未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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もうお前が勇者やれよ。そう思っていた時期がオレにもありました。
第35話


 

 なにやら黄金島には『気が付いたら浦島太郎』という逸話が伝わるらしいが、なるほど、どうやらそれは単なる伝説ではなかったらしい。

 

「おかしい。オレは森の魔女に誘われて村に帰っただけだというのに」

 

 帰郷という名の自堕落生活を経て、一週間。

 オレは無断欠席という形で処理されていたせいでギルドへ帰って来るや否やカリキュラムが一斉に頭上から圧し掛かり、ぺしゃんことなって無限補習編に身を投じる数日を過ごしていた。

 

「あの常識忘却系師匠に気遣いを求めるオレが間違っているのだろうか」

 

 そんなはずはない。

 ルルアは天才なので講義なんぞちょちょいのちょいで終わらせてしまうが、オレは魔力量ゴミカスなんだぞ。そこのところを念頭に置いていないあの拗らせ魔女は視野が狭いと言わざるを得ないし、いや、老化によって視力がボケ始めたという可能性もあるな。

 

「やはりあの人も年か。そろそろ引退とか勧めた方が良さそうだ」

「いったい誰が誰を引退させるだって?」

 

 今日も放課後だと言うのに腕を振るっては魔法失敗のボフッと煙を室内に蔓延させる謎の時間にブツクサ呟いていると、煙の中から、樹齢千年の枯れ木が伸びてきた。

 

「あぁ、可哀そうに」

 

 どうやら師匠は、玉手箱の煙を浴びて自分が老化していることにも気が付いていないらしい。

 これは認知を与えてやらないといけないな。

 

「老師!」

「覚悟はあると見た」

 

 いつの間にやら師匠の風魔法は煙を追い払い、と同時にオレをも訓練室の壁に叩きつけた。

 なぜだ……老いぼれを老師と呼ぶのは常識のはずなのに……。オレは壁にめり込んだまま、ギョッと目を剥いている白髪おじいちゃん講師に手を伸ばす。

 

「た、助けてください講師のお爺さん……」

「わ、ワシは嫌じゃよ。まだまだ長生きしたいんじゃ」

 

 酷い。これが候補生を見守る講師のすることなのか。

 理不尽すぎる世界に目を見開いていると、瀕死のオレは森の魔女の脇に抱えられる。一体なにをしているのやら、♂の癖に、仄かに膨らんでいる気がしなくもない胸板と触れ合うことになる。

 

 このひと拗らせ過ぎだろwww

 

 なーんて言うと流石に女神メルリア様のところへ昇天させられそうなので、オレもお口をチャックした。

 

「彼は補習中みたいだけれど、私が借りて行ってもいいかな?」

「もちろんですじゃギルド長。こやつは魔法も使えんくせに授業中も生意気なもんで、煮るなり焼くなり好きにしてください」

 

 ここぞとばかりに要らぬ告げ口をする講師の保身っぷりには驚愕を禁じ得ない。

 

「なるほど。キミは私の目がなければそんなことをしているのか。調教が足りなかったかな?」

「ヒェ……ッ」

 

 言っておくが、オレは授業妨害なんて不良染みたことはしていないぞ。

 ただ、魔法は頑張っても使えないから最初から投げ出したり、シリウスに煽られてキレ散らかすことがあったり……。

 

「大変申し訳ございませんでした」

「うむ」

 

 オレはギルド長室に送還されるや否や、両手を投げ出して森の魔女様に倒伏した。

 

 オレの大反省の意を解してくれた師匠は、オレの失態をなかったことにしてくれる。

 はずもなくお仕置き風魔法の威力が和らいだだけで、結局オレは、床に這いつくばるいつもの醜態を晒し上げることになる。

 

「まったく、キミみたいな子を()()に出すのは気が引けるな。私の名に傷が付かないか……」

 

 師匠は赤い瞳を伏せ、ため息を吐いた。

 相変わらず、ティナさんの名声ばかりを考えている煩悩っぷりだ。その思考を少しでも弟子への心配に向けてもらいた。

 

「……ん?」

 

 留学……?

 まるで意味の分からない一言に、オレは床に這いつくばった身体をなんとか持ち上げた。

 

「そうだよ。それがキミを呼び出した理由さ」

 

 師匠は当然とばかりに頷く。

 

 うーん……未来視にも知らない展開。魔力量ゴミカスなオレは、とうとうギルド『英雄の守り人』から追放されることになるのだろうか。

 というか留学ってなんだ。まさか、他の三大ギルドで修行の日々に明け暮れろとかじゃないだろうな……。

 

 恐る恐る、師匠を見上げる。

 師匠は何年か前と同じように封筒を指先に挟み、床に這いつくばるオレの目前に突き刺した。

 

「単刀直入に言おうか。キミは半年ほど、()()()()()()へ留学しに行ってくれ」

「…………学院?」

 

 苦節13年、どうやらオレは、魔女の支配から脱出する日が来たようだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 聖都勇者学院。

 

 それは、大陸中央、聖女様のおわす聖都における、女神教公認の公共教育機関である。

 

 その歴史は非常に深く、師匠の設立した『英雄の守り人』なんぞの看板を微風に吹き飛ばしてしまうほどだ。なにせ、設立したのはあの初代勇者。そして今では聖女様が最高顧問。要は、何百年も続いている由緒正しき学校なのだから。

 

「そんな学院に、野蛮な大陸西部の連中が何をしに行くと言うのか」

 

 よく分からないが、なにやら師匠は、ティナさんの名声を更に轟かせるべく新たな施策を始めたらしい。

 

 あと数日もすれば要塞都市ネオ・フロンティアから聖都へと向けた旅も出発とのことで、このオンボロ寮ともしばらくお別れである。

 

「留学だって! こんなの候補生でも初めてだよ!?!?」

 

 留学に向かうのは四人。その中に、蒼穹の瞳をキラッキラとさせたルルアが含まれていることは言うに及ばない。

 あとはレッシュ、そしてなぜかカスねぇ。師匠の選抜基準が分からない。

 

「僕も声は掛けてもらったんだけどね、まだ身体に慣れなくて、暫くは療養しておくよ」

 

 と語るのは、虚ろな左眼を前髪で隠す我が友シリウスである。

 カスねぇはその代打なのだろうか。あのドラ猫は決してこの街から脱出させてはいけない危険生物だと思うのだが。

 

 そんなこんなで出発当日。オレは馬車に荷物を積み、準備完了。

 要塞都市に聳える重厚なクソデカギルドを今一度見上げていると、お見送りにやって来た師匠が微笑む。

 

「キミも寂しくなるかい?」

「……まぁ」

 

 なーんて言うと思ったか? 

 

 やっと魔女の支配下から逃げられるんだぞ! へっ、もう二度と帰ってこないからな!!

 

 と、オレは散々師匠を煽り散らかしたのだが。

 

「……あぁ」

 

 いつもの反撃が来ない。師匠は遠い目をするばかりだ。

……なんだよ。調子狂うじゃないか。いつものようにオレに愛の鞭を打ち付けてくれよ。

 

 なんだかんだと言って、弟子離れも師匠離れもできない情けない師弟である。

 

「師匠。しばらく行ってきます」

「元気にやるんだよ、バカ弟子。あんまり人に迷惑をかけてはいけないからね」

「それは隣の青い悪魔に言ってくれ」

「うぇっ」

 

 突然のパスにビクッと震える幼馴染。意味が分からない。ナチュラル煽りモンスターのお前が一番気を付けるべきことだろ。

 

 師匠に大きく手を振られて、いよいよ出発。

 名残惜しそうに師匠へ手を振り返すルルア。腕を組んで目を瞑るレッシュ。カスねぇは聖都までギルドの書庫から魔導書を借りパクしてきたようで、絶賛お勉強中。

 

 そして、実際に馬を動かすのは。

 

「聖都までは私がお供いたしますので、ご心配なく」

「あっ、オボロさん」

 

 たまーにギルド長室で見かける、枯れ木の介護人こと秘書さんである。

 

 ハッ、オレが運転手として汗水垂らすと思ったか? 残念だったな!

 秘書さんの魔馬を操る技術は凄まじく、要塞都市の威容は既に街道の彼方へ潰れて見えなくなった。

 

 右手に広がるローリエ大森林を眺めていると、ふと、眼鏡な秘書さんは呟く。

 

「シアン様と共に居られるギルド長は、驚くほどに自然体です」

「オレをボコす姿が自然体なら、それはそれで問題があると思うんだが……」

 

 思わず零れ落ちたオレの心の声に、しかし秘書さんは表情を崩すことなく続ける。

 

「ギルド長はその経歴とお立場のため、神格化されがちな人物のお一人。中々どうして気を緩める時間がないのも事実」

 

「多くは語っておられませんが、ギルド長はシアン様を大切に思われています。どうかそれだけは、お忘れになられないでください」

 

 なーんて、ちょっと小恥ずかしいエピソードを聞かされているうちに、聖都到着。

 

 

 とはいかない。

 

 

 当たり前だ。

 魔馬を使っているとはいえ、大陸最西部の街から大陸中央への大移動だぞ。

 大陸西部の冷たい環境を突き抜け、中央寄りの砂漠の灼熱地獄に呑み込まれ、そして長い洞窟を潜り抜け。

 そこまでしてようやく、聖都を拝めるのである。

 

「長く険しい道中だった」 

 

 具体的には、カスねぇが路銀を使い込んだせいで現地調達が必要になったり、ルルアの誕生日に大盗賊と一戦交える必要があったり。

 或いは貴族なレッシュのご実家に立ち寄り冷戦を繰り広げたり……本当に、汗水ばかりを垂らした二か月程度だった。

 

 だったのだが。

 

「話の本筋とは関係がないので、すべて割愛させていただく」

 

「……なんで!? ボクとシアンで積み上げた甘酸っぱい時間は!?!?」

「そんなん人様に見せられると思ってんのか」

 

 恥ずかしいから嫌に決まってんだろ。オレとお前だけの大切な思い出だぜ。

 

 そういうわけで時は進み、魔女の支配下を発って約二か月。

 肌を撫でる空気は柔らかく、草花の艶やかな香りが鼻を突き抜ける。

 四季の移ろいが明確な大陸中央は、春。大草原に広がる緑は桃色の雑草一色に覆われて、どこか幻想的である。

 

 そんな麗らかな日差しの中を、お馬さんはパッカパッカと歩く。

 

 目指すは──大草原を霞む巨大な外壁。水堀を渡る架け橋。そこには、馬車の大行列が巨大な正門の前に並んでいる。

 

 見上げれば、遥か高い外壁を超える形で、幾つもの尖塔が霞み空を貫くその姿は。

 

「シアン様。到着にございます」

 

 世界の中心、聖都の荘厳な佇まいだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 鐘音と共に大正門を潜ると、そこは、古都だった。

 

「わぁ……!」

 

 圧巻の街風景。ネオ・フロンティアが田舎に思えるほどの──人。人。人。

 どこか古めかしく厳かな建造物が立ち並ぶ中、人声は溢れんばかり流れゆく。その人間の活力に満ちた街並みは、まさしく大陸の中心地と呼ぶにふさわしい聖都の姿である。

 

 なんだか妙に身体が怠いというか調子が上がらないんだが……街が薄い聖力に囲まれているせいだろうか。

 

「ここは相変わらずだな」

「レッシュくんは来たことあるの?」

「あぁ。学院には知り合いもそれなりにいる」

「では、また半年後にお迎えに上がりますので」

 

 秘書さんはスッと頭を下げて、人混みの中へと消えていく。

 

 帰ったら、痴呆の枯れ木がした要らん契約の処理を頼むぞ……。

 秘書さんの背中を見送っていると、いつの間にか聖都の人混みに紛れて通貨を拾い集めていたドラ猫が、オレの両肩を叩いた。

 

「少年、都会は危険だからね。ちゃんとお姉さんに付いてくるんだよっ」

 

 訪れる街々でトラブルをひっしょげるカスねぇにだけは心配されたくない。

 

「その手に持ってる黒い本はなんですか」

「これ? 最近聖都で流行っている異教だって。路地裏に入ったらタダで貰えたよ」

 

 ほれ見ろ。

 メルリア様を崇める女神教の総本山で異教を流布するなんて、ぜぇぇぇっっったいに関わったら面倒くさいことになる予感しかしない連中とのパイプを聖都到着数分で生み出すカスねぇである。

 

 餌付けでもされたのか串肉を咥えたカスねぇはご機嫌そのもので、その上、()()()()()()()()()()()()()()()のだから困る。

 

「あっ! ひったくりなんてダメっ!!」

「な、なんだガキ!!」

「……レッシュ。どうにかしてくれ」

「……俺は知らん」

 

 やってることは正しいんだがな。キャパオーバーだ。

 助けを求めるも、レッシュは遠くを見つめるばかりで何もしてくれなかった。

 

 そういうわけで、オレはこの中でアホ共の引率員ポジションなのである。目を離した隙に迷子にならないようしっかり三人を見張って石造りの道を歩けば──クソデカギルド。いや違う。レンガ造りの校舎か。

 

 正門の奥には、青年を模った大きな石像が建っている。

 

「わっ! ホントに初代勇者の石像あるんだ!! 近くで見よ見よっ!!」

「落ち着きなさい」

 

 勇者オタクは感極まったらしく、学院の門を越えて不法侵入しようとするのをなんとか首根っこを掴んで阻止していると。

 

 野太い声が響くと同時に、校門が魔法で開け放たれた。

 

「待ちかねていたぞ、『英雄の守り人』の留学生たちよ」

 

 声の聞こえた方へ振り向く。

 でっぷり禿げ頭。うん。それ以上の感想が浮かばない。

 魔術師ローブですらそのふくよかな体型を隠しきれていない、太っちょなおじさんがそこにいる。

 

「私は、聖都勇者学院の校長ロザンだ。西の果てより遥々、よくぞ学院へ来てくれた」

 

 ジィッと細みを帯びる、脂肪に弛んだ瞼。

 ロザン校長は測るような眼差しを隠しもせずに、オレ達を順番に舐め回す。そして。

 

「西の果てには魔族が多いと聞くが……流石はティナ殿か。人選を分かっておられる」

 

 バカクソ差別発言を投下してくる。

 意外かもしれんが、大陸の西部以外はこんなもんだ。魔族は嫌われる。これは大陸の常識である。

 なにせ──女神教では、魔族とは魔王に近しい存在だとされているのだから。

 

 そういう事情もあって、ロザン校長は魔族要素なんていーっさいないオレ達に大変ご満足になられ。

 

「と……言いたいところだったが」

 

 ていないんだよなぁ()

 

 ロザン校長は──異質なオレの右眼を前に、眉間へ皺を寄せていた。

 

「そこの留学生は、もしや混ざり血か?」

「……」

 

 そうだね。オレは旅の中でも、このクソな右眼のせいでいらん喧嘩を買わされることは多々あったね。

 まぁ、オレは実質魔王なので人カスから嫌われるのは仕方のないことだと重々認識しているのだが、それはそれとして、オレのメンタルはクソ雑魚ナメクジなのですぐに傷ついてしまう。

 

 と言っても、オレの傍にはオレのことを受け入れてくれる人たちが居るので、それで良いのだが。

 

「シアンのことバカにしないでっ!!」

「お姉さんも気に食わないなぁ」

「爆裂するか」

 

 良いって言ってるだろ。安い喧嘩を買わないでくれ。

 

 なーんて風にオレ以外の三名はすぐカッチーンしてしまうせいで、この旅の中でオレが汗水を垂らしまくった回数は数知れない。

 つまりはこの状況に陥ったところで、どう転んでもオレの不幸は確定しており。

 

「──ははっ。ロザン先生、きれいな右眼じゃないですか」

 

 それは、とても爽やかな声だった。

 

 思わず顔を上げると、明らかに渋そうな顔をした校長。

 校長は背後を振り返り、脂にテカった唇を苦々しく震わせる。

 

「……ライトくんか。今は授業中のはずでは?」

「留学生をお迎えに上がらないなんて、それこそ在校生の名折れでは?」

 

 爽やかすぎる返し。

 そして、まさかの青い悪魔と同じ最強ムーヴ。

 オレは彼の繰り出すウィンクに一瞬にして心を射抜かれ、こくこくと頷いた。

 

「遅れて申し訳ないね。僕はライト。一応、この学院では首席でやらせてもらっているよ」

 

……なるほど。

 イケメン。性格神。実力もまた十分。

 

 これはアレだな。うん。アレだ。

 

 

 よし。もうお前が勇者やれ。

 

 

 




シリウス「おいおい、せっかくヒロインレースに食い込んだのに、僕の出番は無しかい? まさか、一人称と喋り方が新キャラと被っていて登場させにくいから、とかじゃないだろうね?」
筆者「ハ……ハハ……まっさか~!」

 ということで次回の更新は20日の土曜日朝九時。
 よろしくお願いします。

次回作について相談です。もしも次があるなら、どんなタイトルのお話が見たいですか?以下にタイトル(暫定)を置いておくので、良かったら投票してみてください。それとは別に、冬休みスペシャルで短編を一つ投稿しようと思います。そちらについては、またおしらせできればいいなと思っております。以上、よろしくです。

  • 廃品回収業者をしていた、勇者を回収した
  • 他人のイヤホン音漏れさせるだけの能力
  • 勇者さん、悪の組織を立ち上げる(笑)
  • 男女比1:9の世界における男の娘の希少性
  • タイムマシン作ったったwww
  • 主人公「TSは許さん。男の娘しか勝たん」
  • あなたの夢、食べます
  • キミと勇者の物語
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