もう後数話で完結いたします。
どうぞ気長にお待ちください。
「ここがナポレーですか」
「ギルドの方に顔を出さなくて良かったの?」
「連絡はとってある。そしたら行けってさ」
「そうかい」
リーズ撃破後にやってきたのは国の西部にある旧リーラ王国の名残が見られる都市、ナポレーだ。ここにも封印があるとリュートから聞いているので、緊急でやってきたのだ。他の封印はほぼ解除されたとあっては本来の仕事より優先せざるを得ない。
「とりあえず飯と宿だな」
「宿は私とジョージお兄ちゃんで探してくるからね」
「任せるぜ」
「あたしとヘンリー、カトレアで飯屋探してくるか」
「そうしようか」
「じゃ、俺とマリータは街で情報収集でもしてくるか」
「任せて」
「じゃ、散会。1時間半後にこの大聖堂前で集合しよう」
フィリーはマリータと共にこの街の封印に関する事や情報を少しでも集めようとやってきたのは街のシンボル、ランドマークの大聖堂である。ここなら何か分かるかもしれない、そんな淡い期待と共に眺める。
「ここがナポレーの大聖堂かあ」
「有名な観光地で闇竜王リリートスを宿した女傑闇竜族のレンカを祀ってるらしいな」
「闇の魔道を得意としてた大魔導士ね」
「かつて魔王を封印せしめた七英傑の1人だ。聖属性の使い手マオ・フェイリンと共に封印を直接行なった者とも言われてるね」
「封印術は闇と聖の属性が得意と聞くのはこの時代からなのかしら?」
「おそらくその頃には体系化されてたんだろうな」
その子孫は今どこで何をしているのか、分からない事が多い。そこはやってきたのは大聖堂の司祭だという男性だ。観光で来たと思っている2人の内1人がこの国でも特に有名な歌姫である事に気づき、声をかけてきた。
「おや?誰かと思えば
「あら、私を知ってくれてるのですね?」
「ファンが特に多いですよ、この街では」
「嬉しい限りですわ」
「お隣の方は?」
「私の所属しているギルドのチームでリーダーを務めている方です」
「初めまして。ラーズ・スティアの子孫、フィリー・ゲイルです」
「おお、あのラーズ殿の!」
「そういう事です。で、マリータの事は良くご存じなので?」
「ええ。この街を出立されたのは25年前でしたか。生まれて1年ほどで歌劇団に引き取られたと聞いてまして」
「そちらもでしたか」
このチームを含むギルドのメンバーの大半は本当の親を失ったり、特別な事情で親元を離れた人が多い。やはりマリータもその1人だったのだ。理由は魔族と人間の混血だからだ。今も魔族への偏見を持つ人が多く、それからくる差別を危惧したからだ。
「そうですか。魔族との混血だから……」
「居場所が出来ないと危惧して預けられたと聞きます。まだ魔族への風当たりが今以上に強かった時期でしたでしょうから」
「預けた先が私の居た歌劇団の団長でしたか」
「貴女は
「ええ。天使の涙に世話になってます」
「あの中央の……楽しく暮らせてますかな?」
「ギルドマスターやリーダー、仲間達に恵まれましたの。魔族に対しても寛容ですわ」
「それは何よりですぞ」
天使の涙が国の首都近くはおろか、国の中でもかなり特殊なギルドで、あらゆる種族に比較的寛容なギルドなのだ。人間を傷つけようとしないのであれば依頼を受けたり、ギルドに受け入れたりしているのだ。そこら辺は他のギルドがその精神性を学ぼうと時折見学に来ているほどだ。その話はさておき、マリータは本来の家族の事を聞きたくなっていた。
「それで、私の本来の家族をご存じですか?」
「お母様は魔族、その中の闇竜族の血を継ぐのですよ」
「私が、リリートスやレンカと同じ……」
「やはりそうでしたか」
「闇と名前に付きますが本来は温厚な方々らしくて、相手に責がない限り傷つけるのを嫌う種族であるそうです」
「そうなんですかい?」
「ええ、そうなんです。マリータさんのその特徴的な尖った耳にうなじの鱗、それは竜族特有の物です」
「これが?」
「はい。お母様は皆に羨ましがられる美貌の持ち主でしたよ。かくいう私の娘も羨む人の1人でしたから。魔族とはいえ、この街では信仰されている存在。周りの目を気になさる事はなかったのですが……」
マリータの見た目は母親譲りだという。歌のセンスも彼女に似ているとか。その母は竜族故に長寿な方であるはずだったのだ。竜族は平均すれば数百年はゆうに超える寿命を誇る種族なのだ。
「長命な種族ゆえ、本来なら……」
「ええ、数百年生きるそうですね」
「はい。それくらいは生きられるのですが、攻め込んできた小翼竜の様な存在に命を奪われたのです。父君とご一緒に」
「……」
「やはり彼方此方に攻め込んで封印の解除を狙って、その上で七英傑の血族を滅しにかかってるのか」
「その七英傑、母君の血筋、曽祖母の方あたりですぞ」
「そうでしたか」
竜族は長生きなので見た目と実年齢が一致しない事も多く、一般の人より長く若い姿を維持できるので、詳細が本人の口以外では分かりづらい部分もある。だから若干アバウトな表現になるそうだ。
「ところで、一つよろしいでしょうか?」
「私に出来うる事ならなんなりと」
「この街に魔王の封印はされてませんか?私達はそれを探しておりまして」
「それでしたら、この大聖堂の地下に楔が打たれていると記憶しておりますな」
「この下に……」
「封印の前には更に鍵となる魔法陣が組まれています」
「やはりここも厳重に管理してるんですな。ですが、その封さえ破壊してくる連中が現れているみたいで。先程父君と母君を殺めたと話されていた連中、六芒星によって」
「左様でしたか」
次にやってきたのはマリータの生まれた実家のある場所だ。かなり立派な建物であり、話を聞くと富を得られた大商人であったという。街の為にお金を還元なさっていたので、皆に慕われていたらしいのだ。これだけの邸宅を作れるとなると相当なやり手の様だと考えられる。司祭曰くちゃんとした真っ当な商売で莫大な富を得ていたと聞いているとか。邸宅を眺めた後で、再び大聖堂の中に入って話の続きを聞く次第となった。そこには立派なステンドグラスがつけられており、夕陽に照らされてキラキラと輝いているのが良く分かる。そこには女性の姿が象られていて、彼女はレンカというそうだ。この光景を維持する為の資金はレンカの血筋の方が、親に代わって事業承継して得た資本が使われている。
「歌姫として確固たる地位と名声を得られたと聞けば、喜ばれたでしょうに」
「そうかもしれませんな」
「そういう交流が出来るから、親のいるカトレア達が少し羨ましいです」
「マリータ……」
「でも、今の私には仲間がいると言われるかもしれませんね」
「その通りさね」
「全くだ。暗いのは似合わんぜ」
「魔導士は相身互いと言いますよ」
「ナンナ、カトレア。ヘンリーも」
飯屋を探し終えてヘンリー達はここに戻ってきていた。大聖堂の椅子に座り、ここまで話していた詳しい話を聞かせてもらっていた。ここが街の中心たる大聖堂であり、これが封印の要だと。おそらく六芒星が狙いに来るとしたら次はここだろうと。
「良い街並みだから、破壊されたくねえんだがなあ」
「街は景観の保護を義務付けられている地域の1つだからな。マリータのご両親の資金のお陰で保たれてたみたいだし、その事業を引き継いだ親戚の方が尽力なさってるんだとさ」
「そうなんですか?」
「地域独自の法律で決まってんだ」
「そうなんだ」
「あのステンドグラスは何ですか?」
「あれはレンカですぞ。この街にて英雄として迎え入れられてましたが、封印を施してからしばらくして旦那様と旅路へと繰り出されたと聞きます」
「ふむ」
「あ、ここに居たんだ」
「宿見つけたぞ」
これでメンバー全員が揃った。アニーとジョージに対してもこれまでの経緯を説明しつつ飯屋に移動した。夕飯を食べながら話していた。マリータが最後の七英傑の末裔だと。一同は驚いていたものの、どこか納得している部分があった。
「よおし、飯も食ったし宿で休むか」
「お疲れさんだな。まだ情報を得られそうだ」
「そうね。ここは演劇ではよく来たけど、あまり観光できなかったのよ」
「折角の観光地なのに勿体無いよ」
「だから今回は色々と見て回りたいのね」
「一仕事終えたらな」
「ええ」
「ここが今日の宿だよ」
「おお、立派だな」
「内装も綺麗だし朝飯までついてるのに、思ったより安かったぞ」
「そうみたいね」
「じゃ、また明日な」
「どうかごゆっくり」
女性陣が部屋にたどり着いた頃、少しばかりマリータの纏う空気が重かった。どうしたんだと問うとここに来たら何か運命じみた出会いをするんじゃないか。そう思ったというのだ。そうなのかと思っていたら、ここが彼女の出生地らしいから、何か感じとっているのだろう。ま、ただの勘だから外れる可能性も充分あるだろうと言っていたが。そうかもしれないが、案外こういう時の勘って当たりやすい気もするという。そして眠っていると、不可思議な感覚に包まれる。
「……目が覚めてる感覚があるのに、周りは真っ暗。電気がついてないにしてもおかしいわね?」
体を起こし、怪しい空間を少し歩くとどこからか何かの気配を感じる。闇に紛れる何者かの気配を。それは次第に後ろから強く感じられる様になってくる。
「この気配、何が居る?」
『ほう、勘づいたか』
「っ!貴方、誰!?」
『おっと、そう警戒しなさんな。こちとら闇に溶けて様子見してただけだぜ?呑気なお前が気づくまで待ってたんだからよ』
「……」
『なんだよその顔は。文句は受け付けねえぞ』
「ああ、分かったわよ。どうせ七英傑に力を貸した存在の1人だとでも言いたいんでしょ?」
『御名答也』
「はあ、付き合ってらんないわね。で、何の用?」
『まあ待てって。慌てても良い事ねえぞ?』
「手短かにしてと言ってんのよ」
『お、おう(
現れ方に不満があったのか、大事な睡眠を邪魔されたのか、少しばかりマリータの機嫌も悪い。そこで機嫌を直してもらおうとまずは名乗らせてもらう。彼の名前は闇竜王リリートス。マリータの先祖の一族の王だ。確か司祭曰く母方の先祖であろうと。
『うむ。とはいえ、先代能力者は曽祖母レンカで他の能力者に比べて近い血筋なのは確かだね』
「魔王封印から250年くらい経つし、長生きの竜族ならあり得る話ね」
『理解が早くて助かるね。短気なレンカとは大違いだ』
「そ、そんな方だったの?」
『その分、戦闘時の頭のキレが良い場面もあったがな』
マリータは久しぶりの顕現者だ。リリートス達の悲願、魔王討伐の為に力を使ってくれやしないかと懇願されると、マリータはむしろ望むところだという。彼女だけ力が出てなくて申し訳なかったくらいだからだ。
『おお、そうか。顕現するのが遅れて悪かったね』
「良いのよ、タイミングもあるでしょうし」
『では、少しだけ能力を説明させて欲しい』
「お願いするわ」
『魔法は精霊の力に呼応して現れる。これは聞いているな?』
「ええ、そうらしいわね」
『闇はその中でも特殊、創造力と想像力で他の属性の力を少しばかり内包し、扱える。これも経験済みであろう?』
「勿論よ」
『では闇属性の独特の力、幻影、毒に吸収。これは知ってるかな?』
「毒?幻影?」
『知らんみたいだな』
闇属性の使い手固有の能力とされている物の一つに幻影と毒の能力がある。更に相手の発した魔法を吸収してそれを放出するという力があるとされる。放った魔法を吸収し、自分の力の様に放出できると解釈すれば良い。無論、吸収する為の魔力の器にも限度はあるが。成長すれば出来る範囲は広がる。しかも吸収した力を己の魔力の回復にも使える。
「便利ね」
『だが、だからこそというべきか、闇魔法は忌み嫌われがちだ。魔道が発展している今でも忌避されがちな魔族の力と避ける人は一定数いるな』
「結構居たわね。今まで出会った人達の中にも、そういう人」
『そう。やはり物騒だと感じるのだろうし、それに聖属性のマオと闇属性のレンカは魔族の血を引く。それもあるのだろう』
「因果なものね。魔族の英雄が使ったから、そのイメージが付いているとは」
かつて魔王から国を救った英雄といえども、魔族の扱う力となれば避けられてしまうのだろう。それでも何故聖属性は珍重されて闇属性はそうではないのか。それはやはりイメージが先行してしまっているのだろう。そんな力を備えた祖レンカに良く良く見ればマリータも見た目が似ているという。
「そうなの?」
『大聖堂の肖像画を見れば分かる』
「あれか」
『自分ではよう分からんかもしれんがね』
「そういうものよ、人間って」
『まあ、そうだな。おらも色々見てきたから分からなくもない』
「ね、レンカの話をもっと聞かせてちょうだいな」
『全てが終わってから。それで良かろうか?』
「それを楽しみに生き残ってみせるわ」
『では力を託す。魔法界の
「ええ」
身と心に力が満ちていく実感が湧く。これが伝説の七英傑に与えられた力だと、改めて実感する。それを誰かを守る為に使おうと、ここに誓う。それこそが血を繋いで守ってきた先祖達へのせめてものお礼だ。目を覚ますとまだ日が出るか否かくらいの時間、朝の5時半だ。誰もまだ起きていない。
「はあ……(まだ誰も起きてないか)」
1人溜息をして顔を洗いながら鏡を見てみると、首筋に見覚えのない図形があった。今まで仲間達の発現したそれを見ていたので何となく想像はついた。これが伝説の力の契約で現れるという紋章なのだろう。
「これが、紋章か(首筋に発現するとはね)」
「どうしたんです?」
「ああ、起きてたの?ちょっとね」
「もしかして何か変な夢でも?」
「まあ、変わってると言えば変わってたけど」
「首を気にされてましたが、風邪とか怪我でもされました?」
「後で皆の前で説明するわ。大丈夫、体の調子は至って良好よ」
「は、はあ」
次第に日も昇り、明るい空に変わっていく。歯磨きに着替え、女性陣は化粧を済ませてフィリー達の居るであろう一回の食堂へとやってきていた。そこではコーヒー片手に談笑していたフィリー達が待っていた。
「おはようさん」
「お疲れ様です。師匠、マリータさんが後で皆さんに話があると」
「左様か。どうでも良い話をこのタイミングでする様な奴じゃねえ、何か重要な事でもあるのだろうな」
「その様です」
「知らせてくれてありがとうな」
「いえいえ」
「皆の衆、朝飯食ったら街中を散策しながら警戒に当たるぞ」
「そうだな」
そうこうしているうちに1時間ほどが経ち、街の方も日常生活などの活動が始まった。ここからなら誰か情報を持ち合わせているかもしれない。と、その前にマリータの話を聞く次第となった。
「食った食った」
「だな。で、マリータよぉ、話って何だ?」
「これを見て欲しい」
「鱗の上に……」
「紋章ですか?」
「そう。私も遂に目覚めた。これで七英傑の末裔が揃い踏みな訳よ」
「七英傑の再来、いや、復活したら魔王を倒して超えてみる。それが今からの目標だな」
「封印を解除される前に終える事ができるならそれに越した事はないですけどね」
「そうすると問題を先送りにするだけだな」
「そうとも取れるな」
「じゃ、皆の衆、街の探索だ」
「あれは単純な封印術じゃなさそうだぞ」
「そうな気がするね。ヤマタイの様に大きく街全体で補完しているか、1箇所に多重封印か。そこら辺がまだ分かってないし」
「あそこの封印は少なくとも二段階式。だが、ヤマタイの封印が瓦解したのを見る限り、油断は禁物ね」
街の住民や、商店の店主などに話を聞いていき、その上で街の各所を巡って封印らしき物がないか調べていく。しかし、そう単純な構造なら魔王を封印している意味を成さないだろう。
「ううむ、街中には封印の痕跡は見受けられないな」
「狙われるのを分かってて、それで目立たない様にしたのかな?」
「それも充分考えられるな」
「まだ調べたいが、こんな情勢だ。詳しい情報は話してくれるか分からんな」
「どうします?」
「街の周囲も調べよう。近くの山や丘にも何かある可能性が考えられる」
「今から行こうか?」
「そうだね。この街で調べられる事は限られるし」