ぽおくそてえです
進みが遅くて申し訳ないですが、何卒……
「甲矢、乙矢!」
「ゴアッ!」
「隙あり!硬化鉄拳!」
「ブルゥ」
「当たった?ならば、雷光双掌打!」
「リュア!」
「砂剣山!」
「ウオウ!」
「くそ、今度は防がれてるぞ」
「ならこれでどうだ?背後からの
「ゴアッ!?」
「また当たった!」
背後の死角からの攻撃はコピーできなかったのか、あるいはコピー能力の対象外だったのか、原因は分からないが当てられた。ならば積極的に視認できる範囲外から狙ってみるのも手だ。そこでやはりというべきか注目を集める人と狙う側の二手に分ける事になる。そうしたら少しずつ当たる様になってきた。
「どうやらその魔法で対処できるのは視認できる範囲の攻撃の様だな」
「ウゴゴッ、知っているのか」
「喋った!」
「腕輪は反射魔法の付与だが、喋るのはこの腕輪の力では無い。我自身の……力ぞ!」
「うおっ!」
「ウハハッ、我は飛猿族の1人。人間如きに遅れを取って負けるとでも!?」
暴れ回る魔獣相手に手を焼いている。手数では圧倒出来るだろうが、怪我を避けながら戦うとなると一苦労だ。そこへフィリーの精神世界に訴えかける声が聞こえる。
『どうやら何かの気に当てられているみたいだ』
「テメエ、さっきの……」
『我は炎獣王フォルテ』
「フォルテか」
『今度こそ名が届いた様だな』
「伝説の魔物が何の用だ?」
『我が力を一部を貸し与える。先程のより強力な物を』
「何かデメリットがあるんだろ?」
『馴染むまで使った後しばらく動きにくかろう。お主の使った属性解放の延長線だ』
「あれの……」
戦いながらブツブツと呟く姿を不審に思ったのか、ナンナが声をかける。複数人で攻めてもコピー能力の影響で実力は拮抗している。時折傷を負わせるが、攻め手には欠ける。
「フィリー、さっきからブツブツと何話してんだ?」
「気にすんな。こっちの用件だ」
「そうかい?こっちはだいぶ押されてるよ」
「だな。フォルテ、力を貸してくれるんだってな?」
『我は魔王の力に対抗する者。奴は魔族の中でもおそらく魔王の配下に近しい輩。其奴を倒す為なら契約して力を貸そう、ラーズの血を継ぐ者よ』
「ラーズ、あの伝説の」
『お主の7代前で、魔王封印に関わった者だ。我の力を最後に使役できた人物』
「そうか。詳しい話は追々聞かせてもらうぜ」
『良かろう。少しだけ力を分け与える。右手に現れるのは契約の紋章、纏うのは……』
苦戦している仲間が戦っているその最前線へとその身を進める。やるべき事は一つ。この力で以って勝利へと導いてみせる事だ。少しずつ全身を赤い気迫が包んでいく。その力はー
「俺が先鋒、お前らは援護を」
「この圧迫感は一体?」
「何かキッカケでも掴んだのか?」
「ああ、今度こそまともに解放出来そうだ。はあっ!」
ー名を冠するなら、そう。『緋炎の鎧』と呼ぶべきだろうか。
かつて大英雄ラーズが魔王封印の際に使いこなしたという力の一端だ。
「これはさっきの」
「凄いオーラだね、お兄ちゃん」
「『緋炎の鎧』って言うんだそうだ」
「バハハハ、あの炎の魔獣の力か」
「テメエは俺らが追い返してやる」
強力な魔法を纏う今、フィリーは勇猛果敢に攻めてみせる。爆破も新たに身につけた炎の魔法も今までより結構強化されているのを実感している。
「緋炎砲脚!」
「ガアッ!」
「痛えっ!」
「ぐふっ!」
「相打ちか」
「ヘンリー!」
「分かってらあ!氷塊雨弾!」
「くっ、この数はコピーしきれん!」
「かかったな。蟻地獄へようこそだぜ」
「罠への誘導か」
「同時に攻めるぞ、カトレア」
「お願いしますよナンナさん」
罠の蟻地獄に嵌っている隙にカトレアとナンナの連携魔法を喰らわせる。弾丸と上空からの雷を浴びせ、出来る限りのダメージを与えるのだ。足が抜けず、魔法を使える体勢に無いのか、かなりの数が当たっている。
「グルアッ!」
「抜け出したか」
「あいつ頑丈だな。あれだけ喰らっても平然としてやがる」
「魔族は得てしてそういうもんだ」
「最後にデケェ1発をかましてやる」
「了解だよ。付加術をつけておくね」
「準備完了よ。私も行くわね?」
ここからは魔導の撃ち合いとなる。まず撃ったのはフィリーの強烈な炎の魔導から。そこに続くのは火の調べを知る者達の援護だ。
「炎技を連発しろ。火塵砲撃!」
「黒曜炎槍!」
「盛り立てようぞ。熱風乃陣じゃ」
「そこをコピーする。黒曜炎槍!」
「炎を炎で相殺なのね」
「俺の水ならどうだ?」
「おっと、消された」
コピーできる魔法は同時に1つのみ。ならば対処しやすい魔導へと誘導するのが定石となる。火には水、水には雷や氷、風の魔導といった具合なのだ。
「鉄榴弾!」
「危ねえな」
「雷鳴轟破!」
「コピー、そして発動!」
「相殺するぞい」
「あの小さき者のバフ、そして即席含めてこの連携力。中々に厄介だ」
「俺を忘れんなよ。砂漠大鮫!」
「うおっ!」
各属性複数人が操れる状況だ。じわりじわりと敵を追い込んでいく。ここで初めて連携を取るバースとユウギリとも上手くやっていけている。これは戦い慣れている人やちょくちょく人数が入れ替わる変則的なチーム編成に慣れているからだろう。
「闇刃!」
「砂鋏!」
「やるな」
「ワシももっと気張るか。水雷砲弾」
「くそっ、一度に4属性はきつい」
「ここだ。烙炎双打!」
「ぐおっ!?」
「氷絶砲!」
「がっ!(なんだ、さっきより効くぞ!)」
響くのは新たなる魔導を身につけたからだけではない。そう、皆の攻撃が通じるのはアニーの
「この、クソッタレが!」
「アニー、危ない!」
「やらせねえよ」
「なんで怪力!あの巨体を受け止めた!」
「尻尾側を持った俺もいるんだが?」
「助かったぜバース。俺だけでは止められなんだ」
「貴様ら如きに!貴様ら如きにぃ!」
「やれ、今のうちだぜ」
「お前に恨みはねえが、やらせてもらうぜ。紅龍翔撃・鉄剣!」
「ばはっ!」
空を割く赤き龍が駆け上がり、握った鉄剣で以って切り裂いてみせた。その一撃は天を駈け、敵の急所を貫いて仕留めた。動かなくなったのを見る限り、これで終いだろう。後の事は貴族や軍に対処は任せようという事になった。
「フィリーさん、ご無事ですか!」
「後の対処は任せる」
「ははっ」
「大会はどうなる?」
「流石に中止になるとの事です」
「だよなあ。はあ、体が動かせねえ」
「大丈夫かい?」
「立てねえだけだ」
フィリーは3戦を戦った上に魔獣の乱入もあって魔力と体力、精神力を大幅に消費している。疲れが溜まってその場にへたり込んでしまう。暫くしていると大会に誘ってくれたセイラが申し訳なさそうにやってきた。
「フィリーさん」
「申し訳ありませんセイラ殿。乱入者が来ようとは……その影響で大会は中止、優勝も出来ずに……」
「謝るのは私の方ですの。貴重な時間を割いて仕事を受けていただいたのに……」
「お気になさらず。で、あの魔族に関してはお任せしても?」
「こちらで調べられる事はしますわ。情報も提供します」
「お願いいたします」
「お安いご用ですわ。お任せくださいな」
「感謝の念に堪えませぬ」
「またいずれお会いする事もありましょう。貴方達、調査を始めなさい」
「ええ」
魔族の遺体はセイラ達が回収し、帰る準備を進めている。少しだけ体が動く様になってきた。会場は撤収作業で慌ただしくなっていてその合間を縫って会場を後にする魔導士も多い。
「そういえば前の魔物はどうなったよ?」
「ああ、ギリムルやレイエンか」
「そろそろ報告のあるタイミングだろうさ」
「フィリー殿。これを」
「ありがとよ。どれ……今届いた、全員集合」
「おう」
ギリムルやレイエンが罹患していた常闇の因子は各地で散見されており、少しずつ魔族の間で伝播している可能性がある。傷が出来ている魔族が多く、そこから感染した可能性が高い。また、全員が赤い蒸気を目や口、爪などから発しているとの事だ。見つかっている場所は近場が多いという。飛竜種などに伝播しにくいのか、一気に遠くまで拡大して行っている可能性は低いと思われ、離れているのは2箇所か3箇所程度との事だ。おそらくギリムル達も何処かで何者かに傷をつけられるなりして感染したのだろう。
「以上が国立研究所の見解だ」
「厄介だね」
「常闇の因子は少しずつ伝播している可能性もあると……どうすべきか」
「他ギルドや傭兵団の面々、貴族達にも伝えるべきだが、ギルドへの伝達はマスターの仕事だろう」
「貴族には師匠やヘンリーさんからお伝えいただくとして傭兵団の方はどうします?」
「兄貴を通じて知らせるつもりだ」
「兄貴?」
「お兄ちゃんのお兄ちゃん?」
「あ、ヘンリーとアニーは知らねんだったな。少し掻い摘んで説明するべ」
兄の事は2人は知らないのだ。中堅どころの傭兵団を背負う男ハリスが兄である事、ヘンリー達が加入する前にマリータが加入するきっかけとなったひと仕事を任されて10年ぶりに会った事、兄と呼んではいるが血の繋がりは無くて前団長の義父に育てられた事などを伝えた。
「ほう、傭兵団の若きリーダーか」
「すごいね、かっこいいね」
「それ聞いたら喜ぶね。それはさておき、情報が確かなら他にも感染している存在が居る」
「探索や仕事のついでで探るか」
「他のギルドなどと共に協力して事に当たるつもりだ」
「あたしらはあたしらで動くのか?」
「おそらくな。他のギルドのメンバーと出会って早々に連携が取れる保証が無いんでね。だがその内やらねばならんだろう。俺らだけで広範囲の調査をするには無理がある(ユナにもマスターを通じて依頼を通しておくか)」
渡し忘れたものがあるとセイラが持ってきたのは依頼の報酬と大会の賞金だ。かなりの金額が入っているからか、ずっしりと重い。
「フィリーさん。今回の依頼の報酬ですわ」
「かたじけないです」
「また次回、お願いしますの」
「心得ました」
「あまり無理はなさらない様に。心配される方もいらっしゃる事、お忘れなく?」
「はい、肝に銘じておきます」
「貴族の者達にはお父様から通達させてもらいますわ」
「ありがとうございます。こちらの方で各ギルドや傭兵団に伝えさせてもらいます」
「頼みました、フィリーさん」
日も傾きかけた夕暮れ時、いよいよ帰る事となった。ただの闘技大会の筈だったが、まさかの乱入事件により一悶着あった。しかし、これを超えて新たな力にも目覚めた。
「よっしゃ、帰るぞ」
「報酬は貰えた様だな」
「一部とはいえ大会の賞金が上乗せされてるからな。結構な額だよ」
「お兄ちゃん、すごい」
「へへっ。お、そうだ」
「どうしたのよ?」
「アニーは学校に行ってたのか?」
「ん〜ん、行ってないよ?おじいちゃんに読み書き算数を教えてもらってたんだ」
「じゃ、折角だ。学校に行くと良い」
「でもどうして急に?」
「本来なら仕事より学業に専念しているべき年齢だ。それに歳の近い友達作りや交流もすべきでね。今後の為になると考えている。俺が出来なかった経験でね、心配になるいわゆる親心に近いものさ」
「う、うん」
「ただ、お前が行きたくないってんなら無理強いはしないよ」
「ちょっとだけ考えさせて」
「あいよ」
闘技場の外ではバース、ユウギリとここでお別れとなる。最後に一緒に戦ってくれた事に謝意を伝えると力を間近に見られて良い経験が出来た。それだけで充分だと言われた。色々な魔法を知れて見聞が広まったのはフィリーとて同じだ。互いの今後の活躍を祈り、別れた。そして遂に夜更けにはギルドのある街に帰ってきたのだ。
「帰ってこれたか」
「疲れたんじゃないかい?あたしが何か奢ろうか?」
「え?そりゃ嬉しいが何のメリットが?」
「そういうの気にすんなって。損得勘定でいえば得なのさ。だからほれ、グダグダ言わずについてこいって」
「そうか?じゃあいただくかね」
「俺らは先に帰るぜ」
「おう、ありがとな。あ、アニー。これ鍵ね」
「今日は私が預かります。帰られるまでアニーについてます」
「そうか?そりゃ助かる」
「どうぞ気になさらず」
フィリーとナンナのやって来たのは常連の居酒屋バルボだ。早速酒とつまみを頼んで楽しんでいる。
「かーっ、酒が美味い!」
「そりゃ良かった。にしても、今回はご苦労さんだったね」
「大会の連戦後に乱入騒ぎだったからな。魔力の消耗が激しいの何の」
「それなのに魔力が最後まで続いたのには驚いたね」
「もう
「そうかい。それで、アニーを学校に行かせるって話……」
「俺は至って大真面目だ」
学校に通えてなかった2人だからこそその有り難みは良く良く理解しているつもりだ。仕事ばかりでは学べない事も多い。特に人間関係の構築は学生時代に得られる物もある。
「あたしも学校に行けなかったからね。確かに得られる事も人生を豊かにする出会いもあると思うけど……」
「ああ、本人が嫌がってんのに連れてくのも酷だ。だからどうしたものかと」
「そこなんだよねえ」
「それに7歳の途中から行かせるとなりゃ、周囲と馴染めるか不安が残る。彼女の性格を考えると尚更ね」
「その練習の一環じゃないかい?学校ってのは謂わばさ」
「まあ、そうなんだがなあ」
「あたしは荒療治だが行かせるべきだと思ってる。今までの経験から学んだ事さ」
「後は本人の意思だな」
「そうだね。そこは大事だよ」
「明日聞いてみよう」
「もし説得が必要なら呼んでくれ」
「頼めるか?」
「それもあたしの務めだろうさね」
「ありがたい。あの子の事を良く考えてくれてる。この手の話で一番頼りになる。良い姉御だね。これからも大事な話をさせてくれ、仲間として」
「お、おう(仲間かあ。もうちょい段階を進めたいなあ)」
仲間としてよりもう一歩進んだ関係になりたいが、いかんせん勇気が湧かない。はてさて、アニーが学校に通うかどうかは一旦彼女の意思を聞いてからにしようとなった。
「じゃ、これで」
「いつも世話になってる礼を返せないのが申し訳ないが」
「良いんだよ」
「金なら有り余ってるのによ。ここは俺が何か返さなきゃならんな。困り事、頼み事、出来る範囲でなら対応するよ。何かして欲しい事はあるか?」
「そうだなあ……明日買い物に付き合ってくれる?それで今回の分はお互い様って事で」
「お前がそれで良いなら、こちらとしてはお安い御用だ」
「じゃ、よろしくな。朝9時にグラン・フィレーン駅東口前に集合で」
「あいよ」
「(デートに誘ったつもりだけど、あいつ気づいてるかなあ?)」
さて翌日になって駅前にナンナが向かうと、既にフィリーが待っていた。この日はナンナの個人的な用事に連れ立ってきてもらったのだ。
「待たせたかい?」
「いんや、俺も今来た」
「そうか」
「行きたい店とかあれば寄るぞ」
「じゃあまずはあそこだね」
「了解」