ついに20話目まで来ました。
遅くて申し訳ないですが、最後までお付き合いいただければと思います。
どうぞよろしくです。
「相変わらずだな、この辺も」
「暑い、暑すぎるわ」
「ブリエト砂漠にこんなオアシスがあったなんて」
「まあ、大都市から離れてるからな。知らないのも無理はない」
フィリー達天使の涙の一行がやってきたのはロカの街からだいぶ離れた小さなオアシスだ。ここには小さな魔族や動物達が来るくらいで、大物は滅多に現れないという。ここでなら集中して修行に取り組めるのではないかと考え、選んだという経緯がある。
「水場の中央に島が……」
「あそこが今回の修行場所だ」
「つってもただの小島だろ?」
「あれな、水面に浮かぶ岩だから、バランス崩すと水にぽちゃんだぜ。絶妙なバランスの上に成り立ってんだ」
「はへー、そんな物があるんですね」
「思いっきりジャンプしたら沈むな。よし、水面歩行で行くべ」
「頑張ってね」
「おう」
そう言って岩に座して数分、すっかり揺れも収まって静かになった。流石は水魔導を心得てるヘンリーだ、平衡感覚は並々ならぬものである。風に吹かれる程度で波も穏やかである。
「静かだな」
「そうね」
「まだ始まらないのかな?」
「そうみたいだね」
「むっ?」
「これは……離れろ、水柱が立つぞ」
「え?きゃあ!」
「ヘンリーさん!」
「あいつなら問題ない」
「おそらく対話が始まったんだろ」
鉄砲水の様に噴き出した水の柱に囲まれた中でヘンリーは遂に念願の対面を果たす。静かな心と世界を愛する水虎帝ワジールとの初顔合わせだ。
『ヘンリー』
「お出ましかい、ワジール」
『ふむ、冷静さを保てているな』
「そろそろ現れてくれるって、そう聞いてたからな」
『俺の好む静寂、その世界は魔王無き世界』
「それはそうだろうな。そんな望みと裏腹に、国では物騒な輩が現れたんだ。そいつらを止める為にも力を貸してくれやしないか?」
『それを実現する為なら協力するまでだ。だが、条件がある』
「条件?」
『水を確かに使えるか。それを知ってから力を授ける。無闇矢鱈に与えて、正しく使い熟せなければ自身も仲間の命も危うかろう』
「だろうな」
つまるところ実力を知ってからでも遅くないという事だ。先祖たるポールは彼の力を限りなく完璧に操れた。ヘンリーはどうだろうかという訳だ。ポール同様に操れれば授けられる。
『お前は大丈夫かな?』
「さてね。で、どんな条件だ?」
『フォルテの力の使役者と真剣勝負をするんだ。そこで勝利する事、それが力を与えるかどうかの条件の一つとする』
「ほう、フィリーか。はてさて、これは厄介だな」
『そいつの力は生半可な物では無いだろう。だからこそ、乗り越える壁にはもってこいだ』
「分かった、やってやろう」
『勝負が済み次第、また現れよう。ではな』
話が終わると水の柱が収まり、そこには無事に戻ってきたヘンリーの姿があった。そこにはスッキリとした顔があった。
「収まった……」
「お、終わったか?」
「フィリー」
「どうしたよ」
「紋章発現の為、俺と尋常に勝負しろ。その覚悟と実力が道を切り開くんだ」
「それが力を発現させる鍵か」
「そうだ、それが示された条件だ。よしなに頼む」
「与えられた条件がそれなら仕方あるまい。だが、手加減は無しだ。お互いに、そしてワジールに失礼の無いようにな」
「それで良い。むしろ全力でぶつかり合おう」
とりあえず戦える場所に移動する。相対する2人、片や炸裂弾。片や氷河の帝王。平時では互いの実力は拮抗しているのだ。だからこそ、この条件をワジールは示してきたのだろう。まず動いたのはフィリーで、緋炎の鎧を纏う。
「いでよ、緋炎!」
「おお、相変わらず凄い威圧感だ」
「今の俺の爆炎はこの前より痛むぜぇ?」
「百も承知だ」
「じゃあ、始めようぜ。砕空破!」
「おっと」
「そらよ」
「(くっ、拳が掠った)」
「これも避けるか。ならば、返しで肘や背中から!火鼠追爆!」
「爆発後に追尾弾か。くそ、厄介な魔法だ!水流壁!」
「お、消したか」
能力の上昇の付加がついているフィリーとそれがまだ出来ていないヘンリーでは、経験こそそこまで差がないが能力の強さで少し遅れを取っていて、いくつかの場面で後手に回ってしまっている。攻撃力だけでなくスピードも上がっているみたいだ。
「直線爆拳!」
「(距離を取ってからの……)鋭氷雨!」
「熱風波!」
「おお、能力の衝突ってこうなるんだな。一瞬で溶けたぞ」
「凄いですね、三傑同士の衝突は」
「クソッタレ、やるじゃねえの」
「全力には全力にて応える。これぞ、我が魔の道なり!」
火と水の三傑の衝突だ。本来ならば相性の上ではヘンリーが有利だが、所詮は相性。絶対的な優劣では無い以上、場合によってはフィリーの魔法でも対応できるのだ。消しにくい火のように性質変化を起こせば相性不利な水にも勝てる可能性はある。
「水重砲!」
「蒸発させる。灼熱連弾!」
「(くそ、判断が早くて戦い慣れてる。あの能力が魔力を増強してるし、前より強えな)」
「こんなもんじゃねえだろ?どんどん行くぜ」
「こうなったら……氷刀武刃・双撃」
「近接戦闘に切り替えたか。良き判断か、試してやる。
「行くぞぉ。四辻斬り!」
蒸発させられる程の高温な炎を放つのなら、近づいて撃ちづらくする。氷の刀に水の刃で対処する。これはしかしながら、いとも容易くへし折られた。それでも肩に傷をつける事には成功する。即ち相打ちなのだ。
「へし折られたか」
「鎧付きでもここまで切られてたな」
「凄い、一瞬であんな……」
「師匠達の実力はまだこれから。ですよね」
「さあて、やるか」
「来いよ」
「爆風烈哮・炎龍!」
「くそ、相手として受けりゃこんな面倒な魔法だとは!」
「相手が友とて、いや友だからこそ全力を尽くして相手をする」
「なら俺も全力で応えよう。大水柱!」
「やべえな、こりゃ」
拳を交えてこそ知れる互いの実力は、果たして今後助け合っていく上で、支え合っていけるだけの力なのか。それを今この瞬間に知る事が出来る。接近戦になるのなら、全身爆破体質の本領発揮だ。肘に掌、足に背中。果ては頭までが魔法の使える箇所だ。交差する2つの力、ぶつかり合う拳。2人は全力で戦うのだ。
「せやっ!」
「(足払いか?むっ……回転して更に踵落としと、そこから繋げて蹴り上げか)流石高難度常連。隙が少ない事で」
「これからだぜ。燐粉九撃・無念無想だ」
「(例の爆破拳法か)」
「せい、はあっ!」
「くそ、痛えな」
「だったら避けるなり守るなりしやがれってんだ!」
「魔法で対処出来んならやってらあ!」
躱したり防いでいければどれだけ楽な事か。それをさせてくれない程の鬼気迫る連撃なのだ。防ぎきれなければ勝ち目はない。そうとなれば友を支える未来はない。だからここで最終手段に打って出る。魔導士の奥義中の奥義、属性解放だ。
「しゃあねえ、とっておきだ。はあっ!」
「ほう。ならば俺も、解放!」
「属性解放か。2人ともここで決着をつけるつもりだな?」
「その通りだ。この1発で終わらせようぜ」
「おうよ」
「これで、決着か……」
「緊張してきた……」
「「ちぇいりゃあ!」」
「正拳突き!?」
「なんて風圧なの!」
周りの砂を吹き飛ばす程の爆風が吹き荒れる。皆目を塞ぎ、突風に耐える様に踏み込む。2人の奥義の力の衝突はそれ程の威力があるという事だ。
「砂が口に……ぺっぺっ!」
「ど、どうなった?」
「2人とも、大丈夫!?」
「へっ、なかなかの威力だ」
「だろ?そういうお前こそ」
「お前の魔法の方が当たってらあな。さっきの刀傷とは反対の肩に傷が出来た。俺の負けだ。流石だ、ヘンリー」
「ギリギリだったぜ。お前、最後肩から外したのわざとか?」
「まさか。手が抜けるような器用な男じゃないのは知ってるだろ?」
「は、言えてらぁ」
これで条件通りフィリーに勝利した。ワジールも約束を破る事は無いだろうから、力の解放には成功するだろう。とりあえず一息入れて落ち着いた状態で会いにいく。
「さてと、ワジールに会ってくるか」
「行ってこい」
「その前にお兄ちゃん達、傷治すね」
「悪い、心配かけたな」
「しょうがないんでしょ?」
「まあな」
先程と同じ要領で浮かぶ島に座して精神統一を図る。やがて精神世界の奥からワジールが姿を現した。倒せはしなかったものの降参させた。これは満足し、納得のいく結果だったのだろう、先程とは違って良き表情をしていた。
『ヘンリー』
「よう。条件通り、ちゃんと勝ってきたぜ」
『ふむ、そのようだな。ならば約束通り力を貸すとしよう』
「ありがてえ。これで救える者が増える」
『やはり、お前もポールと同じ事を……』
「ん?何か言ったか?」
『いや、何でもない。俺の力を授かるのだから中途半端な事は許されん。必ず大切な存在を守り抜け。良いな?』
「おう。期待に応えるのが俺の流儀だ」
ワジールはそう言い残して再び精神世界の奥底へと潜っていった。瞑想を終えると仲間達が固唾を飲んで様子を見守っていた。万事解決して力を託された事を伝えると安堵したのか、ため息が出た。これなら体のどこかに紋章が現れるはずだし、鎧を纏えるはずだ。
「お、これが……」
「無事発現したな。紋章は左脚に有るか」
「ああ。これは蒼水の鎧とでも呼ぼうか。これが水の力の上昇に繋がるのか?」
「俺らと同じならな」
「そりゃ重畳だね」
「修行は魔を活かす為の基礎。いつでも頼ってくれよ?」
「おう」
「用事は済んだな。帰ろう」
「はい」
砂漠での特訓は無事に終わり、彼らはとりあえずロカの街へと帰る。だが、そんな彼らを見つめていた2人が上空に居た。フィリーらの敵、六芒星の星々だ。偵察の為に
「ほほう、あれが噂の……」
「2つの星が奴らによって堕とされた。俺様達で狩るぞ」
「あっしはもう少し情報を集めてから相手をするつもりだよ。ヤクスはどうする?」
「俺様もそのうち攻め立てる。しかしリーズ、今がその時とは思えんのでね」
「妥当な判断だ。力をつける前に滅するべきだが、突っ込んでは危険な領域だろう」
「今は我らが王の復活の為に動く。封印を解きながら雌伏を経て雄飛の時を待つ」
2人は今日見た事実と仲間達が得た情報をもとに議論を始める。水使いの星、リーズは狙うとしたら火属性の使い手からだろうかと判断していた。だが、炎のヤクスはそれを制する。遠目に見た限り、フィリーの火は鉄砲水すら蒸発せしめる程の火力の持ち主の様だ。決して油断するなと伝える。
「分かってるさ。相性は詰まるところ、相対的な優劣。絶対的優位なんてねえのは重々承知の上でね。だから、『油断』の2文字は毛ほどもない」
「俺様の火が通用するか知っておきたい」
「そうだな」
「ジャンとエルレーンの情報が確かなら聖属性を含む7属性だと」
「人数の少ない我らの方が分が悪いか?」
「想像は容易だろ?手数の多さからそう俺様は推測するし、現に2人同時にやられている」
「ふうむ」
「これまでの見解をお嬢に報告だ」
「あっしも同行しよう」
ここで丁々発止と議論していても仕方ない。今の頭領兼大将の娘、ユフィ・ハルトラーの所へと向かう。情報は伝えられるだけ伝えておこうと判断した。
「お嬢」
「何じゃ?ジャンとエルレーンの抜けた穴をどうするか悩んどるのじゃが?」
「其奴らを滅した魔導士達なのですが」
「ふむ?」
「我々は彼らが今日、更に強化された可能性がある事について言及せねばなりませぬ」
「なんと。紋章とやらを持ち得る人材かの?」
「おそらく複数名と思われます。遠目でも分かる緋色と蒼色の魔法、火と水なのは間違いないかと」
「ふむう、厄介じゃなあ」
情報不足の中で拙速に手を出すべきか、出遅れるのを承知の上で情報を少しでも集めてあたるか。判断できない状況であるのだ。今現在で他の者は発現しているのか、何名ほどなのか知っておきたい。以前送られた情報が確かなら、火と水含め4名であろう。あの七英傑と同等の力を発揮しているかと思われるとも。
「でかした、その情報は重要じゃ。ヤクス、リーズ、いつでも戦闘に繰り出せる様に準備を致せ。ワルツにも連絡しよう」
「かしこまりました」
「他の2星、闇のヴァークスと雷のラークス姉弟は如何いたしますか?」
「あの2人はいずれまたじゃな。全員で繰り出して壊滅なんて事は避けたいのでのう」
「はあ、そうですか。七英傑の末裔がそこまでの力を開放しているとは思えませんが」
「話を聞く限りでは侮れん相手なのであろう?だからこそじゃ。我らの最大の目的は七英傑の末裔の抹殺と父上の復活じゃからな」
「ははっ」
「畏まりましたぞ」
一方その頃ギルドに帰ってきていたフィリー一行も成果の報告をしにきていた。帰ってきて早々ではあるが、明日仕事に行く事になった。ギルドマスターも軽く様子を伺っていた。
「修行は上手く行ったのかい?」
「お陰様でな」
「……」
「アニー、どうしたのよ?」
「修行、敵意ある誰かに見られてた。そんな気がする」
「本当?」
「確信はないけど」
「六芒星か?」
「例の常闇の因子の研究者かもよ?」
「面倒な」
事実魔王配下の六芒星が2人見ていたのだ。フィリー達はほぼ気付いていなかったが、アニーの勘が当たっているのなら近く衝突する可能性がある。今後は注意しつつ仕事する事にする。しかも機械魔獣発明家が近くに居るならそちらも警戒せねばならない。
「この前の輩と同じなら油断ならんな」
「暴走する魔獣の相手も考えねば」
「うう、大丈夫かなあ」
「無理して前線に立つ必要はない。お前の本分はあくまでも学生。ギルドのメンバーとしての仕事は言い方は悪いがその次で良いんだ」
「う、うん」
「フィリーは兄としてああ言ってるが、最後に決めるのはアニー自身だ。俺達は助言しか出来ん」
「そう、だよね」
「大丈夫だよ。どんな選択をしようと、あたしらがついてる」
「ありがとう、ナンナお姉ちゃん」
まだ学生として友達とふざけあって遊んでるくらいがお似合いの小さな子供に、国の命運をかけた戦いに巻き込むのは如何なものかと義兄として心配してくれているのは、アニーも重々承知の上だ。だが、それでも友達を救えるならと皆と一緒に戦いたい。
「そっか。よっし、帰るか。アニー、飯食いに行こうぜ」
「はーい」
「あたしも良いかい?」
「あ、じゃあ俺らも」
「俺は構わんが、アニーはどうだ?」
「良いよ」
「じゃあチーム全員で行くか」
「あいよ」
結局やってきたのはダイニング・ギリーだ。やはりここと居酒屋バルボが仲間と食べるにはもってこいの場所である。適当に食べ物と飲み物を頼んだ後は、最近の国の情勢についてだ。聞いた話では、あちこちで魔物の暴走による事件が以前より増えたというのだ。
「常闇の因子の影響か?」
「そこまでは分からねえけど、無関係とは言い難いだろ」
「あたしらもその内遭遇するかもね」
「私達にできる範囲で解決しないと、ですね」
「おそらく狙いは俺らの可能性が高い。特にいち早く能力を開花させたフィリーやナンナはあいつらに警戒されてるだろうさ」
「俺にはお前らが居る。1人で出来ねえ事も皆となら可能だ。だが、油断は禁物。この前2人相手に苦戦したからな」
2人がかりだったとはいえ、人数の上ではこちらの方が優勢だ。それでも苦労したとなれば今後の敵は厄介な存在が一度に来る可能性が捨てきれない。そこに機械魔獣が加わるとなればより一層苦労するだろう。
「皆、明日は通常の仕事に移るが、いつでも六芒星やワルツの機械魔獣と戦える備えはしておいてくれ」
「おう。身につけた力を発揮する時だな」
「はい。ただ、師匠もヘンリーさんもナンナさん達もあまり無理はなさらず……」
「相手は待ってくれないわよ。弱っている所を見せればむしろ好機と捉えられかねないわ」
「つってもねえ」
「そうは問屋が卸さねえってんだ。お前も元義賊なら分かるはずだ。機会損失は出来うる限り避けたいだろ?とは言ったものの……」
「ジョージやマリータの言う通りだ。魔力はまだある、動けるという余裕を見せねばならんのよな。だが、皆が心配してくれた事に感謝する。魔力回復を兼ねて明日は無理せず採取系に向かう」
次の日、やってきたのは薬草となる植物の採取という通常ミッションだ。一応『魔物には注意されたし』と書かれていたが、これなら初心者でも難しくない難易度だろう。
「お兄ちゃん、これが依頼された薬草だよ」
「でかした」
「ここらに沢山あるな」
「これだけありゃ充分だ」
「しかし、ここいらには凶暴な魔物は居ないはずよ?採取だけなら初心者でも上位経験者が2、3人同行するだけで十分だし、何故我々に?」
「観測所に聞いた話じゃ生態系に変化があったみたいでな」
「そうなんですか?」
「
「まさかワルツの魔獣のせいか?」
「可能性は充分だ。帰るか」
ギルドに帰るとマスターは渋い顔をして出迎えてくれた。普段は冷静沈着に優しく迎えてくれるというのに、どうしたのか。その理由はすぐに判明する。
「ああ、帰ってきたか」
「マスター、どうしたんだ?」
「あんたらの行った採取、近場の湖畔に魔獣が現れたそうだよ」
「本当か!?」
「折角だ。修行を兼ねてもう一度行ってくれないかね?グリートリヒ家の治める土地でね、あの一家には恩がある」
「分かった。一同、聞こえたな?」
「おう」
「すぐ準備するぞ」
ギルド最強チームと名高い一行の、出立の時だ。