未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第30話

 

 闘いとは、準備によってすべてを左右される。

 

 土壇場での都合の良い覚醒はあり得ない。

 運とは、積み重ねた準備が実を結んだ結果でしかない。

 オレは未来視とかいうクソ能力を持っているからこそ、その事実を、痛く思い知っている。

 

「……」

 

 つまりはなーんの準備もできずに敵地へ放り込まれたオレは、覚悟の気持ちさえも取りに寮に帰ることを許されず、さざ波の海原を前に立ち尽くしているのだった。

 

「美しい波の旋律だな……」

「なんか……この湖へんな匂いするね。腐ってるのかな?」

 

 整った小鼻をくんかくんかとして、仄かに眉を顰める青い悪魔である。

 

 腐っているのはお前の危機管理能力じゃないだろうか。

 オレはクソ過ぎる未来を知った上で、絶望を誤魔化すためだけに敢えての冷静さを演じているだけなのだが……コイツはなんでこんな余裕なんだ。

 

「ルルア嬢、湖じゃあないよ。これは海だ」

「……海!? なんで!?!?」

「それは俺も聞きたいことだな」

 

 遠く海の彼方を眺めていたレッシュが、浜辺を翻って視線を鋭く顰める。

 その視線が向かう先は──三角帽子だ。

 

「おい。クルークハイト」

 

 ビクリと、当の本人は身体を震わせた。

 

 そして。

 

「ご……ごめん! 本当にごめん!!」

 

 浜辺に両手両足を投げ出して平服する姿がある。恐ろしいにまで早い土下座だ。さすがはカスねぇ、身体を張って事なきを得ようとするスキルが熟達している。

 けれどレッシュが求めているのは現状への説明であって、まだ追求は続く。

 

「俺が聞きたいのは──」

 

 カスねぇはガバッと、額に砂粒を付けた迫真の表情を持ち上げた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()() 分かってたら謝るわけないじゃないか!!」

「分かってたら謝らないのか……」

 

 どんな時でもカスな精神を忘れないウィッカさんには、もはや感心の念を抱かざるを得ない。

 レッシュもカスねぇの心の叫びに一定の納得(諦観)を抱いたらしく、深く、息を吐き出す。

 

「どうやら……温暖な気候を見る限り、相当遠くに飛ばされたようだな」

「植物の生態から見てもそうだね。大雑把な位置としては、大陸中央以南の東よりかな?」

「ボクさ、魔力いっぱい広げてみたんだけど……ここ、半日もあったら一周できそうな島だったよ!!」

 

 適応するのが早すぎないかコイツら……。

 

 よく分からん場所にテレポーティングして帰る見当もついていないというのに、まるで取り乱すことなく現状把握に努める三名である。

 取り残されているのは顎に手を当ててブツクサ言っているカスねぇとオレぐらいなもので、前髪片眼隠しな我が友シリウスはいつもの軽い調子で笑っている。

 

「なに、こういう時のための講義だろう?」

「候補生の鑑か!」

 

 オレと一緒にケツ争いをしていた事実が信じられない。ちなみにもうお代わりいただけていることだとは思うが、オレはなまじ未来が見えるせいで不測の事態に陥るとすぐに取り乱すゴミカスである。

 

 シリウスと同じく緊急事態対応講義を受けているというのに、この差はどこで開いてしまったというのだろう。

 

「とりあえずみんなで島の探検しよっ!!」

 

 青い悪魔はもう完全に遠足気分だ。

 オレとしては、あとほんのちょっぴりぐらいで良いから危機感を抱いて欲しいもんだぜ。

 

「まぁ……ここがどんな場所かを調べる案自体は、悪くないな」

 

 浜辺から生い茂る緑を見上げる。

 

 果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この島には、何があるのか。

 

 その謎を解明するべく、オレたち調査隊は厳正なる組み分けの末、奥地へと向かった──。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「何が厳正なる組み分けだ! ふざけているのか!!」

 

 そして現在、オレは鬱蒼としたジャングルの蔦を魔力の刃でバッサバサ斬り捨てながら、『独り』ブツクサと直進行軍していた。

 

 なんでこんなことになったのか。語りたくもない浜辺のことが甦る。

 

「なら、ここは()()()()でぐるりと島の外縁を一周しようか」

「待て。その言葉はオレの幼馴染に効く」

「効かないよ!?!?」

 

 オレはその恐ろしい一言にコミュ障幼馴染がぶっ倒れてしまうことを予感したのだが、結果はまるで違っていた。

 

 カスねぇとレッシュで一組。

 青い悪魔とシリウスでもう一組。 

 仲の良いお友達がおらず、先生(空気)とペアを組むことになったのはオレだったのだ。

 

 なんか既にペアになってオレから距離を取っている奴らへと、オレは滔々と述べる。

 

「言っておくが、オレは魔力量ゴミカスなんだぞ。お前らはこんなか弱いスライムを一匹にしていいと思うのか」

「だが貴様は俺やクルークハイトを倒せるだけの器量を持っているだろう。各々の戦闘様式からしても、これが最適な布陣だ」

 

 近距離パワー型なカスねぇとルルア。遠距離マジック型なレッシュとシリウス。

 お互いが見事に補完し合っている。つまりは器用貧乏なオレは、独りで汗水を垂らせということなのだった。

 

「おかしい。こんな理不尽は許されない」

 

 せめて、ぜぇぇぇっっったいにオレよりも強いはずのルルアが一人になるべきだと思うのだが。

……思うのだが、誠に遺憾ながら、()()()()()()()()()()()()()()()()。アイツを一人で行動させないに越したことはないだろう。

 

「それじゃあ、君には森の中でも探索してもらおうか。いざとなったらいつものように泣いておくれよ? 誰かが駆けつけるさ」

「オレはそこら辺の警報装置じゃないんだが……」

 

 そういうわけで、魔力量ゴミカスなオレは島でのサバイバル生活で真っ先に不要になるとチームの合理的な判断の下、捨て駒としてジャングルの探索を任されたのである。

 

 緑。

 

 右を見ても左を見ても、草木と樹木の大密林。

 林冠はツタに覆われまくって、昼間なのにジャングルの中は薄暗いしジメジメと空気も暑い。気分も環境も最悪である。

 

「おっ、これアコギの実か」

 

 時折、『大陸の各地に植生する植物講義』なんかで得た知識を活用することもあったりして、なんだかんだと言って森の魔女の教育は為になっていたりする。

 

「師匠は今頃、オレ達が忽然と姿を消したことに大慌てしていたりするのだろうか」

 

 驚きすぎてぎっくり腰になっていないと良いんだが。

 

 出来ることなら早くオレの位置を捕縛し、クソデカ船を走らせて迎えに来て欲しい。

 というのが本音なのだが、大陸西部から中央南東となるとそう簡単にはいかないだろう。

 森の内部は植物こそ豊富だが、肉になりそうな動物、魔物の気配はない。エネルギー源が不足している。ダラダラと長居できる環境でもなさそうだ。

 

「イカダでも作って脱出するなら、早い内だな」

 

 潮に流された果てに巨大クラーケンにイカダをぶっ壊される未来しか思い浮かばないが、体力と気力のあるうちに、色々と考えておくべきだろう。

 

 それに、オレもそろそろ冷静になってきた。一つ気が付いたことがある。

 それは──この現状は、ルルアが右腕を失う未来とは別物かもしれないということだ。

 なにせ、ルルアが右肩を押さえて蹲っていたのは、寂れた石板の上でのこと。そして今のところ、この島に人工物らしきものは見えない。

 

「その可能性は大いにある」

 

 そうだ。これはただの南の島お色気イベントなんだ。きっとルルアの水着姿が見れるに違いな。

 

「……ん?」

 

 なんか……蔦に巻き付かれて崩れた石柱が見えるんだが……。

 

「……いや、まさかな」

 

 そんな酷いことはないだろう。オレは一応確認のために、石柱へと油断なく近づいて。

 

 半ばから崩れた石柱。

 風化した石板。

 そして──地下へと闇の顎を開く古びた階段。

 

「…………そうですか」

 

 オレはギャン泣きしてみんなを呼び寄せた。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 オレの生命危機反応になんだなんだと集まってきた遭難者一同へ危険な遺跡の存在を共有し、現在。

 それ以外には特に何もなかった島では、赤い太陽が水平線の彼方へ沈みつつあった。

 

「なんかさ……こうやってみんなで焚火囲んでご飯食べるのも楽しいね!」

 

 初めてお友達との修学旅行を体験している青い悪魔は、蒼穹の瞳をキラッキラとさせて風魔法で海から打ち上げた魚が焼ける様子を眺めている。

 まるで能天気な有様だが、大事なことだ。こういう状況では、何事も前向きに取り組むべきである。

 

 食事が済めば、あとは風呂に入って寝るばかり。

 しかし当然、島に風呂なんぞあるはずもない。

 

「シアン。貴様が魔力のアレで砂場に穴を開けろ」

「魔力量から言って、オレ以外が適当に風魔法でも使うのが良いと思うぞ」

「君が一番働いていないからだよ。ほら、活躍の場を与えてあげようという僕らの優しい気遣いじゃないか」

 

 クソッ、バレていたか! 

 汗水を垂らすのが嫌すぎてそっと影に隠れていたはずが、普通に無能を見抜かれていた。とてもイイ笑顔で労働を強要される。

 仕方がないので魔力の弾丸をボッ! と撃ち放ち、浜辺に適当な深さの穴を開ける。

 

「一人分のサイズ感だね。入浴の順番を決めようか」

「最初はパー! オレの勝ち!!」

「あ゛! ズルい!!」

「よし。不正者は除け者にしてやり直すぞ」

「うそだよな……」

 

 不意打ち、策略、裏切り、闘いとはなんでもありの世界じゃなかったのか……。

 魂を掛けた勝負に参加すらさせてもらえなかったオレは世界に絶望した。しかし絶望とは新たな希望を生み出してくれるもので、オレは名案を思い付くと同時に、ゴミカス魔力量が抉れるのも厭わず魔力の弾丸を複数撃ち放った。

 

 デデーン。大浴場の完成である。

 

「男と女に分かれて入ろう」

「君にしては名案だね」

「だろう? よし、だったら早速オレとお前とレッシュで」

 

 たまには男同士、仲を深めようじゃないか。

 

 本音を言うと、ルルアと一緒にお風呂でめちょめちょしたい。湯煙の中から「ばぁっ!!」ってして欲しい。

 しかしそんなことを言った暁には、森の魔女お墨付きの恥じらい風魔法(暴風)を喰らって、ここではない謎の小島に一人吹き飛ばされた挙句一人寂しく一生を過ごすことになるので口を噤む。

 

 断じて恥ずかしいから言わなかったわけじゃないぞ。

 

 ということで照れ隠しにレッシュとシリウスの肩を叩いたところ、ぬるりと、シリウスはオレの肩組みから逃れた。

 

「おいおい、勘弁してほしいな」 

 

 少し困ったような笑顔を向けられる。

 

 ほーん。コイツは男同士でもちょっと恥ずかしいとか思っちゃうタイプか。

 よし。オレは他人に理解があって気の利く友人だからな。それならそうと。

 

「僕は女の子だよ」

 

…………は?

 

 オレは常夏の南国に凍り付いた。

 

 

 




 ※コミュ障編参照 

「早くなんとかして欲しいな。すごく不便な生活なんだ」

 というシリウスくん改めシリウスちゃんの発言は、彼女もまた『魅了』の支配下にあるからだったのだった。

 初期構想では性別♂だったシリウスですが、この章を作るタイミングで性転換してもらいました。
 だって、女装男子がいるのに男装女子がいないのはねぇ……?

 ということで続きは明日の日曜日の9時。
 よろしくお願いします。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

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