未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第24話

 

 絨毯よし。看板よし。販売品よーし。

 

「フッ、完璧だな」

 

 露天商グッズ一式を指差し呼称し、気持ちの良い朝を迎えた終年祭当日。

 オレは鼻歌なんか歌いながらキッチンに立って、ちょっとした朝食を食卓に着いているドラ猫へ差し出した。

 

「カスねぇ、朝の餌の時間ですよ」

「心の声が漏れているよ、少年。今日は随分とご機嫌さんだね」

 

 当たり前のように皿を受け取ったウィッカさんは、オレが席に座るのも待たずに朝ご飯を食べ始める。

 やれやれ。この程度でキレているようじゃあ、カスねぇ飼育検定第一級はまだまだ遠いぜ。

 地域のドラ猫へ毎日餌を与えるのと同じように、近所に住んでいるカスなお姉さんに朝ご飯をあげるのはオレの義務なのである。

 

 既に洗脳され切っているという言葉は脇に置いておく。

 

「風の噂じゃ、今日はルルアくんとデートなんだって?」

「日の出ているうちは露天商としてこの街に名を連ねている」

「おっ、奇遇だね。お姉さんも夜からお店を出すんだ」

 

 カスねぇの出す店とか不安しかないんだが……。一体どんなカスな物品を売り出すというのか。薬とかだったら本気で困る。

 

「わかってないなぁ、少年は。お祭りらしいものを出すに決まっているだろ?」

 

 ヤサグレ目元に流し目を向けながら、人差し指でちょんちょんと胸板を突いてくる三角帽子なお姉さんである。

 本当に、中身さえ知らなければちょっとダークで美人お姉さんなのだが、その正体が人間レベルの平均値を引き下げる元凶だと知るオレには、もはやドラ猫にしか映らないのだった。

 

「というか、ギルド正規員は常駐警備で忙しいという話じゃなかったのか」

「あぁ。お姉さんくじ引き当たっちゃったんだけど、酔いつぶれてる人のくじと交換しといたよ」

 

 やっぱりカスだった。ここまで来ると安心する。

 ぺろりと朝ご飯をたらい上げ、転移の魔法実現のために古い文献を読み漁り始めたカスねぇが洗い物を手伝うことはない。

 一人で皿洗いを始めるオレは涙を禁じ得ず、もはやカスねぇの専業主夫として将来的に養ってもらうことは確定だ。

 

 なお、そのための生活費を捻出するのは、おそらくオレの役目になる。

 

「幼馴染にフラれたらいつでもおいでよ。お姉さんが相手してあげるからさ」

 

 露店に必要なものを携え、最後にカスねぇに今日のお祭りのお小遣いを渡したところで、いざ出発。

 一体、この街のどこにこれほどの人間が息を潜めていたというのか。激混みドラゴンな街の様子は圧巻だ。

 

 街をそぞろ歩く誰彼の声。吟遊詩人の旋律。屋台から漂う香ばしい匂い。

 オレは前も後ろも分からぬほどの人の背中に塗れた大通りを往き、やがては露店を出す空き地にたどり着く。

 

「苦節13年。オレはようやく人生にスタートラインを切れるのか」

 

 長かった。本当に長かった。だが、ここからがオレの大富豪商人としての物語の始まりだ。

 

 見上げれば空は快晴、人だかりは充分。

 手には未来で大流行の物産があり、舞台は、完璧だ。

 

「さて、いっちょ始めますか」

 

 オレは露店の風呂敷を大きく広げ、客引きの声を叫ぶ。

 

 オレ達の物語は──これからだ!

 

 

 

 

 第一章『千客万来の大商人』編・『完』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然売れないんだが」

 

 

 おかしい。

 

 目の前には長蛇の行列。売り切れ御免に阿鼻叫喚。

 オレは魔女の支配下で圧倒的成果を残し、第二章『シアン商会発足』編へと人生を移行するはずが、現実のオレは一つも売れないハンドスピナーを手に弄んでいた。

 

「なぜだ……未来じゃ若者にバカクソ売れている玩具なんだぞ……」

 

 過ぎ行く誰彼に声を掛けたり、実際に遊び方を実演してみたり。

 オレはあらゆる汗水を垂らしてみたが、ついぞハンドスピナーは売れることなかった。

 

 オレは在庫を抱えた商人として大爆散してしまったのである。

 見上げれば空は快晴なのに、ボタボタと雨が降ってきた。ぐすん。

 

「やはり世界はオレに厳しすぎる。どう考えてもオレのこと嫌いだろ」

「……あァ? 誰かと思えばテメェか……」

 

 右眼を抑えながらついつい本音を漏らしていると、大通りに立ち止まる影がある。

 

 仄かに鋭さを帯びてオレを映す、鈍色の瞳。『銀狼』率いる一団だ。しっかり武装している様子を見るあたり、今は終年祭で大盛況な街の見回りをしているのだろう。

 

「あぁ、こんにちはミナさん。見回りお疲れ様です」

 

 と、オレは極めてありふれた日常会話を投げかければ、ミナさんは嫌そうに勝気な顔を歪めた。

 仲直りはしたはずなんだが……。訳の分からぬ反応に首を傾げていると、『銀狼』は大きくため息を吐く。

 

「テメェ……ンでそんな普通にオレと話せる……」

「そりゃあ、ミナさんが良い人だからですよ」

 

 びくりと、銀色の尻尾が逆立った。程あって、彼女は銀色の短髪をぐしゃりと掻き毟る。

 

「オレァ、ンな簡単に割り切れねェ……それに、心のどっかにまだ嫌なオレが居るのも、気に食わねェ……」

 

 人間、そんなもんである。

 

 オレ? オレは血と涙を流し過ぎた幼少期のせいで、大抵のことは水に流せるようになったよ。

 あぁ、血と涙を流した幼少期ってのは、実験棟での日々じゃないよ。青い悪魔と森の枯れ木に虐められた幼少期の方だよ()

 

「同じギルドメンバーなんですから、まぁ、適度に仲良くしましょう」

「……テメェはオレより、よっぽど良い奴なんだろうな」

「それだけはあり得ませんが、お近づきの印に一つどうぞ」

 

 居心地悪そうに目を逸らしたミナさんへ流れるように友好の証(売れ残りのハンドスピナー)を押し付け、ぶんぶん尻尾を揺らさせたこと数分。

 

 やはり、未来物産が売れる気配は影も形もない。

 

「どうしてこんなに素晴らしい玩具が売れないのか」

「需要を意識していないからだよ、少年」

 

 出たな、屋台飯を盗み咥えてすっかりお祭り気分なドラ猫め。

 カスねぇはオレの露店の前でしゃがみ込み、ハンドスピナーを一つ摘まみ上げて上から見たり下から見たりジッと吟味した。

 そして、重い瞼の底から琥珀色の瞳を覗かせて笑う。

 

「世の中の人はね、需要のあるモノにしか興味がないんだよ。だから少年の努力とか頑張りなんてのは二の次で、つまりは少年が一生懸命作ったそれはゴミカスでしかないってことさ」

 

 どうやら転移の魔法失敗を経験したことで、ただでさえカスな性根は更に歪な方向へと曲がってしまったらしい。

 未来で流行したものはあくまでも未来だから流行したのだという事実をエッグい言葉で突き付けられた。

 オレはクソ雑魚ナメクジなメンタルをぺしゃんこに叩き潰され、その場に消沈してしまった。

 

「その辺、お姉さんと違って、少年はまだまだ甘いね」

 

 オレが~……オレの一獲千金確定ルートが~~……!!

 

 両手をジタバタとさせてギャン泣き寸前に鼻をひくひくとさせていると、ふと、カスねぇは邪悪に笑う。

 

「でも、お姉さんはすっごく好きだよ、少年の作った玩具。とても良いものだと思うな」

「うぃ、ウィッカさぁん……!」

 

 おぉ、神はここに居たのか。下げて上げての飴と鞭に目が曇ってしまったオレは、もはや近所のドラ猫が女神にしか見えなかった。

 

「だから、こういうのはどうかな? 少年の素晴らしい玩具を売値の半額で引き取ってあげよう。ついでにまた詰まってる魔力のカスを洗い流すオマケ付きさ」

「あぅあぅ……!!」

 

 カスねぇ好き。大好き。やはりオレを認めてくれるのはカスねぇだけなんだ……。幼少期に叩き込まれた洗脳癖は未だ抜け切らず、オレはオレを肯定してくれる人に涙を流してT通貨とハンドスピナーを差し上げるのである。

 

「いやぁ、カモが居たおかげで助かったよ。これで軍資金が増えた」

「…………ハッ!」

 

 そのカス過ぎる手口に気が付いた頃にはもう遅く、手元には販売できる商品が一つもない。

 

 オレの商人としての輝かしい人生は、わっるいお姉さんに破壊されてしまったのだった。

 

 仕方がないので予定より早く露店を終えて、人混みの中を練り歩く。武具を売っている商人の様子を見たり、路上ファイトをしている腕自慢が青い悪魔にぶん回されてる様子に戦慄したりしながら、とある目的地へと足を向ける。

 

 本当なら、今頃は街の代表として民衆の前で挨拶でもしているだろう森の枯れ木を最前列で煽ったりしたかったんだがな。

 しかし、なにぶんこのままだと面倒な未来が待ち受けているので、オレはそれを解決しに向かっているのである。

 

「まったく、年末ぐらい自堕落に過ごさせて欲しいもんだぜ」

 

 とは言えこれから起こる『要塞都市ネオ・フロンティア倒壊事件』について知っているのはオレだけなのだから、やはりオレが汗水を垂らすしか選択肢はないのである。

 

 クソが。

 

 まぁ、仰々しい名前を付けているが、これまでのクソ未来と今後のクソ未来を思えばこれは中ぐらいのクソな未来だ。

 

 何かヤバい連中と闘う必要はないし、ルルアが死ぬわけでもない。

 ただ、これを見過ごせばこの街は機能不全となり、終年祭に集った多くの人が死ぬことになるだろうし、せっかくルルアがメキメキと才能を伸ばせる舞台であるギルドが機能しなくなるのも困りものである。

 

 つまりはオレは、未来を解決するために動くのである。

 

「確か、一つ目はここだったか」

 

 のんびり歩いて辿り着いたのは、クソデカ城改め、ギルド本部。その中でもひと際背の高い時計塔。

 こういう大きな建物に仕掛けられている時限爆弾式魔法陣を破壊するのが、この度のオレの責務なのだ。

 

 時計塔の扉はギルド長しか知らん施錠番号で封印されているのだが、オレは当然、未来視で知っているので簡単に突破する。

 内部には巨大な魔法陣が紫色の光を放って妖しく光っていて、よし、コイツを破壊、

 

「……できるんだろうか」

 

 しまった。魔法陣の破壊の仕方とかイマイチ知らんぞ。

 なーんて準備不足には陥らないぜ。ハッ! 魔法陣に流れる魔力を断ち切る方法は講義で学習済みだからな!!

 

「確かアレだな。自分の魔力を魔法陣の魔力の流れとは別の方向に流せばいいんだったな」

 

 オレは片膝をついて、床を覆い尽くす魔法陣へ手を添える。

 そして魔力を送り込む。

 

 

 オレは気が付くと眩暈に床へ倒れていた。

 

 

「そうだった……オレは魔力量ゴミカスなんだった……」

 

……どうすんだこれ! オレ一人だと解決できねぇぞ!! まさかの、魔法陣の機能を停止するために使う魔力が足りないとかいうゴミカス仕様である。

 

 オレはどういう訳か自分の魔力量を多く見積もりがちだ。いやそれどころではない。どうする? 青い悪魔でも連れてきて破壊してもらうか? 

 だがどうやって説明する……オレは朦朧とした視界に生えた森の枯れ木を見上げながら、頭を抱える。

 

……ん? 森の枯れ木……???

 

「なるほど。こんな妙なものが仕掛けられていたのか」

 

 どうやらオレは助けを求めるあまり幻覚を見ているわけではないらしく、神出鬼没な師匠は金糸の触角をさわりと払いながら、魔法陣に手を添えた。

 

 すると秒で魔法陣から光が消えた。理不尽すぎる世の中である。

 

「なにはともあれ、助かりました」

 

 と、オレが言おうとした直前、師匠はオレを見下ろしながら言ったね。

 

「さて、どうしてキミが、私しか入れない時計塔に侵入しているのかな?」

 

……不味いな。言い訳が一つも思いつかないぞ……。

 

 

 




 次回は月曜日の9時です。いつもと違って一日空きます。すみません。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

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