未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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以前から常々思っていたが、師匠はオレのことを(以下略)
第26話


 

 与えられた手札は、生まれ落ちたその時から変わらない。

 

 なればこそ、山札を引け。

 かつてどこかの未来の偉人は、そんな言葉を残したと言う。

 

「黙れ」ドン

「なんだい急に」

 

 未来視とかいう地雷手札が組み合わせ次第で無限の選択肢を生み出せるとでも思っているのか! 切れる山札がゼロ枚だったら無理だろ!!

 

 ここは放課後、責務を終えた候補生たちの楽園。

 オレは気のいい仲間と教室の机をがっちゃんこして札遊戯(ふだゆうぎ)をわちゃわちゃ遊んでいたはずなのだが、いつの間にか、山札がすべて墓地へ送られてしまった。

 

 右手は失われた山札を切ろうと寂しく動く。

 そんなオレを見て、前髪で左眼を隠した我が友シリウスは手札に口元を隠しながら笑う。

 

「さぁ、君の山札はなくなってしまったよ。その限られた手札でどうするのかな?」

「もうオレの手札は魔力量ゴミカススライムだけなんだが……」

「そうか。じゃあ残念だけど僕の勝ちだ」

 

 飛び切りの笑顔でカードを横に傾けるシリウスである。

 途端に、カードの上に死神の鎌を持った骸骨が現れた。

 

「ぬわーっ!」

 

 幻想の一撃に命を刈り取られ、敗北。オレは椅子から転げ落ちる。

 こーんな無駄技術を実現できる才能とかズルすぎるだろ。オレの未来視と交換してくれないか。

 

 教室の床に倒れたオレを見て、審判役なレッシュはため息を吐く。

 

「貴様は本当に弱いな。札遊戯の才能がないらしい」

 

 言っておくが、オレは禁止カード(未来視)を使えばお前らなんか余裕でぶっ飛ばせるんだぞ。

 

 やれやれ、このあたり、お子様なコイツらにはわからない気遣いだろう。

 オレは首を横に振りながらクソデカため息を吐き出す。断じて負け惜しみじゃあない。

 

「じわじわ選択肢が奪われていく。これ以上に辛い体験はないだろうね」

 

 シリウスの使う山札破壊デッキはクソほど害悪だ。こんなんだったら青い悪魔の脳筋デッキでぺしゃんこにされる方がよっぽどマシである。

 今度はレッシュの爆裂魔法速攻デッキを使われる前に、オレは床から起き上がって教室の扉を開く。

 

「おや、君は帰るのかい」

「山札を補充するゆえ」

「良い札に巡り合えるといいな」

 

 まぁ、オレが補充するのは()()()()()()()()()()()()

 

 魔力の弾丸。魔力の刃。魔力の棘鎧。そして未来視。

 既にオレの手札はフルオープンで、実質墓地に消えたようなものである。

 

 なればこそ。

 

 偶には未来の偉大なる先人の、叡智の結晶とやらに従ってやろうじゃないか。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 終年祭の異常な活気に呑まれていた要塞都市ネオ・フロンティアは、新しい年を迎え、爽やかな雰囲気を取り戻していた。

 

 程よく人の行き交う大通りは通行に快適だ。やはり、普段住んでいる街はこのぐらいがいいな。オレはうんうん頷きながら、目的の店へ足を運ぶ。

 

「おい! 今日という今日はテメェには金を貸してやんねェぞ! サッサと返済分を寄越せや!!」

「わ、分かってないなぁミナは。私はすごい魔法のために投資を──」

「ンなこと言って今日もギャンブル漬けだろうが、このカス女がッ! もう騙されねェ!!」

「あぅぅ……!」

 

……うむ。やはり、普段住んでいる街はこのぐらいがいいな()

 

 新年早々カス過ぎる空気を街に流し込むお姉さんの存在には涙を禁じ得ない。なお、その尻拭いがおそらくオレのところに来るだろう事実もオレは知らない。

 

 そういうのはぜーんぶ、未来のオレがなんとかしてくれるはずだ。

 

 オレは未来のオレになんでも託す超究極の自堕落人間である。

 

「さて、一応顔を出すか」

 

 レンガ造りの街並みを歩けば、空気を伝わる大歓声、爆発音。

 身体はもうそれだけで蕁麻疹が出そうなのだが、オレはげんなりと、鏡のように磨き上げられた漆黒の闘技場を見上げる。

 

「どうしてオレがここに来なければならないのか」

 

 クソほど重い身体を引き摺って階段を昇れば、ぐるりと広がる観客席。超満員。

 オレは観客席の一番後ろから背伸びして、今日のランク戦の様子を伺う。

 

「おぉっと! 第六位が膝を着いたぞ~!!」 

 

 大男はぜぇはぁと、見ているこっちがしんどくなるほど息を切らしている。

 彼は闘技場に這いつくばりながら──キッと、対戦相手を見上げる。

 

「ク、ソ……! ガキの癖に……ッッ!!」

 

 相対するは──ふわりと、白っぽい紫髪を揺らす小柄な少女。

 

 少女は、大男が降り注ぐ魔法の雨中を、歩く。

 ただそれだけのことなのに、大男が放つ渾身の魔法は、ことごとく跳ね返されている。

 

「これはまたも、『青い悪魔』ことルルア選手の快進撃か~!?!?」

「頼む……誰か止めてくれ……!」

 

 競馬場で馬券を両手で祈りに握り締めるようなオレの有様である。

 アイツ何連勝してんだ。もうとっくにオレの手に届く範囲からぶっ飛んでるぞ。

 

 まともにランク戦を始めたことで、ますます腕に磨きを掛けている青い悪魔。その恐ろしい姿にガクブルと身を震わせていると──。

 

……ん? なんか、蒼穹の瞳と目が合った気がするんだが……。

 

「シアン~っ!!」

 

 パッと笑顔を輝かせ、対戦そっちのけで観客席へ手を振るルルア。

 対戦相手に失礼だとは思わないのか。そこのところ、やはりアイツの根本はナチュラル煽りモンスターだな。

 

「……帰るか」

 

 不味いな。ちゃんと約束通り、ランク戦を見に来ている律儀なオレを幼馴染に知られて恥ずかしい。

 今ならまだ幻覚ってことで誤魔化せるだろ。よし。そうと決まれば早速に撤退を。

 

ばぁっ!!

 

……???

 

 オレは観客席の出口へ翻ったはずなのだが、そこにはルルアが両手を顔の横に広げてニコニコとしていた。

 急いで振り返ると、ゆらりと消える闘技場に立つルルアの残像。

 

 どうやら幻覚を見ていたのは、オレの方だったらしい。

 幼馴染が無邪気にキャッキャと構ってくれて、オレとしては悶死しそうな限りなのだが……。

 

「お前……」

 

 オレが言うまでもなく、審判はハッキリと言った。

 

「……場外! よって今宵はまさかのルルア選手が敗退!!」

「え゛っ」

「アホなのか」

 

 相変わらず、肝心なところでおつむの足りない幼馴染である。すっかり固まってしまったルルアを置いて闘技場を後にし、さて、寄り道は終わりだ。

 

 オレは表通りから脇道へ入り込み、ひっそりと静かな小道を歩く。

 煙の匂いが、鼻腔を擽った。立ち止まると、煙突付きの大きな平屋がそこに建っている。

 

 目的地はここだ。オレは迷わず扉を開き、声を張り上げた。

 

「ごめんくださーい」

 

 カランと、鐘の音が鳴る。そこは木と鉄の色に塗れた空間だ。

 落ち着いた店内をずらりと並ぶのは、多種多様な武器防具。オレは無作為にその一つを手に取り、思わずほぅと、息を漏らす。

 

「……やはり、質が良いな」

 

 ズシリと、よく鍛えられた鉄特有の重さ。艶やかで深い剣身の輝き。

 右眼に垣間見る未来にも引けを取らぬ技術力だ。終年祭の時に色々と見回ったが、新たな手札を作るのなら、間違いなくここである。

 

 それじゃあそろそろ、頑固な鍛冶屋のドワーフジジイでも呼びますかね。

 思ってオレが、作業場らしき店の裏を覗こうとした、その時。

 

「ん、しょ……ん、しょ……」

 

 ひょこりと、小さな影が現れた。

 

 茶髪のお下げ。幼気なこげ茶色の瞳。オレが見下ろすほどの幼子が、両手に鉄の延べ棒を抱えてふらついている。

 ははーん、さてはドワーフ頑固ジジイのお孫さんだな?

 

「嬢ちゃん、重いの大変だろ。オレが手伝ってやるぞ」

 

 オレは鉄の延べ棒を抱えた幼子へ、慈愛のまなざしと共に手を差し伸べる。

 お孫さんに優しくしてあげるお客さん。これでドワーフジジイへの好感度はうなぎ登りである。勝ったな! ガハハハッ!!

 

「ん」

 

 ポカンとオレを見上げた幼女は、やがてこくりと、頷いた。

 そしてオレの手を握り、そのまま店の玄関口へとオレを叩き出す。

 

……ん?

 

「お前は客じゃない。帰れ」

 

 パタンと扉が閉ざされた。

 

 酷い。せっかく幼女を助けてあげたというのに。

 クソゲーの選択肢を押し付けられたような感覚にオレは当然ギャン泣きし、武具屋の前で地団太を踏み荒らした。

 

「……キミはこんなところで何をしているのかな?」

 

 どうやらオレの泣き声に反応して現れたらしい。師匠改め、雛を見守る親鳥である。

 或いはとうとう年ボケで、細道に迷いこんでしまったのだろうか。きちんとオレが誘導してやらねば。

 しかしそのどちらもが大不正解で、今日の師匠は珍しくいつもの校務服に上等な剣なんて携えているのが答えである。

 

「幼女に手を差し伸べたら一見さんをお断りされた。前々から思っていたが、この世界はあまりに理不尽すぎる」

「なるほど。キミは彼女に粗相を働いたのか。それは当然の帰結だよ」

 

 師匠は金糸の触角をさらりと払い、そしてアッサリと言った。

 

「彼女こそが、この鍛冶屋の主なんだからね」

 

……そんなん見抜けるわけないだろ!!

 やっぱり理不尽だった世界には抗議の大声を荒げる。

 けれど師匠はそんなオレを他所に、少し考えるように顎へと手を当てる。

 

「そうだね……ほら、バカ弟子。私が一緒に入ってあげよう」

「助かります」

 

 傍若無人な街の支配者が同行するとなれば、もはや怖いものなしである。

 さーて、どんな無理難題注文を押し付けてやろうか。オレは未来視とかいうクソ能力のおかげで知識だけはあるからな……!

 

 なーんて呑気な気持ちで、オレは師匠に続いて店内へ押し入り。

 

「いたっ」

 

 ドンと、♂とは思えん華奢な背中に顔をぶつけた。

 急に止まらないでほしいんだが。足腰が弱ってどこかに躓いたのだろうか。オレは口を尖らせて顔を上げ。

 

 

 年齢不詳魔女とロリ店主が、お互いに見つめ合ったまま、固まる様を見た。

 

 

「……」

 

 う~ん。冷え切った沈黙。

 クソほど長い間を置いた果てに──師匠は、頬を引き攣らせた。そして、オレは察した。

 

 あっ、これなんか駄目なやつだ。

 

「…………や、やぁ、久しぶりだね、リア」

「…………今のお前に鍛える剣は、ない」

 

 ペロッ。これは絶縁状態の味。

 冷や汗ダラッダラの顔でチラチラとオレを覗く師匠。一体なにをオレに求めているのか。終いには、オレの背中へ隠れるように回り込みやがった。

 

「ほ、ほら、シアンくん」

 

 ずいと押し出される背中。

……うそですよね師匠。まさか初対面のオレに、関係調整求めてるんじゃあ……。

 

「ハハッ、ナンのコトカナ?」

 

 すぅ~~~……。

 

 ふざけるな! もうこれ魔力量ゴミカスとか関係なく普通に無理だろ!!

 

 

 




 済まない……ロリvsロリババアとかいう永遠の戦争の火種をぶち込んでしまって済まない……。

 次回の更新は土曜日の9時ごろです。
 またよろしくお願いします。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

  • 廃品回収業者をしていた、勇者を回収した
  • 他人のイヤホン音漏れさせるだけの能力
  • 勇者さん、悪の組織を立ち上げる(笑)
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  • キミと勇者の物語
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