第1話 日常
俺には親友が居た。
そいつは、捨てられた子犬を見掛けたら拾わずには居られないようなお節介な奴で、どんな人でも困っていたら助ける。ていうか助けないって選択肢が無い。そんな、正義感の塊みたいな奴だった。
そんな奴がいま、目の前で死んだ。
ー約3ヶ月前ー
ー2024年10月5日午後4時ー
いつも同じ日を過ごしてるみたいだ。
日付が変わっても、いつもと同じように学校に行き、いつもと同じように授業を受ける。放課後はいつものコンビニに寄ってチキンを買い、食いながら帰る。
そんないつもの退屈に思える毎日でも、俺にとってはかけがえのない日々だ。そう思えるのは多分あいつのおかげだと思う。
ワン!ワン!
東京郊外の路地に子犬の鳴き声が響き渡る。
「引き取ってください」とだけ書かれた段ボール箱の真ん中に、ちょこんと座る小さなトイプードル。それを上から眺める薄白茶色の髪をした高校生は、ゆっくりしゃがみ、子犬を顔の前まで抱え上げた。青年の目は宝物を見つけたかのように、キラキラと輝いている。
「おー!! 可愛いなぁおまえ! 行くとこ無いのか? じゃあウチ来るか!」
一方、その頃。1人、離れた場所で誰かを待つ高校生が居た。その制服から察するに、先程の高校生と同校だろうか。
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まだ4時だってのにもう辺りが真っ暗になってきた。そういやあいつ、どこまで行ったんだ?『子犬の呼ぶ声が聞こえる……オレ行ってくる! (サムズアップ)』って言ったっきり戻って来ねえけど。……まぁ
そう思いスマホを取り出そうとした時、つんざくような横吹きの風が肌を
「うぅ……!? さ、さぶ……!」
さ、寒い! ここんとこ暑かったから半袖のシャツ着てきたけど……たった1日でこんな寒くなるか普通!? だ、ダメだ、待ってられない!
「おーい、亮!! まだかよー!
早くしねえと俺、凍っちまうぞぉー!」
あまりの寒さに身震いしながらそう叫ぶと、遠くの
「わかってるー! 今行くからー!」
「デン!」
ワンッ!
「お前さぁ……また犬拾ってきたのかよっ!
それで何匹目だよ」
「うーん。ねこ美とチュウチュウとオニ太郎と目玉焼きの次だから……5匹目かな」
このネーミングセンス皆無な男は、
こいつは背が高くて、運動神経もまあまあ
「5匹!? 多すぎるだろ! そんで名前の癖が強ぇ……」
「そうか?」
「なんで気付いてねんだよ!」
おまけに天然男ときた。
「多いかなぁ……でも、ほっといたらこの子、
ずうっと1人ぼっちだったかもしれないでしょ?
オレ、そういうの見るとつい体が動いちゃうんだよね……」
亮は震える犬を撫でながら、少し照れくさそうにそう言った。
そういえば、初めて出会った時もこんな感じだったな。1人になって、孤立してた俺に話しかけてくれたっけ。そういえば、なんで俺なんかに話しかけて来たんだろ?
「それにこの子も、オレと出会えて嬉しそうだし!」
そう言うと、亮は抱えた子犬に
「どこがだ!!」
「ぷっ……ははっ!」
「? なんだよ、なんかおかしかったか」
「いや、そうじゃなくて。やっぱり
「はぁ? なんだそれ」
やっぱりこいつの事はよくわかんねえ。
でも、亮と過ごすのはなんだかんだ言って楽しい。
いつまでも、ずっと、大人になっても。
俺はこうして亮と喋ってるんだろうな。
うん、それがいい。
──そんな事を考えていると、ポツ、ポツ、と小降りの雨が降ってきた。
「やべっ! 今日は雨も降んのかよ!」
「桜っ、こっちから行った方が早いよ」
そう言うと、亮は帰り道の途中にある人気の無い路地を指差した。
「え〜? こんな暗いとこ通るのかよぉ」
街灯も無い知らない道を行くのは嫌だけど、こうしてる今もどんどん雨が強くなってる。仕方ねえ……。俺は泣く泣く亮に付いて行った。
そうして、狭い路地を歩いていると、突然亮の抱いていたトイプードルが腕をすり抜け、逃げ出した。
「あっ!? もめんちゃん!」
俺たちが慌てて追いかけようとしたその時、
コツ コツ コツ コツ コツ コツ
小気味良いハイヒールの音が辺りに響く。
それは、前から歩いてきた黒いコートの女によるものだった。こんな暗い道を通る人もちゃんと
その瞬間、ぐさり、となにかの突き刺さる音がした。
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