少しずつお話を進めていこうと思っています
「おや、あんたらは昨日の」
「洞窟に出入りしていた敵は倒してきた。これで少し安全になるだろう」
「そうか。変な奴らが出入りしてたと街の人達も不安だったからね。まあ、気にしてない人達も一定数居たが」
「そうみたいだな」
「今から帰るのかい?」
「その前にこの街の観光だな」
「そうしようぜ」
「あたしも自分の出自を知りたいんだ」
「そうか、じゃあごゆっくり」
「私達は宿を取ってくる。また後でここの神社とやらにね」
「おう」
ヤマタイには中央部には無い独自な文化が根差している。居酒屋の本場でもあるし、食器などにも違いが見られる。家も形が違うし、飲み物でも緑茶や
「へえ、こんな家の形してんだな」
「それぞれの気候に適した住宅になる。そういう理由でこんな感じらしいぜ」
「ふむふむ、なるほど」
「確かこの地域では茶を嗜み、淹れる作法などを磨く『茶道』なる文化も存在するんだと。その為の部屋も有るとか」
「それは興味深い」
「さてと、俺はお茶やら地元名産の食器やら土産物でも買っていくか。ナンナはどうする?」
「あたしはもう暫く街を見て回るよ」
「そうか。じゃあまた後で」
神社に喫茶店、立ち食い蕎麦屋、たこ焼きの出店。自分の出自と関係のあるだろうこの街の平穏な姿を見れば、本来ならこの街を自分が統治して導いていたのだろうと考えてしまう。だが、今はその資格は無い。
「で、最後はここ……これが公子の家だった場所、か」
「おや?ここに興味がお有りですかな?」
「ん?ああ、ちょっと縁があって。気になったというか」
「ふむふむ。確かにここは元公子の邸宅でして、250年近く前の魔王討伐の際に侯爵となられた戦乙女アリシア様がここから出兵なさったのです。その時からこのお住まいにいらっしゃったとか。おや?その紋章は、アリシア様と同じ物ですか?」
「一応あたしはその戦乙女の末裔らしい」
「も、もしかして噂のナンナさんですかね?」
「あたしを知ってるのか?」
「ええ、もちろんです」
22年ほど前にナンナの実の母親が病没、その数ヶ月後に父親が戦死したのだそうだ。その際に義賊だが信頼できる人物に預けたと。それが義理の父、義賊の頭だ。実の親はとある罪で捕まった義父と出会い、そこで信頼関係を築いたのだとか。
「そうか、それが
「詳しい事は何も知らないのですかね?」
「知らないも同然だね」
「ふうむ」
「お?ナンナ、ここで何してんだ?」
「公子邸か」
「こんな所にこんな場所があろうとは」
「フィリー、ジョージ。ヘンリーも」
「この方達は?」
チームの男三人衆だ。その中ではフィリーとジョージは既に力を解放しており、それぞれ違う紋章を持っている。そして女性陣では現在唯一の紋章持ちのナンナに話しかけたこの男性は、この街の歴史を研究しているとの事で、少しばかり知っている事を伝えてくれていたのだ。
「ナイトの炸裂弾フィリー殿と公爵家の
「俺らなんて1ギルドで噂にされてる程度。まだまだ上には上がいるんです」
「俺らも彼女と同じ紋章持ちでしてね。俺は緋炎、こいつは翠風。で、ナンナは金土の紋章です」
「俺ぁまだ目覚めてねえがな」
「ほほう、ジークリードとフォルテの力とな。伝承の存在だと思ってましたが……」
「やけに詳しいですな」
「私は考古学を少しばかり学んでおりまして。資料が少ない故、行き詰まってますが」
「考古学か。それよか、この邸宅の主人についてでしたか」
「おっと、そうでしたな」
この家に住んでいたリショウ家の主人だった御母堂は土魔法のエキスパートであり、ナンナと同じ属性である。その紋章は、やはりそういう事であったのだ。この家系の女性の直系は代々地属性の使い手が多いものであり、父親はナンナには無い火の魔法を主に使われていたという。ナンナには火の才能は無かったみたいだが、こういう手合いの話は魔法の遺伝ではよく有る話であり、得意な系統が偏るなんて事はザラだ。この地方の領主は代々女性が継いでおり、本来ならナンナが次代を担っていた筈だと言う。
「この地方、旧サクラサカ公国ではフォクセーヌを深く信仰していまして」
「そうなんだ」
「ええ。貴女の本来の一族、リショウ家は代々その力を拝借していました。丁度貴女の様に」
「……お頭が、義父が言ってた。あたしの金属はただの金属では無いと。だが、真相は伝えてくれなくてさ」
「知らずに育ったので無理はありません。そうですな、あらゆる鉱物を操るのは本来数十年数百年かかる故に扱える者が現れるのは極めて稀。稀有な能力です。それだけは確かですぞ」
「そうか(炎の力を操るフィリーに惹かれたのも何かの縁かねえ)」
「これだけは覚えていてくだされ。
「今のあたしがあるのは海賊時代の野郎どもと今の仲間あってこそ。しっかり分かってるつもりさ」
「ご立派に育ちましたな」
自分のルーツや過去の事を知れた。それだけでこの場所に来た甲斐があったというものだ。本来の一族リショウ家と魔導の継承のルーツ、親と義父の繋がりなどだ。特に母親と同じ土属性であると聞き、家族との繋がりを特に感じられて嬉しかった。
「来て良かったよ」
「リショウ家。確かに少し前までそんな家系があったな」
「国の貴族に関する蔵書にも記されてた優秀な家系だったとか」
「流石貴族ともなればそこら辺に詳しいな」
「サクラサカ公国の公子一族は吸収合併されなければ王族や公爵家に匹敵するレベルだった筈だぜ」
「ソンゴ王国の王もそうだってさ。今は子爵家に収まってるな」
「戦争で荒廃するのを避ける為に、列侯に封ぜられるのを甘んじて受け入れたとか」
「ジャックス陛下の東方遠征か」
「265年近く前の東方遠征に限らず抗った地域の一部はそりゃあもう復興するのが大変だったってさ。戦力差を痛感して即刻降伏したらしい」
この
「これがフォクセーヌを祀る
「立派なもんだな。綺麗に整備されてる。今でも信仰を集めてる証かな」
「この地方発祥の信仰形式だな、神社は」
「宿見つかったよ」
「流石に7人ともなると大変だった」
「あそこの宿です」
「丁度いい所に来たな」
「さ、一泊して帰るわよ」
チームの皆にここで聞いた話を伝えた。領主一族の末裔であり、義賊の義父と親は接点があった事。フォクセーヌの力を引き出した戦乙女アリシア以来、久しぶりに力を引き出した人物である事などだ。
「へえ、この街の領主たる貴族の娘か」
「何か危険を察知して安全な所に逃したのかもな」
「母さん達はあたしが産まれて少しして亡くなっているらしい。こうは言いたくないが、死期を悟ってたのかもしれないね」
「で、何処で義賊の長と知り合ったんだ?」
「確かに。普通は接点の無い筈ですが」
「昔捕まった時に減刑の嘆願を国軍にしてくれた人が居たってさ。詳しく聞いたらあたしと似た理由で、この地方を治める人にって」
「なるほどなあ」
「俺と少し気が合いそうだ」
「性格は聞いた話だとだいぶ違いそうだけど」
「自由奔放な領地持ちはそうは居ねえよ。な、フィリー?」
「ああ。ヘンリーの言う通り、俺が治めてたら民が困るだろうぜ」
「そうか?案外良い治世になるかもよ?」
「あたしはジョージに賛成だね」
「お兄ちゃんは皆の為に働いてるもん」
「ははは、褒めても良い飯しか出んぞ?」
宿に荷物を置いてやってきたのはこの地域特有の店舗で居酒屋バルボの基となった形態、居酒屋だ。本場の店の前には赤提灯が置かれ、狸の置物まである。
「ここが本場の居酒屋か」
「居酒屋バルボはこれを真似してんだったな」
「採れる食材もだいぶ違うだろうがね」
「とりあえず入ろう。前に食べたヤキトリとやらをまた食いたいな」
「らっしゃーせー!7名様っすね?」
「ああ」
「じゃ、奥の座敷へどうぞ!靴脱いで上がってください!」
「了解」
案内された座敷の奥は窓が無くて開放感があり、テラスの様になっていた。そこの先には川が流れているのが見えており、外の風が心地よく吹き込んでいる。
「おお、これが座敷か。裏に川が見えるぜ」
「バルボにはこんな席は無かったぞ」
「良い感じの店構えだな」
「本場の米酒を呑むか。ヤキトリを1人あたり4、5本かな」
「このお刺身の盛り合わせってやつも頼もう」
「ふろふき大根とか揚げ出し豆腐も気になるわね」
「里芋の煮っ転がしってのも美味しそうですね」
「魚料理に山菜も豊富と来た。これらも頼もうぜ」
「お鍋も頼もうよ。この人数だし」
この地方特有の料理は中央ではあまり見られない物が多い。どれもこれも新鮮な海の幸や山の幸を利用していて、美味しく戴けている。特に鍋料理は寒くなり始めているこの季節にピッタリだ。
「ん〜、美味しいです!」
「新鮮だね」
「この地方は国の東端にあたり、海の幸に山の幸が豊富だからな」
「食料が豊富だと、独自の文化が花開きやすいのかね」
「国を維持するには衣食住が地域内で成り立ちやすい方が良い。それに、国は水の豊富な地域に作られやすいからな」
「そりゃそうだな。生きる為にはそうなりやすいか」
「水上輸送の為とも聞くわね」
街は水の力を受けて発展する事が多く、食べ物や水運、飲料水の類で使う事が多いからなのだ。砂漠地帯でもオアシスの近くに町が出来る事が多い。さて、そんな水と共に暮らすヤマタイで美味しく食事と酒を楽しみ、気付けば2時間近く飲み食いをしてた。
「ああ、食った食った」
「ここは俺が払おう。明日ギルドに帰ったら六芒星の事の報告だな」
「2つの星が散ったとね」
「同時に戦うと厄介だとも」
「他のチームが遭遇してなきゃ良いけどよ」
「高難度常連3人組、ギルドの三傑揃い踏みですら苦戦するとなると、他のチームでは厳しいかもしれませんね」
「まあ、同時に当たらなければどうにかなるかもな」
ここで宿に入り、男女で別れる。男3人は少しばかり晩酌を楽しんで、少し呑んでから2人はベッドに入った。フィリーは1人で月を見上げながら晩酌の続きを楽しんでいた。だが、その表情は険しく、悩みの種があって剣呑とした雰囲気だ。それも当たり前で、戦った六芒星の大半の事が頭をよぎるのだ。
「……」
「おう」
「月を見上げてどうしたんだ?」
「寝てたんじゃねえのか?ジョージ、ヘンリー」
「なかなか寝付けなくってさ」
「そうか……」
「悩みの種、6つの星の事か?」
「ああ」
「やっぱりそうか。話が真実であれば、残るは4つの属性だな」
「火、水、雷光に闇だろうぜ」
「聞く限りでは聖属性は居ないのかもな」
「これからが本番か」
「奴らの背後にいる女とやらが何者なのか、調べる必要がありそうだ」
「ワルツとやらもな」
ここで悩んでても仕方ない。一旦寝てギルドに帰ってから指示を仰ぐべきだろう。翌日起きてすぐ帰るべきだ。晩酌はここまでにしてベッドへと向かう。そして翌日……。
「おおし、帰るか」
「魔力が多少回復したとはいえ、まだ全快じゃない」
「二、三日は仕事も難しいですかね」
「そうだな」
「ようやっとマスターに肩代わりしてもらった罰則金を払い終えたんだ。今からは貯金を増やしたい時期なんだがなあ」
「体調崩して長期離脱、なんてのはリーダーとしちゃ避けたいんでね」
「そうだよう。私の仕事を増やさないでね?」
「ああ、そうだよなあ」
全員無事に帰れる事に安堵しつつ、帰りの列車に乗ってグラン・フィレーン駅で乗り換えてギルドのある街まで帰ってこれた。
「ただいま戻った」
「おや、おかえりなさい」
「少し良いかい、マスター」
「火急の用みたいだね」
「悪いね。では、手短に」
敵の幹部と目される六芒星という存在が2人現れた事。彼らがここ最近で活動を活発にしている可能性が高い事。目的は世の混乱と魔王の封印の解除と復活。現在の推測ではそうであろうという事だ。
「ふむ、六芒星が本格的に動き始めてるみたいだね」
「あの大魔王カリア・ハルトラーの子孫と接点がありそうだ。そいつが魔王の復活を狙っててもおかしくねえ」
「しかし、封印の楔が何処にあるのか、我々に調べる手立てが殆どない」
「七英傑、カリア・ハルトラーを封印した者達の故郷を訪ねれば何か分かるかもしれん」
「自らの一族や縁者に監視を担わせてたと?」
「可能性はあると思うぜ?」
「そうだねえ」
「リショウ家の邸宅にも秘密がありそうだ」
マスターに事情を伝え、チームのメンバーにも推測に基づく予想を伝えた。各地に暮らす七英傑の末裔や関連する故郷に封印が施されている可能性が高い事だ。そこで、まず手始めに各々の親や親族を訪ねる事にすべきだとも。
「……って事だ」
「確かに可能性はあるね」
「詳しい事は親父達に聞いてくるよ」
「俺も傭兵団や兄貴に何か知らねえか訊ねてみる」
「あたし達はリショウ家をもう一度訪ねてみるよ」
「任せた」
「じゃ、情報が集まり次第ここに集合な。連絡はマメに取り合おう」
「OK」
まずフィリーが訪れたのは義兄ハリスの率いるコバルト傭兵団の元だ。兄なら少しばかりであろうとも情報を持ち合わせているだろう。本来の父では無いが、前団長から何か聞いているかもしれないという点から情報を聞きにきたのだ。こちらの持ち合わせている情報を伝えて、互いに情報交換をする。
「おう、兄貴」
「フィリー。詳しく聞かせてくれないか?」
「実はこの前魔王傘下の六芒星という敵に遭遇してな。で、そいつらが魔王の封印の解除を狙ってる可能性があるんだ。そこで封印に関わった英雄達の足跡を辿ろうと思ってたんだが、俺は本来の家族を知らねえ。だから兄貴に色々と聞きに来たんだ」
「うーむ、お前の家系は詳しく知らねえから大した情報は伝えられんぞ?」
「何でも良い。俺の家系に関わる情報なら何でも聞く」
「分かった。俺の知ってる範囲で答えよう」
親父曰くフィリーの血の繋がったスティア家は辺境伯だったと聞く。グリニエの近くを治めてたらしい。スティア家に関しては少ししか聞いておらず、ゲイル家は親父の家系だったとここで気づいた。
「そういう事。でだ、お前はスティア家の本家当主の血を色濃く受け継いでいるんだと」
「行ってみるとしたらそっちの方か」
「あまり伝えられなくて申し訳ないね」
「いや、それが分かれば充分さ。悪いね、突然来てこんな事頼んで」
「兄弟の頼みで応えられる範囲なら協力するさ」
目指すべき場所はグリニエと判明したのでマスターに連絡を入れて移動する事にした。グリニエの辺境伯ともなればそれなりの家系ではあるが、まさか親も貴族だとは思いもよらなかった。魔導が親の血筋によるものの可能性が高まった。
「マスター、グリニエに行ってくる」
『いってらっしゃい。フィリー、何か分かったのかい?』
「本来の家系が判明したが、諸々の情報はこれからだな」
『そうか』
「じゃ、また数日後」
『無茶しない様にね』
「さあてと、グリニエか。あそこは少し遠いからなあ」