未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第28話

 

「師匠! リアさんが攫われた!! ぐぅたら寝ている場合じゃないぞ!!」

「キミは……そんなホラ吹きで、昨日のいたずらを誤魔化せると思っているのかな?」

 

 オレは朝っぱらからギルド長室の扉をゴンゴンと叩くと、中から出てきたのは、オレの煽り添え手紙を片手にピクピク青筋を立てた師匠だった。

 オレは嵐の洗礼に呑まれて大陸が一回転する様を目の当たりにし、ふらりふらりと、魔女の足元に倒れ伏す結末となる。

 

「し、師匠……オレの話を、」

「キミの心にもない謝罪の言葉なら聞き飽きたよ」

 

 オオカミ少年同然の扱いである。

 まぁ、完全に自業自得なのだが。しかし今だけはそんなことを言っている場合ではない。

 オレはぐるぐると目を回しながらも、リアさんが謎の闇に搔っ攫われたことを叫び続ける。

 

 ドチャクソ上等な剣まで持ってきたその必死っぷりに、ピタリと、師匠のキツ~いお仕置きが止まった。

 

「……キミは誤魔化したり黙り込んだりすることは多いが、詰まらない嘘を吐いたことはない」

 

 既に見抜かれまくっているオレの本性である。

 コクコクと首を縦に振ると、師匠はジッと、真面目な顔つきでオレを覗いた。

 

「なにか、リアにあったのか。話を聞こう」

「さすがは師匠です」

 

 年を食って身体が固くなっても、柔軟な思考力は衰えていないらしい。

 

 オレは未来視(たまたま朝に散歩してたら目撃したと言った)の光景を告げる。

 もちろん師匠も、自堕落こそ至高とするオレが早朝から散歩に出かけるなんてぜぇぇぇっっったいにあり得ないことだと理解しているだろうが、そこは一旦脇に置いて耳を傾けてくれた。

 メンタルがクソ雑魚ナメクジな弟子への理解があって助かるぜ。

 

「ふむ。まずはリアの家に行ってみようか」

 

 そういうわけでオレと師匠は出禁を喰らっているリアさんのお店へ向かったのだが、クローズ。

 締め出されているわけではない。

 いつもなら営業時間であるはずなのに、観葉植物に隠れた窓から見える店内は完全消灯だ。

 

「リア! 入るよ!!」

 

 無表情ロリの返事はない。ヒュオリと、小路は冬の寒風に静まり返る。

 

「……嫌な予感がするな」

 

 師匠もここに来ていよいよ異常事態を察したらしい。腰に差したなまくら剣を素早く抜き出し──扉へ一閃。

 扉は見事、真っ二つとなってしまった。

 

「よし、これで入れるね」

「師匠は一体いつから強盗系師匠になったんだ……」

「言ってる場合じゃないだろ。ほら、バカ弟子。手分けしてリアを探すよ」

 

 リアさんは幼女なので、かくれんぼしている最中に眠ってしまった可能性もあるにはある。

 そういうわけで倉庫の隙間までキッチリと確かめたが──やはり、いない。

 

「……もぬけの殻だね」

「クソッ!」

 

 薄暗い店内のカウンターで師匠と集合し、お次は現場へ案内。

 オレはもうアセアセとして居ても立っても居られない気分なのだが、師匠は随分と冷静だ。これが年季の差というやつなのか、或いは加齢のあまり危機判断能力が衰えているからなのかは分からない。

 

 オレは師匠を連れて、リアさんが闇に呑まれた細い道へと到着し。

 

「…………なるほど」

 

 赤い瞳が、鋭さを帯びた。

 

「……なにか分かったんですか」

「確かにリアは攫われたらしい。しかも、相手はそれを隠すつもりがないみたいだ」

 

 オレは魔力量ゴミカスな上に魔法にも嫌われているせいで、誘拐犯が残した痕跡とやらはなにも分からない。

 が、師匠の険しい表情を見る限り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まぁ、闇より現れて闇に消えるとか、どう考えても普通の誘拐犯ではないのだ。

 昨晩まではあんなに晴れ晴れとした気持だったのに、どんどんと雲行きが怪しくなってきて既に鼻を啜っているオレである。

 

「誘いだね。狙いは私か……?」

 

 ヒェッ……年齢不詳男の娘な魔女をご所望とかどんな性癖の持ち主なんだ……。

 オレ以外にそんな奴がいるとは思わなかったぞ。

 なーんてふざけた思考で、ヤバすぎる現実から目を逸らしてみる。

 

 だっても考えてみろ。もしも本当に、リアさんを攫ったのが師匠を誘き寄せるためだったとしてだ。

 この人一応、四代目勇者一行の僧侶ティナで通ってるんだぞ。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「シアンくん。キミは帰るんだ」

「師匠。オレは、」

「駄目だ」

 

 突き放すように一言告げて、師匠はオレを追い越す。

 

「なるほど見えてきた。これまでの事件の親玉もアイツか。最悪だな。キミが思っている以上に、相手は厄介だ」

 

 どうやら師匠は誘拐犯の正体まで予測が立っているらしい。最後にこちらへ振り返り、庇護者の微笑みをオレへと残す。

 

「なに、心配いらないさ。私の強さは知っているだろう?」

「……まぁ」

 

 そのー……格好良く去っていくのは構わないんだが……オレが心配しているのは、そこじゃなくてだな。

 

「リアさんを助けたあと、二人きりで気まずくならないですか」

 

……なんか、ピタリと立ち止まった。

 そんで長い沈黙の末に、師匠はくるりとオレへ振り返った。

 

「我が弟子よ、同行を頼めるかな?」 

 

 それはドチャクソ情けなくて、良い笑顔だった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 魔山。

 

 それは大陸最西部の土地を分断する大山脈だ。大陸東側に要塞都市ネオ・フロンティアが、中央に魔山が、そしてその向こう側が、魔瘴に覆われた西の果てとなる。

 

 永久の吹雪に凍てつくこの山脈を、歴代の勇者一行は、様々な工夫を凝らして乗り越えたという。

 オレと師匠と言えばなんの準備もなしに魔山の麓に位置する要塞都市を発ち、現在、険しい山道を登っていた。

 

「足腰弱らない樹齢二百年の、秘訣は……日々の山道往復だったん、ですか……」

「息を切らしても減らず口を叩くキミの精神には感服するよ。今日から山道の往復も訓練内容に入れようか」

 

 このオレに滅べと言うのか。

 冬の真っただ中だというのに汗水を垂らすことしばらく、師匠は寂しい針葉樹林の隙間に見える岩肌を指差す。

 

「どうやらあの洞窟に、誘拐犯はいるみたいだね」

 

 近づくと、人を呑み込むほどに巨大な洞穴が、闇に顎を開いていた。

 

「足元には気を付けるんだよ」

 

 師匠はポッとオレ達の周りに魔法の光球を浮かべ、洞穴内の灯りを確保。オレも何もしないのは格好が付かないので、小石を拾って洞穴へ投擲する。

 

「……浅いな」 

 

 短い反響音からして、洞窟と言うよりは、洞穴か。盗賊でも住み着いているのだろうか。

 

 オレは師匠と共に、ごつごつとした岩肌の闇に呑まれる。かび臭い香りが漂った。二つ分の足音が、空洞を木霊する。

 次第に足音の返る感覚が早くなる。やがて細い一本道の洞穴は、一気に視界を開け──。

 

──洞穴の奥。岩盤の上に倒れたロリの姿を、オレ達は見つけた。

 

「リアさんッ!」

 

 周囲に敵対者や魔物の様子はない。だからオレは洞穴を駆ける。そのままリアさんの元で片膝を突き、軽く身体を揺らす。

 

「大丈夫か!!」

「……ぅ」

 

 うっすらと持ち上がる、焦げ茶色の瞳。

 

「何があった!!」

 

 オレの飛ばした一言に、リアさんはカッと、その眼を見開いて。

 しかし彼女が何かを伝えるより前に、別の声が、応えた。

 

「フフ……フフフッ……」

 

 それは邪悪で、人を背筋を撫でるようで──()()()()()()()()()()()()()

 

「ぁ……! ぁあ……!!」

 

 ばくりと、心臓が乱れ打つ。

 手足が震える。

 

「──来たか。二人とも、私の後ろに下がっていろ」

 

 師匠は構えるように剣を抜き出す。リアさんはすぐさま師匠の背中へ隠れた。

 

 なのに、オレは動けない。リアさんが手を招く。

 

「……お前も、早く──」

 

 洞穴の壁に渦巻く闇。

 深淵より這い出るは、紫色の肌。魅惑の声。二本の捻じれた角──。

 

 爬虫類のように冷酷な眼差しが、オレを見下ろす。

 

「──可愛い可愛い私の子。久しぶりに、会えたわねぇ?」

 

 

 ♦♦♦

 

 

 息が、吸えなかった。

 

 眩暈がして、汗が全身を濡らして、それは水底にでも埋められた気分だった。

 

「……シアンくん?」

 

 不規則に息を切らして固まるオレを見て、仄かに眉を顰める背後の師匠。

『魅了』されているわけでもない。なのにオレは指先までビシリと揃えて、『先生』の前に直立する。冷酷な眼差しに意識を吸い込まれたまま、反射的に声を震わせる。

 

「せ……せせせ、『先生』……!!」

「あらぁ、律儀にお出迎えしてくれるのね」

 

『先生』は優しく優しく歩みを寄せて──オレの肩に、触れる。

 

「でも、だったらなおさら分からないわ」

 

 ぐいと、鼻先が触れるほどに近づく妖艶な笑み。

 

「どうして家出なんてしたのかしら?」

 

 その一言は絶対だった。だから。

 

 

 

 

 

 

 

ご……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──

 

 

 もうしません。だからやめて。痛いのはやめて。

 

 

 衝動的に地面へ擦り付ける額。オレは身体を痙攣させて、何度も何度もごめんなさいを告げる。告げないと、また痛いことを。

 

「フフッ、そんなことしないわよ」

 

 でも今日の『先生』はご機嫌で、ニッコリとオレの上体を持ち上げてくれる。

 

「ほ……本当……?」

 

『先生』は、優しい『先生』のままで居てくれる? 

 オレはガチガチと歯を鳴らしながら、笑みを引き攣る。涙にぼやけた視界の中で、『先生』はとてもとても楽しそうに嗤っている。

 

 そして、思い出す。

 

「だってぇ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……や、やめ」

 

 いけない。オレは反射的に『先生』の口を抑えようとした。

 でも遅かった。

『先生』は後ろの師匠を眺めて、ハッキリと、言った。

 

「あなたは愛しい愛しい私の子。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だもの♪」

「…………ち、ちが。ししょ、」

 

 オレは反射的に翻り、震える手で師匠へ手を伸ばして。

 

 

 

 

 

 

 

 だから、それは止めの一言。

 

 

 

 

 

 

『先生』は希望の花を踏み躙るように、嗤う。

 

「あらぁ、気が付いていないの? そこの出来損ないは初めからあなたを疑っていたのよ?

「…………は」

 

 

 あたまが、まっしろになった。

 

 

「…………し、しょう…………?」

 

 ぎこちなく、尻目に師匠を覗く。

 

「……」

 

 剣を構えた師匠は、ただ、険しい表情をオレに向けるばかりだった。

 足元が、闇に崩れ落ちていくような気がした。

 

「フフッ……滑稽ねぇ。愛されていると思った? 人として見てもらえると思った? あなたみたいな混ざり物が」

「ぅ……ぁ……!!」

 

 せかいはまっくらだ。あの実験場と同じ、深い深い闇底だ。

 そんな闇中で、『先生』の甘い声だけが響く。それは鎖のようにオレの四肢を絡めとる。

 

『先生』は、両手を広げてオレを手招きしてくれている。

 

「愚かな愚かな私の子。さぁ、戻っていらっしゃい? 私だけは、あなたを愛してあげるわよ」

「……せん……せい……っ!!」

 

 あぁ……オレはいつから、酷い思い違いをしていたのだろうか。

 

 こんな気味の悪い右眼を持って、そこに魔王が宿っていて、そんな人間以下の成り損ないが人間に受け入れてもらえると思ったか? 愛してもらえると思ったか? 

 

 ふらり、ふらりと、身体は先生へと吸い寄せられる。

 

「そうよ。それでいいのよ」

 

 きっと、もう一人の実験体が失敗したんだ。『先生』が欲しいのはオレの右眼だけだ。

 でも、『先生』は必ず、魔王が蘇るその時まではオレを愛してくれる。だからオレは、『先生』を求める。

 

 

 万物は、愛されないと生きていけない。

 

 

 オレは意識を闇に呑まれたままに『先生』へと導かれ──と、その時。

 

「──この子が、お前のような邪悪の子であるものか」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……し、しょう……?」

 

 反射的に零れ落ちる言葉。

 気が付くと、世界は闇色ばかりじゃなくなっていた。

 周囲に光が舞い戻る。けれど『先生』を中心に広がる闇は未だ健在で、『先生』はクスクスと、嫋やかに嗤っている。

 

「ずっと、ずぅーっと魔王の卵として監視していたのに? いまさら都合の良い言葉ねぇ?」

 

 その言葉はオレの奥底の闇を怯えさせる。

……そ、そうだ。師匠はオレのことなんか。まして、依り代と知った今なんて。

 

 低く、低く低く。

 師匠は何かを腹の底へ抑え込むように、声を振り絞る。

 

「……勘違いするなよ。確かに、私はこの子から次代の邪悪な気配を察した。なにがあっても対応できるように、マーキングもした」

 

「だが」

 

 誰のモノかを分からせるように、ぐいと引き込まれる身体。

 

「この子は──()()()()()()。それ以上の冒涜は……許さんッッ!!」

 

 

 ずっと、その一言を求めていたんだ。

 

 

「……お、前」

「キミは魔王などにはならない。私がさせない。キミの未来は、私が幸せに満たしてみせる」

 

 そっと、師匠はオレを目を見開いたリアさんへと預ける。再び『先生』と向かい合う。

 落ち着いた……それでも隠し切れぬほどに荒れ狂った声が、洞穴を軋む。

 

「さて……今の私は、かなり怒っているぞ」

 

 世界の意志とも呼ぶべき膨大な魔力が、師匠の背中から溢れた。

 その白の闘気が、『先生』の放つ黒の闘気がぶつかり合う。稲妻が弾け、洞穴が揺れ、魔力感知のできないオレにさえ、その強大さが伝わる。

 

「とっ捕まえて拷問してやろうと思ったが、止めだ。今度こそ跡形もなく消し飛ばしてやるぞ、『絶空』」

「フフっ、強気なこと。最愛の仲間も守れなかったあなたに何ができるのかしら──四代目勇者さん?」

 

 それは聖戦の皮切り。

 そして今、英雄譚にしか見られない戦闘が、幕を開け。

 

「と、言いたいところだけれど」

 

『先生』は、足元に闇の渦巻きを作る。

 

「今日のところはお暇させてもらうわ。あなたの弱化っぷりを知りたかっただけだし……フフっ、素晴らしいわ」

「逃がすかッ!」

 

 師匠の追撃は早かった。光を置き去りにするほどの一閃だった。

 けれど、ここまでが準備だった『先生』は、首の皮一枚で闇に潜り込んだ。

 

「次に会う時が最期よ、四代目」

 

 魅惑の声が洞穴に消える。

 

 そしてその場に残されたのは、不気味な静寂だけだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 そんなこんなでリアさんを救出すると同時に、師匠から不可逆の脳破壊を喰らわされ、翌日。

 

 もう師匠なしでは生きていけない身体にされたオレは青い悪魔と同時に樹齢千年男の娘系師匠も娶ることをオレの中で確定したのだが、それはさておき。

 クソ未来視を含め情報がすべて筒抜けとなってしまったオレは、同じく男の娘であることを隠していた師匠と秘密を共有することになり、更なる強固な師弟関係を築き上げたのだ。

 

「まさか師匠が四代目だったとは……」

 

 よし。今すぐ街に滞在する吟遊詩人へ告げ口をしに行こう。きっと良いネタになる。

 

「口外しないでくれよ。もちろん私も、キミが『絶空』の奴に虐められていたという事実は黙っておくからね」

 

 そのはずがオレはなまくら剣の切っ先を首元に突き付けられ、未来視による諸々の情報を吐かされる結末となった。

 

 これが師弟の強固な絆だとでも言うのだろうか。

 

「……クソッ! 女装変質者めッ!!」

「キミはどんどんと遠慮がなくなってきてるね。私のことは淑女として扱ってくれるかな?」

 

 オレはいつも通りに師匠にぶちのめされ、そのままリアさんのお店へと出荷。

 現在はリアさんの小間使いとしてせっせと工房を走り回りながら、なんだか以前よりも角の取れた師匠とリアさんの関係を眺めている。

 

「しかし、リア。どうして私の剣を鍛え直すつもりになったんだい?」

 

 カンッ、カーンと、金槌を振るう心地よい音が工房を響く。

 リアさんは師匠の剣を丁寧に鍛えながら、ポツリと、声を返す。

 

「……お前は、ティナを世界に刻むことだけ考えてた。何年も、何十年も」

「それは今も変わらないよ」

 

 最愛の人を崇拝するあまり、自分が最愛の人そのものになってしまうとかいう圧倒的拗らせ人間の即応である。

 

 が。

 

「違う。お前は、変わった」

 

 短く、力強く割り入る一言。

 師匠は押し黙る。

 リアさんは赤くなった熱い剣に火花を散らしながら、その無表情でジッと、師匠を見上げる。

 

「お前がコイツを愛する気持ちは、ちゃんと、お前の心の叫び」

 

「だから、お前はお前らしさを、取り戻した」

 

 師匠は金糸の触角をくるくると弄り、リアさんから目を逸らした。

 

「……ティナにも弟子が居たら、あぁいう反応になるだろ」

「アイツは魔族以外には排他的。人族には優しくできない」

「……師匠。そんな奴が好きだったんですか……」

 

 傍若無人な異性を好きになるとか性癖終わってんな。本当に理解できんwww。

……オレ? オレの性癖は至って普通のナチュラル煽りモンスターだぞ。 

 

 リアさんに詰められて、ちょっと困り顔な師匠。

 一件落着みたいな雰囲気がむず痒いので、不甲斐ない師匠のために、助け舟を出してやるとしよう。

 

「それはそれとして、これで年齢も性別も不詳の枯れ木が爆誕ですか(笑)。その属性はどこで活かせ、」

 

 気が付くとオレは風魔法によって工房の溶解炉へとぶち込まれていた。

 マグマをも超える熱さに溶けて消えるかと思ったが、師匠の高度な風魔法によってオレはジリジリと肌を炙られる程度の被害で済んだ。

 しかし溶解炉にぶち込まれるとかいう報復は人間には行き過ぎた領域であったようで、再び外の世界へと解放されたときには、オレは視界がくらくらとしてぶっ倒れてしまった。

 

「……チッ。バカ弟子はまだ生きていたか……」

 

 なんだかもう、ここが夢か現実かさえ分からない。

 そんな覚束ない意識の中で、リアさんは珍しく、仏頂面に微笑む。

 

「……コイツのふざけた話し方は、酒を飲んだ時のティナそっくり」

「そうだね。私もそう思う」

「だからお前は、コイツの女になりたくなった?」

「……おいおい。冗談はよしてくれよ」

 

 拷問ショックのあまり意識が朦朧としているオレを拾い上げ、師匠は膝の上にオレの頭を乗せる。

 白の髪に触れる手触りは優しく、穏やかで、だからオレはそこが安堵の場所だと、心で理解できる。

 

「ただ、この子の人を救う力は……かつて、私には手の届かなかったモノだ」

 

 師匠はわしわしとオレの頭を撫でながら、儚く笑って。

 

「だから──憧れぐらいは、持ってしまうんだろうな」

 

 剣を鍛える音が、子守歌に余韻した。

 

 

 




筆者「ということで今章はおしまいです」
師匠「私のメイン回がたったの3話で終わりだって? 筆者くん、風魔法を喰らいたいのかな?」
筆者「お待ちください魔女様。魔女様が大きく関わる章はまだございます。これは前半戦というやつです」
師匠「なるほど。じゃあ納得してあげよう」

シアン「これだから更年期は困る」


 次回の更新は3日の水曜日です。
 よろしくお願いします。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

  • 廃品回収業者をしていた、勇者を回収した
  • 他人のイヤホン音漏れさせるだけの能力
  • 勇者さん、悪の組織を立ち上げる(笑)
  • 男女比1:9の世界における男の娘の希少性
  • タイムマシン作ったったwww
  • 主人公「TSは許さん。男の娘しか勝たん」
  • あなたの夢、食べます
  • キミと勇者の物語
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