未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第25話

 

 面倒な未来を解決するために時計塔へ侵入したところ、もっと面倒な現在(いま)が襲い掛かってきた。

 

 立ち入り厳禁な時計塔。

 そこに居たオレ。

 目撃した師匠。

 

「うーん。これは詰み」

 

 言い訳が一つとして思い浮かばない現状を前に、オレは床に倒れ伏せたまま、そっと瞼を閉ざしたね。

 

「気絶しているフリをしても無駄だよ」

 

 森でクマに出会ったら、死んだふりをしろ。

 オレは養父さんからそう聞いていたのだが、同じく森の支配者である魔女には通用しなかった。

 

……ええい、かくなるうえは。

 わき腹をげしげしと革靴の先で蹴られたオレは立ち上がり、拳を空に突き上げてカッカしてみる。

 

「誰が時計塔に入ったっていいだろ! 街人にも開放しろ我がまま魔女めっ!!」

「私しか知らないはずの暗証番号を開錠されているのが問題なんだよ」

 

 金糸の触角を払ってため息を吐く枯れ木は、年の分だけ冷静だった。

 

「……モトカラ、トビラアイテタヨ」

「キミは嘘を吐くのに向いていないね」

 

──サッサと白状しろ。

 

 師匠はジッと、赤い瞳の中にオレを映す。

 

 相手は、鶴の一声でオレを街から追放できる魔女だ。火消しは済んだが一度悪い噂の流れたオレが勝てるはずもない。

 そういうわけで、オレは恥も外聞もなく真実を伝え、

 

「…………」

 

 られない。

 

 オレがいかにして時計台に侵入し、謎の魔法陣と格闘していたのか。

 それを話すとはつまるところ、オレは()()()()()()()()()という意味であり。

 

 

 きっと、師匠はそんなことないだろう。信じている。信じたい。だけど──オレは。

 

 

 つまりはクソ過ぎる愛情の裏切りを経験した幼少期のせいで魔力量だけでなくメンタルまでゴミカスとなってしまったオレには、どう足掻いても喉から言葉を振り絞れないのだ。

 思わず顔を軽く伏せて、暗い床を見つめる。

 とすると師匠は金糸のポニーテールを払い、アッサリと言った。

 

「まぁ、いいさ。誰にだって話したくないことの一つや二つあるだろうからね」

 

 あまりに適当な流し方だ。それじゃダメだろ。伝えられない癖に、オレは思わず見上げる。

 師匠は桜色の唇を緩やかに引いて、ポンと、オレの頭に手を乗せた。

 

「でも、気が向いたら私に話してくれると嬉しい。これでもキミの師だからね。少しぐらいは助けになれるさ」

 

 わしゃわしゃと撫でまわされる髪に、心は、ホッと落ち着く。

……本当に、この人は。

 

「私は、キミやルルアちゃんが私の名声を大陸に轟かせてくれるならそれで構わないんだ」

 

…………支配心にすべてを呑まれた悲しき老人だな。

 

 少しでも師匠に愛の言葉を送りたくなった数秒前の自分が信じられない。気が動転していたようだ。

 樹齢千年男の娘系師匠に脳を破壊される寸前で持ち直したオレは、ぶんぶんと首を横に振って人心掌握術から逃れた。

 

「魔法陣の構成からして、他にも複数爆発予定地があるみたいだね」

「……分かるんですか」

 

 流石は長く生きているだけのことはある。

 それでも、師匠にはどの建物に残りの魔法陣が仕掛けられているのかまでは分からないはずだ。そして今ここでそれを知るのは、未来の見えるオレだけなのだ。

 

……分かっている。

 

 オレは、オレのことを話せなくても──師匠の助けには、なりたいんだ。

 

「魔法陣は……あと七個ある。場所も……分かる」

「それじゃあ、それだけ教えてもらってもいいかな?」

 

 ガキをあやすように前かがみにしゃがみ込んだ師匠へと、オレはポツリポツリと振り絞った。

 

「ありがとう。流石は私の弟子だ」

「……では、一緒に魔法陣を破壊しに行きましょうか」

 

 そう言ってオレは時計塔から踵を返したのだが、師匠は「はて?」とでも言いたげに固まった。

 

 一体なにがおかしいというのか。子ども扱いするのも大概にしろよ!

 頭をぽんぽんされてまだ顔の赤いオレが再びカッカすると、師匠はニヤリと、得意げに笑みを作る。

 

「なに、キミはそろそろ、ルルアちゃんとデートの時間だろう?」

 

 時計塔の窓から見える空は暗い。気絶している間に夜になったのか。このままだと青い悪魔を待たせてしまうことに。

 

 師匠は式典用のマントをばさりと揺らし、片眼を軽く瞑った。

 

「こういう面倒ごとは、大人の仕事さ」

 

 

 ♦♦♦

 

 

 師匠のカッコいい姿に目を焼かれたオレは盲目のままルルアと落ち合う予定のギルド本部前までやってきて、現在。

 

 夜間を告げる鐘の音が、街中を響いた。

 そろそろだろうか。人混みに溢れる大通りへ目を凝らし、青い悪魔の姿を探す。

 

 ツツンと、腰を突かれる感覚があった。

 

 おぉ、後ろから来たか。

 コイツはこれから、必ずオレを驚かしてくる。オレはそのことをきちんと念頭に置いて振り返り。

 

「……ば、ばぁ……!」

 

……???

 

 なんか、真っ白でもこもこなセーターを着て、ちょっと長すぎた袖口をだらんとしている生き物がいるんだが……。

 思わず振り向いた顔を正面へ戻す。バックバクした心臓を抑える。そして再び背後を覗き……ダメだ。真っ白な頬を染めた恥じらいの「ばぁ」が強すぎる。

 

「う˝……ぐ、ぉぉおお!!」

「し、シアン……?」

 

……ふぅ。

 人混みの表通りだろうとなんだろうと、のた打ち回ること数秒、オレはなんとか無事に(無事じゃない)落ち着きを取り戻す。

 そして改めてルルアの姿を見てみる。白セーターにロングスカート。普段とはまるで違う装いだ。

 

 まぁ、コイツもお洒落してきてくれたということだろう。ならばオレの告げるべき言葉はただ一つである。

 

「る、ルルア」

 

 オレは、オレを見つめては蒼穹の瞳をあちこちへ泳がすコミュ障ムーブをかましている幼馴染へと、しっかりと向き直り。

 

「……似合ってるぞ」

「……う、うん……ありがと」

 

 

 アァァァァァア~~~!! なんなんだこの甘酸っぱくてじれったい空気は!!!!

 

 

 オレと青い悪魔はそういうのじゃないだろ!! もっと、こう、ハチャメチャしてる感じだろ!!!!

 なんか微妙な沈黙のまま、人混みにあふれた大通りを歩き始める。迷子になっては不味いから手をつなぐ。なーんて度胸がオレにあるはずもなく、時折指先が触れ合ってはサッと手を引っ込めて、お互いに顔を背け合う醜態である。魔女に目撃されたら生温かい視線を向けられかねない有様だ。

 

「……」モジモジ

「……」モジモジ

 

 もう、なんか沈黙が辛くて身体がうずうずしてきたぞ。

 自堕落こそ至高なオレにとってはあり得ない状態に至ったところで、屋台が立ち並ぶ通りへと流れ着く。

 

「……美味しそう」

 

 胃袋に突き刺さる匂いに釣られて、青い悪魔は途端にあちこちへ首を振り始めた。

 はーん、出番はここだな。

 オレはパンパンに詰まった財布(師匠にさっきたかった)を、ドンと見せつけやった。

 

「ルルア、好きなものなんでも食っていいぞ。今日はオレが奢ってやる」

 

 ルルアは怪訝そうに、整った眉を潜めた。

 

「……シアン、なんか悪いことでもしたの? ボク一緒に謝るよ??」

「お前はオレをなんだと思っているのか」

「工作でお金なくなって……ときどき師匠に縋りついてる情けない生き物……?」

 

 クソッ、正解だ。

 

 よし、お互いに調子が戻ってきたな。

 ルルアと共に屋台を片っ端から強襲しつつ、魔法の灯りが暗闇の街を照らす終年祭を練り歩く。

 

「あっ、ウィッカさんだ」

 

 ふとルルアが指差した方角には、くじ引き屋さんをしているカスねぇが。

 オレとは違ってバカクソ売れているようで、くじも残すところあと一枚。

 

 そして残っているのは一等賞だ。

 

「あ!」

 

 気が付いた幸運な少年は、目をキラキラさせてくじを引いた。

 

 残り物には福があってよかったね。それじゃあ、オレはルルアとデートの続きを。

 

「少年~、残念だったね、くじ引きは外れさ」

「で、でも……最後のくじだし、一等まだ残って……」

「生きていればそういう日もあるんだよ。ほら、残念賞の玩具だよ」

「カス過ぎる」

 

 当たりの入っていないくじ引き屋とかそれ色々アウトだろ。

 涙目の少年が残念賞(オレから引き取ったハンドスピナー)を無理やり持たされている現場は──さすがに、見逃せない。

 

「行けっ! ルルア!!」

「やるのはボクなんだ……でもいいよっ!!」

 

 オレのゴミカス魔力量では実現できない卓越した風魔法により、当たりくじと一等賞はあれよあれよと言う間に宙を流れ、少年の両手に収まった。

 

 世界の理不尽さに絶望した少年の目には、再び、光が宿った。

 

「わーい!!」

「あぅぅ……お姉さんの転売予定品がぁ~!」

 

 何か涙目で手を伸ばしているカスねぇだが、今日のところはカス過ぎたので当然の報いである。無視して目的地の高台へ登っていくと、道中、歌と弦を響かせて人だかりを作る吟遊詩人を見かける。

 

「おっ、勇者の英雄譚か」

「え゛っ!! 聞きに行こ聞きに行こっ!!」

 

 唐突に目をキラッキラとさせ、華奢な手で強引にオレの手を掴んで吟遊詩人の方へと駆け出すルルアである。

 やはりコイツは勇者ごっこか食べ物。それは昔から変わらない。オレは青い悪魔の速度についていけず地面に引き摺られるという醜態を晒すのも、昔から変わらない。

 

 オレのギャン泣きを旋律に語る吟遊詩の英雄譚に、ルルアはうっとりと、その顔を恍惚とさせた。

 

「お前、本当に勇者が好きだな」

「だってカッコいいじゃん!!」

「ちなみに何代目が好きなんだ」

「四代目っ! ボクのおじいちゃんおばあちゃん助けてくれたらしいもん!!」

 

 王道にして至高の初代。破天荒な二代目。影の薄い三代目に。拗らせの四代目。ではまだなく悲劇の四代目。

 ここまでが現在。そして未来では、青い悪魔の五代目である。

 

「でも、四代目は闘いで死んじゃったんだよね……」

「そうらしいな」

 

 四代目勇者は僧侶ティナを庇い、魔王の最後の抵抗に命を奪われた。

 と世間では語られているがその真相を知る者は少なく、オレでさえも、未来視の断片的情報で恐らくそういうことなのだろうという流れぐらいしか把握できていなかったりする。

 

「四代目以外だと初代の仲間の竜闘士も強くて好き!」

「強いから好きだと? ガキが……」

 

 それだと魔力量ゴミカスなオレがお前の心に入り込む余地がないだろ。

 

「あと、失われた聖盾とかボク探したい!!」

「おまえ盾とかあっても使わないだろ……」

 

 勇者大好き人間の話に相槌を打っていると、高台にたどり着いた。

 時刻はそろそろ深夜零時。終年祭の本番を待ち望む人々で、高台はそれなりに賑わっている。

 人混みを避ける形で高台の端に移動したところ──。

 

「……」

 

 ふと、ルルアが俯いた。

 

「……おい、どうした」

 

 返事はない。まさか、慣れないお洒落で靴擦れでもしたのだろうか。……クソッ、高台を選んだのは失敗だ。オレの配慮が足りなかったとでも言うのか……!

 急に塞ぎ込んだルルアの前であたふた踊り狂っていると、ぽつりと、呟く言葉がある。

 

「……ボクね、勇者になりたいって、よく言ってるじゃん」

 

 どうやら、落ち込んでいるわけではないらしい。なら良かった。ルルアの声に耳を傾ける。

 

「ギルドに入って、分かったけどさ」

「おう」

「強いだけじゃ、意味なくて。ちゃんと周りと仲良くして、頼られて。それで初めて、ボクの好きな勇者なんだなって」

 

 おぉ、オレの幼馴染もとうとうその領域にまでたどり着いたのか。これはものすごい成長だな。帰ったら青い悪魔の育成日記に記録をつけようと思う。

 

「まぁ、そうだろうな」

「うん。それでね、ボク、色んな人と仲良くなって……一個、気づいちゃったの」

 

 ほんの少しだけ顔を持ち上げて、ルルアはどこか上目にオレを覗く。

 これは、もしかするとものすごい大事なことかもしれない。

 なにせ、実力があるだけで性格カスナチュラル煽りモンスターだったコイツが、人と関わる中で何かに気が付いたんだぞ。

 

 オレはその世紀の大発見を聞き逃さぬよう、蒼穹の瞳をしっかりと見つめ返して。

 

 

「シアンはね……ボクの、特別……いっぱいお友達出来て、そんな気がした……」

 

 

 ポツリと、夜空から何かが降り注いだ。

 

 

 夜空より舞い落ちるのは、虹に輝く薄い光の破片。祝福の光。

 形はどこか金平糖のようで、ひらり、ひらりと、雪のように落ちていく。

 

 これぞ終年祭。深夜零時に、女神メルリア様が世界へ注ぐ聖なる光。

 天空から降り注ぐ無数の光に気が付いたのか、遅れて、暗闇の地上から「おぉ!」と大きな歓声が上がる。

 

 

 けれど、そんなことは今のオレ達にはどうだってよくって。

 

 

 星屑みたいな光の降る幻想的な世界で、ルルアはほんのりと赤い顔を、ゆっくりと持ち上げる。そして噛み締めるように、小さく頷く。

 

「……うん。特別なの……」

「…………それなら良かった。オレは出会った時からずっと、お前が特別なんだ」

「え……? そ、そっか……んへへ……そっかぁ……」

 

 返事は……こ、これで良いんだよな?

 ほ、ほら! まだこう、最近になってようやくまともな人間関係を構築できるようになったルルアの中ではオレは唯一のお友達からまだ名前の付けられない何かに昇格しただけってことだよな!?!?

 

 恋とはどうしてかくも難しいものなのか。

 

 よし、よーし……ルルアがぽりぽり頬を掻きながら微笑んでるから正解だろ……。

 

「あ、あのね。ボク、まだうまく言えないから、シアンのこといっぱい待たせちゃうかも」

「オレは元よりお前の歩幅に合わせるつもりだ。まぁ、我慢の限界が来たらオレから言うかもしれないが」

「……うんっ!」

 

 言質は取った。これで逆ヒロインレースはオレのもの。勝ち確だ。誰にも譲らない。

 蒼穹の瞳を細めていじらしい笑顔を咲かせたルルアは、そっと、オレへと手を差し伸べる。

 

「だから、えっと、今年もよろしくね、シアン」

 

 オレはしっかりと華奢な手を掴み、こくりと、頷いた。

 

「あぁ、よろしく頼む、ルルア」

 

 

 ♦♦♦

 

 

「私の弟子たちが一歩ずつ進んでいるようで何よりだよ」

 

 そこは時計塔。

 街一番の展望を臨める特等席。

 塔の天辺に佇むポニーテールの人影は、双眼鏡を下ろして、大きく頷く。

 

 既に、街の長としての仕事は終えた。

 祝福の光がゆらりと降り注ぐ夜空を見上げながら、彼女はハッキリと、その名を呼ぶ。

 

「──オボロ」

「ここに」

 

 どこからともなく現れ、背後に片膝を突くは──秘書。

 暗闇より這い出るその姿は、メイド服を着ているというのに忍者のようであり、その出身が大陸東南の黄金島にあることを伺わせる。

 

 街の長は金糸の触角を風に揺らしながら、言った。

 

「西の果てに先遣隊を送ろうと思う。人員を募ってくれ、内密にね」

 

 思わずといったように、秘書は目を見開いて顔を持ち上げる。

 

「……まさか、魔王が?」

 

 街の長はゆっくりと、首を横に振った。

 

「分からない。だけどこれは私の……」

 

 そこで『彼』は、言い淀むように声を噤み。

 

「……いいや。単なる()()のカンだよ」

「御意に」

 

 その一言は絶対だった。秘書はすぐさま頷き、再び闇へと消え入った。

 残された金髪美人は自らの発言力に苦笑いしながら、光降る街並みを眺める。

 

「外れてくれると、嬉しいんだけどね」

 

 見上げる月は──暗赤色に、わらっていた。

 

 

 

 

 




 物語はここで折り返しです。
 次章は皆さまお待ちかね? 樹齢千年男の娘系師匠こと魔女様にメインを出張ってもらいましょう。
 そして次の投稿日は水曜日です。ペースは元に戻ります。

 え? 情報量が多い?

 そんぐらいでいいんだよ()

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

  • 廃品回収業者をしていた、勇者を回収した
  • 他人のイヤホン音漏れさせるだけの能力
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  • キミと勇者の物語
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