爆裂道中英雄記   作:ぽおくそてえ

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どうもです、ぽおくそてえです

第二話、投稿です。だいたいこんなペースになろうかと思いますが、よろしくどうぞ。

あと、過去作も読んでいただけて感謝感激雨霰でございます。


第二話 3人での初仕事

「フィリー、カトレア、待たせたか」

「来たね」

「お待ちしてましたよ」

「早いね2人とも」

「いやなに、暇だったから早めに来ただけさ」

「そうか?それよか、今日はどんな仕事へ?」

「いきなり高難度ミッションはキツかろう。様子見を兼ねて上級ミッションに挑む」

「緊急度合いと難易度がそれなりに高いモノ、だったか?」

「基本はそうですね。数は限られますが、高難度ミッションは超緊急の場合が多いですし、一歩間違えば死ぬ可能性があります」

「それとは逆に通常ミッションは数こそ多い。しかし危険度は低いし、受けられる人数も多いから消化できてる」

「そういう事か」

 

難易度が上がるにつれて報酬は当然ながら良くなっていく。だが、難しくなればなるほど数が減っていき、場合によっては他のギルドとの合同ミッションになる場合もある。高難度ミッションでは以前にも何度かこういったケースがあり、報酬も折半だった。今回は中間の難易度にあたる上級ミッションに3人で挑む。その中でカトレアが1つの依頼書が気になり、手に取ってみた。

 

「これは何でしょう?」

「『紫炎』と『紅水』が依頼人?誰だ?」

「ああ、2人とも知らねえのは仕方ねえよ。貴族の双子のご息女達だからな」

 

フィリーより遥かに上の立場、ブルヴィエ伯爵家の出身だ。確か姉が青紫の火で妹が赤い水の魔法の使い手だったと記憶している。通り名からしてそれなりの力はありそうだが、多くの貴族の子供は体裁は好むが自らの手を汚したくはない事も珍しくない。こういう荒事はギルドの者が行い、その手柄の一部は紹介できた自分達にある、なんて寸法なのだ。

 

「良く聞くよ、そういう手合の話は」

「気に食わんね」

「それより父親の名前ではなく、自分達で依頼している。何かあったか?」

「行ってみなければ分かりませんね」

「行こうぜ」

「伯爵殿の事が気がかりだ。そうしよう」

 

今回はオースティン・ブルヴィエ伯爵による直接の依頼では無い。間接的に依頼するなら何かしら分かるサインを出す筈だが、それすら無い。何かきな臭い依頼だが、貴族からの緊急を要する依頼なのだろう。だが、それなら高難度ミッションになっててもおかしくないのに。ここら辺が引っ掛かるが、行かない事には事態は分からないからとりあえず受けてみる事にした。近場の駅までたどり着くと、まさかお迎えが来るなんて、思わなかった。益々怪しさが増してくる。本当にブルヴィエ伯爵家の依頼なのか?その名を騙る者が依頼したのではないか?色々と邪推してしまうが依頼を受けた以上、依頼人の場所には向かわねばならない。

 

「不気味だね。こういう時は自分の足で来いって感じだと思ってたが」

「確かに。いくら俺が貴族の端くれとはいえ立場が違いすぎる。それに領民を守るプレッシャーと自負心を併せ持つから、プライドが高いのが多い」

「そういうモノなのでしょうか?」

「ああ。男爵以上は土地を持ち、国の領土を代理統治をする立場にある。まあ国の直轄地っていう例外もあるが」

「だから土地も民も抱えてねえ、身分の下回るあたしらを丁重に扱うのは珍しいと?」

「そういう事。余程の事情があると見た」

 

馬車に揺られる事1時間ほど、やってきたのは大きな館だ。警備隊に門の先で忙しなく動く庭師と思われる人々が居る。この前の様な事でなければおそらく間違いないだろう。馬車は門前で止まり、そこには執事長と思われる人物が待ち受けていた。

 

「こちらがお住まいです。では、これにて」

「依頼を受けられた方ですか?」

「この通り」

「確かにナイトの紋章を確認いたしました。いらした事を連絡いたします」

「頼みます」

「流石にでかいな」

「貴族の邸宅に入るなんて久しぶりです。緊張してきたかも」

「大丈夫だろ」

「お入りくださいませ。お父様ではなく、ご息女のユナ様とレナ様のご依頼でしたか」

「その様で。では、失礼します」

 

連絡をとって中へと案内される。3人が入った館は普段の邸宅とは規模が違うし、埃一つ落ちてない程に綺麗に手入れされている。数分間案内され、通されたのは客間だ。そこには2人の少女が待ち受けており、紅茶に口をつけていた。来るのが遅いと少し不満げな心持ちか、見かけた瞬間顔を少し歪めた。

 

「あら、いらしましたわ。待たせるなんて、随分と度胸のあるお方ですのね」

「失礼しました。なにぶん、こちらにも事情がございまして」

「そんな事は正直どうでもよろしいですの。早速依頼の話をしますわ」

「かしこまりました(随分と傲慢な奴らだ。これだから好かねえんだよ)」

「今回の仕事はとあるモンスターの討伐ですわよ」

「その対象は?」

「氷魔獣レイエン」

「レイエンか。ふむ」

「知っているんですか、師匠?」

「まあな」

 

極寒の環境に身を置く氷海の悪魔と噂され、何人も襲われて怪我をしたり、命を奪われた者も居るほどだ。場所はリオレン氷山のある山系の国境付近だ。あそこはレイエンの好む場所である。目的はそこにある拠点だ。

 

「確か国の北側の防衛拠点がありますね?その安全確保の為、そして通商などの行路を確保する為ですな」

「なかなかに理解が早いですわね」

「しかし、何故?」

「軍用基地がある。それだけで充分でしょう?さ、向かいなさい」

「師匠……」

「フィリー」

「……事情を知らずに向かい、危険な行為をするほど俺もアホじゃない。そこを話されないのであれば、お断りいたします」

「何ですって!?」

 

軍の基地なら本来は国、或いは近場の軍基地の者が援護に向かうべきだし、軍縮の時代とはいえ最低限の防衛兵器は揃えている筈だ。態々(わざわざ)ギルドの1チームの出しゃばる場面ではなかろう。それに、仕事をする上での情報が不足していては仕事の危険度が跳ね上がるケースも多々あるのだ。だからこそ少しでも情報を提供しないなら拒否するまでだ。

 

「貴方、何を言っているのか分かっていますの!?」

「ええ、重々承知の上です。俺1人でなら対処法は幾らでもあるのでそれで構わない。しかし、今は抱えてるモノがありますんでね。彼女達を危険に晒す訳にはいかないんです。情報次第で取れる手立ても変わってきます」

「貴方に伝えるのはこれで十分では?貴族を甘く見ないことですの」

「良いんですかい?依頼を破棄すれば困るのはそちらですぜ?」

「この!」

「貴族が端くれとはいえ貴族に手を挙げたとなれば(ただ)では済みませんぞ!」

「そこまでだ、ユナ、レナ。フィリー君も落ち着きたまえ」

「お父様!」

「依頼を請け負ってくれた3人に失礼だぞ。元気そうだね」

「オースティン殿、お久しぶりでございます。仲間の手前、少々(たかぶ)っておりました。大変失礼しました」

「それはこちらの台詞だよ。娘達が失礼した」

「とんでもございません」

「私から事情を話そう。それで良いかね?」

「はい」

 

そこからオースティンが淡々と今回の依頼の経緯を説明した。今回の依頼の地は軍事基地の近くである。まさか娘達が勝手に依頼を出すとは思わなかったのだろう、少し呆れていた。あそこには指揮を取っている国王陛下の大叔父、先王の弟君がいる。その配下には娘達の婚約者もいる。彼ら含めて軍の者達に何かあれば一大事、だからこそ依頼したのだろう。相手は冬猛虎とも称されるレイエンだ。そこで実力ある者を呼び、軍と共に事に当たらせようとしたのだろうとも。

 

「左様でしたか。軍で片付けられない案件とも思えませんが……かしこまりました、承りましょうぞ」

「良いのかい?リーダーのあんたがそういうなら良いけど」

「事情を知って行かないのは不義理。行くぞ」

「はい」

「ではオースティン殿、また後ほど」

「任せたよ……娘達よ。彼は仲間、そして無垢なる民達の為に命を張る勇敢なる戦士。生き様をとくと見なさい」

「は、はい」

 

一度国の中心街で交通の要衝たるグラン・フィレーン駅まで戻った3人は北方に位置するリオレン氷山方面へと向かう列車が無いか探す次第となったが、一般車では二、三度乗り換えなければならない。普段通りの方法で北方に向かうとなると時間がかかる。だが、一部の人間しか使わない軍用列車が整備されてる。それで行く事になった。

 

「ところでレイエンってどんなモンスターなんですか?」

氷魔獣(レイエン)、別名冬猛虎は凶暴だ。氷と冷気を司ってて、リオレン氷山はあいつの狩場だ。あいつに襲われた魔物の遺体が沢山あるし、人間も手こずるから基本避けてる」

「そんな奴を相手にすんのか」

「危険だが、国軍がやられるのだけは避けねばなるまい」

「火炎瓶とか使います?」

「考慮する価値のある攻撃手段だな。やってみよう」

 

相手の弱点はおそらく熱や炎の類だ。狙うなら、手段を増やしておくのは常套手段だろう。駅に着く前にカトレアが準備しておいてくれた物と、あちらにあるであろう兵器を組み合わせれば取れる手段の質が格段に良くなる。そうこうしている内に目的地に近い駅へと辿り着いた。そこには先王弟率いる軍の精鋭が整然と並び、待ち構えていた。

 

「ブルヴィエ伯の依頼を受けた魔道士達か。私は先王弟のエーティエだ」

「お待たせして申し訳ありません。フィリー・ゲイルと申します」

「何、構わんよ。事情は聞いている、いささか急な依頼であっただろう?」

「ええ、まあ」

「あの小娘どもに振り回される立場を考えるとな。まったく、人の事を何と心得るか」

「彼女達も悪気はないのでしょうが……」

「そうだとしたら、余計にタチが悪いね。私は部下に平民を多く持つ者。同じ命として、なるべく分け隔てなく接しているつもりだ。兄の平和路線は理想論だ。理想だけでは守れぬ物もあろう。だが、そんな理想を掲げられぬ世の中は如何なものか」

「そう思っていただけると民も幸いでございます」

「私や貴殿の様に力を持つ者は、悪戯にそれを振りかざしてはいかん。何かを守る為に使わねばならん」

「心得ております」

「流石は兄に認められた魔導士だ」

 

穏健主義者として知られる先王を長く見守ってきただけあって、彼の思想を守る為の力の在り方を模索して、部下に徹底させている程だ。フィリーも同様に守る為の力の使い方を探る同士と認めたのだ。さて、いつまでも立ち話をしている場合ではない。敵となるレイエンについて探る事となった。レイエンはこの氷山および付近の氷海で上位に位置するモンスターである。

 

「エーティエ様、奴は氷海から氷山に続く道に構えているとの事であります」

「そうか。拠点の兵器に近づければ対処は出来よう。準備を進めよ」

「フィリー殿と共にレイエンを引きつけるのは如何でございましょう?」

「その大役、頼めるかね?」

「喜んで。カトレア、ナンナ、ここに残れ」

「無事に帰ってこいよ」

「無論だ」

「では第一偵察隊と共に行くと良い」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。ああそうだ、気軽にタメ口で構いませんよ」

「それはお互い様だね。俺らは平民が多いからさ」

「そうかい」

 

偵察の部隊としてレイエンの様子を見に、そしてどんな攻撃なら効きそうなのか探りを入れに向かう。誘導にあたるこの数名のチームは全員平民だ。エーティエの部隊には貴族が十数名程居るが、それ以外の数十名は農民や商人の出身である。だが、この部隊に参入しているという事は荒事に慣れているという事だ。移動する事10分、目的の魔獣に出くわした。

 

「見つけた」

「あれが……」

「いつもより冷えるな」

「レイエンの発する冷気だ。火炎瓶を使うぞ」

「炎の魔導弾と魔導砲も念の為に持ってきてる」

「助かる。だが、俺達の目的はあくまでも誘導だ。討伐できればそれに越した事はないが」

「逃げる準備は出来たか?」

「いつでも行けるぜ」

「仕掛けたらすぐ戻るぞ」

「おう」

 

あくまでも目的は誘導。火炎瓶をぶつけてみせ、こちらに注意が向く様に仕向けてみる。気づく前に少しでも離れて逃げられる様にしておく。その前に追撃する。ここから炎の魔弾で注意を更にこちらに向けさせる。

 

「命中確認!」

「……勘づいたみたいだな」

「逃げろ!」

「グオオッ!」

「雪上移動車に乗り込め!」

「思ったより速いな。水を得た魚のようだ」

「追いつかれねえか?」

「爆風で牽制しつつスピードを少しだけ出す。はあっ!」

「ガアッ!」

「成功だな。このまま誘導するぞ」

「少し距離が取れて良かったぜ」

 

途中で爆風によって何度か距離を取るが、やはり動き慣れている氷上では相手の方が有利だ。一歩、また一歩と距離を詰めてくる。このまま追いつかれるか、先に陣地の門に到達するか。ナンナ達をヒヤヒヤさせていたみたいだが、なんとか城門近くまで辿り着いた。

 

「上手く誘導できているみたいですね」

「壁の内側に入ったら門扉を閉じろ」

「はっ!」

「入りました!閉じます!」

「グギャア!」

「あいつらも危ない事するね。カトレア、あたしの避雷針に対して雷だ」

「はい。でやあ!」

「追撃する。大砲を放て!」

「放てぇ!」

「ゴォウ!」

「避けるか」

「終わらねえよ、巨大鉄槌!」

「グルゥ」

「凍らせて砕いた!?」

「あいつの魔法だ」

 

氷と冷気を得意とするレイエンは、触れた物を瞬時に凍らせて砕く事も可能なのだ。ならば手数を増やして凍結が間に合わないレベルで攻め立てるしかない。フィリー達が雪上移動車を降り、城門内の階段を駆け上がってやってくるまで数分間、押し切ろうとする。

 

「どうなった?」

「師匠、それがダメージがあまり……」

「大砲が数発当たったが、効いているのか不明だな」

「エーティエ様」

「あれを使う」

「あれ?」

「対魔獣用決戦兵器だ。だが、あいつを守る硬い氷に上手く効くかどうか……」

「なら、あたしの硬化魔法を付加しておきますか?」

「頼めるかね?」

「はい」

 

金属魔法の延長として触れた物、特に金属製の物を更に硬化させる事が可能だ。一旦門の内側にある決戦兵器に向かうとそこには大きな槍が鎮座していた。これで外側からうち貫くつもりであろう。硬い氷を貫通させるとなるとただの鉄では効果は無いだろうから、それを強化・錬成するのだ。

 

「これが兵器か。デカいな」

「行けるか?」

「あたしを誰だと思ってる。やってやんよ」

「お、やる気だね」

「茶化すな」

「悪い」

「邪魔するなよ……はあっ!」

「鋼になったな」

「硬化魔法、それに鋼魔法を付加しておいた。これだけ硬けりゃ貫けるだろ」

「準備ができたみたいだね。もうすぐ発射するよ」

「おう。俺達は上に戻るぞ」

 

強化された兵器の準備の為に、門の内側から一部が外側へ移動してきた。ここに誘導して攻撃すればいくら硬い氷を纏っていてもひとたまりも無かろう。準備完了、後は避難すればOKだ。避難し始めた事に気づいたレイエンは突貫を仕掛けてくるが、城門から射撃を行ない、少しでも時間を稼ぐ。

 

「全員壁の上に避難完了であります」

「来たら放つ。拘束弾の準備は出来てるか?」

「いつでも行けます」

「ゴアアッ!」

「拘束弾、発射!」

「ボアッ!」

「成功です」

「よし、放てぇ!」

 

====

 

「討伐成功だな」

「皆様のお陰でどうにか」

「こいつは……」

「緋色の毛?」

「通常種には本来無い筈の代物ですね」

「では亜種や特異種の類だと?」

「可能性はあります」

「詳しく調べよう。中央研究所に送る」

「お願いします」

「亜種になりかけだとすると、耐性が変化していた可能性もあるな」

「そうですね。後は研究所に任せましょう」

「報酬は依頼主から受け取ってくれたまえ」

 

少し不気味なレイエンの緋色の毛からは、何かきな臭い物を感じ取った。もしかしたら氷以外の能力に目覚めていた可能性がある。しかし、赤毛のレイエンは亜種含めて聞いた事が無い。他の地域に住む亜種は青空に似た色をしている筈である。だが、ここで議論していても埒があかないから、今後の調査は専門機関に任せるべきだろうという結論に至った。これから帰り支度をし、チームは帰路につく。

 

「ああ、お疲れ様だ」

「上手く連携してたみたいだな」

「お陰様で順調でした」

「あたしの投げた避雷針に上手く電流を流してくれてね」

「戦い慣れてます。流石でした」

「そうか。とりあえず依頼主の所に行くぞ」

 

先王弟(エーティエ)達に別れを告げ、依頼主の所まで軍用列車に乗り込んで戻っていく。結局婚約者が誰だったのか不明のままだが、それは些細な事だ。皆を守って帰れるのが主目的だ。再び馬車に揺られながら館まで行き、討伐完了の旨を伝えた結果、かなり嬉しそうな表情をオースティンは浮かべており、娘2人も安堵の表情をしている。

 

「おお、無事に帰ってきたか」

「名ばかりの称号ではないのですわね」

「これ、ユナ」

「良いんすよ、俺は武力での成り上がりですんで軽蔑されるのは慣れたもんです。これでエーティエ様、そして婚約者とやらも無事でしょう」

「感謝するよ。これは報酬だ」

「いただきます。あ、そうだ。一つお伝えしておこうかと」

「何かね?」

「本来居ないはずの特異種や亜種の可能性のあるモンスターが出現したと?」

「掻い摘んで言えばそういう事です」

「研究所に送ったというのはそういう理由からか」

「あれが完全な亜種などだったら、生態系に大きな影響を与えていた可能性があります。無闇矢鱈(むやみやたら)に狩るのは好みませんが、今回は狩って正解でした」

「正しい判断だったね」

「特異種や亜種は時折出現し、居場所や餌の変化などから耐性の変化が見受けられる場合もあります。氷山から移動する可能性もありました」

「そうとなれば被害が拡大していた事もあったかもね。国の方には私から報告しておくよ」

「お願いいたします」

 

オースティン伯爵の治める街で一泊してから帰る。今から帰ると最終列車を逃して日を跨ぎそうだったし、もう夜の(とばり)が降りかけているからだ。カトレアが宿を探してくると伝え、2人は待つ様にと駆け出す。フィリーは単独部屋、女性2人が同じ部屋にする様にと伝えておいた。

 

「その役目を任せて良いのかい?」

「はい。ではまた後ほど」

「ふむ」

「そういえばギルドでも2人で話してねえから、こうやって話すのも初めてだな」

「まあ、まだ入ってから1日とか2日しか経ってねえし。で、どうしてギルドに入ったんだ?」

「俺が?」

「うん」

「そうだなあ。俺、元は流れの傭兵団の一員でね」

「意外だな」

「そうか?で、そこに2歳で養子に出されたらしくてさ、それから育ての親の元で傭兵稼業に参加しながら転々としてた。その育ての親が亡くなってから今のギルドに世話になったんだ。あれは今から10年ほど前だったかな」

「傭兵の養子になっていたとはねえ」

「生みの親にも何か事情があるんだろ。恨んでもないし、魔法の使い方も戦い方も知れたから逆に感謝してるくらいだ。そういうナンナはなぜ海賊に?」

「あ、あたしの番?」

「おう。市井(しせい)に暮らしてたら海賊になるなんて選択肢は余程の事情がない限りレアだからな」

 

傭兵団に預けられるのも珍しい事だが、海賊になる事なんて余程生活に行き詰まらない限りかなりレアだろう。どう説明するか少し思案した後、自分は海賊頭の娘なんだと告げる。でも、実の親じゃなくて、親父が住んでた家の前で拾われたらしい。これには様々な家を見てきたフィリーも驚嘆を禁じえない。よりによって海賊頭の家だ、普通じゃあり得ない選択だ。自分らの本来の親は何が目的だったんだろうかと混乱するばかりだ。

 

「でさ、荒くれどもと暮らすうちにあたしもこんな性格になっちゃったし、喋り方も所作も一般的な淑女らしさってのが分からなくなっちゃって」

「んなこと言ったら俺を含めてギルドの連中の大半が変人だぞ?普通ってのは時代や地域で様々だろうし」

「そんなもんかね」

「だからナンナらしくやりゃ良いのさ」

「そうか、それで良いんだな」

「お前が居るから海賊団の皆もついてきたんだろうさ」

「へへっ、そう言ってもらえると嬉しいよ」

「お二方とも、宿が見つかりましたよ」

「お、じゃあ行くか」

 

平穏な街に夜の帷が降りた。疲れきった体を休ませて、次の朝に出発する次第となった。この街は良く統治されているのだろう、騒ぎの一つも無く出発できた。

 

「朝だ。帰るぞ」

「こっからかなり時間がかかるんだろ?」

「行きは軍用列車でしたからね」

 

グラン・フィレーン駅まで到着したが、ギルドはここからバスに乗って帰らなければならない。移動は30分から45分程かかる。

 

「途中まで帰ってきてるとはいえ、まだ暫くかかるな」

「酒呑みながら帰ろうぜ」

「確か売店にビールと串焼きの鳥があった筈だな」

「串焼きの鳥?あまり聞き馴染みがありませんね」

「どの地方特有の食い物なんだ?」

「東方の名物だった気がする。これだ」

「ねぎま?つくね?」

 

駅の売店には色とりどりの鶏の串焼きや酒、握り飯やサンドウィッチが並んでいる。この串焼きの鳥ははヤキトリという料理だ。ねぎまは鶏肉と鶏肉の間にネギを挟んだもので、つくねは鶏のひき肉を丸く整形したものである。

 

「どれが良いかねえ」

「ねぎまとつくねを9本ずつ詰めておくよ」

「ありがたい。それと缶ビール6本も」

「あいよ。ヤキトリはタレと塩、どっちが良いかね?」

「そんなのがあるのか。じゃあタレで」

「了解」

 

色々と種類がある事に驚きを隠せない。店主の女性によると東方にあった旧国の料理で、この国、ハルモニア王国に併合された際に文化もろとも入ってきたんだとか。旧国はサクラサカ公国と呼ばれていた時期があったが、今は確かヤマタイと言う場所になっている。

 

「知ってるのかい?」

「旅してる最中にそっちに立ち寄ったからな。確かにあそこは変わった文化を持ち合わせてる。国の中でも特に酒も料理も美味い場所だし、観光名所も多いのさ」

「行ってみたいですね」

「しかし、東の食い物がこっちに来てるとは驚きだ」

「ああ、それには理由があるんだ」

 

武帝と呼ばれた王が統治していた頃、リオレン氷山を超えた先の隣国の侵攻に備え、国をまとめ上げ、武で以て抗える様にする為に各地に侵攻、吸収合併していったのだ。その際に一部の文化が軍人や料理人などを通じて流入してきたのだ。

 

「なるほどですね。軍人さん達が……」

「265年前の東方遠征に出かけてた人達も多くてね」

「それでこっちに持って帰ってきたんだな」

「ざっくり言うとね」

「国を滅ぼさず、だが武力をちらつかせ、力尽くで各地の王族を諸侯に封ずると。お陰様で美味い飯にありつけてるが、如何なものか」

「圧倒的な武に物言わせた形だな。敢行されたのはかつて現れた魔王の封印に関わられた、武帝ジャックス陛下の時代だ。マシュー陛下が平和路線だった理由はこの時代への反省の念かららしいぜ」

「その口ぶりからマシュー様を直接ご存じなのかな?」

「まあ、色々とあってね」

「そうか。それはさておき、グラン・フィレーンまでは少し時間がかかるけど酒とか楽しんでね」

「ありがとう。釣りはいらん。話を聞かせてくれた礼だ、受け取ってくれ」

「悪いね」

「師匠、バスが来ましたよ」

「じゃあな」

「あいよ」

 

ゆっくり呑み食いしたいからと20分移動したところにあった公園に立ち寄り、ヤキトリを肴に酒を嗜む事となった。晴れ晴れとした天気に青く茂る木々に囲まれて楽しい宴会になっていた。

 

「美味いな」

「酒に合うぜ」

「もっと買えば良かったですね」

「少し本数が足りなさそうだな」

「これ、もっと知られても良いと思うんだが」

「想像がつかないんだろうな、どんな味なのか」

「それか逆に知られたくないとかではありませんか?自分だけの特別な味にしたいのかと」

「それもあるな。他の酒のツマミになるか試してみたいぜ」

 

この東方料理はあまり詳しく知られていない事が勿体無いと思う。3人ともビールを2本ずつ呑みきり、ツマミのヤキトリも食べ切った。物足りないと感じている2人にカトレアは呆れかえる。ナンナは荒くれどもと好んで宴会を開いていたし、体質的に強いのだろう。その元仲間は今どうしているのか、元気にしているのか心配していた。その内連絡を取ろうという思いに至る。

 

「やっと戻ってこれたか」

「ざっと3時間半だな」

「長かったです」

「疲れたなあ。早くギルドに戻って報告しようぜ」

「そこは俺に任せとけ。ほれ、報酬を山分けするぞ」

「ありがとうございます」

「後はお願いして良いか?」

「おうよ」

「じゃ、先帰ってるぜ」

「またな……さてと」

 

2人を先に帰らせて、ギルドに直行し、マスターに事の顛末を伝えた。魔物の様子がおかしかった事、亜種や変異種の可能性は低いかもしれないが特異個体であった事が考えられる点などだ。

 

「そうかい、そんな事があったと」

「他の地域で似た事象は起きてねえか?」

「完全な亜種や特異種なら幾らでもあるが、発達途中というのはほとんど聞かないね。なんせ、発展途中の生態は詳しく分かってないからさ」

「あれが特殊だったのか」

「生態系の研究が()されれば、亜種や特異種に関して分かる事もあろう」

「何かの前触れじゃなきゃいいが」

「心配のしすぎだよ。国や軍には伝えてあるんだろう?」

「まあ、な」

 

マスターに状況報告を終えて一息入れていると、声をかけてきた人物がいる。同じギルドで働く良き友、ヘンリーだ。彼とはギルドに入った当初は良くチームを組んでいた。こうして直接会うのは仕事関係で忙しく、1ヶ月ぶりくらいになる。

 

「よ、フィリー」

「ヘンリーか。元気そうだな」

「お前のチームに新しくメンバーが入ったんだって?」

「その通り」

「今度会わせてくれよ」

「良いぜ。と、その前に明日勝負しようぜ」

「乗り気だね。やろうぜ」

「じゃ、またな」

「おうよ」

 

互いの実力を重々承知の上なので、良き勝負になる予感がする。挨拶を終えてギルドから帰る途上でカトレアに出くわした。どうやら夕飯の買い出しの途中だったらしく、紙袋を抱えていた。

 

「(あいつは強くなってる。楽しみだね)」

「師匠、どうしたんですか?そんなニヤニヤして」

「カトレアか。ヘンリーとさっき会ってな」

「ヘンリーさんと。会われるのは久方振りでは?」

「そうなんだよな。明日また会う約束でね」

「ふむふむ、なるほど」

「楽しみだねえ。明日ギルドにナンナを連れてきてくれ。あいつに紹介したい」

「はい」

「(あいつの実力、久しぶりに測るとするか)」




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