未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない() 作:うずつるぎ
「師匠。学院になんて行ってオレは何をしたらいいんですか」
「それはもちろん、私の教育の素晴らしさを見せつけてくるんだよ」
「では、ついでに聖女様には師匠が拗らせ四代目であることを、」
というわけで、風魔法による暴力の支配により、泣く泣く留学先へ強襲させられ、一週間。
オレはこの学院のやり方にあらゆる方面にいちゃもんを付けるべく、目を光らせた結果──。
「これが……これが教育……!」
聖女様の光に浄化されたオレは、遂に、魔女の呪縛から完全に解き放たれたのだった。
何を隠そうこの学院、学院である。
何を言っているか分からないのならば、オレの候補生(笑)生活を思い出してほしい。
ランク戦。戦闘訓練。補講地獄。
「あんなん軍人の躾か何かだろ」
その点、聖都勇者学院は戦闘関連以外の座学や女神教を学ぶ授業なんかも充実している。
つまりは神だ。オレは聖都にて敬虔なる女神教徒としての道を進むべきなのだ。
そしてもう二度と、魔女による教育の名を騙った洗脳プログラムを受ける気はない。
「絶対にこの学院に転籍してやる」
「──魔法を行使するために必要な魔素は、世界のあらゆる場所に存在します。火の魔素、風の魔素、水の魔素などなど。これら属性魔素と魔力を融合し、魔法を構築するという話は──」
教室の机の下で固く拳を握りしめ、指示棒で黒板を叩く教師の話を聞く。
「──属性魔素は環境や気候によって分布割合を大きく変動します。例えば、湖であれば火の魔素が少なく水の魔素が多い、といったような話ですね。そこで疑問に上がるのは『魔素の変化性』でしょう。具体的に言えば……」
……うん。
「……平原で火の魔素を利用し炎魔法を使って草木を燃やした際に、気候条件では火の魔素の多い溶岩地帯と同様であると言うのに、なぜ周囲の魔素が火へ変化することがないのかという話ですが……こちらは。通説である『魔素変化内因性説』によると──」
頭が痛い。
学院の授業は学術的な側面が強い傾向にある。学院の敷地内に、魔法研究のための魔術の塔なんてものがあるのもその一因だろう。
「やっぱり故郷が恋しいよぉ……師匠助けて……!」
あまりにレベルの高い授業を前に、もう何か月も見ていない親鳥の姿を探してぐすぐす鼻を啜る雛鳥なオレである。
あり得ないほど難しい授業もいつの間にか終わり、お昼休み。世は購買の陣取り大合戦である。
「おい! お前ズルいぞッ!!」
「ハッ! 先に手を滑り込んだ方が偉いんだよッ!!」
「みなさーん! 魔法は極力使わずにきちんと並んでくださいねー!!」
この時ばかりは、品の良い学院生たちも校則違反スレスレで魔法を使用するはしゃぎっぷりだ。
魔法大戦に呑まれたオレは当然、魔力量ゴミカスなために蚊帳の外へ弾き出されるけどね。
「オレは留学生なんだから少しは配慮しろよな」
平和なお昼間から命を賭けたというのに手にしたのは売れ残りの固焼きパンぐらいなもので、やはり魔法の使えない世の中は理不尽である。
オレは昼食片手に教室へ舞い戻り、さて、ここは留学生として学院生との交流を。
図れない。
「……」
教室の扉の前に立つオレを見て、学院生はそっと、腫物を扱うように目を背ける。
原因は単純明快だ。オレの右眼だ。
向こうでは、風土的なモノと周りに恵まれたことで上手くやっていたが、魔族なんてほとんど居ない大陸中央ではこの有様である。
一応、オレもまだ人族の括りに片足は突っ込んでいると信じているんだがな。オレの稀有な見た目は、嫌な形で目立つのだ。
「……ぴえん」
今ならコミュ障幼馴染の気持ちが分かるぜ……。教室に輪があるのにぼっちとか、胸がキューってするね。道理でルルアは、昼休み毎にオレのところに来たわけだ。
オレも、プライドなんてかなぐり捨てて幼馴染の庇護下へ逃げ込みたいところではある。が、留学生はそれぞれ別なクラスへと配属。
そして、アイツらはアイツらなりに、教室に溶け込んでいるご様子。
「そんなところにオレが行っても……ねぇ?」
つまりはオレは、これより訓練室で一人飯をかき込み、五か月間限定の幽霊として学院七不思議と化す決意を固めたところ。
「やぁ、シアンくん。よかったら僕とお昼はどうかな?」
「おぉ、神はこんなところにいたのか」
「ははっ、大袈裟だね」
オレの右眼を気にせず接してくれる時点で、オレはその人のことが大好きだぞ。
教室の席をがっちゃんこして、爽やかスマイルなライトくんとお昼を食べる。周りの女子どもがハンカチを噛み締めているが、気にしない気にしない。
きみらは外から、教室に流れ込む微風に黄金色の髪を揺らして絵になるイケメンでも眺めていてくれ。
「留学して一週間か。どうだい、こっちの生活は慣れたかな?」
「それなりには。ライトから見りゃ、やっぱ学院の雰囲気も変わって見えるか?」
「それなりにね。ルルアちゃんはとても優秀だし」
「ライトも同じ領域にいると思うんだが……あっ、これで試してみるか」
オレが何気なくポケットから取り出したのは──かつて、魔法講義でなんの魔法も込められなかった魔石。
手のひらに乗せて差し出したソレに、ライトは金色の瞳を見開く。
「それ……魔石かい? しかも真っ新じゃないか」
「向こうじゃ魔石に魔法を込める講義で地獄を見せられた。オレはもう二度とあの地域に帰らない」
「驚いたな……講義でそんなことができるなんて。僕らからしたら羨ましい体験だよ」
ライトの驚愕はおべっかではない。
基本的に、魔石の原産地は魔山に限られる。そのうえ産出量も少ないため、存在自体が希少だ。大量購入するとなれば、街一つの財政が傾くほどには。
それをオレ達候補生が講義で使わせてもらえるのは、ひとえに、常識忘却男の娘系師匠のおかげである。
けれどオレは魔力量がゴミカスなのでその恩恵に与れず、こうしていつまでもポケットに眠らせていたのである。
「ライト。回復魔法でも込めてくれよ」
「いいのかい? そんな貴重な経験をさせてもらって」
受け取ったライトは淡い山吹色を丁寧に魔石へ練り込み、なるほど。
ルルアの作ったやつには一歩及ばないが、それでも高品質だ。そもそも魔石に魔法を込めること自体が難しいのだから、充分に恐ろしい才覚である。
「流石だな。ちょっとした小旅行と引き換えにできるぐらいの価値はあるぞ」
「おいおい、売らないでくれよ?」
「当たり前だろ。友情の証は然るべき時に使うさ」
有難くオレの生命維持に使わせてもらうぜ()
そんなこんなで、唯一のお友達なライトとのお昼ご飯を終え、午後の授業。
オレを含めた留学生は校長先生に呼び出され、特別な課外授業のお時間だ。
ロザン校長はオレ達を誘導するように校門を出て、聖都で一番背丈の高い建物を、青空に指差した。
「では、諸君、これより聖女様との謁見に向かうぞ」
♦♦♦
聖女とは──一体、何者なのか。
それは、世界の均衡を司る女神メルリア様の代行者だ。月の満ち欠けに合わせて行われる神託の儀により、女神メルリア様の御言葉を唯一聞くことが許される人間だ。
そして──聖女様というのは、血筋で決まるものではない。勇者同様、女神メルリア様の神託によって決定される。
そんなトンデモ事実が存在するのだから、世界は、聖女様に治められているのである。
「故にこそ、聖女様の御前で無礼は許されん。分かっているな?」
なーんて一般常識を、厭味ったらしく語るロザン校長。
カスねぇなんて飽き飽きしちゃって、小石を蹴飛ばしながら街を歩いている。
それがどっかの店の小瓶を叩き割って、下手な口笛を吹きながら誤魔化す始末である。
「……ウィッカさん」
「や、やだなぁ。詰まんない話をしているのが悪いんだよ」
まるで責任を背負う気のないカスねぇのカスっぷりにはもはや一周回って感心せざるを得ない。
鬼の形相で凄む校長にガミガミお説教を喰らっているカスねぇを横目に、街を歩く。古めかしい建造物で囲まれた通りを進めば──道が、一気に開けた。
白亜の噴水広場の静かな佇まいが、街の喧騒を外へ追いやっている。
その奥に拝むのは、壁面に刻まれた幾体もの彫刻。
窓枠に敷き詰められた繊細なステンドグラス。
湖畔の中央に揺蕩うは──城のごとく聳え立つ、荘厳なる大聖堂だ。
「デカいな……」
「おっきぃね……」
オレとルルアは田舎者丸出しで空をも貫く尖塔を見上げた。
湖畔にかかった石造りの橋を渡り、重々しい門扉を守る兵から身体検査を受ける。
そこまでしてようやく、大聖堂への入場許可が下りた。門扉を潜れば、まずオレ達を出迎えるは落ち着いた大庭園である。
そこには、神父やらシスターやら、熱心な女神教徒と思しき誰彼が静かに行き交っている。
オレ達は衛兵に前後を囲まれながら赤いカーペットを歩き、大聖堂の広間に到着。
その中央から遥か天井へと続く螺旋階段前で、衛兵は立ち止まった。
「聖女様との謁見は、お一人ずつとなります」
ならばオレから行こう。
螺旋階段に足音を鳴らす。色とりどりの日差しが、ステンドグラスから差し込んでオレの身体を照らす。そしてたどり着いた中階には、大きな扉が、待ち構えていた。
そこに鎧姿のイケメン騎士なライトくんを添えて。
「やぁ、さっきぶりだね。シアンくん」
……なにゆえこんなところに?
「僕は聖女様の警護兵をしていたりもするんだよ」
「優秀過ぎる」
やっぱりコイツが勇者やるべきだろ。
万が一がないように、謁見人の監視役として同行する騎士ライト様。
ゆっくりと、大扉が開かれる。そして完全に開け放たれた一室には。
大きなベッドがベールに隠された、静けさが広がっていた。
室内に人影はない。いや、違う。ベランダだ。
白亜のテーブル席に座った薄青髪の淑女が、カップを華奢な指先に引っ掛けて、ベランダから湖畔の静かな佇まいを眺めている。
今にも消えそうな線の細い身体。
纏う真っ白な修道服。
そして、微風に揺れる水色の長髪。
まるで、この世とあの世の境目に立つような泡沫を纏うお方こそが──当代聖女様。
御年16歳。青い悪魔が二年後にここまで落ち着いているとは到底思えない。
ライトの隣で固まるオレを見て、聖女様は優しく、目じりを細めた。
「そう、緊張なさらなくて良いのですよ」
どうせならもっとお姉さんが良かったなぁ……。
オレは未来視によって楽して一獲千金に成功し、将来的には聖女様ににゃんにゃん飼われる猫となる予定なのだから。
部屋に戻ってきた聖女様はきょろりと目を丸め、やがて、微笑みの中で仄かに表情筋を引き攣らせた。
「……なるほど。あまり、緊張はされていないようですね」
なぜバレた。心を読まれたとでもいうのか。正確に言うと、オレのお気持ちが表情に出ていただけなのだろうが。
こほんと、聖女様は御席に座り、咳を払う。
「細かいことは置いておきましょう。さて、あなたのことですが……」
いったい聖女様は、魔力量ゴミカスなオレにどんな助言をくれるというのか。
聖女様は万人の心を震わせるような微笑みで、ニコリとオレに言った。
「後も先も辛く険しい道のり。しかしメルリア様は、あなたを見守られていますよ」
「できれば、見守るだけじゃなくて手を貸してほしいんだが……」
思わず洩れた所感。具体的に言うと、ルルアを勇者候補から外したうえで魔王を消滅させてほしい。
はやくルルアとめちょめちょするだけの人生送らせてよ。
言っておくが、これが、汗水垂らしたくないオレの本音だからな。
けれど──本日、聖女様に伝えに来たのはそんなくだらないことではない。
聖女様はふと、ライトを含めた衛兵に視線を向ける。
「ライト。わたくしは彼と
衛兵たちがざわついた。
特例も特例のその発言に、ライトもまた、金色の瞳を大きく見開いた。
「せ、聖女様……? しかし、それでは万が一が……」
「構いません。メルリア様のお告げの通りです」
ピシャリと芯の強い一言。
ライトたちは動揺しながらも、聖女様のお部屋を発つ。
となれば聖女様と一般人が二人きりで、一体これからいったい何が起こるというのか。聖女様は優しい笑顔で、オレに言う。
「メルリア様から伺っていますよ。あなたから、大事なお話があるのだと」
おや、流石は女神様。気が利くご対応であられる。
オレは聖女様を正面に見据え、小さく頷く。
「それでは、聖女様のお耳を汚すようで申し訳ございませんが」
「構いませんよ。わたくしは、大抵のことでは驚きませんので」
おぉ、それは良かった。
じゃあいきなり結論からぶっぱしようか。
「聖女様、一週間後、
聖女様はひっくり返った。
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