未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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章間
第23話


 

「シアン……シ~アン……っ」

 

 妙に甘ったるい声が、耳元に吐息を吹きかけた。

 

「ん……ぅ……」

 

 ぱちりと、オレは目を覚ます。そして知らない天井を眺める。

 

 なるほど。オレはいま夢に未来を見ているらしい。

 今宵は一人称のご様子。さて、一体どんなクソッたれな未来を見せつけてくれるというのか。

 

「ね~ぇ~、シアン~」

 

 身体は勝手に、声の囁く方へと寝返りを打ち。

 

「んへへ……起きてくれた?」

 

 

 薄いレースを一枚羽織っただけのルルアが、すぐ隣に寝ていた。

 

 

「ヒョッ!?!?」

 

 オレはベッドから跳ね飛んだ。

 

 いや、正確に言うとオレは寝ているので跳ね飛ぶことはできないのだが、どうやら未来のオレも跳ね飛んだらしい。

 当たり前だろ。どういう状況だ。ベッドに足を崩したルルアを見下ろしたまま、固まる。

 

「……へ? この格好?」

 

 今より少し長く伸びた白っぽい紫髪が、仄かに女性らしさを帯びた胸元を、揺れている。

 

 月光を浴びて、艶やかな乳白色の肌。

 滑らかな曲線を描く華奢な肩。

 健康的な太もも。

 

 あぁ、これは結構先の未来だな。ルルアのえっちぃ身体つきからして間違いないはずだ。うんうんうんうん。

……おい。未来のオレ。早くこの場から逃げ出すなりなんなり動いてくれよ。

 

「もう……ずっと、一緒じゃん」

 

 真っ白な頬を赤く染めたルルアが、ゆっくりと、捕食者のように迫り来る。

 蒼穹の瞳が、上目にオレを覗き上げている。

 

「だから……そろそろ……ね?」

 

……おい! 誰か助けてくれ!! たまにはいい未来を見せろとは思うが、これはさすがに──。

 

「シーアンっ……♡」 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はっ!」

 

 見慣れた天井だ。

 青い悪魔を受け止めるために伸ばしたはずの両手が、虚空を切っている。

 

「クソ、なんてタイミングで目覚めてしまったんだ……!」

 

 オレは思わず握り締めた拳をベッドに叩き落したところで、ピタリと、固まった。

 

「…………は?」

 

 要するにオレは、その先を期待して……?

 

「……アァァァァァア~~~~ッッ!!!!」

 

 オレは枕に顔を押し付けて、活きの良い魚のごとくベッドを跳ね転がった。

 

 オレは確かに──アイツのことが好きだがそれはあくまで純粋な愛情であって決してアイツをそういう目で見たりして劣情を抱いているわけではなくつまりはプラトニックで崇高な想いを向けていると思っていたのに、結局は未来視の先を期待してしまっている狼なオレが心の奥底にいはいるんだぞってことを生々しく伝えられた気がして……クソッ! 

 

 本当に、恥ずかしい。死にそうだ。いやむしろ頼むから誰か今すぐにオレを殺してくれ。

 

「あぅあぅ……!」

 

 結果、オレは今にも蒸発しそうな顔を両手で抑えたまま、ベッドに大の字となったのだった。

 

「あぁ……このまま世界から溶けてしまいたい……」

 

 ひょこりと、ベッドに横たわるオレを覗く人影。

 

「シアンおはよっ! 一緒に朝練しに行こ!!」

 

 オレはがばりと、頭から布団を被った。

 

「……シアン~? おサボりはメッだよ!!」

 

 ゲシゲシと、ルルアは最後の防壁たる布団を剝がそうとする。

 

 落ち着けぇ……! 落ち着け餅つけぺったんぺったん。頭の中で二人に分身したオレが白い餅をつく。いや、そうではない。

 未来の幼馴染が脳を焼き焦がして離れないぞ……! なんてモノを見せつけてくれたんだクソ未来視め……! 

 

「やめろルルア! 今のオレはお前におかしなことを言いかねない精神状態にあるんだぞ!!」

「? シアンいっつも変なことばっか言ってるじゃん」

 

 まるでオレが変人みたいな言い草だな!

 

 オレは布団に潜り込みながら悪態をつき、とそこでふと気が付いた。

 

「あっ、出てきた」

 

 布団を払って青い悪魔と向かい合う。そして、ルルアの頭のてっぺんからつま先までジロリと舐め回す。

……うん。アレだな。未来のコイツがあまりに魅力的過ぎて、それと比較すると……胸とかまだ……うん。

 

……ふぅ。

 

 つまりはあの未来を見たオレは、金輪際、コイツに脳を破壊される心配はなくなったのだった。

 

「……ハッ!」

「なんか馬鹿にされた!?!?」

 

 そんな子供っぽい身体に発情するかよ。

 オレは勝ち誇った気持ち(余裕で負けている)で朝の身支度を整え、修行僧の一日に繰り出した。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 ギルド『英雄の守り人』の七不思議が一つ。

 早朝に屋外訓練場へ繰り出すと、あちこちで上級魔法の雨あられが降りしきる中、クソクソ言いながら一人ボフボフ魔法の行使を失敗する者がいると言う。

 

「このオレだが」

 

 優秀すぎる学友に囲まれて、既にギャン泣きしながら魔法の練習を放棄したい次第である。

 それでも魔法を失敗せざるを得ないは、すべては、早起きが日常と化してしまった老年魔女に強いられているからである。

 

「しかし寒いね。本当に寒い。年の終わりが近づいているだけはある」

 

 いつまで経っても弟子が魔法を使えないことに痺れを切らし、枯れ木となって体温の低い師匠は指先にボッと炎を燃やして暖を取った。

 よく乾いた枯れ木は燃えやすいと言うから、そのまま引火しないかが心配だ。魔女のスパルタ式鍛錬に従って、次は体内での魔力操作に座禅を組む。

 

「ここでも終年祭はあるんですか」

「もちろんあるけれど、おい、バカ弟子。ちゃんと集中しろ」

 

 ポカンと頭を叩かれた。酷い。話を振ったのは師匠の方なのに。

 

 さて、なんだかんだと言って候補生となって一年近く。

 今年の終わりもすぐ傍で、年末には、『終年祭』と呼ばれる大きな祭りが大陸の各街で開かれる。そしてそれはここ魔女の支配下要塞都市ネオ・フロンティアでも変わらないらしい。

 

「……よかった」

 

 何かの間違いで魔女様崇拝祭とか開催されてたら、オレは本気でこの人の精神を疑わねばならぬところだった。

 しかし大きなお祭りだ。一体どんな風にして楽しも──。

 

「候補生にとっては、今年が手放しに休める最後の終年になるからね。存分に楽しむんだよ」

 

……おい待て。なんだ今の不穏すぎる言葉は。

 

「オレは正規員になろうと絶対に自堕落したいんですが」

「それは難しいね。毎年常駐を賭けたくじ引き大会があるんだ。昨日も阿鼻叫喚だったよ」

「うそだろ……」

 

 候補生としてのカリキュラムはあと半年ほど。女神メルリア様よ。オレはこれだけ汗水垂らしているというのに、その先に待つ未来は絶望だというのですか。

 

「来年になればシアンくんは14歳、いや15歳だったかな?」

「はっはっは。記憶が怪しい師匠はもう200歳、」

 

 オレは砂利と頬擦りをする結果となったが、たぶん、大陸の砂漠地帯に生息する砂魚という生き物はこんな感じなのだと思う。

 ただの冗談にブチ切れるとか、この更年期魔女はそこらへんの自然災害より脅威なんじゃないだろうか。

 

「まだ言うか。よし、特別に今年はキミも常駐員としての経験を積ませてあげよう」

 

 終わってしまった。

 立ち去る師匠の足元でジタバタ藻掻いていると、不審者を見るような目でひょこひょこ幼馴染たちが寄ってくる。

 

「だ、だいじょうぶ……?」

「ルルア。オレの年末は森の枯れ木に踏み躙られてしまった。休みを奪われたオレに、世界を生きていく理由はもう見当たらない」

「大丈夫だよ。いつもの君と師匠の冗談じゃないか」

 

 ルルアとシリウスの回復魔法でピローッと山吹色の光に包まれて、オレ、復活。まったく、オレで遊ぶのはいいが、手当ぐらいはしてから立ち去ってほしいもんだぜ。

 

 しかしそれは裏返せば、オレを助けてくれる友がいることを理解して、あえて保護者ポジの動きをしているということでもある。

 

 女装変質者の癖に生意気だな……。

 青い悪魔がもじもじと人差し指を合わせる中、オレは訓練服に付いた土を払いながらブツクサ呟く。

 

「あ……あのね、シアン! ボク、終年祭なんだけど──」

「あの魔女はいつか分からせてやらないといけない。お前もそう思わないか、ルルア」

「……えっ。あっ、う、うん」

 

 なんか、微妙な顔で頷かれた。意味が分からない。

 そして何か言おうとしていた気もするが、まぁ、コイツのことだから勇者ごっこか食べ物の話だろう。オレの価値観は村の頃からアップデートされていないのである。

 

「俺たちがゆるりと終年祭を楽しめるのは、今年で最後だろうな」

 

 続いて現れたレッシュがふと話題を繋ぐ。その悲しい事実は掘り返さないでほしいのだが……。

 オレの落ち込む気持ちに反して、青い悪魔はあくせくと両手をひらひらさせながらオレへ言葉を捲し立てる。

 

「し、シアンは終年祭どうするのかな? 良かったらボクと一緒に、」

「オレは出店する側だぞ」

「……え゛っ」

 

 なんで驚いてるんだコイツ……。

 最近のきみたちは忘れていそうな気がするので改めて言っておくが、オレは未来視を悪用して技術を盗み見し、一獲千金を狙って生きているカスねぇ同然のゴミカスである。

 

 そして今年の終年祭は、オレが作った未来物産を世界中に知らしめ、大富豪への一歩を踏み出す最初の機会なのである。

 

 既に出店の申請は師匠に提出済みだ。

 え? なんでそんなことに汗水垂らすのかって? ……そんなの青い悪魔を楽に生活させてやるために決まってるだろ。恥ずかしいから絶対言わないが。

 

「お前はほら、せっかくなんだからクラスで出来たお友達と仲良く回ったらどうだ」

「…………あっ、う、うん」

「ノンデリ男だね」

「あぁ、ノンデリ男だ」

 

 おかしい。オレは至極真っ当な助言をしたはずなのに、呆れの視線を乗せられる結末となった。

 

「いいもん……ボク、たくさんお友達できたもん」

 

 青い悪魔に至ってはその場にしゃがみ込み、人差し指でいじいじ土遊びをする完全拗ねっ子モードである。

 

……クソッ、終年祭のことはオレから話したかったのに、フライングするお前が悪いんだぞ! 

 心の中で飼っているカスねぇに倣って醜い責任転嫁をしながら、しゅんと縮こまった背中に改めて声を掛ける。

 

「あー……ルルア」

「べつに寂しくなんかないもんっ」

「オレは確かに出店するが、夕方からは空いている。だから、その……えと……」

 

 やばい。なんか急に心臓バクバクしてきた。

 思えば、ちゃんと誘うのって初めてだな。断られたらどうしよ……オレは立ち直れない自信があるぞ……。

 

「どっちもどっちだな」

「ほわほわ雪みたいで、見ている分には微笑ましいけどね」

 

 いじけるルルアとその周りをぐるぐる回るオレの髪色を雪に見立てて、完全に他人事なレッシュとシリウスである。

 そうだな。よし、こういうのはハッキリ言おう。その方が心臓バクバクして汗水垂らす時間が少なくて済む。

 オレはルルアの正面で立ち止まり、言った。

 

「夜の『祝福の光』、一緒に見て回らないか」

 

 永遠のような一瞬の沈黙。

 こくんと、ルルアは微かに頷いた。

 

「…………うんっ」

 

 それから、急いでオレの元を発ってクラスメイトな女の子たちの方へと駆けて行った。そしたら、「きゃぁ!」だなんて小さな悲鳴が向こうで巻き起こった。楽しそう。

 

「なんなんだ一体……」

 

 ニヤニヤと笑うレッシュとシリウスである。

 

「貴様、『祝福の光』を男女で二人見るのは恋人のやることだというのは、知っていたか?」

 

……知っていたが。

 

「じゃあ、まだ結ばれていない男女で見るなら、それは告白同然だってこともかな?」

 

…………知っていたが。

 

「であれば──」

「し……ししし、知っていたが? 知っていたが??」

 

 とんだお笑い草である。クソッ、ここに来て現地調査をしないオレの欠点が出てしまったとでも言うのか!

 もはや逆転の余地がない現状から逃げ出すべく、オレは全力の魔力強化で訓練場を飛び出した。

 

「……ふぅ。やれやれ、ピエロを演じてやらないといけない学友どもには参ったぜ」

 

 心を落ち着かせるためにすぅはぁ息を吸っては吐き、はぁ、今日は朝から心臓に負担が大き過ぎるな。

 冷たい水をごくごくと喉に流し込み、火照った身体を鎮める。

 

 明日は終年祭。今年の終わり。候補生にとっては特別な安息日。

 そんな休息なる明日には一つ、解決しないといけないクソッたれな未来が待っていたりするのだが。

 

「まぁ……それはそれ、これはこれと言うやつだな」

 

 明日はせっかくのお祭りなのだから──存分に、一日を楽しもうじゃないか。

 

 

 




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っーわけで次回は土曜日。よろしくお願いします。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

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