未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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章間
第33話


 

 オレの知る未来では転生というジャンルがえっぐい人気を博しているのだが、なるほど、どうやらオレにもツキが回ってきたらしい。

 

「ははーん。そういうことか」

 

 目を覚ますと、知らない天井。

 視界の右半分はぼやけ、左半分は暗闇しか映していない。

 この視界は正常な人間にしてはあまりにおかし過ぎるので、オレは人間ではない生命体に生まれ変わったのは確定事項である。

 

「新たなる人生の始まりというやつだな」

 

 つまりは、魔力量がゴミカスで底辺と見下されてきたオレは、この世界では最強生物となり、ハーレム大魔神へと覚醒するのだ。

 

「よし。そうと決まれば、まずはお決まりのアレだな」

 

 オレはさっそく右手を天井へ向け、最上級魔法により天井をぶち壊、

 

 

 せない。

 

 

「……???」

 

 ボフッと顔を包む、見慣れた魔法行使失敗の煙。

 オレは涙目になってゲホゲホと咳き込む。

 

「おかしい。オレは才能チート勇者に生まれ変わったんじゃないのか」

「目が覚めて一番にその調子なら、どうやら君の頭と身体は無事そうだね」

 

 隣から前世では友だった者の声が聞こえた。

 

 横を向くと、オレと同じく白いベッドに横たわったシリウスが、いつも通りニコニコと笑っている。

 どうやらオレは転生したわけではないらしい。

 判明するや否や、オレは勢いよくブランケットを剥がしてシリウスの傍へ降り立った。

 

「お前、無事だったか!!」

「おいおい、僕より酷い有様の君がそれを言うのかい?」

 

 男装女子だったシリウスは呆れたように息を吐く。

 

 オレとか、どうせ世界に存在しない方がいい人間だからどうでもいいのだ。そんなことよりお前が元気そうでよかったぞ。オレが不甲斐ないばかりに傷を。済まない……済まない……。

 

 分かりやすく安堵の息を吐いているオレを見て、シリウスは黒い瞳を逸らして頬を掻く。

 

「……心配してくれるのは嬉しいけど、君はもう少し自分を大切にしなよ。なにせ周りは──」

 

 しかし瞬間、シリウスは「うっ!」と呻きを上げ、白い治療院服を纏った片腹を抑えた。

 

「……痛むのか」

「君の左眼もそうだけど、結局、回復魔法が効かなくてね。このザマさ」

 

 シリウスは苦悶に顔を顰めながら、そっと服を捲り、細く白いわき腹を露出した。

 

「えっっっっ」

 

 コイツ、羞恥心とかないのだろうか。友達とはいえそんなんホイホイされてたら、オレはいつか野獣になってしまうぞ。

 なーんて冗談は──傷口を塞ぐために刻まれた腹部の火傷跡を前にすれば、声にもならない。

 

 これは、オレの未来視が至らなかったせいだ。

 

「……済まない」

「どうして君が謝る。みんな命は無事だったじゃないか」

 

 シリウスはいつものように爽やかに笑った。

 そして、病室の窓辺を眺める。

 差し込む木漏れ日と揺れる木々が、穏やかな日常の帰還を告げている。

 

「それに、別に僕の目的にはなんの影響もないからね」

「……目的?」

 

 お前に人生の目的とかあったのか。

 

 オレと違って、普通にドベ詐欺をしたり、ランク戦で候補生を絶望に叩き落したり、或いは情報通の癖に、爆弾発言を投下したり。

 オレはお前のことを超ド級の愉快犯かと思っていたぞ。

 

 相槌を返すと、シリウスはなにとはなしにこちらを向く。

 

「あぁ、そうさ。目的があるんだ」

 

 冬風が、病室を走り抜けた。

 木の葉が室内に舞い込んで、ただでさえ右半分に狭まった視界を隠す。

 

「僕はね──」

 

 そしてシリウスは、()()()()()()()()()()を徐に持ち上げて。

 

「──僕をこんな目に遭わせた奴を、必ず絶望に叩き落してやろうと思うんだ」

 

 彼女はその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ♦♦♦

 

 

 そんなわけで実は復讐鬼だったシリウスから、『先生』が聖盾を壊すと同時に竜闘士が朽ちたこと、カスねぇが泣く泣く遺跡の転移陣の解析を諦めて、座標だけを変更してオレ達怪我人をネオ・フロンティアへ搬送したことなど、ルルアが毎日治療院の幽霊としてオレの傍を浮遊していたが、とうとう寝不足ゆえに師匠の風魔法で強制寮帰還をさせられたことなど、色々と情報を共有してもらった。

 

「よし、現状の整理をするか」

 

 オレの左眼は治らない。とりあえず生きて全員帰還できた。ルルアも右腕を失っていない。

 ただし、聖盾は失った。

 

「ダメじゃん」

 

 いや、駄目ではないのだが、状況は良くない。

 とは言え、魔王関連のことは森の枯れ木にしか話せないので、この場でこれ以上は。

 

「──シアンくん!!」

「あっ、師匠ちょうど会いたかったです」

 

 廊下から響くオレを呼ぶ大声。そして、バシンと叩き開かれる病室の引き扉。

 そこに現れたのは風に金糸のポニーテールをぐっちゃぐちゃにした師匠で、あぁもうそんなに息まで切らしちゃって、もう樹齢二百年なんだからあんまり燥がないでほしいものである。

 

 目を覚ましたオレを見た師匠は──がばりと、両手を広げてベッドへ迫った。

 

「……よかった!……よかった……!!」

 

 ベッドへ覆い被さるようにオレを抱き締める師匠である。

 ちょ、隣にシリウスがいるんだぞ、やめろマジ……あっ、その匂い好きぃ……師匠好き……。

 

「……済まない……!! 済まない……!!!」

 

 わしゃわしゃと、オレの髪を掻き乱しながら、頻りに悔恨の声が耳元を響く。

 なんでそれほど悔いているのか。この通り、オレは生きていると言うのに。

 ぐいと、もうぜぇぇぇっっったい♂じゃない細くて柔らかい身体を押し除けて、青い顔をした師匠へ笑いかける。

 師匠はぎこちなく、赤い瞳を逸らす。

 

「だ、だが……キミの眼は、」

「師匠は──オレを愛してくれている。それだけで、オレは充分なんです」

「……シアンくん」

 

 師匠は今一度、その表情を隠すようにオレを強く抱きしめた。

 

「いやぁ、真昼間から魔山の雪が溶けそうなほどにお熱いねぇ。君の幼馴染が見たらどうなることやら」

「師匠」

「あぁ」

 

 オレと師匠は初めて正しい形で師弟の絆を発揮し、阿吽の呼吸でシリウスをぶちのめした。怪我人だろうと容赦はしない。どうせ師匠の回復魔法でどうとでもなる。

 

「なるほど。君は普段からこんなにキツイことを──」

「師匠、あとは頼みますよ」

「任せてくれ」

 

 師匠の風魔法で人間洗濯機にぶち込まれているシリウスを尻目に、オレは治療院を発つ。

 何日眠り呆けていたのか知らない。そろそろ聖域もオレの不在を嘆いている頃だろう。

 なのでサッサと自堕落したいのは山々なのだが……その前に、一つ立ち寄りたいところがある。

 

「すみませーん、リアさん」

 

 寄り道の先は、無表情系ロリのお店。店内に立ち入ると、ひょこひょこ工房の奥からお下げの幼子(ババア)出ててくる。

 彼女は試作の改善のためにオレの身体を採寸した後に、ポンと、オレの肩を叩いた。

 

「お前か。聞いた、大変だった」

「まぁ、それなりには」

 

 ここには良い盾がある。ルルアには傷ついて欲しくないから、聖盾と言わずともせめて盾ぐらい持って欲しいものだ。

 オレは思いながら数打ちの盾を手に取ろうとして──空振り。

 

 距離を測り違えたか。また遠近感覚がおかしくなっているらしい。

 オレは今度こそ失敗しないよう、慎重に腕を伸ばし。

 

「おい」

 

 鍛冶屋ドチャクソパワーで腕を掴まれた。ミシって言ったけど大丈夫かな……?

 見下ろすと、リアさんは仏頂面の中で、焦げ茶色の瞳を鋭く細める。

 

「お前、目を悪くした」

「……いや、」

「わたしの目は誤魔化せない。ちょっと待ってろ」

 

 そう言ってリアさんは工房の奥へとオレを引き摺る。

 そして投げ渡されたのは……レンズ、だろうか。

 

「オレはリアさんと違って、キラキラ光るものを渡されて喜ぶ年頃じゃないんだが……」

 

 リアさんは自分の焦げ茶色の瞳を指差し、言った。

 

「目玉にぶち込め」

「なんて危険なものなんだ」

 

 まさかの拷問道具だった。ガキ扱いしたのがそんなに気に食わなかったのだろうか。

 

「私も使ってる。市販は子供用の眼鏡しかない」

「……なるほど」

 

 どうやら少し不思議な形をした、自作の眼鏡らしい。

 オレは恐る恐る右眼にはめ込み──とすると。

 

 世界が見覚えのある鮮明さを取り戻した。

 

「こいつは素晴らしい!」

 

 等身大の鏡に映る左眼が眼帯姿のオレは、それはもうご機嫌そのものである。

 なにやら、レンズは色も変えることができるらしい。そしたらオレの右眼の色も隠せるのでは? でも……青い悪魔は綺麗って言ってくれたしな……。

 

 

 オレは好きな人の趣味に染まる側の人間である。

 

 

 しかもお代は要らないとのことだ。今頃カスねぇにしこたま金を使い込まれているだろうオレには非常に有難いご対応である。

 しかしだな……そんなに優しくされても、オレは何も返せないんだが。

 

「お前はアイツを変えた。いなくなったら困る」

「リアさん師匠のこと好き過ぎですwww」

 

 リアさんは無言のままオレの背中を店から押し出し、バタンと、扉を閉めた。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 リアさんは照れ隠しはするが、暴力を振るわないという点ではやはり常識忘却系師匠と比べてよっぽど出来た人間である。

 未だ師匠の風魔法でお仕置きをされているだろうシリウスを思うと、そのお労しさには同情を禁じ得ない。

 まぁ、オレも共犯だという点には目を瞑るのだが。

 

 視力が復活した気持ちよさのあまりオレは鼻歌を鳴らしながら石造建築の建ち並ぶ街中を歩き、到着。

 愛しのオンボロ寮を見上げる。

 

「今日からまた自堕落を共に頼むぞ」

 

 オレはいざ、聖域へと繋がる扉をガチャッと開いた。

 そして家に踏み入ることなくバタンと扉を閉ざした。

 

 一度、落ち着こうか。

 首を傾げて、目の当たりにした光景を言葉にしてみる。

 

「なんか……玄関がクソほどピカピカだったんだが……」

 

 どっかの高級店かってぐらい光り輝いていたぞ。部屋を間違えたんだろうか。

 番号を確認するが、合っている。新築リフォーム同然のここは、オレの部屋であるようだ。

 

「一体なにがあったんだ」

 

 帰ってきたら家が新築になっていたとか、これもうある種の怪奇現象だろ。

 今度のオレはそっと扉を開く。

 

 すると、香ばしい匂いが部屋の奥から漂ってきた。

 

「ごはんだろうか」

 

 数日寝たきりだったせいだろう。腹が減って仕方のないオレは、気が付くと匂いに導かれるように玄関を通り抜ていた。

 そして奥の扉を開き。

 

「お帰り、少年。ご飯はもうできているよ」

 

 エプロンを纏ったカスねぇが、ライトグリーンの長髪をキッチンに揺らしている。

 

「???」

 

 オレは訳が分からないあまり言語を失った。

 

 カスねぇがキッチンに立っていることに驚いているのではない。この人は、オレの冷蔵庫から勝手に食材漁って自分の飯を作るためのカス行為を平然と働くからな。

 オレがいま目をガン開きにしているその理由は、二人分の豪勢な料理が、食卓に並べられていることにある。

 

 そうだ。オレ用にも料理が作られているのだ。

 

「なんだ。何が起きている」

 

 家中ピカピカ。ご飯は作ってくれる。その立ち振る舞いはもはや新婚さんだ。ついでにオレの部屋を見ると、ドラ猫に盗まれたはずの貯金箱も中身まで復活している。

 

「おかしい。こんなのカスねぇじゃない」

 

 熱でも出したのかと思ってカスねぇのおでこに触れたが、平熱だった。

 

「少年、冷めないうちに一緒に食べよ」

 

 手を引かれて、食卓に着座。カスねぇ手製のクソ美味いご飯をたらい上げる。食事を取ったことで脳内には糖分が行き渡り……まさか、そういうことなのか?

 

 オレは恐ろしい可能性に戦慄してカスねぇを見上げる。

 

「おい待て。今度は一体なにをやらかしたんだ」

「嫌だなぁ少年、お姉さんはいつも通りじゃないか」

 

 いつも通りだったら食後の洗い物とかしないぞ。

 オレはこれからカスねぇの連帯保証人として奴隷鉱山にでもぶち込まれるかと思ったが、それも違うらしい。

 

「……さては偽物だな!」

 

 そうとしか考えられん。身体検査を行わせてもらうぞ! まずはそのボロボロのローブを──。

 と、オレは冗談でカスねぇを押し倒したのだが……ん?

 

 カスねぇからの抵抗が、ないんだが……。

 

 琥珀色の瞳はそっと、オレの眼帯から背いた。

 

「それで少年の気が済むなら…………お姉さんは、いいよ」

 

 消え入るような小さな声。オレの手に触れたその細長い手先は、酷く震えている。

 

 はぁ~~~~……やっと分かったぞ。

 どうやらカスねぇは、未開の島へとオレを連れ込んだ挙句、自分が罠を踏み抜いたせいで消えない傷を負わせてしまったのだとか思っているらしい。

 んなことないのに。むしろカスねぇたちが居てくれたからこそ、この程度の被害で済んだというのに。

 

「オレの判断だ。アンタが背負い込む必要は何もない」

「……そ、それは」

 

 カスねぇは今にも泣き出しそうに、顔を伏せた。

 この人こんなに普通の罪悪感覚えることできたのか……。カスじゃないカスねぇの存在には大驚愕である。

 

 とは言え、まぁ、これは罪の意識を持っても仕方がないか。

 このまま放っておいては、カスねぇのメンタルがお薬に傾いてしまうかもしれない。それだけは勘弁願いたいので、オレはそっと、艶やかな翡翠の長髪へと手を伸ばす。

 

 師匠直伝の、頭わしゃわしゃ脳破壊である。

 

「なぁ、ウィッカさん」

 

 ビクリと、身体を震わせるカスねぇ。

 オレはカスねぇのことをカスだと散々言っているが、今からオレの行うことも相当カスであることは自覚している。

 なぜならそれは、今後のカスねぇの人生を思うならぜぇぇぇっっったい囁いてはならない大禁句だから。

 

 けれどオレ、湿っぽい空気と人間関係は好きじゃないんだ。頼むからいつも通りでいてくれ。

 ということで、オレはオレのためだけにカス行為を働くことにした。

 

「オレは、夢のためならカス行為を厭わないウィッカさんの方が好きだ」

 

 あーあ……言っちゃったよ……これでカスねぇは最後の更生の機会を棒に振って、もう一生カス性根だよ……。

 カスねぇはオレを見つめ、やがて、小さく頷いた。

 

「…………うん」

 

 よし、これで変な空気終わり。こっからいつも通りな。

 パパンと両手を叩いて世界をリセットすると、いつものだらしないお姉さんが立ち上がる。

 うん。それでいい。ヤサグレ目元にへらへら情けなくて、いつものカスねぇだな。それじゃあ洗い物はオレがするからソファにでも寝転がっててくれ。

 

 と言いながら去ろうとしたオレの腕を──ガシッと、掴まれる。

 

「……ん?」

 

 なんか、重い瞼の奥で琥珀色の瞳が据わっているんだが……。

 

「…………決めた。もう絶対少年のこと逃がさない」

 

 いきなり真正面から強く抱き締められる。

 

「ヒョッ!?!?」

 

 思わず胸の底から漏れた情けないオレの悲鳴である。

 これ不味いのでは? ウィッカさんははぁはぁ息を切らしながらオレを覗き込み──。

 

「そ、それじゃあ少年、これからお風呂場でお姉さんの背中を流し──」

「シ~アンっ!!」

 

 ルルアが満面の笑みでオレの家に乱入してきたのは、ちょうどその時だった。

 

 バタンと勢いよく開かれる扉。

 一気に霧散する二人きりの空間。

 カスねぇは──部屋の片隅に三角座りして、さめざめと涙を流した。

 

「あぅぅ……!」

「お前……」

「……え? な、なに? なんなの??」

 

 このコミュ障が……。

 

 自分が何をしたのか理解していないらしく、消沈したカスねぇと嘆息したオレをオロオロと交互に見回すルルアである。

 まぁ、助けられたので文句はないが。いや食われたくもあったので文句はあるが。クソッ!

 

 閑話休題。

 それより、シリウス曰く、ルルアはオレを治療院まで運んでくれたらしいからな。

 次に会ったらきちんとお礼を言おうと思っていた。

 

「オレが気絶したあと、お前が運んでくれたんだろ? たすか──」

「──それより聞いてよ!!!

 

 後出しクソデカボイスが、オレの感謝を消滅してしまった。

 

 もう知らない。

 オレもカスねぇと同じく部屋の四隅に蹲ろうとしたところ、ルルアは笑顔で続ける。

 

「師匠がね! ちょっと村に帰って休憩しよって言ってくれたの!!」

 

 なるほど、里帰りか。

 かれこれ村を出て一年は経ったからな。一度帰郷してもいい頃合いではある。よし、オレも同行しよう。 

 

「ちなみに出発はいつだ」

「へ? 今から行くよ?」

 

 ガシッと、今日三度目の強く掴まれる腕。

 

「ちょ──」

 

 オレは青い悪魔に腕を引っ張られ、街を吹き抜ける風となった。

 

 

 




 次回の更新は明日の14日。
 よろしくお願いします。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

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