未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第31話

 

 オレの右眼は、未来を見るために存在している。

 

 誠に不愉快な話だが、オレはこのクソ未来視のおかげで、現在を省みる必要すらなくとんとん拍子に半生を過ごしてきた。

 なので今後も有効活用しようと思っているのだが、どうやらオレは、未来が見えても耳は遠かったらしい。

 

「『僕は女の子だよ』とか聞こえた気がするんだが、気のせいだろうか」

 

 意味わからんことを宣って、ニコニコと笑う我が友シリウスを見つめる。

 

「至って正常だよ。というか、気が付いていなかったのかい?」

「…………俺は気が付かなかったが」

「え゛ っっ!? シリウスくんじゃなかったの!?!?」

 

 ほれ見ろ! レッシュがお目々ぱちくりするレベルなんだぞ!!

 

「いやぁ、僕は中々に演技派だからね」

 

 ふさりと長い前髪を揺らす我が友シリウスである。

 まぁ、確かにコイツ、前髪は左眼を隠すぐらいに長いからな。よく見たら唇とか柔らかそうだし……なんか、いまさら女の子っぽく見え……。

 

 男装女子だったシリウスは、胸元に手を当てながらやはりニコニコと笑う。

 

「誰が誰と一緒にお風呂に入ろうって? いや、竹馬の友だ。どうせなら一緒に入って確かめてみるかい?」

「エッッッッッ。ぜ、ぜひ、」

「だ、駄目だよシアン!?!?」

 

 おのれ青い悪魔め。

 

 オレは一友人として裸の付き合いをしようとしただけなのに、バッと両手を広げたルルアに浜辺へ押し倒され、千載一遇のチャンスを逃すことになった。

 

 結局、オレが拡張アップデートを入れたお風呂に男と女で分かれて入ることになる。

 オレの出汁を吸わせるのも、青い悪魔の出汁を吸うのもいいな……とか考えていたのを見抜かれた結果、オレは更にもう一つの風呂場を生成することになったのだが、それはさておき。

 

「いい湯だ……」

 

 ぽかぽかあったか湯船に浸かる。

 

 基本的に汗水を垂らすのが大っ嫌いなオレだが、頑張った後の風呂が格別であることは認めざるを得ない。

 でも頑張らなくてもお風呂は気持ちいいので、やっぱり汗水は垂らしたくない。

 

 ミニ爆裂魔法でジャグジー風の露天風呂で蕩けていると、ふと、向かいで湯につかるレッシュは口を開いた。

 

「……これまで、貴様に直接伝えたことはなかったが」

「なんだ。改まって」

 

 告白でもされるのか? 

 確かにオレのストライクゾーンは、森の枯れ木のせいで歪な形に広がってはいるが……。

 レッシュはオレから目を逸らし、ポツポツと続ける。

 

「俺は、『英雄の守り人』で初めに闘ったのが貴様で良かったと思っている」

「話が見えないんだが」

「黙って聞け。これでも俺は、貴様に色々と感謝しているのだ」

 

 なんか、爆裂魔法で熱したお湯の泡を弾け飛ばされたぞ。

 酷い。不意打ちの熱さにオレがひぃひぃ言っていると、レッシュは流すように、しかし重々しく零す。

 

「その……最下位などと呼んで、悪かった」

 

……おいおい、そんなことかよ。

 

 オレはむしろ、手札の少なさから言って最下位である方がなにかと都合が良かったんだぞ。急にバツが悪そうに顔を伏せたレッシュへお湯をぶちまけてやる。

 

 青い悪魔式のめちゃくちゃな対応だ。ぽかんと顔を上げるレッシュ。

 オレはぐっと、サムズアップを見せつけてやる。

 

「友達なんだ。それぐらい笑って見過ごしてやるさ」

 

 

 ♦♦♦

 

 

 レッシュとぽかぽか露天風呂で絆を深めて、夜分。

 

 すっかり夕日は水平線に沈み、藍色の空は満天の星空に変貌した。あちこちからまるで聞いたこともない虫やら鳥類やらの鳴き声が響く島の浜辺で、オレ達は一夜を明かすことになる。

 パチパチと、音を鳴らす焚火に耳を澄ませながら、オレは眠りにつく。

 

 ことができると思うか?

 

 サラサラとした砂粒の付着した腕を動かし、瞼を開く。

 既にぐっすりスヤァ……な候補生三人組。姿が見えないのは、ただ一人の正規員。

 

 この島に来てからずっと黙り込んでいるカスねぇは、夜の番として浜辺に立って、必死に魔法陣を描いていた。

 

「あぁ……違う。これじゃいけない……」

 

 不眠不休で動くつもりなのだろうか。

 普段からヤサグレている目元は既に黒さを増していて……うん。なんか、良くない未来のカスねぇに似ててやだな。

 

「ウィッカさん」

 

 頭を抱えて砂浜に蹲るカスねぇの背中へ、そっと声を掛ける。

 誰かが起きているとは思わなかったのだろう。バッと、見開いた琥珀色の瞳が振り向く。

 

 やがて、頼りない笑みが引き攣らせた。

 

「少年……盗み見なんて趣味が悪いなぁ」

 

 普段は何食わぬ顔でカス行為を働いているくせに、こういう時は素直に弱った姿を見せてくるのが、本当にズルい。

 オレは浜辺に描かれたぐっちゃぐちゃの帰還用魔法陣(案)を眺めながら、小さく、ため息を吐く。

 

「そんなに抱え込まないでくれ。みんな、前向きに現状と相対している」

 

 真昼間からずっと塞ぎ込んでいるのはアンタだけだぞ。いよいよ周りも心配しそうだから持ち直してくれ。

 なんて言えるのは、あくまでも他人事だから。

 自分の実験で謎の小島へ道連れにしてしまった当の本人が落ち込むのは、仕方のないことでもある。

 

「……駄目だよ。お姉さんのせいで、こんなことに」

「そんなことないだろ」

 

 ただしそれはあくまでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 カスねぇはまだ、人を転移可能な転移陣を開発できていない。加えて、転移陣はそれぞれの座標を指定することで成り立つはずだ。

 

 オレが言うと、カスねぇは微かに頷く。

 

「そう、だね……どうしてか分からないけど、この島と倉庫の座標が紐づいていたんだ」

「やっぱりか」

「でも、お姉さんはこの島がどこにあるか見当も付かないから、帰りの魔法陣も作れない。そもそも人が転移して無事な理由も分からない」

 

 つまりは()()()()()()()()()()()()()目的で、カスねぇの転移陣に細工を施した。

 

 そういうことである。

 

「やれやれ……」

 

 師匠助けて~! エンエンエン!! このままだとオレの幼馴染が右腕失っちまうよぉ~~~!!!!

 

 吐き出す言葉と違って、心の中では世界中へ鳴き声を晒し上げて親鳥(師匠)が飛んできてくれることだけを願うオレである。

 けれど、いつだって街の支配者としてオレを支えてくれた師匠はこの島には来られない。

 カスねぇ、シリウス、レッシュ。

 この突発的な手札で、圧倒的実力を誇るルルアから右腕を奪った連中を撃退しなければならないのだ。

 

「無理だろ」

 

 改めてクソ過ぎる現状を把握していると、隣に立つカスねぇは、遠慮がちな笑みを向ける。

 

「さすがの少年も……とうとうお姉さんには、呆れ散らかしたかな……?」

 

 なに言ってるんだこの人……。

 

「オレは普段からそのカス過ぎる所業に呆れ通しているぞ。貯金返してくれ」

 

 なんて冗談でも言ってしまえば、メンタルだだ崩れなカスねぇが滅んでしまうことは。薬堕ち未来で確定している。

 なので、オレはきちんとカスねぇへと向き直る。

 

「言ったはずだ。オレは、アンタを肯定してやるとな」

 

 ぎゅっと、俺より身長高い癖に、ガキみたく縮こまったカスねぇを胸元に抱きしめる。

 

「見捨てたりしないさ」

 

 バクバクとうるさかったカスねぇの心臓は、その一言で、ゆっくりとした鼓動を取り戻した。

 カスねぇはオレの胸元に顔を預けたまま、ポツリと、声を響かせる。

 

「……少年、そのうち悪いお姉さんに食べられちゃうよ」

「……まさか」

 

 青い悪魔に、森の枯れ木。ヤバい連中にはもう散々目をつけられてしまった。

 

 あとは背負えるだけ背負ってこの先を歩こうと、オレは思う。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 そんなこんなでカスねぇのメンタル保全を済ませて、ちゅんちゅん小鳥の鳴く朝に。

 

 特段何もなかったが()

 

 すべてを焼き尽くすようなウルトラサンが水平線からカッと姿を現した頃、オレ達はジャングルの木陰に入って輪を作っていた。

 

「うー……お腹減った」

 

 昨日に集めた食料も底を尽き、ルルアは浜辺で捕まえたカニさんの爪をぶらぶらと揺らしている。

 その可愛い(認めざるを得ない)様子に反して中身は既に捕食済みで、非常に恐ろしい青い悪魔の生態である。

 

 飢えた獣が恐ろしいとはこういうことだったらしい。

 

 自分のことは棚に上げて、カニの爪にしゃぶり付く。その間に、カスねぇは魔法陣のことを日陰に集って細々と朝食を取る二人へ共有していく。

 

「俺達を意図的に招き入れた何者がいるか、か」

「興味深い話だね。でも、ぐるりと島を巡ったあたり、人の痕跡はなかったはずだよ」

 

 おいおい待て待て。この流れはヤバいんじゃないのか。

 察したオレが心の中でガクブルとする中、すっかり精神の安定したカスねぇが合いの手を入れる。

 

「だから気になるのは──」

「「遺跡」」

 

 終わった。

 ルルア右腕喪失コースが確定してしまった。

 

「そんなクソ未来にわざわざ自分から向かう必要はないだろ!」

 

 と言いたいところだが──遺跡を無視したらしたらで、島で衰弱していくオレ達を何者かに影から狙われては堪ったものではない。

 進む先は暗闇だし、立ち止まってもそのうちに闇に呑まれる。つまりは不意打ちでこの舞台に引き摺り下ろされた時点で、オレ達には体力のあるうちに闘いを挑む選択肢しかないのである。

 

「まぁ、オレ達を誘き寄せた奴をぶん殴って、帰りの転移陣を作ってもらうのが早いか」

「お姉さんも賛成だよ。それが実現したら転移の魔法もいよいよ完成だ」

 

 そういうわけで総員の意見が合致し、これよりオレ達は遺跡探索へ出かけることとなる。

 ルルアの意見を聞け? アイツはアホの子だからオレ達に従ってもらうぞ。

 

 現に、ほら、オレ達の話も聞かずに、お腹が減るあまり浜辺に出てジィ~ッと海を眺めている。

 

「行くぞ、ルルア」

「……海で泳いでお魚さん捕まえてからじゃダメ?」

「そういうのは、遺跡探検を終えて島の住民になることが確定してからにしなさい」

 

 未開の島に住む原住民と化し、大陸の人間に大発見される未来はごめんだが。

 華奢な腕を引っ張り、いざ五人でジャングルへ。

 昨日に魔力の刃で傷を付けた樹木を辿れば、緑に埋もれた石造りの遺跡が見えてきた。

 

 さて、ここからは気が抜けないな。

 

「オレが前に立つ」

「おや、君にしてはやる気だね」

 

 ほんっっっとうに嫌なのだが、未来視で常に安全を確保したいので、最前列とかいう一番汗水垂らすポジションを確保する。オレは一秒後の未来を探りながら、砂塵の溜まった地下への入り口を一歩ずつ踏み締める。

 

 オレ以外の全員が浮かべる魔法の光球のおかげで視界は充分。地下遺跡の内部は、人工的な四角い通路を延々と続けている。

 洞窟みたいな埃っぽさと言うか湿っぽさと言うか、とにかく、あまりよろしくない雰囲気に気が滅入る。

 

「シアンシアン、道、塞がれてるよ?」

 

 通路を辿って大部屋に出たと思ったら、三つある通路のうち二つが、()()()()巨石で封じられていた。

 

 これもう厄ネタ確定だろ……。

 

 オレの中の虫の知らせは、既にそこら辺の大音楽団ぐらいにまで成長している現状である。

 

「少年、罠もすべて作動済みだよ。いよいよ、誰かが招き入れたって話も真実味を帯びてきたね」

 

 ときどき、壁や床に魔力を込めては、中身のない罠を空打ちさせるカスねぇの嗅覚には驚愕を禁じ得ない。

 野生のT通貨を探して街のドブにも目を光らせるカススキルがこんなところで役に立つとは、人間、わからないものである。

 

「罠も空、か……」

 

 そのうえ一本道。

 明らかに誘い込まれているとしか思えない通路を更に進む。

 暗がりの奥底に──キラリと、魔法の光球とは別の光源が輝く。

 

「終着点か?」

 

 初めて遺跡の中で見つけた違和感。自然と、全身に力が入る。オレ達は一歩ずつ迫る。

 そして繰り出したのは──大広間。

 

 特段の異物はない。

 

 かつては眩く輝いただろう残滓を残す丸盾が、台座に安置されている以外はな。

 

「なんだ……?」

 

 かつて島民が使った祭具か何かか?

 

 そんな疑問に答えたのは──興奮した幼馴染の声だった。

 

「……あ! あれ……初代勇者が使ってた()()だよっ!?!?」

 

 蒼穹の瞳をくわっと見開いて、絶叫するルルアである。さすがは勇者オタク、勇者関連で言ったら博識だ。

 果たして、三種の神器が一つの聖盾が本当にあの錆びた盾であるかは分からないが……もしかしたら、ルルアの中に眠る聖力が予感めいたものを感じさせているのかもしれない。

 

 妖精の森に眠る聖剣。聖女様の守る聖鎧。

 この二つのアテはあったが、初代勇者が使って以来失われた聖盾が加わるとは僥倖だ。

 

 

 突如、()()()()()()()()()()()()

 

 

「──ッ!?!?」

 

 何かが、起こる。

 それを予感した瞬間には、既にカスねぇが、台座の奥に隠れた魔法陣へと駆け出していた。

 

「あ、あの魔法陣なら──」

「ウィッカさん!!」

 

 まずい。カスの癖に責任を感じているカスねぇが、転移陣を見つけたあまり冷静さを失って飛びついたのだ。

 そして──カチリと、嫌な音が大広間を響く。

 

 罠だ。罠が作動し。

 

「何か来るぞ! 気を付けろッ!!」

 

 そして大広間は、カッと強烈な白光に呑み込まれた。

 

「ま、また転移するの!?!?」

 

 世界を粒子に分解するような強い光が、周囲を充実する──

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでも青い空が、緑の平原を無限に広がっていた。

 

 

 南国島ではないどこかの外に出たのか。いや、空気感が遺跡内部と変わらない。空間がねじ曲がっているのだろうか。

 誰一人として欠けていないことを確認しながら、オレは状況を把握し。

 

「……なるほど」

 

 これは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

 平原の遥か先に聳える、強大な姿を仰ぎ見る。

 

 山をも越えるその巨体。

 千をも超える鱗の体現者。

 強者を沈めた機会は数知れず、英雄譚には引っ張りだこの、世界最強生物がそこにいる。

 

 それは『竜』。

 

 聖盾の守護者が、その顎に炎を溜めて挑戦者を見下ろしていた。

 

 

 




曇らせ「さて……そろそろ出番だな」

 ということで次回の更新は10日の水曜日。
 よろしくお願いします。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

  • 廃品回収業者をしていた、勇者を回収した
  • 他人のイヤホン音漏れさせるだけの能力
  • 勇者さん、悪の組織を立ち上げる(笑)
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  • キミと勇者の物語
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