ぽおくそてえです。
今回は少し短めですが、何卒よろしくお願いします。
「あ、お姉ちゃん達だ」
「元気そうね」
「昨日は眠れたかい?」
「うん」
「師匠の家に泊まってるんですって?」
「お前らの家も考えたが、俺が責任を持つべきと思ってな」
「そうだったんですね」
「それにカトレアの家は部屋が少なかろう?」
「まあ、それはもうとても」
そう、女性陣の家に止まらせようと考えていたのだが、3人とも家のスペースや経済状況に余裕がある訳ではない。同じチームに比較的長く居るカトレアでさえそうなのだ。ギルドに金を返す立場のナンナも入ったばかりのマリータにも余裕はない。
「これから何をするの?」
「考えてなかった。つい癖でギルドに来ちまったな」
「あちゃー……」
「まあなんだ、ちょいと出掛けようか。2、3日仕事は無しだしね」
「何日も仕事しないなんて珍しいですね」
「俺は探索がてら一仕事してたけども」
「あ、そうだったわね」
「皆で何処か行くのか?俺も連れてってくれよ」
「良いぜ。もちろんだ」
チームで行動するのは仲を深め、戦闘で連携を上手く取れる為、意思疎通をできる様にする為でもある。意思疎通は生死を分ける戦場では必須なのだ。チーム編成が激しく変わってきたここ最近では尚更大事だ。
「相変わらず首都に匹敵する国の要衝たる駅前は凄い人出だな」
「アニー、大丈夫か?」
「う、うん。これも慣れなきゃ」
「無茶はするなよ」
「完全に保護者ね、あれ」
「確かに」
街を出歩くと、必ずしも良い事ばかりがある訳ではない。治安の良い方のギルドがあるこの街でさえそうなのだ。
「待ちな、そこの兄ちゃんよぉ」
「怪我をしたくなきゃ金を置いてけ」
「何でだい!」
「あう……」
「やれやれ、こんな所でもカツアゲとは」
「俺が止めに行く。アニーを頼む」
「おう。見ときな、あれが兄と慕う男が力を見せる時だ」
道路上で堂々と恫喝する連中を、街や住民の為に放って置けないのがフィリーという男だ。カツアゲされて怪我を負った男性に代わってゴロツキどもにお灸を据える。
「痛え……」
「へへっ、素直に渡せば良かったんだよ」
「手間取らせやがって」
「おい」
「あ?何だテメェは?」
「俺はフィリー、ただのお節介男だ。その財布を返してやんな」
「うるせえなあ」
「何かしら理由があるんだろうが、犯罪は御法度。そうだろ?」
折角成功したカツアゲにケチをつけられた。そう感じた二人組は少しずつイライラし始める。絡んだ後に絡まれたのだ。面倒な事この上ないだろう。遂には2人とも小型ナイフを取り出して見せた。周囲は
「ほう、武器を向ける気か?」
「テメェ、黙らせてやる」
「やれるならやってみろ」
「野郎!でやぁ!」
「遅えよ。ほれ」
「ぐぎゃっ!」
「相棒!」
「潜り込んで肘を打ち込んでからの爆破か」
「今のうちに財布は返してもらうぜ。よいせっ」
「おごっ……かはっ」
「背負い投げからの爆破掌底。相変わらず凄まじい力だな」
一般人に本来なら魔法を使うのは厳禁なのだが、相手は武器を向けてきた犯罪者。最初は話で解決しようというなら尚更だ。決して殺しはしていないし、ダメージも極力抑えている。取り返した財布を持ち主に返そうと歩き出す。怪我はしているものの、軽傷だ。
「あ、ありがとうございます!貴方は確か天使の涙の……」
「そのギルドの者だ。ほれ、財布返すぜ」
「あ、無事に帰ってきた!ああ、なんとお礼をすれば!」
「良いんだよ。言っただろ?ただのお節介男だと。気をつけて帰れよ」
「はい!」
「流石だねえ、漢気溢れる振る舞いだねえ」
「街の治安を守るのも務め。当然の事をしたんだ」
「お兄ちゃん、かっこいいよ」
「へへ、そうかい?」
「何照れてるのよ」
「何事かね?」
「ああ、国軍の方ですか。丁度良い所に」
誰かが通報していたのか、或いは騒ぎを近くの駐屯軍が聞きつけたのか。丁度良い所に手早く手配してきた。その軍に手短に事情を説明して後は引き渡す事にした。
「ふむ、感謝いたしますぞ」
「良いんだよ。街に拠点を置く者として治安を維持するのも仕事の内だ」
「それでは。ほれ、立ちなさい」
「くそっ」
「クラクラしやがる……おえっ」
「こら!吐くなら側溝でしなさい!」
「あれはやりすぎですよ。爆破までしなくても」
「やっぱりか?」
いくら犯罪者とはいえ爆破するのは如何なものかと言われてしまった。さて、ひと騒動終えた所で街中をぶらりぶらりと皆で巡っていく。
「さあてと、何しようかねえ」
「本当に無計画なんだな」
「そりゃなあ。仕事以外ではいきなり出掛けるのは良くある」
「あれ?あのピエロさんマント羽織ってる」
「本当ね」
「ちょいと寄っていこうぜ」
道の真ん中で大道芸をしているピエロを発見し、皆で見ていく事になった。ここまでなら至って普通のよくある光景だ。だが、黒い大仰なマントを羽織っているのはあまり見かけない気がする。
「おや、ご家族ですかな?」
「まあ似た様なもんさ。同じチームのメンバーだし、こいつは妹みたいなもんだし」
「では、まずお嬢ちゃんにプレゼントをば!」
「わあっ、お人形さん!」
「喜んでくれて嬉しいですぞ」
「……」
「お兄さん、そんな顔して如何しました?」
「いや、何でもねえ」
「ふむ」
怪訝そうな顔をしているフィリーを気にかける様子を見せたピエロ。かれこれ10分程手品を見せてもらって、彼女も次の現場へと向かおうとしていた。ここで別れを告げる事となる。
「では失礼をば」
「っ……何か空気感が……」
「少し重い……」
「こいつは並の奴じゃねえな」
「そうだな」
「おや、動揺しないとは」
「この程度なら慣れてるんでね」
「左様ですか。では、今度こそ」
「消えた……」
まるで霞の様にスゥっと消え去った。ただのピエロなら出来ない手段だ。おそらくは魔導士、あるいは裏稼業の人間だろう。そのピエロが何者だったのか、疑問が現れる。動揺していないフィリーは何か知っていそうだとマリータあたりが気づく。裏稼業にああいう独特の雰囲気の者が多いというくらいだととぼけたが。足音が少ないとか、人混みに溶け込むのが上手いとか、独特の殺気を持つとか、そう言った事だと。
「ちょいと急用ができた。皆で街を巡っててくれ」
「急だな」
「極力すぐに戻ってくるから」
「おいおい」
「とある人と会って挨拶してくる。ただそれだけだ」
「は、はあ。分かりました」
人の目を気にしながら裏道へと入る。フィリーの予想が正しければ、こちらにやって来た筈だ。少し入り組んだ道へと入ると、やはりというべきかそこには目的の人物が居た。裏稼業で情報屋などを務めている女性で、名はユナ・ライズ。近場のギルドのマスターも頼りにしている程の人物だ。
「やはりここか」
「来たんすね、フィリーさん。どうも、ユナっす」
「あんな殺気を放って、マント羽織ってちゃ分かる人には分かるに決まってんだろ?暗刃のユナともあろう人物なら」
「ま、そりゃそうっすね」
「お前の実力は良ぉく分かってるつもりだ。だがあまり余計な事はしない方が良いぜ」
「分かってますよ。今回はフィリーさんにご挨拶をと思いましてね」
こうして直接会うのも数ヶ月ぶりなのだ。普段は裏稼業の情報屋へは繋がりのあるマスターを通じて依頼する事がほとんどだからだ。
「ピエロなんざ派手な方法、考えたね」
「この街に溶け込むにはむしろ派手な方が良い場合もあるっす」
「それもそうだがなあ」
「分かってないっすねえ、そこら辺をまだ。フィリーさんこそカツアゲ犯をやっつけたらしいじゃないっすか。噂になってますぜ」
「流石は裏稼業。情報が回るのは早いね」
「活きた情報は時に貴金属より価値がありますからね」
「そうか。お前にもまた世話になるかもな。その時はよしなに」
「『天使の涙』は私にとって大口の客ですから」
「お前は優秀な情報屋だ、頼りにしてるぜ。そういえばお前の魔法、空間に作用する風系の物だったっけか?」
「闇もあるっす」
「2属性を併せ持つか」
「これがあるからこの稼業をやっていけてるんすよ」
「情報を見聞きする為には風から聞こえる声を聞き、闇に溶け込み影から見るって事かい」
「詰まる所そういう事っすね」
裏稼業の人間のほとんどは貴族と同じく魔法使いだ。相手が闇の稼業相手なので危険な仕事なのだ。だから生き残るのは当然ながら自然と力を持ち合わせる存在が多い。国中に500人ほどが点在していると言われている。
「そろそろお仲間の所へ戻らなくて良いんすか?」
「それもそうだな」
「じゃ、また会いましょうっす」
「おう。さてと、少し遠回り気味に帰るか」
裏の世界から表の世界へ戻る。なるべく少しでも彼らの事を知られない為にも、痕跡を残さず遠回りするのが暗黙の了解となっている。
「待たせたな」
「何してたんですか?」
「知り合いを見かけてね。ちょいとばかり話をさ」
「さっきのピエロと関係あるの?」
「さて、どうだろうな」
「怪しいわね。貴方、昔から嘘や隠し事が苦手ってよく言われない?」
「何で分かった?」
「やっぱり」
「もしかして知り合いが化けてたのか?」
「そうだな」
「あんな圧力を持つ知り合いか。手合わせしてえなあ」
「辞めとけ。相手はその道のプロで、ヘンリーと言えどもタダでは済まないかもしれん」
「ヘンリーすら苦戦する可能性のある相手か」
で、ユナと面会している間に何をしているのかを尋ねると、ナンナとアニー、マリータは食べ歩きだった。食事は美味しく、楽しかったという。他の2人、特にジョージは遠征する際の道具の買い出しだ。
「
「それは重々承知の上なんだが、つい癖でな」
「私は随行して今後の参考にさせていただいてました」
「珍しいな、そのペアは」
「これも師匠をサポートする為です」
「慕われてるな」
「俺より実力はあるだろうに」
こうして半日かけた外出は終わりを迎えてギルドへ帰って来たのだ。するとマスターからお呼びがかかる。緊急事態かと聞くと
「グリニット渓流近くの街グリニエに俺らをか」
「リュートが出掛けてる今、頼れるのはあんたらさ」
「ジョージは?」
「俺らも指名を受けてる。やるなと備考欄に書いてるから今回は同時進行はダメだな」
「なら、しゃあないな」
ジョージはジョージで指名依頼となれば無理に組む事はしない。互いの無事を祈り、準備を進めて今夜出発する事となった。ヘンリーとはチームとして初めての合同任務だ。
「頼むぜ相棒」
「あたしも全力を出すかねえ」
「無茶だけはするなよ」
「分かってるさ」
「私の実力がどこまで通じるか分からないけど、やれるだけやってみるわね」
「連携して頑張りましょう」
「よろしくな、2人とも」
「私も行く」
「アニー?」
「怖いけど、いつまでも弱虫じゃいられない」
「覚悟ありね」
「どうする?」
「本人が行くって言ってんだ、連れて行こう。ただし、お前は攻撃魔法をほぼ使えないと聞く。危険な時は下がる事。それが守れれば良い」
「分かった」
「お前は我々の、特に俺にとって大事な家族。指一本触れさせないつもりだ」
「かっこいいねえ」
「言うじゃないの」
「茶化すなって」
「みんな、傷が出来たら言ってね。私、戦うのは苦手だけど特別な魔法が使えるんだ」
こうして夜更けに出発する一行。この時間からだと夜行列車となる。依頼主から情報を得て更なる準備を整える時間を考慮して、なるべく余裕を持って行動したいからだ。明日でも良いんじゃないのかと問われたが、南西部は昼間は直行便が少ない。乗り損ねるリスクを減らしておきたいのだ。
「依頼については道中分かる範囲で説明する」
「了解」
こうして新しいチームでの初依頼に出立する。
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