大変長らくお待たせしました。第三話です。
年内はこれが最後となりましょう。
また来年お会いできればと思います。
では、来年が良き年であります様に。
ぽおくそてえ
「おや、来たんだね」
「ヘンリーは来てるかい?」
「あそこで待ってるさ」
「そうか」
翌日、ギルドに顔を出すとヘンリーが既に待ち構えていた。高揚感に包まれた表情をしており、この決戦を楽しみにしていたワクワク感がヒシヒシと感じ取れる。これは痺れる戦いが出来そうだと期待が持てる。カトレアがナンナを引き連れてギルドに来ており、フィリー達が勝負をする事に驚きを隠せない。
「師匠、ヘンリーさんと勝負を?」
「勝負というより手合わせだな」
「あんな見るからに強そうな奴がギルドに居たとはね」
「強いぜえ。相性とか場合によっちゃ俺より強いんじゃないか?」
「そこまでなのか。あたしには敵いそうにないね」
「どうだろうな」
ギルドの酒場の近くではヘンリーが皆の話の中心に居て、和気藹々とした雰囲気が漂っている。ギルドきっての実力者であり、皆と仲良く過ごし、時には相談に乗る。更にチームで欠員が出た時に援護に回る。だから慕われているのだ。
「ヘンリー」
「フィリー、待ってたぜ」
「紹介しよう。こいつが新しくチームに入ったナンナだ」
「あたしはナンナ・ガレシア。金属魔法と硬化魔法が使えるんだ。よろしく」
「ヘンリー・グリートリヒ、水と氷を扱う魔導士だ。こちらこそよろしくな」
「グリートリヒ?確か侯爵家にも……」
それはヘンリーの実家だ。でも彼は三男坊だから家督は継げる立場にはおそらくならないだろう。だからこのギルドに世話になっているのだ。後継者候補に選ばれにくい次男坊や三男坊は魔導士ギルドなどに出向いている場合があり、傭兵になる人も一定数存在するのだ。
「侯爵家出身だからとか、氷河の帝王と呼ばれてるからとか、そういうのは気にせず気楽に接してくれ」
「少し話しただけで分かる。あんたは気風の良い奴だ」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
「ヘンリー、表の広場に出よう。ここじゃ危険だ」
「分かった。じゃ、また後で」
魔導士ギルド『天使の涙』の武の頂点たるマスターに次ぐリュートと呼ばれる男。それに準ずる三傑の内2人が対決すると来た。リュートに敵うとしたらマスターぐらいだ。一般メンバーどころか三傑ですら敵うか怪しいもので、本気の攻撃を数発くらえば重傷となりかねない。その男の本名はリュート・ハーミル、様々な属性を使い分ける天才魔導士である。それはさておき、2人の対決は火蓋が切られた。
「さて、始めようか」
「準備万端だぜ」
「先手必勝、砕空破!」
「おっと。鋭氷雨!」
「弾丸の雨か。ふんぬ!」
「ドーム状に爆破!?」
「あいつは全身ダイナマイトみたいな物だ。どこからでも、どの方位へも爆風が出せる」
「手足ならいくらか見てますが、まさか全身とは。流石師匠です」
空気を爆破して遠距離攻撃を仕掛けた後、それを避けて氷でできた弾丸を放つ。少しずつ移動するが、それを追う様に攻撃していき、ドーム状に囲っていくが、それを全身から爆風を放って防ぐ。ここで再びフィリーから攻撃の手を打つ。
「おらあ!」
「おいでなすったか。かかって来い!」
「なら遠慮しねえぜ。飛刃・爆爪斬!」
「うっ」
「危ねっ!」
「こっちまで飛ばすな!」
爆風を刃に変えて燃えながら地面を抉りつつ直進していく。これを難なく避けたヘンリーは隙ありと判断して氷刀武刃という氷で作られた太刀を体に当てに行く。側から見れば完全にいったと思われたが、そう簡単にいかないのが高難度常連メンバーだ。
「いける!」
「と、思うだろ?ふん!」
「折れたか。胴の汗腺も爆破帯だったね。やはり戦い慣れてる」
「全身の筋肉や汗腺、皮膚を経由して爆破を産み出す。それが俺の能力さ」
フィリーは血液の様に全身に爆破できる魔力の管が存在している。本来精霊力に作用する魔法の管は手と足に集中している場合が多い。全身に使えなくも無いが、威力や防御力に難ありの場合も散見される。事実、ギルドにいるメンバーの半数はあまり得意としていないのだ。
「よっ、ほっ、ほれ」
「来るか。氷河三重壁!」
「貫通できるかねえ、小爆灯石!」
「防いで見せるぜ」
地面に落ちてる小石をリフティングし、爆裂する弾丸に変えて氷の壁にぶつけてみせた。1つ目、2つ目と貫きかけたが、3つ目で防がれた。だが、ここでヘンリーは危険を感じた。第二、第三の弾丸が来ればどうなるか分かったものじゃない。ならば、と上から触れたものを凍らせる息吹を広範囲に吹き付ける。更にそこから攻撃を立て続けに仕掛けていく。
「水刃!」
「これでどうだ。手刀爆砕!」
「爆破しやがったな。やるじゃねえか」
「そっちこそやりやがるぜ。油断も隙もありゃしねえ」
「ではこれでどうだ?」
水の刀を爆破能力の乗ったチョップで防ぎ、跡形も無く消し去ってしまった。近距離で攻め立てるのは危険と判断し、すこしでも距離を取って攻めるのがベターと考える。そこで作り出したのが弓矢だ。
「水の弓と氷矢か」
「甲矢、乙矢。準備完了」
「撃たせねえよ。爆風烈哮!」
「爆風の息吹!?」
「あいつの爆破能力、そんな事も出来んのか」
「ぐっ……うおっ!」
この技は空気を連続で爆破せしめるものだ。先程の砕空破と違って爆破に重きをおいており、空気砲としての役割は薄い。だが着弾点、任意の一点で更に追い討ちをかける様に爆破を起こすので、ダメージは大きい。
「痛え……」
「あれを耐えやがった」
「そうでなきゃな、我が友ともなれば」
「では、こちらから仕掛けるぞ」
「来な。俺が受け止めてやる」
水の波に乗りながら一気に移動して距離が縮まった所で、フィリーの爆風を避けながら勢いよくジャンプして背後を取る。
「後ろ、取ったり。甲矢!」
「危ねえな。円撃烈破!」
「おおう、やるね。これはどうだ?乙矢!」
「おっと(ただの二段構えってのは少し稚拙な感じがするが)」
「甲矢・弍式!」
「上か」
「畳み掛けるぜ。乙矢・弍式!」
「危ねえ……足元が」
「凍りついただろ?」
「で、これで慌てる俺だとでも?」
「一瞬でも隙がうまれる」
油断した訳では無いが、連発された氷の矢が左足を拘束する。これで身動きが取れないからゆるりと攻める事が出来る。しかしながらこれで慌てふためくほどではないのが、フィリーが高難度常連たる
「ふう……はああっ!」
「何だ、この気迫は?」
「魔力を、属性を更に解放するってか?」
「親父から教わった切り札だ、やるしかねえ。爆破それ即ち崩壊」
「地面に亀裂が入ったぞ!」
「やべえって!」
「誰か止めろ!」
属性解放。それは己の持つ魔力をぶっ放し、広範囲に攻撃を行う魔法だ。フィリーの場合は爆風と炎をぶち撒ける物である。その魔法の威力と消費魔力から扱える者はごく僅かとさえ言われているが、調べた訳ではないので人数の詳細は不明である。一説では空気中に存在する魔力に介在する精霊を味方につけられる存在のみが許容されているとかどうとか。だが、いずれにせよかなり危険な魔法であるのは間違いないから、本来なら味方に向けるべき魔法じゃない。しかも解放するまで一定時間確保せねばならない観点から、完成形はすぐに使える魔法とは限らない。
「そこまでだよ、フィリー」
「マスター」
「ほれ、相手を見なさい」
「あ?」
「降参だ。そんなもん喰らったら死にかねん」
「はっ、そういう事なら仕方ねえ」
「いやあ、腕を上げたね。火と爆破、その属性の解放を仕掛けられちゃどうしようもねえよ」
「本気出してたか?」
「結構出してた」
「へえ、それならお互い様か」
互いに実力は出し切った。その上で降参したとなれば、仕方ない事だ。今までの戦績は五分五分の状態だったが、これで一勝だけフィリーが勝ち越した。
「ふう、疲れたぜ」
「お前との決闘くらいだよ。本気でぶつかって楽しんでいられるのも」
「ヘンリーもか。俺だってそうだ」
「ところで今日は手合わせだけか?仕事には行くのか?」
「チーム次第だな。どうだ、そろそろ独り身を卒業して誰かのチームに本格的に加わるってのは」
「悪くはない。だけど、まだだな。まだ誰かを助けられるほど強くはない」
「そうか、残念だ。だが俺達はいつでもOKだからな」
「ありがとよ」
ヘンリーが立ち去ると、ナンナとカトレアが寄ってきて、属性解放はやりすぎだと注意を受けた。熱くなりすぎた事で危険に晒してしまった事は反省している。あれしか勝機が無かった訳ではあるまいと。
「あの技を放っていたら危険でしたよ」
「ああ。今後は使い所を考えねばな」
「魔力消費量が半端じゃないだろうから、本当の最後の切り札だろうね」
「今日は休む。明日から仕事に向かうぞ」
「了解」
「良いのか、1日休むだけで?」
「体が
「師匠がそう仰るなら……ただ、あまり無理はなさらない様に」
「言われずとも分かってるよ。傭兵団に居た頃を思い出すね、そういう事を言われると。皆元気だろうか」
「連絡は取れないのか?」
「何処で何してるか分からないからね。移動してる可能性もあるから。本拠地の連絡先も分からねえ」
1日の休息を経て魔力も体力もある程度万全となった所でギルドへ集結した3人。仕事へ行こうかと依頼ボードへ向かおうとした所でカトレアから呼び止められる。今日はこれをとマスターから頼まれていたそうだ。
「どれ、マスターから直々に呼ばれるとは相当な依頼なのか?」
「依頼はコバルト傭兵団長レインからか」
「はは、偶然ってあるんだな」
「どうしたよ?」
「俺の居た傭兵団だ。俺が言うのもなんだが、優秀な傭兵の集まるチームでね。あそこで抱えきれない難題とは気になる」
「行ってみようぜ」
「師匠のご家族がいらっしゃる傭兵団……気になりますね」
「国南東部の砂漠ブリエトに来る様にか」
ギルドに入るまでの十数年間は育ててもらったのが、コバルト傭兵団だった。ギルドに入ってからは連絡を取れていなかったので、現在どうしているのかは分かってない。だから呼び出された事に驚きを隠せない。それからというもの、グラン・フィレーン駅から現場近くの駅まで向かい、待ち合わせ場所へと向かった。そこで待っていたのは義理の兄ハリスだ。
「兄貴、久しぶりだな」
「フィリー、来てくれたか」
「団長は兄貴のままか。説明してくれ。今回の依頼、どう言った経緯で?」
「そうだな。俺らに依頼してきた人が居てね。その人を紹介したい」
「依頼の更なる依頼先が俺らって事か?」
「平たく言えば。マリータさん!」
「あら、この方々が?」
「ええ。俺の義弟でこの傭兵団出身であり、天使の涙ってギルドで働いてる優秀な男です」
「初めましてですね。フィリー・ゲイルです、よろしくお願いします。こちらの2人はチームのメンバーでして、カトレア・シャリアとナンナ・ガレシアです」
「ご丁寧にありがとうございます。私はマリータ・レーヴェルトです」
「お、あの
「一部ではそう呼ばれていますね」
「その耳と尻尾、魔族の血筋ですか?」
「そこからお話ししましょう」
彼女は魔狼族と人間のハーフであるという。その血筋故に人に比べて悪意を感じ取りやすいとも。それで以前参加したイベント会場へ移動中に感じ取った悪意を探って欲しいと傭兵団に依頼したのがそもそもの経緯だとの事だ。ナンナが聞く限り傭兵団だけで行けそうだと思ったが、彼ら傭兵団だけでは背負いきれないと判断し、ギルドに応援を頼んだのだ。
「確かに人数も多いし百戦錬磨を自負している奴もいるが、情報が無さすぎる。リスクが大きいと思ってね。仲間を危険に極力晒したくない。それに
「信頼してもらえて嬉しいね。そう言えば信頼で思い出したが、レイラ姐さんは?」
「そうか、知らなかったな。亡くなったよ、半年前に」
「……くそっ!」
「最期までお前の心配をしてたな。お前には病の事は伏せておけと……」
「姐さんらしいな」
「姐さん?」
「ああ、この傭兵団を団長と共に支えてた皆の姐御だ。実力も団で随一、されど基本裏方に徹していたんだ。俺より10くらい年上だったかな」
「お若いですね。35歳くらいですか」
今は亡きレイラの為にも何としても無事に仕事を終えねばならない。若くして皆をまとめていた姉御は泣いて悲しむ姿を見たくは無いだろう。まずは場所の特定から始まる。ある程度場所が絞れればそこから次の行動に移れるからだ。隣町に行った際に敵意を強く感じたという。
「ここら辺か。姐さんが安心してあの世に居られる様に頑張るかね」
「先発隊を任せて良いか?」
「ああ。何人か同行してもらって良いか?流石に3人じゃ戦力としちゃ厳しい」
「ううむ……ならば、3人つけよう。これは連絡用の小型通信機だ」
「ありがたい。信号弾の時代に比べて、ここ数年で便利になったものだ。詳しい話は同行していただきながらで良いですか?」
「はい」
マリータを連れて目的地点を目指す事となった。先発隊の任務、
「あの、お兄様はお父様の実子なのですか?」
「いや、あいつも養子らしい。親父は子供のいない人でね、亡くなった仲間の子供だった兄貴を迎え入れたって聞いた事がある」
「俺達も聞いたな。団長から酒の席で」
「この10年の間に色々と経験したと見た。背中から団長を継ぐに足る風格を感じたよ」
「フィリーも小さいながらチームを組んでるし、色々な人を導いているらしいじゃないか」
「数十人の命を背負う立場とは規模が違いすぎる。俺には数人を導くのがやっとだよ」
団長とリーダー程度では人数が違いすぎる。フィリーは多くて数名程度でしか組んでこなかったが、だからこそ兄の重責は理解しているつもりだ。人の命を守るのは簡単な事ではない事も。そう考えてる中で一刻近く砂漠用小型船艇に乗っているが、なかなか見つからない。日の当たり方がきつく、体力を奪う一方だ。
「暑いですね」
「ここは年の半分以上が乾季だからな」
「どこかに悪意の源が居るはずなのですが」
「急ぐ事はないさ。あたしらがついてるから」
「ありがとうございます」
「今までの経験からして魔物の類が首謀者の可能性は少し低そうだな」
「誰かが操っている、あるいは煽動していると考えるのが妥当な所か?」
「恐らくはね。何か邪気にあてられた可能性も捨てきれんがな。道中気をつけながら進もう」
この辺に住まう魔物は得てして過酷な環境に適応する為に身も心も強いときたものだ。獲物の少ない環境に身を置く為尚更だ。警戒している内に辿り着いたのは一番近くの街、ロカからは少し距離がある場所だったし、ここらには砂漠を泳ぐ砂鮫獣ギリムルが居ると聞く。
「ギリムルか。厄介だな」
「普通の魔物なら量の多寡はあれど悪意が気になる程溢れるとは思えないのですが」
「ふうむ……考えたくないが、高度な魔法や知恵を身につけた魔物の可能性は捨てきれなくなったな。強力な魔物は単体行動が多い」
「逆に複数で行動するのは大人しい草食獣か纏め上げる知恵者が居る気性の荒い魔物軍団か、って事ですか?」
「あり得るね。リーダーが人間の可能性は十分あるけど」
「皆、警戒に当たるぞ。ほらフィリー達も」
更に十数分間偵察がてら巡回していると、遠くから異様な砂埃が向かってくるのが見えてきた。今回の目的の敵なのか否か分からないが、戦闘準備を進めていく。過酷な砂漠においても尋常じゃない量の砂埃が舞っている。こっちに向かってきている以上、狙われてるかもしれないので動くしかない。
「あの
「デカそうだぞ?」
「砂漠用小型船艇で移動し続けろ。俺とナンナが注意を引く」
「あいつ、良く音に反応するらしいな」
「その通り、普段は目が砂中にあるからな。カトレア、マリータさん達は任せたぞ」
「お任せを」
危険を察知した以上、依頼人はここには置けない。4人を撤退に行かせ、残りの2人で目の前の敵に対処する。音で誘導してなるべく小型船艇から離れる様にしていく。
「ガガーッ!」
「来やがった」
「援護、頼むぜ」
「分かってるよ。任せなって」
「あの目、何かに操られてるのか?普通あんな紅色のガスが出ない筈だが」
「確かに。見るからに自然物じゃねえな」
「ウゴゴッ、グガガッ」
「挙動不審だな。気をつけろよ」
「喰らったら不味そうな攻撃だろうぜ」
何か様子が変だ。目やその周りから溢れる赤いガスや蒸気は普段なら見られない現象だ。何かに操られているのか、はたまた魔族に影響を与える何かを喰らったのか。原因は分からないが、通常ではあり得ない姿だ。ダメージを喰らったら不味そうなのは理解できた。
「ルアアッ!」
「おっと」
「速いな」
「手刀爆砕!」
「鉄昇拳!」
「ギグァッ!」
上手く回避しながら手数で以てダメージを加えていく。そこで状況を把握する為に義兄から無線通信が入る。状況を把握したい、現状の説明を求む、との事だ。
「こちらフィリー。目的と
『通常と同じ感じか?』
「いや、少し様子がおかしい。目から紅色の煙が出ている。ナンナ以外はマリータさんと避難してもらってるから、出来る限り早期に救援を願う」
『了解。死ぬなよ』
「『死ねば名誉挽回も汚名返上もできず、雪辱も果たせぬ。常に命と心の生きる道を探る事だ』。親父の教えだろ?」
『分かってるじゃねえか。すぐに合流する』
「おう。ナンナ、粘り腰だ」
「聞こえてる」
こうなったら何が何でも生き残るしかない。片刃の双剣を呼び出し、ナンナが先陣を文字通り斬り開く。そこへフィリーが移動したギリムルの足元を爆砕、移動を制限する。
「ゴハッ……」
「よっしゃ、これでどうだ?」
「やるねえ。ならば、そこだっ!」
「流石義賊の
「あんたも実力じゃ勝るだろ。両脚硬化。そこからの、縦回し蹴り!」
「バハッ!」
脳震盪を起こして少しでも怯ませに行く。倒せりゃ儲け物。だが、今は勝つ事より味方の撤退を少しでもスムーズに行かせる事が肝要なのだ。その上で2度と人間に手を出そうと思わせない事が今は優先されるべきだろう。しかしそう簡単にいかないのが水物と言われる戦闘の鉄則だ。
「バアッ!」
「うおっ!」
「砂の刃!?」
「グリャア!」
「今度は砂の波かよ」
「やりづらいな。双鉄柱!」
高さ十数メートルは優にあろう鉄柱で2人を押し上げ、砂の波に飲み込まれない様にする。それでも鉄の柱が埋もれかける程の砂の量が押し寄せ、少しばかり鉄柱を伸ばしてやっと凌げた程だ。
「すごいな」
「上がったは良いけど足元の何処にいるか分からないんじゃ対処しにくいね」
「大きな音を出せばそこに喰らい付いてくる可能性が高い。俺の能力に呼応する小型爆弾を使って引きずり出すぞ」
「何でも使うタイプなんだな」
「生き残るには使える手段は使うのさ。こういう時は卑怯だ何だと言ってる場合じゃねえ」
「そりゃそうだ。贅沢は言ってらんねえな」
「用意は良いか?」
「おう。いつでも行けるぜ」
「じゃ、使うぞ。耳を塞げ」
地中を移動するものにとって耳や熱は重要な情報源。それを利用して
「ブルァッ!」
「狙い通り出てきやがったぜ」
「狙って拘束するよ……オラッ!」
「魔力の消費が少し多いが、全身を狙う。火塵砲撃!」
「バハッ!?」
鉄の鎖で動きを封じたその隙に爆撃を起こす鱗粉を撒き、空気を爆破させてみせる。これである程度のダメージは見込めると思っていたが、怒りを買っただけの様だ。
「ゴアッ、ゴアッ!」
「湯気が更に増えたな」
「全身が少し赤くなってやがる」
「何か暴走する原因を持ってるのか?」
「師匠、ナンナさん!ご無事ですか!」
「フィリーさん、来てしまいました」
「無事みたいだな」
「ここは危ないですよ」
「少し様子が気になりまして」
「話が終わるまで俺達で食い止める」
「頼む」
傭兵団の3人が食い止めている間にある仮説の説明を受ける。あれは恐らく『常闇の因子』。人間に伝染するか分からないが、魔族・魔物の血に呼応すると聞いた事があるそうだ。おそらくレイエンの時の紅の毛はこれが原因だろう。罹患すると頭は冴え渡り、力は強大化すると言う危険な因子だ。起源が魔王関連である事以外、詳細な事がはっきりマリータには分からないのが恐ろしい所。対処法も詳しく分かってない厄介なものである。
「もうすぐ兄貴達本隊が到着する」
「それまでマリータさんを護りきるよ」
「分かりました」
「私も戦います。守られてばかりという訳にはいきません」
「おいおい」
「依頼人を危険に晒すというのは……」
「本来傭兵やギルドの魔導士にとってあってはならない事。分かっております。ですが、私も魔導士。後ろから援護します、これならどうでしょう?」
「貴女がそこまで仰るのなら。危険を感じたら下がる事。良いですね?」
「はい!」
「カトレア、彼女の護衛を。ナンナ、行くぞ」
「おう」
「了解です」
だが、この魔物、皮膚が通常種より多少硬い。これも因子の力か?と、疑問に思う。話を聞く限り一概には言い切れないが、通常以上なら有り得る。ならば硬化魔法を得意とするナンナの魔法を試してみようとなった。
「行けるか?」
「やってみるか。
「グオウ」
「皮膚が削れたな」
「もっと行くか」
「同時に、同じ箇所に衝撃を加えるのはどうでしょうか?一部刺さってるみたいですし」
「やってみるか」
「バルァッ!」
「ゼロ距離から……砕空破!」
「ギャッ!」
「効いた」
「手数で攻めるか。兄貴達が来たら押し切るぞ!」
待つ事数分、コバルト傭兵団の本隊が到着した。兄貴の来着を心待ちにしていたフィリー達にとっては吉報だ。目の前のギリムルが今回の対象である事を確認する。確かに目の周りとか体の赤い紋様とか色々おかしいのだ。それでも、手数で押し切りたい。魔力は十分か問うとこの前軍の依頼をこなして金と道具は潤沢に揃ってるし、体力も気力も魔力も十分だという。
「ナンナ、魔法でメリケンサックを」
「ほらよ」
「ヴァッ!」
「まずは魔導爆弾でも食ってろ」
「グアッ?」
「テメエ、このメリケンで口を閉じてやがれ」
「グゲ!?ゴアアッ!」
「流石ご兄弟、連携上手ですね」
「離れてください。黒曜炎槍!」
「そこを爆破する。はあっ!」
「グオオッ!」
「すげえ、闇魔法か」
「闇水拳!」
「合わせます!雷鳴轟破!」
「バグアッ!」
闇魔法。光と聖以外の属性を併せ持つ事が可能と聞くが、本当だった様だ。一気呵成に攻め立てた事に気が触れたのか、蒸気は更に多くなり、地面を踏み締める。すると蟻地獄がギリムルを中心に現れ、ナンナとフィリー、ハリスを飲み込もうとする。
「ナンナさん、師匠!お兄様も!」
「皆さん、これにつかまってください!」
「よっと!ナンナ、手を!」
「おっと、助かった……」
「闇の鎖とは、芸が細かい」
「グルル」
「ちっ、魔力を少し吸われたか」
「魔法の砂は生命エネルギーや魔力を良く吸うが……長期戦に
「魔力は残り半分ちょいって所か。一気にカタをつける。属性解放だ」
魔導武器のおかげでそれなりにダメージは稼げている。ならば最後の一押しは強烈な魔法でぶっ放すべきだろう。
「はああっ……」
「弟を護りきるぞ。こいつはどうだ!火炎魔弾銃!」
「グエイ」
「やはり砂場では速い」
「ならばこれはどうでしょう。光弓!」
「バアッ」
「砂の壁に弾かれるな」
「あともう少々だ」
「狙います。続いてください」
フィリーほどの魔導士の全力を当てればただでは済まない。後1、2分あれば行ける。それまでダメージを与えて拘束すれば間違いなく止めを刺せるだろう。
「ぬぬぬっ……むぅん!」
「黒風砲!」
「魔導銃を撃てえ!」
「おっ、来た!全員退避!」
「拘束します。ええい!」
「ゴアッ!?」
「行くぞ、最大魔法!炎獄葬送!」
「うわっ!」
「凄い炎!」
「やっぱり火属性か」
属性解放しなければ放てないが、火属性もほんの少しだが扱える。一魔導士の総魔力の半分も籠った爆炎を喰らったのだ、傷が出来る程度では済まない。どうなったんだと疑問が起こり、砂埃が晴れてカトレアが確認に向かう。すると……
「……討伐完了です。息がありません」
「やりすぎちまったか」
「やむを得ないよ」
「体内の因子も激減したみたいです」
「弟よ。立派に成長したみたいだな」
「兄貴もだろ?数十人をまとめる団長に相応しい冷静な判断力だ」
魔力はもう空っぽだ。ギリムルも研究所に送るか問われ、レイエンと共に重要なサンプルだから送ると答えた。マリータは自分の我儘に付き合っていただき、感謝の念に堪えないと告げた。だが、これが我々の仕事だと、それで飯を食ってるからとフィリーとハリスは気にしない仕草だ。そこで贅沢なのは重々承知だがもう一つお願いを聞いていただきたいと言う。フィリーのチームに入れてほしいという。
「どうするよ?」
「私は大丈夫ですが、お二人はどうでしょうか?」
「戦力には十分なり得る。才能だけで言えば俺より上かもしれん」
「少なくとも属性で見ればあたしより力量はあるかも」
「あの?どうされました?」
「ああ、すみません。では……これからは俺がリーダーだ。だが、リーダーって言ってもただのまとめ役だ。これからは対等な立場でいこうぜ」
「よろしくな、マリータ」
「仲間として仲良くやっていきましょう」
「ありがとう」
これで炎、雷光、金を主とした土属性に闇属性が加わったのだ。1チームとしてはそれなりにバランスの取れた形となる。これでハリス達とは離れ離れとなる。久しぶりに組めて楽しめた。
「ありがとな兄貴」
「助かったのはこっちの方だ、フィリー」
「何か困った事があればいつでもギルドに一報を入れてくれ」
「お前も助けがいるならこの本拠地に連絡を入れてくれよ。何処に居ようと駆けつける」
「ああ。元気でな」
「お前こそ」
グラン・フィレーン駅に戻り、マリータをギルドのある街へと案内する。今まで歌劇団に所属してた事はあったけど、ギルドに入るのは初めてだと言う。ソロ活動を始める前までは居たと。世話になった歌劇団から離れるのは心苦しかったけど、自分の限界に挑戦したくて独りになったそうだ。
「ガッツあるね」
「楽しかった。そして大変でもあった。ギルドにコンサートで訪ねた事も数多くあるわ」
「天使の涙に来た事は?」
「無いわね。記憶力は良い方だもの、覚えてないって事は行ってないって訳ね」
「そうか」
「グラン・フィレーン。首都には何度も来てるけど、いつ来ても新鮮な気分になるわね」
「ここは交通の要衝だ。日々違う人々が集まり、売り物も頻繁に入れ替わる。そういうのでいつも新しい顔を持っているのかもな」
「ギルドはあっちだぜ。つってもあたしも最近入ったばかりだけど」
「ナンナも?」
「ああ」
「そこら辺は報告を終えてからゆっくりとね」
これで頼れる仲間がまた1人増えた。
次は2026/1/3となります