最後までお付き合いいただければと思います
「せりゃあ!」
「ごふっ!?」
「流石だ、カトレア」
「くそ、相殺しても効くなあ」
「私らを侮らない事です。覚悟が貴方達六芒星とは段違いなのですよ」
「なんだ?前より動きが良くねえか?」
「ははは、最早俺の元で修行する必要性を感じねえな」
カトレアの快進撃に師匠たるフィリーも先輩のジョージも驚きと感嘆を禁じ得ない。ここまで成長していると、育てる立場だったフィリーは、自分についてくる必要性を感じなくなってきていたのだ。今まで以上に力を発現し、師匠を超えた可能性もある。もしかしたら出会った頃には既にそうだったのかもしれない。足りていないと思われる経験も、ここ最近で充分出来ているだろう。
「白雷双虎掌!」
「ごふっ!(速いな……こいつ、本当に人間なのか!?)
「鋭い雷を纏えるのか。いよいよ以って俺らより強くなってるかもな」
「それ、言えてるな。冗談抜きでさ」
「はいやっ!」
「つぇい!」
「来たぜ、好機ってのがよ。ほれよ、繋げろ」
「ぶっ!」
「やったるか。無念無想には劣るが……茜炎蓮華掌!」
「クソが、人間如きがおいらに傷など!」
チームによる連続攻撃を前に、遂にラークスも怒りを露わにする。電気の伝う雲とそこを漂う塵を発出してこちらの攻めと動きを封じにかかってくる。
「喰らいやがれ、雷雲塵」
「うおっ!」
「痛え!」
「くっ、痺れますね」
「雷鎧。そこからの、雷魔地走拳」
「ぐあっ!」
「きゃあ!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「次はお前だ」
「やらせん」
「回復が速いな。しかも手の行先を牽制しつつ掴んでくるとは」
「
「ぶるぁっ!?」
鎧を纏っているし、その下には普段から鍛えた体がある。例え相手がどんな奴だろうと勝てるように鍛えているのだ。心と体の両面でラークス以上に成長しているのだ。しかも、七英傑と同じ力を貰い受けた彼らにしか出来ない強化で以って一撃を加えていく。
「なんだ、今の力は」
「魔力の鎧を纏いつつ、魔力のギアを更に上げていく。俺らの様な一部の人間にしか出来ん手段だ」
「(紋章が右腕から肩にかけて……)待て、それ以上の技は危険すぎる」
「分かってる。それでもだ」
「お前、覚悟有りか」
「そうだ。だが、ここで死ぬつもりは毛頭ねえなぁ。全力解放前に仕留める」
鎧にさらなるブーストを吹かす。体に大きな負荷がかかるが、そうでもしない限り魔王やその配下は倒せないだろう。だから取れる手段は全て取る。これが人間のど根性だと見せつけるという意味も込めて。
「直線爆拳・灼龍!」
「
「更にいくぜえー、円撃烈破!」
「低空でも上に逃げれば隙だらけ。おらよ」
「それはどうかな?燐粉九撃・無念無想!」
「あいつ、無茶しやがって。カトレア、俺らも続くぞ」
「はい。光流線・天照!」
「複数の光線を放つか。雷雲ノ太刀」
「うち貫く、風槍!」
「見える見える」
「八咫烏の火嘴!」
「うおう!」
「(あっちがどうなってるか心配だが、今はこいつを……)」
「よそ見とは余裕だな」
「っと。危ねえな」
フィリー達が善戦している頃、ナンナ達は若干苦戦していた。暗い性格が魔道に影響しているのか、威力が高い攻撃が飛んでくる。しかも戦力が分断されて強化役のアニーはあちらにいる。素の状態で戦うのが久しぶりなので、強敵相手に鎧有りとはいえこのままなのは結構きつい。
「やれやれ、結構強いな」
「まだ倒れないの?やっぱり、あたいなんかじゃ……」
「2人とも、少し下がって。次の技は危険だから」
「おう」
「闇闘術・毒霧!」
「(毒の魔法か。闇属性の特権だったな)」
「不味いわね。えい」
「黒い風?」
「俺らに返そうってか?押し戻す。大水波!」
「危ない……」
「……玄暗」
「なんだ?暗いぞ」
「これは一種の幻覚魔法よ。解除するからちょっと待ってね。それまで背中合わせよ」
「敵が視認出来ねえってやりづらいな」
「あっちには見えてる筈だろうさ。捉えられたら捉えてくれ」
「出来るかね。っと!」
「くそっ!」
「ぐっ……」
「マリータ、行けそうか?」
「もうちょっとね」
「このままじゃやられる一方だぞ。あっちは殴れるのにこっちは手も足も出ねえぞ」
幻覚魔法であちらは見えてこちらは後を追えない。このままでは殴られる一方になっていく。だが、この魔法を使っている間は他の属性が使えないのか、ヒット・アンド・アウェイで殴ってくるだけだ。そんな状況下でようやく何かコツをマリータが掴んでみせた。
「(む?コツが掴めた!)玄暗、解!」
「おっと、光が戻ったな」
「見えるぜい」
「思ったより速い。慣れてるの?」
「初めてにしては上手くいったわね」
「こうなったらこっちのもんだぜ、水連弩!」
「えい」
光あらばこちらのものだ。やられた分は取り返しに行く。だから、今まで殴られた分は攻めにかかる。手始めにヘンリーの広範囲魔法からスタートする。
「水冷蒼波!」
「きゃっ!」
「あたしのマジな鉄拳を喰らえ!」
「ぐっ……」
「これでも喰らいなさい!」
「凄い連携力ね」
「当たり前だ、それこそチーム全員で生き残るのに必要だからな」
「そう」
憂鬱そうにしていると、途端に頭を抱え始めた。項垂れているが、周りには魔法陣が現れる。ここから何かを発動するつもりなのか、警戒しながら距離を取る。その魔法陣から少し溢れてきたのは菫色の炎だ。フィリーの扱うそれとは違う色合いだ。
「ああ……」
「なんだ?」
「この感じ、特殊な菫色の炎みたいだわ」
「菫の炎、毒を含む炎か」
「おい、そんなもん発動されたら不味いぞ」
「出させなきゃ良いのよ。はあ……でやっ!」
「ぶっ!」
「よし、中断させたわ」
「ありがとよ、マリータ!ナンナ、続け!」
「おうよ!」
ナンナとヘンリーの連携力で以って体術の応酬を見せる。2対1で魔法の乗った拳を当てれば不利になってくるのは自明の理だ。それでも一発当たりの威力を上げて少しでもダメージを稼いでいく。
「はあっ!せい、それっ!」
「うっ……それっ」
「ぐあっ!痛ぇっ……」
「ナンナ!」
「まだだ、まだいける。傷だらけであろうと、最後まで諦めねえ。それが……フィリーから教わった事だ」
「そのど根性、気に入った。接近戦の体術なら俺に任せな。その間に立て直せ」
「お願い。ほら、立てる?」
「あ、ああ」
ナンナにはかなりダメージが入っている様で立ち歩くのも今はギリギリの状況だ。それでも相手を倒す為にやれる事をするまでだ。そこで先手を打つのはヘンリーの魔法だ。
「水掌打・雫」
「拳を振る勢いで水滴を飛ばす拳法?でも、それだけなら」
「私も続くわ。影縫針!」
「地面から、影を伸ばして刺すの!?ぐっ!」
「器用だな、おい」
「ぐぐぐ、あたしも続かねば……黄塵万丈!」
「きゃあ!」
「砂の息吹か。なんつー範囲だ」
「げほっ、ごほっ!」
「貴女、結構強情なのね。無茶したもんだわ」
「こいつに勝たなきゃ、ダメだ。さもなくば合流できん」
傷が開いて血が滲み出る程であり、痛みは想像より鋭い。それでも魔法や拳を当てて、少しでも勝利に近づかねばならないのだ。これにはヴァークスも対抗策を練り、立ち向かっていかねばならない。その策は、本来の姿への変身だ。
「ああ、あの姿にはなりたくないのに。仕方ないわ……はぁっ!」
「ぬ?なんぞあれは?」
「黒豹か?」
「俺達獲物を狩りにくるつもりだな」
『ここまでさせられたら仕方ないもの』
「いくぞマリータ。片付けなきゃなあ」
黒き豹となって死の牙を突き立てようというのが狙いだ。この姿になった事で本来の力が開放されて闇魔法も強化される。特に弱ったナンナを中心に陣形を崩して一気にカタをつけようという算段だ。フィリー達は弟のラークスを追い詰めていて、彼も変身を余儀なくされていた。
「姉さん、変身するとは。おいらもそうするかねえ」
「来るぞ」
「はあっ!」
「なんだ?」
「雷の翼竜か」
『ばはぁ……力が漲るね』
「雷魔法の基本、それ即ち速さなり。気をつけてください」
「その様だな」
ラークスは文字通り電光石火の素早さを手に入れている。その状態から放たれる高速攻撃はフィリー達の目では追いづらい程の速さとなっている。瞬きせずに見ていても捉えられなかったのだ。
『雷狼地走!』
「かっ、速っ!」
「ぐおっ!」
「師匠!ジョージさん!くそ、やりましたね。でやぁ!」
『おいらの雷に拮抗できるのはあんたくらいだな。だが、まだまだと見た』
「それでも、勝つ為ならやれる事はやります。かああっ……」
『(これは、空気中の精霊などを集めた帯電状態か?)』
「鎧の下に更に何かを纏い始めたぞ」
「空気中から何かを集めてるのか?こんなの初めて見るな」
「お兄ちゃん達立てる?」
「ああ」
「はあっ、しゃあ!」
『うおっ!』
「青から白い光に変わった?」
杏雷の鎧の下に更にもう一つ纏う力が現れる。白い光の鎧だ。これは精霊の集結した事によって顕現した力だとフィリーは推測している。その状態で放った一発はラークスの予想を上回る威力だ。フィリーもいよいよ以って弟子である意味が失せた気がしている。
「これは、何の力ですか?加護がかかった様に力が……」
「なるほど、あれも一種の精霊信仰の為せる技か」
「そうなのか?」
「周りに浮いている白い球体の集まりはおそらく精霊だ」
「あれが精霊」
『くそ、この姿になっても響くとは』
「なんか、心と体が軽いです。今なら、いける!」
「皆、強化するよ」
「おう。ジョージ、援護しようぜ」
「ああ、無論だ」
全力で頑張っている愛弟子を守る為に、そして何としても勝つ為に正面から敵に当たっていく。距離を詰めていき、拳とそこから放つ魔法で倒しにかかる。
「はい、はい!せいやぁ!」
『よっ、はっ!てい!』
「火の縄じゃあ!カトレア、後顧の憂いなく前へと行け!」
「カトレア、繋げろよ!竜巻蹴り!」
『うおおっ!何故急に!』
「そこです、ゼロ距離からの
『ぐおっ!』
練り固められた雷光の大きな弾丸は大きなダメージを与える事に成功する。これによりラークスは変身体を解除させられている。
「俺より魔道に関しちゃ上達してるじゃねえの」
「まだまだ。それに、これでまだ勝ててる訳じゃ……」
「だあな」
「テメェらぁ」
「今まででも早いくらいの戻りだな」
「油断するなよ。この姿でも充分強かろう」
「先にその雷使いを殺してやる。さもなくば気が収まらん」
「負けるかよ、怒りに飲まれた野郎にはよ」
「構えろ、来るぜ」
「はあっ!」
「やらせねえよ」
「俺の一番弟子に手は出させねえ」
「放せ、さもなくば感電させて殺す」
「そうかよ。やってみろ」
「こ、これは……」
「(師匠のここまでの殺気、久しぶり……)」
「おら、どうした?俺らを殺すんじゃなかったのか?」
「て、テメェ」
「カトレア。やれるか?」
「はい。紫電一閃!」
「ば、ばはっ!」
「これでお前も終わりだ。消え失せろ」
「後はあっちだな」
闇の壁に隔絶された両チーム。その闇を見通していたヴァークスはカトレアの変化に驚きを隠せない。あの状態になれる人物はごく一部だと聞かされていたから、七英傑の末裔といえども、まさか現れようとは思ってもいなかった。
『さっきのあれ、帯電状態ね』
「はあ、はあ……」
「強化がねえとここまでキツいのか」
「まだ行けるだろ、ヘンリー、マリータ」
「強いのね、貴女も。見るからにボロボロのフラフラじゃないの」
「こういう時は何としても勝つっていう気概だ。魔力と精神力に左右されるぜ、魔法ってのはよ。全身硬化!」
「無茶する気か?」
「あいつらが勝ったんだ。例え無茶しようともあたしらにも出来ない筈が無い」
残り少ない体力を振り絞って、出血して足元が覚束ないながらも戦っていく。メンタルはここ最近の幾たびかの強敵との戦闘で鍛え上げられている。
「でやぁ!」
『(この人、鋼の精神ね)』
「ああ、もう。やるしかないじゃないの……影牢!」
「鋼鉄牢」
『捕らわれた?』
「やるしかねえ。水蒸気爆発だ、おらぁ!」
『うぐっ!?』
二重の牢で囲い、逃げ道を塞いだ上で水魔法の高威力技で締める。こうすれば大概の敵は倒せるのだ。相手が魔族の中でも強い方であろう六芒星といえども、タダでは済まないだろう。
「はっ、まだ生きてやがる」
「左腕と右脚が吹き飛んでるわね」
「核はそこじゃねえのか」
「普段なら再生出来るけど、もう魔力が……」
「もうお前は終わりにしてやる」
「そうね。でも、役目は果たしたし」
「まさか……くそ、でやっ!」
「ぶっ!」
最期に言い残した不穏な言葉に、素早く絶命させて壁を無くし、すぐさまもう一つのチームに推察される情報を伝えねばなるまい。おそらく封印がやられたのだろう。
「無事か?」
「アニー、ナンナを頼む」
「うん」
「フィリー、一杯食わされたかもしれん。封印がやられた可能性がある」
「みたいだな。街近くの封印の鍵の祠を見に行くぞ」
「まずは大聖堂の封印よ。そっちを見れば状況が分かるわ」
中央広場近くの大聖堂の前では、国軍が壊滅している姿があった。ここまで蹂躙されているとは驚きだ。まずは回復と無事の確認をしてから話を聞く。
「これは、国軍が……」
「皆さん、無事ですか」
「貴方達でしたか。封印は、もう既に……」
「魔獣ですか」
「ええ。しかも3体ほど。目的を果たしたら消えました」
「国軍でも倒しづらいって感じか」
「結構な手練なんだがな。駐留軍の数を減らした俺の判断は間違ってたな」
「フィリー」
「ま、今更後悔しても遅いか。今から出来る事をせねばならん」
「ならばエイル殿の街へと向かうのはどうだ?」
「グリニエか」
「今なら間に合うのではないですか?」
「あそこには国軍を沢山動員しているし」
「そうだな。急ぐぞ」
特急列車に乗り込んで急ぎグリニエへと向かう。あそこには最後の封印があり、これを狙ってくるのは必至だ。近づくにつれて街の様子が見えてきたが、大方の予想通り荒らされている状態だった。既に敵方の攻撃を受けて壊滅していて、国軍もかなりの影響を受けていた。そこには満面の笑みを浮かべている存在が2人、木の上からこちらを見下ろしている。そのうちの1人は、ワルツだ。
「こ、これは」
「間に合わなかったか」
「また会ったな、人間共」
「ワルツぅ……テメェ、良くも」
「まさか隣に居るのは」
「私はユフィ・ハルトラーじゃ。初めて会うかの、私の星々を殺めた愚民共」
「お前が六芒星の言っていた、魔王の娘か」
「左様、如何にも。これからは魔族の時代の始まりじゃ、人間共は消え去る運命にある」
「させるかよ。ぼあっ!」
「ほほほ、他愛もない」
「けっ」
「む、追撃弾だ」
「後方で爆破させて追尾とは、考えおったな」
「隙だらけだ」
「ぬおっ!」
「(目を逸らしているその間に直進とは、考えたな)」
一発入れなければ気が済まない。ここまで被害を出した魔王の娘ならば、今この傷で勝てるか分からないが、とりあえず宣戦布告として殴るくらいはしておこうと考えていた。ユフィもそれを承知なのか、受け取った上でゆっくりと退散していく。
「まあ良い、ここで遊んで良いが、私は忙しい故な。ここでさらばじゃ」
「また会おう、脆弱な人間共」
「待て、まだ話は終わってねえぞ!」
「落ち着けフィリー!」
「放せ、ナンナ!」
「今、傷だらけの状態で不用意に突っ込んだら死ぬ!気持ちはあたしらも同じだ!」
「くそ!」
とりあえずまとめ役の1人、エイルの元に向かうと傷だらけの状態で治療を受けていた。真正面から戦ったのか、誰かを庇ったのか、重傷だ。
「エイルさん!」
「あ、ああ、フィリーさん達か。託された物があったのに、済まん」
「謝る事ぁねぇよ。相手が悪かった」
「逆に敵の本隊相手に良く生きてたな」
「重傷者は居るものの、犠牲者は無しだそうです」
「後はゆっくり休んでくれ。今後の事は俺らに任せてくれ」
これからどうしたものだろうか。何か色々と後手に回っている印象が拭えない。しかも封印が全て壊された今、魔王復活は時間の問題だというのが既に確定している。だが、残るのは
「確かに気になるね」
「魔族の世界になろうとも、あいつにメリットなんてあんのか?」
「分からん。研究が進む以外に大きなメリットがあるのか?」
「それに関してなら奴がぶつぶつ話している内容が聞こえたんだ」
「エイルさん?」
魔王の力で以って世界に名を轟かせ、更にその魔王を越えようというのが彼の目的だ。即ち世界の支配を目論んでいるのだ。人間と魔族を超越した地位に昇り詰めようというかなりの大望だ。
「やらせん、やらせんよ。ワルツの計画は俺らが頓挫に追い込んでやる」
「フィリー?」
「俺のこの血肉は様々な人々から受け継いだ物だし、少しばかりだが我が心には魔族に託された希望も宿っている。己の野望の為に、そいつらや無垢なる民を犠牲にしようなど……あってはならない」
「信念に真っ直ぐ。それが貴方らしさね」
「……待っていろ、カリア・ハルトラー。俺らがお前を倒す。今度こそ、人類の為に、魔族との確執を終わらせる為に。だあっ!」
「な、何だ!?」
「紫の火を纏ったの?」
「おお、今までにない激情が見て取れるな」
紫炎という高温の炎だ。感情に応じて様々な色に変化するのがフィリーの放つ炎の性質なのだ。その頃、街を離れたワルツとユフィは今後の事を話し合っていた。
「ふふふ、これで復活も近いのう」
「約定通り、頼むよ」
「うむ、任せておけい」
「魔王の力さえあれば、我らの望む道は近づくというものだ」
「そうじゃのう」
「(いずれ貴様らも出し抜いてやる。最後まで残り、頂点に立つのはこのワシだ)」
そう、全ては己が世界の頂点に立つ為の布石に過ぎない。魔王の娘も、自分の配下も、魔王でさえも道具や手段である。手段は選ばない。最後に成功すればそれが正義だとでも言わんばかりだ。さて、ギルドに帰ってフィリー達は状況を包み隠さず全てマスターに話していく。
「ああ、遂に封印が……」
「済まん。俺の実力不足なばかりに」
「良いんだよ。それより、今後の敵の動向か」
「最後の準備をしているんだろうぜ」
「おそらく首都、王都のグラン・フィレーンにて復活を宣言するだろう」
「王城をまず狙うだろうな」
「各地のギルドのメンバーや、闘技場で戦った人員を動員してもらおうかね」
「魔族の協力者も居る。今回こそ、彼らとの関係を修復する時だ」
2日後、王城前に集められたのは各地に点在するギルドの優秀な魔導士や傭兵、個人営業の戦士達だ。その中にはかつて共に戦ったバースやユウギリも居るし、助けてくれたゴルディアも駆けつけてくれた。魔族の方からも協力してくれる者達が数十名程居る。しかし、これを纏めるのは難しい。互いに信頼できていない者同士だ、いがみ合うのも無理のない話だ。
「おいおい、こりゃどういう事だ?」
「魔族と協力しろって?」
「俺が頼んだんだ」
「けっ、フィリーの頼みじゃなきゃ聞かなかったな、こんな戦闘」
「こっちこそ、人間と共に戦えと?」
「俺らにとっても利のある選択だ」
「本当か?」
「ああ」
ここで纏まるにはどうすべきか、腕の見せ所だ。皆の前に立ち、言葉を紡いでいく。ここからは人魔の共同戦線だ。互いに信じ合えるか、そこが運命の分かれ道となる。一朝一夕でどうにかなるとは思わないが、ここはよしなに頼むと。無理に従う事はない、自分達の立場もあるだろう。だが、ここで立ち向かわねば未来はない。だから、どうかついてきて欲しい。
「……」
「俺ぁついてくぜ」
「ワシもじゃ」
「キキ、そうだそうだ」
「バース、ユウギリ、ゴルディア」
「頭を下げるな。その代わりに背中で勇姿を示してみろ」
「サンキューな、バース」
「こいつが言うなら、一度だけだ。示してみろよ、お前の
「仕方ねえな。今回だけだ、そいつとの約束だしよ」
「皆の衆、感謝する」
「上手くまとまったな」
「リュートさん」
「久しぶりだな、ユウギリ」
「うむ、数年ぶりかの」
さて、奴らは何処から現れるのか。様子を窺っていると急に空が暗転して周りが薄暗くなっていく。まだ昼間だというのに黄昏時の様な暗さだ。しかも少しばかり寒気がするのだ。そこに現れたのは、ユフィとワルツだ。様子見でもしに来たのだろう。
「ほほう、人間と魔族が共同戦線とは」
「くだらん。実にナンセンスだ」
「おいでなすったか」
「魔獣達よ、此奴らを消し去れ」
「出たな。ここは俺らに任せろ、お前らはあいつらを」
「ワシらはこの先で待つ。追ってくるかは好きにすると良い」
「テメェらだけは放って置けねえ」
魔獣を召喚したワルツらは全てを見届けるつもりはなく、上空に現れた渦へと向かう。あの先に魔王が顕現すると考えられる。即ち、奴を止められる人間が行く事になる。
「あいつら、上空の渦に向かったな。魔獣は俺らで止めるとして、あっちは誰が行く?」
「そりゃ決まってる。俺らのチームだ」
「やはりそうなるかのう」
「こっちは任せとけ」
「キキッ、そうだそうだ」
「一世一代の大仕事が運命の分かれ道になる戦か。やるしかねえな」
魔獣達がこちらに向かってくる中、フィリー達は円陣を組んで最後の言葉を交わしていく。皆、覚悟は決まっている。七英傑の力を貸してもらった頃からいずれこうなる事は分かっていた。
「俺らでやれる事、それは後ろを信じて前へと進む事だ」
「生きて帰ろうぜ、全員で」
「命を賭して、全力でな」
「あたしらの出会いは壁を乗り越える為のものだったのかもねえ」
「言えてるわね」
「傷の事は私に任せて。それを恐れず前へ」
「師匠、行きましょう」
「これで最後の決戦だ!覚悟は良いな!?」
「「「おおおっ!!!」」」
新しき世の七英傑、いざ出陣の時だ。上空から降りてきた階段を駆け上がり、目指す先には先祖達の戦った魔王達が居る筈だ。登る事数分、いよいよ目の前までやってきた。
「態々階段を作って呼び込むとは、余程の自信があるんだろうぜ」
「ったく、人間と魔族を舐め切った態度、気に食わねえな」
「もうすぐ突入します」
「恐らく中で魔獣が待ち構えてるわ」
「行くぞ。3、2、1……突入!」
突入してみると、何とも言えない不気味な空間が広がっていた。外の世界ではあり得ない程の精霊力と魔力の乱れで空間が混沌としているのだ。これが魔王の世界かと驚きを隠せない。こんな空気の中で正気でいられるとは考えられない。
「何かが凄い渦巻いてるよ」
「この瘴気に似た空気を俺らの世界に溢れさせる訳にはいかんな」
「そうですね」
「ようこそ、人間共」
「ワルツ。まずはお前からか」
「くくく、そうだな」
出迎えてきたのはユフィではなくワルツの方からだ。丁度良い、あちらから現れたのならここで潰すまでだ。周りには機械魔獣は居ないみたいだし、戦力を分散されないから比較的戦い易かろう。
「今回は我が傑作を見せてやろう」
「何をする気ですかね?」
「周りに魔獣は居ないわよ?」
「ふん、貴様らに特別に、最期に見せてやる。ほれっ」
「マントを取った?」
「まさか、自分自身を!」
「そういう事だ。ワシ自らがワシの最高傑作となったのだよ」
「正気の沙汰ではないな」
「正気を保っていてはこの研究は出来んよ、
「その発想、唾棄すべきものぞ」
「所詮我々は分かり合えぬ」
己の体でさえ実験体に過ぎない。だが、これまでの研究の集大成だから生半可な機械は組み込んでいないだろう。ここから最終決戦に向けて進んでいくのだ。
「さあ、始めようか」
「すぐに終わらせてやらぁ」
「くくく、楽しみだねぇ。ワシの研究の成果と貴様らを観察した結果、全てを合わせた結果が見える時だ」