軍が現場に入り、状況見聞などを行なっていた。犯人が縄に繋がれていた村人(もど)きと聞いて驚きを隠せない。まさか正規の村にギャングが入り込んでいるとは思わなかったのだろう。盗品を換金し、その金で地位や戸籍などを買収していたと事情聴取で判明した。これでは気づくまい。

 

「で、今回協力してくれた奴らは海賊だが、彼らが居なければもっと苦労していた筈だ」

「そうですか。ですが、色々と状況が複雑なので彼らにも事情聴取をさせていただきます」

「それくらいなら良いだろ?」

「まあ仕方なかろう。あんたら、大人しく事情を伝えるように」

「押忍!」

「申し訳ありませんがレイン殿達も」

「おう。カトレア、悪いね」

「いえ、これも務めですから」

 

こうして今回の騒動に関して知っている事を洗いざらい話した。隠す事も無いので素直に告げた。村人に扮した者どもに関する推測だが、彼らはおそらく転々と各地を移動しながら犯罪に手を染めていたのだろうと教えられた。

 

「ご協力感謝です」

「協力してくれたとはいえ、ガレシア団(あいつら)も海賊だ。罪は免れまい」

「ええ、一部とはいえ貴族の船を襲った訳ですから。その貴族の方々も密漁などに関わっていたみたいですが」

「密漁か。その貴族達はどうなる?」

「証拠も充分、さらに証言付きですから罪には問われるかと」

「ふむ」

「師匠。終わりましたか?」

「カトレアか。終わったみたいだな」

「長々と申し訳ありません。聴取は以上となります」

「帰りますか?」

「そうだ、帰る前に一つ。ナンナに伝えておいてくれ。海賊から足を洗い、その上で職に困ってるなら俺を頼りに来いとな。後、これを……」

「なるほど、そういう意図が。かしこまりました」

「よし、帰るぞ」

「はい」

 

伝言は確かに伝えられるだろう。これで後は彼女達自身の意思に委ねられる。このまま牢獄で座して待つか、茨の道になろうとも生きていくか。与えられた選択肢は実質2つに1つだ。

 

「何故あの様な伝言を?」

「高難度ミッションに挑めるだけの実力のあるあいつを、このままにしておくのは勿体無い。国軍の一部として働くか、ギルドでの働きを以て減刑を図るか。そういった選択肢を与えたかったんだ」

「そういう事でしたか」

「後はあいつ次第だが……」

 

あれから1週間経つが、音沙汰なしである。減刑の意見書を受け入れてくれてるか分からない以上、果たしてギルドに来てくれるか分からない。カトレアが疑問に思った国側に与えた意見の一例としては部下達を国軍で、ナンナ自身は国軍かこのギルドで働く事。後は狙った貴族の船の実態を示した証拠を国側が呑む事。それでいくらか罰が軽くなる筈だというものだ。

 

「さあて。国の裁判所は正常に動いてくれてると良いんだがなあ」

「ったく、あれはそういう事かい」

「ナンナさん!」

「あたしらは無罪放免とはならなかったけどな。懲役の代わりに罰金をギルドでの報酬から出せ、だとさ。後の奴らは国軍召し抱えって形で済まされた」

「証拠を持っててくれて助かったよ。じゃなきゃ、あんな無理は通らねえ」

「借りが出来たな」

「その実力を腐らせたくなかっただけさ。受け入れてくれたマスターに感謝しな」

 

ナンナが連れられた先に居たのは魔導士ギルド『天使の涙』を統括するマスター・カリナだ。挨拶と感謝の言葉を伝えようと小さな老女の前にナンナは進み出る。

 

「はじめまして、ナンナ・ガレシアです」

「あんたがナンナかい。話には聞いてるよ、魔導士ギルド『天使の涙』へようこそ」

「ええっと、色々とありがとうございます」

「あまり堅苦しくなる必要ないさ。お互いそういうのは苦手だろう?」

「バレてたか」

「詳しくはフィリーから聞かされたよ。若くして荒くれどもをまとめ上げる、人望と才覚ある魔導士だと」

「おい、何を話した?」

「知る限りでの立場と能力。戦ってみての経験から知り得た強さ。それと共に行動してみて感じた性格。そんなところか?」

「けっ、抜け目ないな。初めから引き抜くつもりだったか?」

「有能な人材は1人でも多く居てほしい。それに、魔法を交えての感想を伝えただけさ」

「それは私も同感だね。話を聞く限り、あんたを牢屋にぶち込んでおく事ほど勿体無い事はないね」

「はあ、そうかい?買い被りだと思うけどね」

 

とりあえず立て替えておいたから、罰金の分の金を働きながら返してもらう。これがまず加入にあたっての条件の1つだ。また、フィリーのチームに加わる事、彼なら上手く共闘してくれる筈だからと言う。

 

「俺の扱いが荒いね」

「あんたが教官役に適任なんだ。何人上級ミッション挑戦者を育てた事か」

「ああ、ったく分かったよ。やりゃ良いんだろ?」

「それで良い」

「ま、こんな感じの空気のギルドさ。すぐ慣れる」

「居心地が良すぎるのは分かった」

 

フィリーと挨拶を交わした後、その弟子のカトレアと挨拶をしていく。これからは同じチームで働く以上、仲良くやっていくのが一番だからだ。これで3つの属性を操る魔導士が1つのチームに集まり、仕事も滞りなく進められそうだとフィリーは踏んでいる。

 

「改めまして。私はフィリー・ゲイルの弟子、カトレア・シャリアです」

「ナンナ・ガレシアだ。あんたもかなりの強者と見た」

「いえいえ、師匠やナンナさんほどではありませんよ」

「謙遜を。あれほどの雷鳴を轟かせる奴が生半可な実力の訳がねえ。まあ良い、これからよろしくな」

「はい!」

「明日から早速仕事に取り掛かるぞ」

「早いね。あたしは構わないけど、あんたらは良いのかい?」

「連携を取る為の訓練も兼ねてる」

「ナンナさんの金属魔法と硬化魔法、どんな力か知る為でもあります」

「了解した。そういう事ならやろうか」

「では、また明日な」




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