最後駆け足となりますが、これにてこの小説は最終話となります。
最後までご覧いただきありがとうございました。
次回、別の小説でまたお会い出来る事を楽しみにしております。
ではどうぞ。
ぽおくそてえ。
「紅炎龍虎!」
「火の竜と虎が幾つも迫ってくるか」
「テメェに近づいて噛み付いた時点で、はあっ!」
「爆破か」
「本来は
「手始めはこれで良かろう」
一気にカタをつけるのは難しいから、皆の魔法を少しずつ当てていく寸法だ。フィリーの炎と爆破を組み合わせた魔法でまずは様子見をしてみる。相手は仮にも魔王、復活したてで操れる力が全力だとは思えないが、何が起こるか分からない。油断大敵だ。
「やはり継承者なだけある。威力は奴らより上か?」
「俺らは彼らを超え、テメェを確実に滅する」
「その前に外が保つかな?我が呼び出した魔導兵を前に」
「流石に無策ではないか」
「こいつを早く倒さねえと外の仲間が危ういぞ」
「あいつらなら粘ってくれる。今は目の前のこいつだ」
「あいあい」
七英傑でさえ成し得なかった魔王討伐。ここで倒さなければハルモニアは愚か、隣国を含む全ての命が危険に晒される危険がある。更には隣の大陸へと魔手を伸ばしかねない。だからこそなんとしてでも勝つ。封印ではダメだ、狙うは完全な抹殺だ。魔法薬もあるからありったけの魔力を放つしかない。
「行きます。雷獣叫声!」
「その魔法には……こうだ」
「私からも補助させてもらうわよ。はっ」
「ほう、闇魔法か」
「空に溶けた?」
「風魔法だ。風使いにとっては珍しくもない、至って初歩の魔法だ」
「でもこのままじゃ一方的に……」
「俺が捉える。そこだ」
「ぐっ……ふむ、やはり7つの属性が集まるだけあって油断ならんな」
「侮るなよ、人間の底力を。海爆馬歩靠!」
「おっと」
立て続けに6人で代わる代わる魔法を放って、相性の良い属性を絞らせない。それでも一つずつ攻め寄せた相手に対処していくあたり、流石は魔王だ。復活したてとはいえ、あの七英傑が苦戦しているだけあって戦い慣れている。それでも越していかねばならない壁だし、越えていけると思っている。
「風刃・十字切」
「飛び降りながら斬るか、器用なものよ。我も返しに竜巻を喰らわそう」
「ぐあっ!」
「燐粉九撃・無念無想!」
「これが人間の、『炎雄』と名高きラーズの纏っていた力か」
「だらあっ!」
「うぐっ……だが、隙あり」
「ぶっ!クソッタレ」
まずは接近戦でジョージとフィリーが仕掛けるが、対処されて返し技をモロに喰らってしまう。続いてやってきたのはナンナとヘンリーだ。せめてフィリー達が立ち直るまで時間を稼げれば、それで良い。
「あたしの槍術を見せてやるかね」
「金の槍か」
「私の闇の炎を纏わせるわ」
「この光も石突にどうぞ」
「来い」
「俺が援護する」
「ヘンリー、助かるぜ。振り回すから注意してくれよ」
闇炎と光を纏った槍を振り回し、突き、薙ぎ払う。それに合わせる様にヘンリーが水を纏って蹴りやパンチを繰り出していく。上下左右と斜めを含めてあらゆる方向から攻撃をしていく。
「そあっ!せい!」
「蒼水脚!」
「ふふふ、楽しませてくれる。この傷は我に生きる実感を与えてくれる!」
「紅炎凸肩!」
「ごふっ!」
「フィリー!無茶するな、薬が効いてるとはいえ!」
「遮二無二やるしかねえんだ。なりふり構ってられるか!」
「仕方ないわね、私もついていくわ。暗闇より
「援護します、師匠。琥珀の雷枝!」
「やはりチーム相手は厄介ぞ。ぼあっ!」
「うわっ!」
「きゃあ!」
フィリーの得意とするドーム状の爆破とそこから派生した風砲。更にそこから火の息吹を放って英傑達にダメージを与え、距離を取る。こうなったらこちらは融合魔法や合わせ技をしていくしかない。
「ジョージ、風だ!」
「あれだな?よっしゃ!」
「何をする気ぞ?」
「「緋風・翠炎の誓い!」」
「あれは融合魔法ですか?」
「相性が良いもの、あの2つの属性は」
「ふふふ、これだ。これが我の求めてた強者の魔法」
「頑丈だぜい」
「人間の体から生まれたとは思えねえ頑丈さだな」
「ほう?知っていたのか?」
「詳しくは全くだがな」
この魔王は依代となった男の弱き心から産まれたのだ。人の心の絶望から産まれたからか、魔法を引き出す想像力は普通の人間とは比にならないという。それにこの体は必要な魔力を多く持つ魔族の血を引いていたのだ。だから属性も威力も上がっているという。自慢げに話している間に援護していたアニーがフィリーの元へと駆けつける。何か考えがあるらしい。
「……」
「お兄ちゃん。ちょっと良い?」
「なんだ?」
「あのね……」
「なるほど、その手があったか。今はそうする他ないか」
「どうした?」
「皆の衆、アニーの為に道を作る。その前に少しでも奴の力を削るぞ」
「ん?おいおい、そりゃ危険じゃ」
「少しでも勝てる為に必要なんだ。アニーの提案だ」
「ちっ、仕方ねえな」
アニーがフィリーに何を伝えたか知らないが、彼女にしか出来ない手段なのだろう。だから、その言葉を信じて、とりあえず道を作って発動できる様に体力や魔力を削る。まずは範囲攻撃をフィリーが放っていく。
「桜火吹雪!」
「むっ?爆破する火の粉を飛ばすか」
「そらよ!」
「ぐっ、熱いな」
「はいや!」
「今度は光の流星と?吸い取る」
「隙あり!」
「ぶっ!(4人同時の攻撃か!)」
カトレアとフィリーの作り出した隙にヘンリーら追撃部隊が呼応する様に魔法を発する。重なり合った魔法は爆発を呼び、大いなる威力で以ってカリア・ハルトラーに襲いかかる。
「左腕を吹き飛ばす程の魔法の集合とは」
「四つ集めると爆破するんだな」
「みたいだな」
「だが、これくらいの傷なら再生させるのは容易い」
「うげっ、気味悪いぜ」
「マリータ、カトレア。鎧、発動だ」
「ええ、黒曜の鎧!」
「杏雷の鎧!」
「おし、一気に攻めるぞ。アニー、今方法を探るんだ。ヴァルキリーに聞けば何か分かるだろうぜ」
「うん」
封印に解印、強化弱化などなど凡ゆる補助魔法を極めたであろうヴァルキリーならこの状況を打破する何かを知っているだろう。アニーが答えを聞き出している間は何があろうと守り切る。格闘する事五、六分。手数で以って後ろで瞑想しているアニーを狙わせない為にやれる事は何でもする。少しでも時間とダメージを稼ぐのだ。
「……」
「まだか」
「まだみたいだぜ」
「そうか」
「結構ダメージ稼いだつもりだけど」
「いや、油断するなよ」
「ふははは!楽しませてくれる!」
「キツイですね。6人で攻めてもそれを上回ってくるなんて」
「限界上等。緋炎・真星!」
「強化のその先?」
「何ぞ、この様な力は奴らは覚えておらなんだ」
「つぇあ!」
「がはっ!」
「速い!」
「うっ……(一発打っただけで右腕が悲鳴を上げてる。あまり何発も放てる力では無いな)」
人間の体が耐えられる強度を超えている可能性がある。だから一発何か魔法なり拳なりを振るえば負担がかかって痛みが出たり傷が増えたりする。この2段階強化は本来魔族の特権の様な魔法だ。純粋な人間のフィリーには厳しい。さて、その強化で押している間にアニーの対話が終わる。
「いけるよ」
「そうか。皆続け!」
「大丈夫かよ、それ!」
「勝つ為には必要なんだ」
「フィリー、一旦下がれ。俺らで道を作ってやる」
「何度立ち向かってきても同じぞ」
「それはどうかな?とぉう!」
「魔力全開!雷球連弾!」
「鋭地槍!」
「(むむむ、かなり効くな。復活したてではこうも体が鈍っているとは)」
「いけるぜ。アニー!」
「うん!やあっ!」
「な、なんだ!」
アニーの掌がカリア・ハルトラーに触れた瞬間、異変が起きた。人間の体にまとわりついてた力が剥がされて人間と魔族の2つに分たれた。そう、これは精神と肉体を分離させる超高難度の付加魔法だ。これにより魔族としてのカリア・ハルトラーと元となった人間の2つに分けられる。
「成功だね」
「分離した?」
「男と魔物に分たれた」
「これが、カリア・ハルトラーの精神体」
「つまりは本体……なの?」
「この男に取り憑いてたとは」
「バカな、何故我を引き剥がせた!?」
「魂の付加術だよ」
「ヴァルキリーの能力か!」
「お兄ちゃん達、あとは任せたよ」
「任せな。こっからは真っ向勝負2回戦だ」
「この、邪魔者共が。これで終いにしてやる」
「テメェを倒さねえ限り、人の道はねえ。テメェは俺らが倒す!例え命に代えてでも!」
「我は貴様らとは相容れぬ。我の望む世界へと導くには不要だ」
「テメェが望む世界は、俺らの目指す世界とは違う!魔族衆と約束したんだ。未来を作ると。お前の作る世界には、俺達人にも魔族にも希望なんて有りはしないんだ!」
アニーは全力を出し切ったからか、魔力切れを起こした。彼女の力の影響で魔王は不安定な状況となり、魔法の威力が落ちている。倒すならあの体に再び取り憑く前に、だ。
「灼熱放拳・焔!」
「消してやる……っ!」
「水の相殺ならお手のものだぜ。進め、カトレア!」
「背負い投げ、えいやっ!」
「やるじゃねえか、ヘンリー、カトレア!」
「ぐわっ、熱い!」
「闇刀!」
「ほう、闇の剣か。我を包む炎も最初さえ乗り切ればまた武器となる。ほれっ!」
「ふっ」
「っ!?」
「風の力を侮るなよ。時に風は火を盛り立て、時には消すのさ」
「こうなったら」
「おっと、逃げ場はねぇぞ。
「複数属性のチーム、やはりというべきか厄介だな。ふん!」
「壊しやがった」
「くそ、斬る隙が無かったわ」
弱まっている状況を活かすには6人で一部の隙も与えない連続攻撃を仕掛けるのが一番だ。遠距離も近距離も合わせて撃ち込んでいくしかない。
「琥珀の雷枝!」
「泥土壁!そして、水連弩!」
「ハクフ地方の武器の応用か」
「大氷壁!おい、今の内に急げ」
「分かってらあ。全員左右に散れ!」
「やらせん。雷光重波!」
「おっと、やらせねえよ」
「厄介な氷だ」
「頼むよフィリー!鉄心弾丸!」
「上からか。ふん」
「隙あり、魔力全解放からの烙炎双打!」
「くっ!」
「当たった。だが、この程度じゃ……」
攻撃が当たる度に少しずつ存在が揺らぎ始め、滅亡へと向かっているのが手に取るように分かる。だが、拳一発を当てた程度じゃ何時間もかかるだろう。高威力の魔法を当てる方が効率は良い。
「雷星!」
「これで対抗しよう、地獄の
「狙い通りだ、順風拳!」
「させぬ、黒風白雨」
「相殺じゃあ、水冷蒼波!」
「じゃかあしい!」
「これに乗れ。鉄のサーフボードだ」
「おう。しゃあ!」
「そのままの勢いで進め!」
「(この連携力はなんぞ?)」
「やらせてもらおう、直線爆拳!」
「ぶふぁっ!?」
ここからは魔力の乗った拳法をお見舞いする。何処で覚えたのか、もう覚えていないが、この力は傭兵時代から培ってきた経験に裏打ちされた力だろう。拳数発に上段蹴り、足払いに蹴り上げ、蹴り下ろしと続く。1人が皆を信じ、皆が1人を助く。
「ぬっ!蹴り下ろし?」
「だけじゃねえ。捉えた!」
「ぐっ、空へと誘うか」
「喰らいなさい、
「ぬぉう!」
「ナンナ、石油を。ジョージ、風を」
「ああ」
「何するか知らんが任せろ」
「行くぜ、三位一体!紅蓮鳳凰!」
「ぐああっ!」
3つの属性力による強力な融合魔法を発する。石油と風で炎の威力を引き出して範囲も広げていく。逃げ場のない魔法が魔王を襲い、どんどん追い込んでいく。分離した魔王の姿もぼやけ始め、次第に
「ナンナ!」
「任せろ!」
「挟み撃ちかね。単純ぞ、やらせん」
「5方向からならどうだ!」
「見えておるわ!ふんぬっ!」
「うおっ!?」
「きゃあ!」
「俺と同じドーム型爆撃か。まだそんな力が残ってるとは」
「水線銃!」
「気をつけろ。この魔法、岩をも貫くぞ」
「アニー、危険だから下がってな」
「う、うん」
追い込まれた獲物ほど派手に暴れる。その言葉を体現するかの様にカリア・ハルトラーも最期の力を振り絞って1人でも道連れにしようと踠く。相手を少しでも早く沈める為にもこちらもありったけの力を絞り出す。
「ナンナ!岩を落とせ!」
「おう!」
「やらせん」
「おっと、お前の相手は俺らがしてやんよ」
「邪魔だ、退け」
「るっせえんだよ、魔王如きが!」
「今行けるか、フィリー!?」
「おう!2人の魔法を合わせる!ナンナ!」
「任せろ!」
「全員退避完了だ!」
「行け、お前ら!」
魔力を練り上げて組み合わせるだけの時間は稼いだ。ここで放つのは七英傑ですら困難な高度な魔法だ。火の魔導を全開して放ち、土の魔導の最大出力を組み合わせる。その魔法の名は超高等魔術・炎灯崩星。燃ゆる巨大隕石は空から呼び出され、魔王だけを巻き込む様に繰り出された。これには流石に耐えられず、ほぼ存在が消えかけている。
「(くっ、かなりのダメージが……)」
「魔力を消耗しているし、相手もかなり弱ってるはずだ。一気にカタをつけなきゃよぉ」
「だな。集まれ!」
「何をする気よ?」
「融合魔法だ。これで締める」
「うががっ……貴様ら如きに、貴様らなんぞにぃ!」
「なっ!?6本の新しい腕が!?」
「それはまさか、三面六臂の存在か!」
「究極奥義、六道阿修羅。全員援護してくれ、これでぶっ潰すつもりだ!」
「おう!」
「外の連中が雑魚共を倒して奴の体力などを削ってくれてる!」
6つの腕が左肩から現れた。この力で放つ攻撃の6属性は、悪き心を祓い清めるとされる。これを練り上げて叩き込む為には時間が必要だ。だからフィリー以外の5人で少しでも勝てる様に時間を稼ぐ。
「まだか!」
「今力を引き出してる」
「お前らぁ、耐えるぞ!希望はそこにある!」
「(魔導士は相身互い。この関係、良いな!)」
「フィリー以外の属性を組み合わせる!五行の息吹だ!」
「畳み掛けるぞぉ!」
「む、これは……よっしゃテメェらぁ、力が溜まった!行ける!」
「来たかい!」
「全員退くぞ!」
最期の足掻きに絶対誰かを殺していく覚悟が魔王にはある。だが、味方を誰1人失わせない覚悟はフィリーにもある。この旅路に出てから培われた皆との絆で魔王を滅する。
「これが、俺達の絆!阿修羅唱撃!」
「ゴアッー!」
「ふんぬっ!」
「ばっ!?核ごと貫く……だと?」
「これで
「ぶっ、ばはっ……」
「消えた……」
「やった、やったぞ!」
「まだ油断するな。ここから脱出するぞ」
「おう!」
「お疲れ。帰ったら回復するから」
これで魔王や悪しき魔族との因縁は断ち切られた。これからは共存に向けて少しずつ歩みを進めていく時代となるだろう。一旦外へ出て皆に無事を報告せねばなるまい。その頃外では魔王の生み出した兵隊達は消え去り、戦っていた人魔連合軍は中で何が起こったのか察した。そして、勝利を確信して勝鬨を挙げたのだ。
「闇が、消えてゆくぞい」
「やったのか?」
「キキッ、敵、消えた。あいつら出てきた」
「よお、皆の衆。無事な様だね」
「おお、出てきたかい。心配したよ」
「皆の力を合わせたから勝てた。外で皆があいつの体力と魔力を削ってくれて助かったぜ」
とりあえず無事に脱出できた。ここで座り込むと、途端に緊張の糸が切れたのか、あるいは体力が尽きたのか。その場で倒れ込んでしまう。無理もない、連戦の上に裂傷の多さと魔力切れが重なったのだから。だが、目的を果たして先祖達の悲願もここに成就したのだから、まずは重畳と言うべきだ。そこに国軍の隊長がフィリー達に近づいてきて国王の言葉を伝えにきた。
「ふう、死ぬかと思ったぜ」
「これで魔王の系譜に終止符を打てたな」
「フィリー殿、国王陛下が
「人使いが荒いお方だ。分かった」
「お陰様で我らはこの先も暮らしていけます。皆の衆!フィリー殿に、最敬礼!」
「「「はっ!!!」」」
「ありがとよ」
魔王の憑依していた男の体をヘンリーが持ち帰ってきていた。事情を知らない者からすれば、一体誰なんだといった感じだ。この遺体は丁寧に埋葬しなければ化けて出そうだと連れてきたのだ。
「こいつは?」
「カリア・ハルトラーの憑依していた人間の男だ」
「ほう」
「具体的にどうしてかは分からんが、魔王はこいつの心に棲みついたとか」
「ふむ。まあ良い、この者の屍は丁重に埋葬しようぞ」
「頼む。これで無念も晴らされるだろうぜ」
この場の魔導士と魔族達は解散して各々の帰るべき場所に帰っていく。残ったのはフィリー達『真・七英傑』と後の世に語られるチームだ。フィリーは皆に最後までありがとうと感謝を伝えていた。お陰で人類と魔族の一部にあった数百年にわたる因縁に、終止符を打てたからだ。
「いえ、我々はチームです。協力するのは当たり前ではありませんか」
「そうだぜ……思えば長かった様な、短かった様な。そんな冒険譚だったな」
「ああ。色々とあったが、俺は皆とチーム組めて良かったよ。心からそう思う」
「そうね。大怪我負ったり見知らぬ魔法に目覚めたりしたけど、不思議と後悔は無いわね」
「そうだね。お兄ちゃんに出会わなければ経験しなかった事だもんね」
「あたしも同感だよ。あのまま一生義賊のままだったかもしれないし……なああんた、体は大丈夫かい?」
「ん?どうしてそう思うんだ?」
「最後に全力出してたんだ。何処かにガタが来てると思ってさ」
「……良く見てるな。右腕があまり良く動かねえんだ」
「じゃあ!」
「心配するな。そのうち動く」
これからは別々の道を歩む事になろうが、彼らは仲間だ。いつでも助け合ってやっていこうと思っている。この旅路は楽しかった。これからもそれぞれの道に平穏の在らん事を願って。翌日、英雄達は国王ロイド陛下に状況報告を兼ねて謁見していた。
「魔王討伐、ご苦労。国と民を守った事、大義である」
「はっ」
「褒美をつかわす。叶えられる物なら与えよう。何を望む?貴殿を親の官職に戻す事も可能であるぞ?」
「ふむ……」
「師匠?」
「お兄ちゃん」
「チャンスだぜ、もらえる物ならなんでも有りだ」
「ならば平穏に暮らせて、今回の件であらぬ疑いでとっ捕まったりせず、不自由なく仕事に取り組める生活。それと魔族と人間が共存し、互いに無駄な犠牲を伴わない平穏なる世界。そんなところですかね」
「ほう?」
「おいおい、それで良いのかよ」
「ああ。陛下、これが私の望む物です」
フィリーは高望みはせず、人と魔族が共存した世界で悠々自適な人生が送れればそれで十分なのだ。それで良いのかと問われ、魔族と人間の生活が交わり、新しい世界が訪れる事。それ以上は望まないのだと答える。
「ほう?変わっているな」
「重々承知の上です。これをお伝えし、最終的に実現出来るのは陛下しかおりません」
「ううむ」
「陛下」
「我々から申し述べさせていただきます」
「彼の具申の是非はそれからお考えくだされ」
「グリートリヒ侯爵とブルヴィエ伯爵、フレディ公爵か。何か申し伝えたい事があるのか?」
「はっ」
フィリーと交流があったり仕事の依頼を通じて知り合った大貴族達が今回の具申に対して自分達の意見を伝える。まず持ってきたのは今までのフィリーがしてきた功績を書き記した書類の束だ。
「これは?」
「彼のこれまでの実績でございますれば」
「ふむ」
「魔王討伐に関しては特に力を合わせたからこそ成し得た偉業にございます。魔族と人間が互いに手を取り合ってこそ到達できた高みです」
「それはそうだ」
「彼らはただ力を
「先王様に見出された人格、保証いたしましょう。我が愚息とその仲間は民の為に力を発揮する人物達でございます。ご安心めされよ」
「そんな彼が申し伝えた理想郷。彼が発起人と聞けばあらゆる種族が協力しましょう」
「そこまでの覚悟があるか……分かった。協力してもらうぞ」
「ははっ」
国を挙げて人と魔族の交流が為される様に尽力していくと約束する。これからはフィリーも理想郷となる国作りのために過ごしていく。
「心得た。先代からの忠義、大義であった」
「ありがたきお言葉」
「これからは広く民の為に、困った者の為の魔導士としての働きに期待しているぞ」
「はっ」
「これは報酬だ。2年間働かずとも暮らしていけるくらいの金だ」
無事に謁見を終えて帰りの列車の中であれで良かったのかと友に聞かれた。フィリーは元はただの流れの傭兵だったのだ。膨大な褒美なんざ彼自身は似合わないと思っている。2年分の金と理想郷への協力で充分だ。
「変わった奴だな、あんたも」
「自由な気風が俺を形成してるんだ。この信条以外ではあまり縛られたくはなくてね。お前らもお前らだ。何故陛下より褒美を受け取らなかった?」
「褒美を貰いたくて魔王を討伐した訳じゃないからさ」
「そうだよ。あんたに影響されちゃったかね」
「師匠が微々たる量しか受け取らないのに弟子が受け取るのも如何なものかと思いまして」
「はあ、お前らも変わり者だね。ま、それはさておき、これから俺らはギルドの一魔導士に戻る。ヘンリーとジョージはどうする?」
「兄が侯爵家を継ぐだろうから、俺は一般人とそう立場は変わらなくなる」
「言いたい事はほぼ右に同じだな」
「だからギルドに残るってか?」
「それ以外の生き方が無いからさ」
「それもそうか。俺は歓迎するぜ」
「ギルドで働いている方が輝いてるよ」
「是非ともよろしくお願いします」
ギルドのある街が近づいてきた。ようやっと平穏な日常へと戻ってこれたのだと徐々に感じていく。マスターやギルドの皆の衆、市民が彼らの帰還を待ち侘びてるという。これで古より続く人と魔王配下の者の戦いは終焉を迎えて、これからは共存の時代となるのだろう。
「師匠の力あってこそです」
「いや、俺の力なぞ微々たるものだ。お前達は無論の事、力を貸してくれた人々や魔族の皆のおかげだ」
「驕らず
「えっ?」
「英雄凱旋って感じの良い歌が出来そうだな」
「やれやれ」
駅に辿り着くと既に事情を聞いていたのか、街の住民やギルドの面々、更には近隣の街からも人々が集まってこの瞬間を待ち侘びていたのだ。拍手や口笛が響き渡り、大歓声で以って迎えてくれた。
「皆の者、長らくお待たせした!」
「おお、あれが……」
「カッコいい」
「若いのに素晴らしいね」
「英雄達の凱旋だー!」
「なんか恥ずかしいね」
「ほらほら、そんな事言ってないで前に出な」
「おい、押すな」
「お、花貰っちまったぜ」
街の人々から握手を求められ、包帯をしていない左手で応える。数々の敵と対峙してきた力強い手だ。更に別の人からはサインしてほしいと頼まれて、こんなので良いのかと思いながら書くと感謝の言葉を受け取った。1日にしてただの貴族が超人気な英雄に昇格していたのだ。フィリーはすっかり人気者だ。チームのメンバーも国や大陸を救った英雄になった。なにより
「無事に帰ってきた様だね」
「話は聞いてるぜ」
「マスター、リュートさん」
「遠い世界に行っちまった感じだな」
「んな事ぁねえよ。リュートさんにはまだ敵わねえし、マスターの元で働きてえよ」
「ふむふむ。聞いたよ、親の持っていた官職への昇進を断ったんだってね」
「辺境伯になるつもりは毛頭ねえさ。正直荷が重い」
「やっぱり変わってるよ」
「リュートさんも似た者同士だぜ」
「ははは、言えてるな」
こうやって冗談を言い合って過ごせる時間こそ至高と気づけた瞬間だ。ギルドに戻ってゆっくりしていると、カトレアがいつもに増して真剣な表情を浮かべてやってきた。すわ何事ぞと感じていると今後の事だ。
「師匠」
「お?そんな真剣な顔してどうした?」
「これからについて色々と考えていました。考え抜いた末、独り立ちしようと思います」
「そうか」
「勝手な申し出ではありますが、何卒……」
「お前自身が自らの意思で決めた事なら反対はしねえよ。自分の実力を伸ばす為だろ?」
「はい」
「それなら尚更反対しねえ。でもあれだな、これからは師匠とは呼ばれなくなるのか」
「そうですね。これからはフィリーさんと呼ばせていただきます」
「頑張れよ。困った事があればいつでも頼ってくれ、仲間としてな」
「ありがとうございます」
これからは弟子と師匠という関係としてでは無く、対等な関係でいこうとなった。今後の事も考えておかなければならないが、取り敢えずまずはゆっくり休もうとなった。ギルドの倉庫に置いてあった酒が持ち出されており、これを皆で分け合おうとなった。
「酒呑もうぜ」
「良いね。酒は百薬の長というしね」
「なんだか日常に戻ってきた感じだぜ。おっとっと、その前に。ユナ!」
「はいよっと、お邪魔しますっす。大怪我してる割には元気に帰って来たみたいっすね。私の情報を有意義に使い
「はっ、相変わらずだな」
「これからも私ら情報屋をどうぞご贔屓に。では」
「おう」
「酒ならギルドに大量にある。皆で好きに呑みな」
それでは、魔王討伐からの帰還を祝して。そして亡くなった者達の為、献杯の音頭を取る。これまで魔族にやられた者、逆に不要な犠牲を被った魔族の霊魂が鎮まる事を願って。
「献杯」
「うむ」
「では勇者一行の代表としてフィリーから言葉をいただこうか」
「俺か?」
「あだぼうよ!他に居るか!?」
「ははは、そらそうか」
「いつの間にか50人近くも集まってるけど」
「確かに」
この戦いで共に戦ってくれたギルドの面々や魔族の戦士達に感謝の念を述べる。そしてこれからは共存の時代が来るから、共に歩んでほしいと。
「っと、こんな所だな」
「いよっ!大将!」
「かっこいいよ!」
「茶化すなっての」
「じゃ、歌おうかしら」
「俺の英雄譚よりこれまでに亡くなった者への
「分かったわ」
それから数時間、皆で酒を酌み交わして酒宴を楽しんだ。そして月が空へ昇る頃、ギルドの2階にあるバルコニーに1人で米酒の入った瓢箪を持ってやってきた。ここはギルドの穴場だからあまり人が来ない。盃に注がれた酒に映るのは春特有の月、朧月だ。こう言う風情ある景色を楽しめるのもこの席に来た者の特権といえよう。下では酒で潰れている者も居るだろうが、ここはそういった喧騒から離れた場所だ。
「(ふう、やっと1人になれた……朧月。季節も春か)」
「おや?あんたもここに?」
「ナンナか。一緒に呑むか?」
「良いね。お、朧月に米酒か」
「なかなかに粋だろう?」
「異国の花、サクラも咲いてて良い雰囲気だ」
「こうも落ち着いた日が訪れようとは」
「戦った甲斐があったね。死にかけたけど」
「そうだな」
「右手、動くのかい?」
「アニーのお陰で少しな」
2人でゆっくり盃を交わしながら酒を呑む。フィリーがここに来ているのを見かけたナンナが後を追ってきたのには理由がある。今まで秘めてきた感情を、酒の力を借りてぶつけてみようというのだ。
「なあ、フィリー。あたしから伝えたい事があるんだ」
「今は2人だけだ、ゆっくり聞かせてくれ。ほれ、酒」
「ありがとう。そ、その……私と付き合ってくれ!今のあたしにはあんたしか見えてないんだ!」
「えっ?」
「あ、いや、仕事にとか買い物にとか、そういう事じゃなくて……それもありだけど」
「ええっと、彼氏になってくれって事か?」
「う、うん」
「そうか……」
「断ってくれても良いんだ」
「そんな事するとでも?お前は友であり、仲間であり、そして……今からは一番大事な
「あっ……それってつまり……」
「まあ、そういう事。改めてよろしくな」
「や、や、やったー!」
「抱きつくなって」
「良いだろ別に!へへへっ」
仲間として後ろから守る立場から、横に並んで互いの力を合わせていく立場へ。これからは晴れて恋人となった。まさかこんな感情を持たれていたとは思っていなかったが、好意に喜びを感じているあたり、フィリーも満更でもなかったのだろうし、心の何処かで安心感を覚えていたのだろう。
「ふわあ、安心したら眠くなってきた」
「ゆっくり休め。今日は色々あったからな」
「肩、借りるよ」
「おう(さて、これからゆっくり呑むか)」
それから更に夜更けに向かっていく中、1人で瓢箪から直接チビチビと楽しんでいく。目を閉じて休むと気づいたら次の日になっていた。横から聞き慣れたマリータの声が聞こえてきたのだ。
「ここに居たのね?」
「んお?ああ、マリータか」
「あらあら、ナンナったら寝てるわ。それに2人きりだったんでしょ?邪魔だったわね」
「構わねえよ。で、今何時だ?」
「朝6時ね」
「確か最後に記憶にあるのは午前1時くらいだった様な……って事は、寝ちまってたか」
「ん?朝?」
「おはよう。2人とも姿が見えなかったから探したわよ」
「寝ちゃってたか。ふあぁっ」
「皆が起きる頃よ」
「ああ」
そういえば、ナンナはふと昨晩の事が気になってきた。どうしたのかと思っていると昨日のあれは夢だったのかと問うてきた。あれが何を指しているのか一瞬分からなかったが、告白の件だという。
「それは現実だ」
「うえ、やっぱり!?うわ、なんか色々と思い出してきたよ……」
「なんでい、今更恥ずかしいとか言うのか?」
「いやあ、ムードと酒の勢いって凄いなあと」
「そりゃ確かにあるな」
下の階に戻るとそこには起きているヘンリーとジョージが盃を持って酒を酌み交わしていた。主役が帰ってきたかと呑気に声をかけてきたが、彼ら2人はずっと起きて呑んでたのかと思ってしまう。
「さっき起きてからだ。なあジョージ?」
「おうともよ、ヘンリーよ」
「まあ良い、呑み直しに付き合え。起きてんのお前らくらいだ」
「良いね。芋焼酎ならあるぜ」
「こっちには米酒もある」
「肴はスルメイカだ」
「渋いねえ。ほら、ナンナとマリータも」
「お邪魔させてもらうわね」
「そういえばカトレアは?」
「アニーを寝かしつけに帰ったわね」
「悪い事しちまったな」
未成年で学生のアニーに夜更かしは良くない。だから鍵を渡して正解だったなと感じていた。フィリーとナンナはジョージが抱えていた芋焼酎をもらい、ジョージ達には米酒を渡して交換する。
「美味い。米酒も良いな」
「芋焼酎も悪くねえ」
「結構度数高くないか、この酒?」
「それが良いんじゃねえか」
「人によっちゃ米酒以上に酔いやすいかもな」
「まあ、悪くないかもだけど」
「おはようございます」
「おはよー」
「来たか。悪かったね、連れてってもらって」
「良いんですよ」
「お兄ちゃん達また呑むの?」
「しばらく仕事出来ねえから、これくらいしか楽しみがねえのよ。金なら有るし」
「まだ怪我が治ってねえしな」
「ギルドお抱えの薬師でも大変らしいからさ」「少しずつ私の魔法でも治していこう」
「ありがたい」
「じゃ、改めて献杯」
「うい」
そこにやってきたのはマスター・カリナだ。酒宴を開催してくれていたが、途中で翌日に響くと帰っていたのだ。皆が元気そうに笑顔で過ごしているのを見て微笑んでいた。
「おやおや、元気そうだね」
「マスター」
「酒くらいで文句は言いたかないけど、呑みすぎは厳禁だよ」
「分かってます」
「そうかい。昨日も散々呑み明かしてたけど」
「まあそう固え事言わずに。どうだ?マスターも呑むか?」
「私は仕事があるんでね。宵の口に
「そんなもんか」
宴は朝に密やかに行われていた。普段は仕事があるから出来ないから、久しぶりに朝から呑んだ。久々に楽しかった瞬間だ。
「お兄ちゃん、ちょっとだけ大人しくしてね。今から治療するから」
「分かった」
「いつも無茶してるから……」
「ああ。優しさが沁みるね」
「仲良いわね」
「大事な義妹だからな」
「ギルドに連れてきてくれてありがと」
「良いんだよ」
魔力や体力も回復した様で、両手を背中に当てて回復魔法をかけてくれる。彼女のフィリーを思う優しさが伝わってくるかの様だ。お陰様で体が少しずつ軽くなり、動かしやすくなる。
「はい、今日はここまで」
「お、少し動かしやすくなったな」
「無茶するからこうなるの。しばらく安静にしててよ?」
「分かってるさ。どうせギルドの仕事は当分出来ねえし」
「お、ここに居た様じゃな」
「バース、ユウギリ!」
「キキッ、俺も居る」
「ゴルディアか」
「祝いの酒だ。巨人族に伝わる秘酒、龍神酒だ」
「良いのか?そんな貴重な酒……」
「これから幾らでも作れる。英雄達にこれだけの量しか渡せんのが申し訳ねえが」
「結構多いな。皆で呑もうか」
この酒、普段呑む物と段違いの度数を誇り、どんな酒豪だろうと数杯飲めば倒れると言われる程の物だ。だからチビチビ呑むのが主流だ。しかもこれは喉を焼くほど濃い。
「かーっ、喉が焼けるほど濃いな!だがそれが良い」
「これが龍神酒。巨人族の大好物だ」
「うむうむ、歳を重ねると感じられる旨さじゃな」
「キキッ、美味い」
「これ良いね」
「ナンナも呑める口か」
「酒好きだねえ」
「がっはっはっ!俺らの長老が聞いたら喜ぶだろうぜ!で、フィリー。傷の方はどうだ?」
「まだまだこれからだろうな。完治にはもう暫くかかる」
「そうか。では少しでも良くする為に湯治なんてどうだ?」
「湯治か。良いかもな」
「ワシが良い場所を紹介しよう」
数日後、フィリーの姿はグリニット渓流にあった。ユウギリやバースの姿も共にあった。3人で行動するのはあの闘技大会以来だ。この場所にある秘湯はゆっくり体を休めるのにはもってこいの場所だ。
「ああ、温泉って最高だなあ」
「ここは傷に効能のある所でさ。リフレッシュ効果もある良い場所だ」
「ワシもここを巨人族の皆に紹介してもらったんじゃ」
「沁みるなあ」
「我々は昔から傷病を受けた者は医学の他、積極的に湯治に行かせてた」
「確かにこれなら
「湯上がりに牛乳を飲むのがここでの習慣だぜ。酒は呑めない」
「酒が呑めないのが残念だが、牛乳というのが斬新だな」
「この文化はサクラサカ公国が発祥らしい」
「彼の国は我が王国へ多大なる影響を及ぼしておるのう」
「そういやあ、ナンナがあちらの国王だったか公子の末裔だとかなんとか」
「ほう」
湯上がりの後に飲むのは牛乳が良いだろうとの事で瓶で渡された。これを不思議に思いながら飲むと意外にも美味しいと感じる。体が温まった状態でキンキンに冷えた牛乳が沁み渡る。
「湯上がりの牛乳、思ったより美味いな。ウチでも取り入れるか」
「気に入ってくれて嬉しいね」
「ほっほっ、いつ来ても新鮮じゃな。ワシはコーヒー牛乳じゃ」
「そんなのもあるのか」
「いちご風味の牛乳ってのもあるぜ」
「奥が深いねえ、温泉と牛乳は。一本だけじゃ物足りないな」
「また来れば良いじゃねえか」
「そうするか」
傷と痛みが少しばかり良くなった様な感覚を覚えた。しかも体を温めた事でスッキリした気分だ。
「ああ、スッキリしたぜ」
「これが温泉、湯治の良いところだぜ」
「浴槽にお湯を張るって発想が無かったな」
「同感じゃ」
「普通のシャワーじゃこの解放感は味わえねえよ」
「確かにな。この自然を身近に感じる環境が良いのかもしれんな」
「自然の中には不思議な粒子が流れてると聞いたことがあるのう」
「そうなのか?」
「ああ、マイナスイオンか」
「そんなもんがあんのか」
「俺も詳しくは知らねえけどな。渓流や森の中の河原で良く感じ取れるらしい」
駅まで戻ってきたら、一旦お別れとなる。前の戦いで共に戦ってくれた事に感謝の言葉を述べた。再び湯治にやってくるつもりだからまた会うつもりだが。
「じゃ、また来るよ」
「俺ら巨人族にとってもお前は大英雄。またいつでも来てくれよ」
「そう言ってもらえると戦った甲斐があるよ。でも俺はそんな立派な存在じゃねえ。手の届く範囲で守れるものを守ったまでだ」
「謙遜するね」
「これが英雄の一面じゃな」
それから半年が経過した。ナンナとも仲良く過ごしており、国王との約束通り魔族との交流の為に働いている。この日もナンナと共に森の通商路の調整に当たっていた。
「これはこうだ」
「やるね、フィリー。あんたの働きで魔族と交流したいって奴らが結構集まってる」
「互いに生きるのに必死だ。お互いの為に環境を荒らさないって伝えりゃ共生していける連中もいる」
「お互いの為ねえ」
「商業経路も考え直さなきゃな」
「ここはこうすべきじゃないか?」
「お、良いね」
「相談良いかね?」
「うん?ゴルディアの同族か。どうした?」
「ここは水猿族のシマに近い。無益な争いを避けたいから、お互いに距離をとれまいか?」
「じゃあここは数十メートル避けて通そう」
「ありがたいね。我々の暮らしまで考えてくれる人間はそう居ない」
「これも俺の仕事だ。出来得る事はやろうと思う」
一仕事終えて近くの泉でゆっくり休む事にした。今日も今日とて疲れたのだ。大変だっただろう、お茶でも飲んでくれと渡されて落ち着かせてくれた。半年間様々な場所で調整をこなしていた。ここからは国の領分じゃないかとナンナは感じていた。
「そう思って引き継ぎは済ませてある」
「行動が早いね」
「俺の怪我も湯治やアニーのお陰で完治した。ギルドの仕事に本格的に戻ろうと思ってる。ここ二、三週間は簡単なミッションばかりだったからな」
「あれから半年。時の流れの速さには驚かされるね」
「少し調子を戻す為に上位ミッションから始めるか」
次の日にカトレアとヘンリー、ジョージの抜けたチームで仕事に向かった。この日の仕事は比較的簡単な仕事である。
「よし、終わったな」
「対魔族より人間相手の方が今は多いね」
「混乱に乗じた犯罪が横行してるし、一部に共生反対派も居るからな」
「説得して協力してもらえないのかしら?」
「難しいだろうな」
「みんなで仲良くしたいのに」
「これから数百年続く可能性のある共存共栄の為なら頑張らねば。やるしかない」
仕事の帰り道、話は付き合っている2人の事に及んだ。半年間付き合ってるし、それ以前から仲良く過ごしているから気になるのだろう。マリータもジョージと付き合っているのは知っているが、まだ付き合い始めて日が短い。
「そういえば貴方達は結婚するの?歌の準備なら出来てんだけど」
「そうだよ、お兄ちゃんにお姉ちゃん」
「そう言われてもなあ」
「まだ、その、心の準備が……」
「貴女引っ込み思案ね、こういう時だけ」
「仕方ねえ」
「どうしたんだい?」
「先に帰っててくれるかな?」
「別に良いけど、どうしたのよ?」
「なぁに、ちょっとした買い物だ」
ナンナ達を先にギルドへ帰したら、フィリーは1人でとある店にやってきていた。顔馴染みの店主に頼み込んで一番良い品を買いに来ていた。
「いらっしゃいませ。おや、フィリーさん」
「ちょいと大枚叩いて買い物したい物がある」
「なるほど、遂に覚悟を決めた訳ですね?」
「分かってるな」
「ここはそういう目的で訪れる方の多い場所ですから」
「まあ、そうだな」
「では、これは如何でしょうか?」
「良いね。買おう」
「ありがとうございます」
大枚叩いて買い求めた物を手に、次の日に覚悟を決めてギルドに顔を出しに来た。
「おう」
「来たね、焔の英雄よ」
「いつまでその渾名で挨拶するつもりだよ、マスター。炸裂弾の方が馴染みがあるっての」
「まあ良いじゃないか。今日は仕事かね?」
「いや。ナンナは居るかな?」
「お、それは……彼女ならあそこだよ。早く行ってやんな。あまり待たせるんじゃないよ」
「分かってらあ」
ここまで二十数年生きてきて一番緊張しているかもしれない。魔王と戦った時でさえここまで緊張していなかったのに。ナンナはマリータ、アニーと一緒に談笑していたが、こちらに気付いて笑顔を向ける。フィリーのいつになく真剣な眼差しを前に昨日の様子が気になっていた。
「昨日はどうしたんだい?」
「これを買いに行っていた。受け取ってくれるか?」
「これは、指輪?」
「そうだ。そろそろとは思ってたんだ。俺で良ければ結婚してくれ」
「っ!」
「半年も待たせて申し訳ない。お前は俺にとってかけがえのない存在だ」
「ああ、待ってたんだ。この瞬間を。ありがとう」
「いよっ!めでたい!」
「結婚式に呼べよ!」
「そのつもりだ。ギルド総出で祝ってくれ」
フィリーのプロポーズを受け入れてこれからは死ぬその時まで共に同じ速度で歩いていく事を決めたのだ。周りからは祝福の声が飛び交う。同じチームだったメンバー達も同様だ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おめでとう」
「フィリーさん、遂に結婚ですか」
「待ってたわ、この瞬間を」
「
「今日は祝い酒でも呑むか?」
「お前ら……」
「ふふ、盛大な結婚式にするよ。待っててな」
結婚式で渡すご祝儀のお金足りるかアニーは不安がっていた。彼女はまだ学生だから最近お仕事あまり行けてないからだ。だからアニーはご祝儀を渡さなくて良いと申し伝える。妹って事で免除するつもりだ。でも、助けてくれたり学校に通わせてくれたりした事への仁義通さなきゃならないと感じていた。今までのお礼も含めて。
「義理堅いねえ。じゃ、相場の3割でどうだい?」
「それくらいなら」
「俺らはその分多めに払うぞ」
「当たり前だ。お前らは稼ぎも貯金も多い」
稼ぎの元、高難度ミッションは元から少なかったけど
「いや、まだ仕事の需要は一定量あると思う。軍縮が尚一層の事進むからその代理機能を果たすと考えりゃな。それに犯罪が完全に無くなるとは考えづらい」
「軍縮路線か」
「やむを得まい。魔族相手に戦う事も減るし人間相手でもこれからは尚更限られてくる。前にも言ってたが隣国と戦争が起こる訳でも無いし」
「当分は大袈裟な軍備も必要ないな」
「で、結婚式はいつだ?」
「3ヶ月後だな」
「ギルド総出で出席するよ」
「街の人々も代表者20人程度が来てくれるってさ」
「ありがたい」
「慕われてるな」
「会場が広かったらもう少し呼べたのが残念でならない」
時は流れてジューンブライドの季節がやってきた。この日はフィリーとナンナが互いに永遠の愛を捧げ、いついかなる時も支え合うと誓う日だ。
「今日はこの佳き日を迎えられた事、神に感謝いたします。新郎フィリーよ、汝は如何なる時も新婦を愛する事を誓いますか?」
「誓います」
「では新婦ナンナよ、汝は如何なる時も新郎を愛する事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「アーメン。ではその言葉に偽りがない事を神の前でキスをして示しましょう」
この日の為にギルドのマスターを筆頭に仲間達や友人達、街の代表者などが駆けつけてくれた。まるで2人を祝福するかの様に空は晴れ渡り、綺麗な青空が広がっている。
「2人の歩む道が幸せに包まれん事を。アーメン」
「よろしくな、ナンナ」
「こちらこそ、フィリー」
皆に挨拶回りに行く事にして、まずは親代わりのマスターとリュートの元へと歩いていく。その様子を見ていた周りの人達からは羨望の眼差しを受けていた。
「めでたいね」
「2人は我が子の様な存在。嬉しい限りだよ」
「ありがとう」
「英雄達の結婚式かあ。2人ともギルドきっての実力者だし、救国の英雄だもんなあ」
「かっこいいなあ、羨ましいなあ。私もあんな相手が欲しいわ」
「見ろよ。お前らは街の、いや国の憧れだぜ」
「ははは、そうみたいだな」
「あたしらは幸せ者だよ、ホントに」
アニー達も当然ながら式には参加していた。将来こんな結婚式を挙げたいと少し憧れに近い感情をアニーも持ち合わせている。その前に好きになる人が現れるだろうかと不安になっていた。
「良いなあ、私にも好きになる人が見つかるかなあ?」
「アニーなら素敵な人が見つかるよ。あたしが保証する」
「貴方は可愛くて聡明な子。皆が放っておかないわ」
「そうかな?」
「急ぐ事はないよ。ゆっくりで良いから」
「ありがとう」
「ナンナ。来てくれるか?」
「分かった」
「仲良いわよね。理想の夫婦になりそうだわ」
「お互いを尊敬しあえる良き関係ですからね」
この式にはそれぞれ世話になった人も呼んでいる。その1人がフィリーの義兄でコバルト傭兵団のリーダーのハリスである。彼が来てくれた事に喜びを感じていたし、ハリスも弟の結婚式なのだから、来るに決まってる。ナンナにも祝いの言葉をかける。
「お義兄さん、
「良いんだよ。ほれ、祝いの品だ」
「これは、盃?」
「結婚式とは
「そうか」
「フィリー、ナンナを泣かすなよ」
「分かってる」
「おうい、フィリー」
「ん?」
ハリスに祝ってもらい、頂いた盃をナンナに預けてやってきたのはヘンリーとジョージの元だ。そこには小さな盃3つに徳利1つを持ち合わせていた。一体何をするつもりなのかさっぱり分かってないといった表情だ。
「どうした2人とも?」
「俺とジョージで考えてたんだ。この
「五分の盃だ」
「それならやろう。盃は?」
「ここに三つある」
「よし。注いだぜ」
「我ら3人、ここに義兄弟の契りを交わす」
「永らく時を共にし、平穏なる世界で死を迎える事を願わん」
「これからは苦労も喜びも共に出来れば幸いだ」
ギルドの三傑の結束はこれでより一層強固なものになった。共にあらゆる艱難辛苦を乗り越えていこうという契約だ。その様子を見守っていたのはバース、ユウギリ、そしてゴルディアだ。
「おう、来たぞ」
「目出度いのう」
「キキッ、目出度い、目出度い」
「おお、バースとユウギリ、ゴルディアか」
「友の祝いの場だ、来るに決まってる」
「ワシらからも祝わせてほしくてのう」
「3人ともありがとう」
「後で酒でも酌み交わしながら色々と聞きたいもんだね」
「祝い酒、良き良き。キキッ」
「俺もそろそろ所帯を持たねえとなあ」
「ワシはもう良いとしてお主はまだ若い。まだ可能性は高かろう」
「そうだ、キキッ」
「あたしが誰か知り合いを紹介しようか?」
「良いのか?」
「あったりまえさ」
「ありがてえ」
夕焼けが綺麗に映える頃、無事に式を終える事が出来た。この日の為に色んな人が顔を出してくれた。これも各方面に義理を果たしたからだろう。
「いやあ、色んな人が来てくれたね」
「無事に終わって何よりだ」
「そっか、これで晴れて夫婦な訳か」
「末永くよろしくな」
「こちらこそ」
「さ、帰るぞ」
「うん」
それから十数年、フィリーとナンナの間には2人の子供が産まれ、家族全員で元気に過ごしている。ナンナはギルドの仕事からは一時的に離れており、一ヶ月に一回くらいの頻度になっている。
「父ちゃん!」
「おかえり!」
「マックス、ウェンディ、迎えに来てくれたのか」
「あんたに少しでも早く会いたいってさ」
「ナンナ、1週間もかかっちまって申し訳なかったね」
「あんたが居るからあたしらも生きてけんだ。感謝してえのはあたしらの方さ、気にすんな」
「そうかい。じゃ、せっかくだから飯食いに行くか」
「おう」
「やったー!」
「父ちゃんとご飯!」
家族で常連となっている居酒屋バルボ。店主のウィルも高齢になっていたが、相変わらず元気そうに店に立っている。
「おいしいね」
「流石は居酒屋バルボだ」
「家族で来てくれたのかい。嬉しいねえ」
「ウィル、そろそろ次代に引き継いだらどうだ?」
「息子が修行から帰ってくるんだ。そこで身を引くつもりでね」
「そうなのかい?」
「息子も30歳だ。俺も若くねえ」
「そうか。残念だが、これからはゆっくり過ごしていくと良い」
「ありがとよ」
話はフィリーのいなかった1週間についてになった。息子のマックスに学校はどうだと聞くと新しい友達ができたんだという。フィリーと同じ火の強い魔法を覚えたとか。一方で姉のウェンディはというと、学校の数学のテストで100点が取れたし、ナンナと同じ土の魔法も練習してるんだとか。
「そっか。頑張ってんだな。よし、2人とも沢山食べな」
「うわーい!」
「ありがとう、父ちゃん」
「あんた甘いよね、子供達に」
「まあ、そうなのかもな」
「でもそんなあんたが好きだな、あたしは」
「そうか。俺もお前が好きだ」
「撫でんじゃないよ。あたしは子供か」
「でも嫌がらないよな?」
「そ、そりゃまあ、好きな人に撫でられるのは、その、嫌いじゃないし」
「父ちゃん達仲良いね」
「うん。仲悪いより断然マシだけどね」
家族団欒の時を楽しみ、共に過ごす事3日。フィリーは再び仕事へと馳せ参じる次第となった。
「仕事に行くか」
「あたしは子供達を学校に連れて行くよ」
「頼む。マックス、ウェンディ、学校楽しんで」
「そのつもりだよ」
「父ちゃんもがんばってね」
「おう」
ギルドに顔を出しに行き、今日は何の仕事に赴くか思案していると、カウンター席に座っていたマスターのリュートに声をかけられた。カリナは10年前に引退してその一年後に亡くなっている。
「フィリー、今日も仕事か?」
「マスター・リュート、これから仕事だが難しいのは無いんだろ?」
「今日も高難度は無しだな」
「この十数年でほとんど来なくなったな」
「前までがおかしかったってのもあるかもな」
「平和になった証かね」
「お前の力が手繰り寄せた平和だ」
「ああ……あれからだいぶ経つな」
「先代マスターも亡くなり、俺らも歳を取ったもんよ」
「マスターは68歳、俺も40代だ」
「早いもんだぜ」
「お互い歳を取ったな」
「それは言わない約束だぜ」
「お、兄弟」
「ここに居たか」
「ヘンリー、ジョージ」
「今1人で仕事に挑んでるんだってな」
「アニーもマリータも別のチームに移ったり引退したりしたからな。お前らも別のチームだろ?」
「まあな」
「どうだ?久々に3人で仕事に行くっていうのは?」
「良いのか?」
「偶には良いだろ。な、兄弟達」
「そうするか」
「俺が今回は仕事を選ぶ。それで良いか?」
「おう」
3人でのミッションはかなり久しぶりだ。魔王討伐後2、3年は散発的にやっていたが、今はそれぞれのやり方で仕事をしていたからだ。そこに声をかけてきたのは美しい女性に成長したアニーだ。チームから独立したものの、まだフィリーの事を兄と慕ってくれている。
「兄さん」
「アニー、久しぶりだな。これから仕事か?」
「ええ」
「フィリーさんかよ、お兄さんって」
「そうよ?言ってなかったかしら?」
「まだ数ヵ月しかギルドに居ねえからさ」
「それより前だもんな、独立したのも」
「そうね」
「兄さん、帰ったら紹介したい人がいるわ」
「そうか」
「あら、驚かないのね」
「付き合ってるのは知ってるからな」
「ふふ、そうだったわね」
「でもまあ、人付き合いの苦手だったお前がか……もうそんな歳だもんな。じゃ、楽しみにしてるぜ」
「いってらっしゃい。無事に帰ってきてね」
「おう」
アニーはあれから学校で多くを学び、様々な人々と交流を重ねていくうちに人への苦手意識が無くなり、今となってはその美貌と魔法で人気を集めている。依頼書を一つ引っぺがして3人で出掛けていく。
「じゃ、この仕事に行ってくる」
「行ってこい」
「家族の為に働かなきゃな」
「幸せな事だぜ、それは」
「当たり前だ。俺は今、最高な気分だぜ」
「言ってくれるな」
「さ、行こうか。未来を作りにさ」
「未来への道、歩もうぜ」
「ああ。魔導が奏でる調べ、楽しもうぜ」
「では、出立!」
炸裂弾フィリーと
覇天雷豪の称号を与えられたカトレアは氷河の帝王ヘンリーと結ばれ、こちらも幸せな一生を過ごして終えたのだ。
そして英雄一行最年少の聖女アニーは血筋から長命であり、英傑達が守り抜いた人と魔族の共存共栄の世を百余年見守り続けたという。
これは1人の英雄の冒険譚である。
魔導と勇気で以って皆を導き、人と魔の間の蟠りを無くしていった。
それにより数百年に及ぶ平和の礎を築いた。