未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない() 作:うずつるぎ
ただの人間が、そこら辺の凧みたいに振り回されるとどうなるか。
答えを教えてやろう。
情けない生物へと降格して、ぐるぐる目のまま師匠の足元に倒れ伏せることとなる。
「きゅー……」
「る、ルルアちゃん。なんだいこの奇妙な生物は」
「えと……ボクの幼馴染だったもの?」
「こう大人しいと、可愛いんだけれどね」
「とりあえず荷台に詰め込んどきます!!」
どうやらオレは魔力量がゴミカス過ぎるあまり、世界からはぬいぐるみさんとして認識されているらしい。
幌馬車の中へ雑に詰め込まれたところ、意識をフェードアウト。そして意識のスイッチオン。
「う~ん……」
ガタガタ、ガタガタと床が揺れる。
車輪が土を食んで、馬の蹄が悠然と大地を踏む音がする。
オレは瞼をゴシゴシとして起き上がると──そこは、森だった。
「なにがあったんだ一体……」
青空を覆い隠す緑の林冠。溢れかえる土の香り。
森の小道の風景を見て上体を起こしたところ──ふわりと、揺れ込む白っぽい紫髪。
「あっ! 師匠、シアン起きた!!」
オレは悪魔の所業を思い出した。
「……何が『起きた!!』だ! おのれ青い悪魔めっ!」
「こら。任務中だよ。大人しくしなさい」
笑顔でオレの腕を引っ張って突風に叩きつけやがって! 許さん!!
当然オレはカッカと抗議の声を荒げたのだが、気が付くと、オレは幌馬車の床に這いつくばっていた。
席に座った森の魔女がちょいと右手を振るった途端、なぜだか、オレの周りの空気だけが異様に重たくなったのだ。
オレは空気の圧力に押し潰されながらピクピクと手を伸ばす。
「に、任務とはどういうことですか……」
「行商の護衛だよ。キミ達の村まで連れて行ってくれる代わりさ」
なるほど。どうやらカスねぇに連帯保証人として売り払われる未来の予感はあながち間違いではなかったらしい。
知らない間に、荷台に詰め込まれ働かされることになったんだ。
こんなん奴隷同然である。
「ティナさんに護衛してもらえるなら怖いものなんてないがな!」
「女装変質者ほど怖いものは」
「なにかな? シアンくん」
「……イエ、ナニモ」
枯れ木の癖に自分への悪口にだけは耳聡い師匠の笑顔は恐ろしい。今晩の野営で、鍋の具材になるわけにはいかない。オレはぶんぶんと首を横に振り、事なきを得た。
まぁ、護衛と言っても師匠はお強い。もはや幌馬車から出ずに、指先を動かすだけで風魔法による魔物撃退を実現している。
「たいくつ……」
オレにとってはこの上ない救いであるというのに、ルルアと言えば詰まんなそうに足をぶらぶらとさせているご様子で、オレがコイツと分かり合える日は永遠に来ないことが確定した。
それはさておき、コイツには島でのことを感謝しなければ。
「おい、ルルア。オレはお前の奔放を嫌いには思わないが、さすがに左眼を失って、」
「シアン! どっちが魔物たくさん倒せるか勝負しよ!!」
「じゃあ、私はそろそろ休もうかな」
また無視された。そして最悪なことになった。
師匠は老人であるがゆえに定期的に大きな休養が必要であり、魔法の行使をやめてしまったのだ。
となれば、あとは分かるね?
「結局こうなるのか」
外に出たオレはひぃひぃ言いながら魔物を討伐する。特に、幽霊の魔物は相性最悪だ。物理が効かないので、ただでさえ少ない魔力を消費して弾丸を撃ち込まねばならない。
だが、これは勝負だからな。手は抜かない。馬車近辺の魔物はこれでもかと討伐してやったぞ。
周りにはルルアの姿も見えないし……さては敗北を予感して馬車に逃げ帰ったな? これは勝ちだ。ガハハハッ!!
道を進むと、先回りしてオレ以上に魔物の屍を重ねたルルアがほわほわ笑っていた。
「へへーん! ボクの勝ち~!!」
ふざけろよ……。
ちょっとでも大勝利を夢見たオレがバカみたいだろ。まぁ、コイツには天地がひっくり返っても勝てないことは分かっているのだが。
……よし、今度こそ伝えるぞ。
「なぁ、まだ言えてないんだが助けてくれて」
「シアンは帰ったらなにするの!!」
「なんなんだ……」
村に向かうにつれて、コイツの自由っぷりが激しさを増しているぞ……。
幼児退行でも疑った方が良いレベルである。
オレは必死こいてナチュラル煽りモンスターの軌道修正したのに、その一年間が無駄になっている気がする事態には涙を禁じ得ない。
「なに、彼女も乙女だから、色々と思い悩んでいるのさ」
「え。師匠に乙女心とかわか、」
オレは大樹に括り付けられた。
「今まで楽しかったよ。キミはここに置いていくことにしたから、これでお別れだね」
「師匠はオレの心を破壊した超絶美人にございます。足でも手でもなんでも舐めますのでお許しください。あっ、でも♂の足とか舐めたくな」
「なるほど。キミを良い子にするためには、まずはその心に植え付けられた邪悪の残滓を洗い流してあげないといけないわけだ」
その晩、オレはゆっくりと水浴びをすることすら許されず、師匠の水魔法を大樹に括り付けられながらガバガバと浴びせられた。
真冬の森でこんなんやるとかキレ過ぎだろ……。師匠が用意してくれた焚火でガクブル暖を取り、はっくしょん。
うーん。ちょっと風邪気味。そんなこんなで翌日を迎え、村、到着。
「ただいまー」
オレは久しぶりに家に帰った。
♦♦♦
玄関扉を開いた先に広がる居間の光景は、一年前とまるで全く変わらないものだった。
「おぉ、シアン。帰ってきたか」
「あらあら。随分と身長が伸びたわねぇ」
相変わらず剣を磨いている義父さんに、相変わらず料理をしている義母さん。
久しぶりの帰郷に心臓をバックバックとさせていた自分がアホらしい。そう思うほどに、オレが青い悪魔にボコされていた幼少期と地続きの日常が、そこにある。
いや、むしろオレが魔女の手によってギルドにぶち込まれ、ギャン泣きしながら汗水垂らしたアレこそが夢だったんじゃないだろうか?
……うん。フツー、未来に希望を抱く少年があんな日々を送るはずないもんな。
「そうだ。そうに違いない。そしてこれから悪夢の勇者ごっこが再開するんだ……」
「お前も相変わらずだな」
どっちに転んでも悲しき世界にブツクサ呟いていると、二人は眼帯姿なオレをのほほんと眺めていた。
その……心配とかしてくれないんだろうか……。
「あぁ、左眼のことはティナさんから聞いているぞ」
「びっくりするぐらい謝られたわねぇ」
見ない間に完全保護者ムーヴをかましている師匠には驚愕を禁じ得ない。あの人も一応、オレとルルアを村から引っ張り出してきた自覚はあったようだ。
オレは義父さんに手招きされて食卓に着く。義母さんは次から次に昼食を運んできて、もう食卓の上には乗り切らないほどの料理がある。
「今晩はご馳走しようかしら」
「既にちょっとした宴会だろこれ」
まだ昼だぞ。
バカクソ盛られた飯を見て思わず酒飲みチックな言葉を零しながら、だが美味い。実家の飯は美味い。自分で作る飯が味気なく感じるのは世界の三大謎法則である。
ドラ猫に飯を横取りされるせいで早食い癖のついてしまったオレはあっという間に爆食し、ふぅ。
オレは食後のお茶に家族のんびりとしながら──ポツリと、呟いた。
「義父さん、義母さん。オレを引き取ってくれて、ありがとう」
二人はくるりと目を丸め、お互いに顔を突き合わせる。
「どうした、改まって」
「別に……なにも、特別な話じゃない」
ただ、オレは左眼を失う過程で、一つ、気が付いたことがあるのだ。
言っておくが──オレは汗水垂らすのは大嫌いだし当然死ぬなんてぜぇぇぇっっったいに御免である。
が、本当に誠に遺憾ながらルルアを助けると言う最大の理由があるのであればクソクソ言いながらも己の死を受け入れてやらんでもないぐらいの気持ちはある。
だから、死神に首ちょんぱされる前に、見知った人にお礼を伝えておくべきだと思うのだ。
「オレの右眼も気にせずに接してくれて、嬉しかった。義父さんと義母さんには感謝している」
だから、言葉にする。
少し恥ずかしいけれど、目を逸らさずに、誤魔化さずに。
二人揃って目を丸めていた義父さんと義母さんは、やがて、クスリと笑みを零した。
「自分たちの子供を愛さない親なんて、いるわけないじゃない」
「うむ。母さんの言うとおりだな」
おい。二人だけ気恥ずかしいのを誤魔化すのはズルいぞ。オレだって本当はだな。
両手をハチャメチャさせて弁解を図ろうとしたところ、二人は立ち上がった。
そしてとてもイイ笑顔をオレへと向ける。
「それにねぇ」
「父さん達も、案外変わっているからな」
その瞬間。
「……は?」
オレの口には、ぽっかりと穴が開いた。
「翼を広げたのなんていつぶりかしら」
「この村は迫害された者たちを集めた場所だからな、大概が混ざり血だぞ」
「なんだと……」
ここに来て明かされた新事実である。
だからオレはこの村に来て以来、心のないガキども(あるいは純粋とも言う)以外からは、右眼を見られても生暖かい目を向けられることが多かったのか……。
なんだかんだと言って、オレの人生のほとんどは師匠に守られているらしい。ここまで来たら一生面倒見てもらおうか。
なーんて考えていると、義父さんはニヤニヤと言う。
「それより、お向かいのルルアちゃんとはどうなんだ?」
「義父さんとはもう喋らない」
年頃の息子に振ってはいけない話題ランキング、ぶっちぎりの第一位。
異性の幼馴染との関係性である。
確かにルルアとは二人三脚で仲良く石橋を叩いてはいるが、オレみたいなガキは多感な時期なのだから、もう少しデリケートに扱ってほしいものだぜ。
「向こうではどんな生活をしているの?」
おうちにドラ猫(年上のお姉さん)飼ってるよ! すっごく可愛いんだ!!
「あらあら、お母さんはそれも気になるわねぇ」
「出掛けてきます」
経緯を語るにはあまりに複雑怪奇且つ時間がかかるのでオレは話題を出すだけ出して家から逃げ出した。
きっと二人は、オレをおかしな方向に成長している息子だと勘違いしたことだろう。
「それもどれもすべては青い悪魔のせいだ」
だからオレとのイチャイチャコミュニケーションにぐらい付き合え! と、向かいの家で玄関を叩いてみたが、音沙汰はなかった。
「居ないのか……」
ならば仕方がないので、家に帰って自堕落でも。
「うちの子はそのうち帰ってくるんじゃないかしら」
「ヒョ!?」
振り返ると、ルルアの母上がそこにいた。
まったく影も形もなかったはずの登場に、オレはピンと背筋を伸ばし。
ポンと、オレの肩を背後から叩く感触。
「やぁ、娘といつも仲良くしてくれてありがとうね」
……???
玄関扉が開いた形跡もないのに、ルルアの父上は笑顔で玄関先に立っていた。
バカな。何が起きたと言うのだ。
オレはあまりの驚愕に幼馴染のお庭で石像と化したところ、ドタドタと、お庭の大きな木箱が揺れ動く。
中からむすりと、頬を膨らませたルルアが飛び出した。
「……ボクが驚かそうと思ってたのに! シアン取らないでよっ!!」
「この家はびっくり箱か何かなのだろうか」
やっと分かったぞ。青い悪魔が人を驚かせることに生きがいを感じる性根を獲得してしまったのは、この両親のせいだな?
オレは三人に腕を掴まれたり背中を押されたりして、幼馴染の家へと連れ込まれる。
キッチンに立ってお茶の準備をするルルアの背中をぽけーっと眺めていると、ルルアの両親はふと笑った。
「いやぁ、シアンくんには助かっているよ」
「? オレは何もしていませんよ」
やったことと言えば、勇者ごっこトラウマ時代から構ってやっているぐらいだが。
「そうさ。あの子に構ってくれているじゃないか」
「同類を見つけないと寂しいことになるんじゃないかと思ったけれど、あなたがいてくれるから安心ね」
安心してください。アイツは向こうじゃオレ相手にしかナチュラル煽りモンスター性を発揮しないので、クラスの人気者ですよ。
とオレは伝えたのだが、なぜだかニコニコと微笑まれるばかりである。
ルルアをオレのお嫁さんにする許可をもらったと言うことだろうか。
そのうちルルアがお菓子とお茶を出してくれて、据え膳食わぬは男の恥なのでまたも爆食。
お腹が膨れ過ぎてもう一歩も動けないので、今日はこのまま幼馴染の家にお泊りする所存だ。
対する青い悪魔は当然、元気が有り余っており。
「ルルア。お前の部屋でゆっくりするぞ」
「シアン! 散歩行こっ!!」
「オレはもう動け、」
「おさんぽっ!!」
こういうことである。
この狭っっっい村の中を何十周もさせられて、大困憊。
時々、立ち止まったり顔を伏せたりしているが、コイツが何を考えているのかがサッパリわからない……。
挙句、懐かしい悪ガキに呼ばれてどっか行ったぞ。歩きすぎて大地に倒れ伏せてしまったオレを置いていかないでくれ……。
気力を振り絞ってベンチにもたれかかっていると、帰ってきた。
「なんだったんだ」
「告白されてた!!」
オレはガバッと起き上がった。
「な、ななななんだと。どこのどいつだそれは」
「すっごい焦ってる……」
お前はオレの幼馴染でいてくれるよな? そうだと言ってくれないと、オレはもう二度と立ち上がれないぞ。
さっきまでの疲労もぶっ飛んでオロオロするオレを見て、ルルアは呆れたようにため息を吐く。
「……もう。断ったに決まってるじゃんっ。ボクの特別はシアンなのっ!!」
プンプン怒りながら頬を赤く染めるルルア。
……ふぅ。あまりのいじらしさに時すら止まっちまったぜ……。
ここまで言われちゃあ……オレもそろそろ、伝えないとダメだよな。
バックバクとうるさい心臓。オレはすぅはぁ息吸って落ち着かせ、よし。
ルルアを正面に見据える。
「なぁ……ルルア」
ルルアはピンと背筋を伸ばし、けれど、もじもじと上目にオレを覗いた。
「な、なにかな……?」
オレは遂に──ルルアへ告白した。
「島でのことだが、治療院まで運んでくれて助か、」
「あ˝ー! 勇者ごっこしよ!!」
またもクソでかボイスはオレの言葉を掻き消した。
これもう確信犯だろ……。勇者ごっこと称してオレは風魔法に目を回され、ベンチにノックダウンする。
「……よし」
オレの殺害を確認し、こくりと頷く幼馴染である。
そして現場から逃走しようとしたところ、オレはなんとか手を伸ばし、その華奢な腕を掴んだ。
「そろそろお礼ぐらい、言わせろ……なんで……そんなこの話題を嫌がる」
ビクリと肩を震わせたのが最後、ルルアは深く、俯いてしまった。
「……」
オレ達の間を流れる、重い沈黙。
ルルアの表情は陰りに隠れて、良く見えない。
やがてポツリと、震えた声が響く。
「……その。なに言えばいいか、分かんなくて」
ルルアは上目にオレの眼帯を映し──その声色を、涙に濡らした。
「ボクの、せいで……シアン……ッ! でも……ごめんって言っても、『そんな風に言うな』って、シアンはぜったい言うから……だからなにも言えなくて……!!」
……コイツ、オレに対する理解が素晴らしく深いな。
本当にコミュ障なのか?
まぁ……オレの性格を考えた結果、謝るに謝れなくて、でも自責の念が抑えられなくてどうしようもないから話の流れ的に謝らざるを得ない島での話題を出される前に強制クソデカボイスキャンセルとかいう技を編み出すあたり……うん。一周回ってコミュ障か。
「……そうだな。オレはそう言うだろうな」
つまりは、オレの幼馴染はオレに対してだけ理解のあるコミュ障であり、対してオレは。幼馴染に対する理解が浅いせいでそこまで考えられなかったバカ者だったわけである。
もっと脳みそ使えやボケカスが。
オレはガシガシと白髪を掻き毟り、自分自身へため息を吐き出した。
「あー……分かった。お前に対する配慮が足りなかった。よし、今なら受け入れる」
「ほんと……?」
徐に顔を持ち上げたルルアは──しかし耐え切れず、蒼穹の瞳からボロボロと零した。
「ごめん……ごめ˝ん……っ! ボクの、せい˝でッッ!!」
「どうどう。落ち着け落ち着け」
ぐしゃりと歪んだ目尻。蒼穹の瞳から、大粒の雫が零れ落ちる。
オレはすくい上げるように手を伸ばし──ぐいと、軽く抱き寄せるように背中を叩いてやる。……叩いてよかったんだろうか。嫌われないだろうか。
急にアセアセしたオレの背中を、華奢な腕は、縋るように抱き締める。
「ボクが……弱かったからッ!!」
「そんなことはないだろ」
当社比の戦闘基準はやめてくれないか。それだとオレはもはやスライム以下のクソ雑魚扱いになるだろ。
鼻を啜りながら懺悔の言葉を繰り返す幼馴染の顔を、そのまま胸元に抱き寄せてやる。
ここぞとばかりに幼馴染を篭絡しようとするオレの頭脳にはどんな偉人もびっくりだ。程あって落ち着きを取り戻したルルアは、オレの胸元に顔を埋めたまま、小さく声を振り絞った。
「それと…………ありがと、助けてくれて」
「おう」
ここで謝るだけじゃなくて、きちんとお礼を言える子は偉い。勢い余って頭を撫でると、ルルアが胸元から顔を上げる。
涙ぐんだ笑顔で、にへらと笑う。
「……ん、へへ……ボク、シアンに甘えて、ばっかりだ……」
「オレもお前に救われたんだ。目玉ぐらい幾らでもくれてやるさ」
オレごときを代償にコイツを救えるのなら、なんだって構わない。そういう覚悟で、オレは今を生きている。
ルルアは一歩、オレから離れた。
クソデカ感情過ぎて引かれたのだろうか。不安に思うも、ルルアは目尻を拭いながら、真っすぐにオレを見る。
「あのね、シアン」
「どうした」
「ボク、師匠から聞いたの。シアンの左眼が治らない理由」
どうやらルルアは、オレの左眼が魔王の呪いに侵されたことを知っているご様子。
そして──この決意ガンギマリの眼差し。
嫌な予感しかしないんだが……。
ルルアは真摯に、その世界へ宣言する。
「ボク……次の魔王、絶対倒す。勇者になるかなんて分かんないけど、もう決めた」
待ってくれ。それだと、オレにとっては転んでほしくない方向に。
「絶対、シアンのこと助けるから」
アァァァア~~~~!!!!
喜びと絶望のギャン泣きが小さな村を木霊した。
♦♦♦
今宵の満月は、どこか温かい黄色で美しい。
それは──満月へ覆い被さるように空で光を反射する人影が、金糸のポニーテールを揺らしているからだろう。
彼女は風魔法に乗って宙を浮かび、村を囲う結界を、張り直す。
そこに──木々の影に紛れて、片膝を突く者がある。
「──ギルド長」
現れたのは、手塩を掛けて育てた副官だ。
「オボロか。何かあったのかな?」
「報告にございます」
メイド装束の秘書は、木々の陰りに片膝を突いたまま冷静な面持ちを上げた。
「西の果てへ送った、先遣隊の結果ですが」
次の瞬間、その事務的な声は──か細く震えて。
「……全滅に、ございます」
「……そうか……」
時間はもう、残されていないのだろう。
弟子から恐ろしい未来のことは聞き及んでいる。
しかし、どうやら弟子が予想する以上に、現実は厳しいのかもしれない。
ならば、先代勇者となる私の為すべきことは、ただ一つであり。
「オボロ。それじゃあ──」
今宵、最後の一手を打ち出す覚悟は固まった。
ということで短い章間は終わり、次回から新章。
次の更新日は17日の水曜日です。
最後にはなりましたが、アンケートにご協力いただきありがとうございます。
それでは、また次話でお会いしましょう!
次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。
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