未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第38話

 

 学院首席のイケメン優等生が、実は激ヤバ宗教に傾倒していた。

 

 初めに言っておくが、樹齢千年男の娘系師匠という存在が許されているように、多様性とは誰にでも認められるべきものだとオレは思う。

 

「……はっくしょん!」

「ギルド長。お風邪を引かれましたか?」

「いや。もしかすると、私の素晴らしい名声を誰かが噂してくれているのかな?」

 

 で、本題。

 目の当たりにした留学生は、一体どうすればいいのか。

 

「オレは何も見ていないぞ」

 

 そうだね。そっと冊子を閉じて、見なかったことにすればいいね。

 

「わざわざ生徒会の文書を運んでくれたのかい? 助かるよ」

「お、おおおう!!」

 

 状況が許すんならな()

 

 どこからともなく聞こえた爽やかな声。

 ビクリと背筋を伸ばして教室の出入り口を見ると、いつもの美麗な笑みを浮かべたライトがそこに居た。

 

 ぜぇぇぇっっったいに、オレが黒本を目の当たりにした瞬間を目撃されているはずである。

 なのにどうしてそんな笑顔なんだろうね? これもう気まずいって言葉じゃ片付けられん状況だぞ。

 オレは玩具の兵隊みたいなカチコチとした足取りで、教室の後ろ側の扉へ向かった。

 

「おいおい、そんなに怖がらなくてもいいじゃあないか」

 

 はずが、いつの間にか目の前にはライトが居た。

 

「ヒョッ!?!?」

 

 奇妙な声を発して飛び退く。

 その様子から分かるように、心臓はバックバク。勘弁してくれよ。オレを驚かすのは青い悪魔の「ばぁっ!!」だけにして欲しいもんだぜ。

 

「出会った時から思っていたんだ。シアンくんはきっと、興味を持ってもらえるってね」

 

 そう言ってライトは、徐に内ポケットから別の黒本を取り出した。ニコニコと爽やかに笑いながら、一歩ずつ近づいてくる。

 えぇいかくなる上は未来視を。なにッ!? どんな手を使ってもこの未来からは逃れられんだと!?!? このクソ能力が──。

 

 ポンと、軽く、しかし非常に重く叩かれる肩の感触。

 

「この後、集会があるんだけどね。良かったら一緒にどうかな?」

「……アッ、ウン」

 

 オレは危険な宗教勧誘に取り込まれた。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 その如何にも怪しい宗教の集会は、聖都の裏通り、それも地下酒場とかいう如何にも怪しい場所で繰り広げられていた。

 オレは青い魔法の光を囲みながら、げっそりとしたおじさんのお話を拝聴しているのである。

 

「つまるところ、『子は子らそれぞれに役目がある』という言葉は人の在り方を捻じ曲げているのです。我々は本来、役割になど支配されず自然体であるべき。つまり身分制を敷いた女神教は悪そのものなのです」

「「然り! 然り!! 然り!!!」」

 

 信徒たちは熱気を帯びた声を上げて頷く。その目に生気はない。なんか、あの青い炎に生命力吸われてたりしないだろうな……。

 

「オレはどうしてこんなところに来てしまったのか」

「シアンくん。今の世の中の理不尽さがほとほと分かるだろう? 身分制は悪なんだ」

 

 確かにこの世の中はクソだと思う。理不尽すぎるからな。

 それはそれとして、女神教に反発するとかこれもう明らかな邪教だろ。よもやコイツらがどうこうして聖女様を殺害するんじゃないだろうな。

 

 なーんて、オレは初めも警戒心をビンビンにして周囲の様子を伺っていたのだが。

 

「それでは……次は私の話ですが。今朝、宿屋の受付をしていると──」

 

 なんか……この集会、思っていたのと違う。

 具体的に言うと、身分制のせいでこんな割りを喰ってるんだよっていう報告会というか、愚痴の零し合いというか……。

 

「……うん。あんまり危険じゃないな」

「シアンくんも理解してくれたかい?」

 

 あぁ、理解した。

 密会場所とか、掟の書かれた黒本とか、要素要素でちょっとヤバい匂いを醸し出しているだけで、これはただの井戸端会議だったんだな。

 

「よし。それならオレも色々と理不尽エピソードを話してやろうじゃないか」

 

 樹齢千年の師匠に青い悪魔と、オレにはこの手の話は山ほどあるぞ。

 

「おっ、乗り気だね。思った通りだよ」

 

 さて、おーいアンタら! 今度はオレの話でも。

 

 と、声を上げたその時だ。

 輪の中心に立つおじさんが、くわっと瞳孔を見開いたのは。

 

「ラ、ライト様……!?」

 

 そして──一瞬の沈黙。

 やがて、信徒の誰かが、酷く震えた声で狼狽する。

 

「きょ、きょ教祖様! そんなところにおられ、」

 

 その動揺は瞬く間に周囲を伝播した。

 それは森のざわめきのように、次第に勢いを増して地下の酒場を溢れ返る。信徒たちは声を揃えて両手を挙げ、死んだ目を光らせる。

 

「「教祖様! 教祖様! 教祖様!」」

 

 それを一心に受け止めるは──間違いなく、隣に立つライトで。

 

「ははっ、みんなやめてくれよ。今日は新しい仲間を連れて来たんだ」

 

……やっぱり邪教かもしれん。やばい。早く逃げなきゃ。

 出口へ一歩踏み出したところで、屍のような信徒に絡めとられる全身。

 

 ライトは金色の瞳で、ニコリとオレを見つめる。

 

「それじゃあ、たっぷりと僕の話を聞いてくれるかい?」

 

……ウワァァア!!!! 師匠助けt。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「世の中はクソだ。身分制がすべての諸悪だ」

 

 だから、今の人類は滅びを迎えて、この作為的な支配から解放されなければならない。

 

 未来視とかいうクソ能力を手にして、早10年。

 オレは教祖様の素晴らしいお知恵を授かったことで、とうとう真理に至ったのだ。

 

「いいかルルア。今の世は腐っているんだ。だからお前は勇者なんてやるべきじゃなくて、オレとお前で世界の破滅を、」

「……またシアンが変なこと言ってる……」

「いつものことだな」

 

 ここは放課後の学院。

 オレはオレの幼馴染を光の道へ誘おうとしただけだと言うのに、レッシュとルルアからぞんざいな扱いを受けることとなった。

 おいおい。まるでオレが常時おかしなことを言っている奇人みたいじゃないか。

 

「え? そうだよ??」

 

 アホな幼馴染にすら頭おかしい枠として認識されている現状には涙を禁じ得ない。

 なるほど、オレに気狂いピエロを演じさせる世界はやはり滅ぶべきだな。

 青い悪魔にべそを掻かされたオレは精神安定を図るために黒本を取り出し、そこに書かれた十の掟をブツクサと唱えた。

 

「ふぅ」

 

 心が洗われたぜ。

 

「あれ? シアン今日はどっか行くの?」

「友達(宗教仲間)が出来たんでな」

 

 ハッ、ざまぁみやがれ! オレはお前と違ってコミュ障じゃないんだぞ!!

 と、オレは首を傾げたルルアへ勝利の冷笑を見せつけたつもりなのだが。

 

 なぜだか返ってきたのは、にぱぁっと、晴れ渡る笑みだった。

 

「良かった! シアン、こっちに来てから浮きっぱなしだったから心配だったの!!」

 ぬわーっ! 正義の光に身体が浄化されていく……!!

……ハッ。オレは今の今までなにを。

 あまりの眩しさにオレの頭を覆う洗脳は晴れ渡り、オレはオレを取り戻したのだった。

 

「助かった、ルルア」

「え? う、うん……?」

 

 正気となったオレは夕焼け空の聖都を歩き、大聖堂へと到着。

 それは、斜陽の残滓が教会の十字架に隠れ、魔物がひっそりと人を誑かしにくる逢魔が時だ。

 聖女様を襲おうとする魔王候補の影を見つけて、深々と嘆息する野太い声が聞こえた。

 

「……また貴様か」

 

 大聖堂を守る門番に証書を見せて中庭へと踏み入ったところ、校長でもあり司教でもあるロザンが嫌そうな顔を向けてくる。

 

「暇そうなので身体検査お願いします」

「……ふん。よりにもよってこんな奴を……聖女様も何を考えておられるのか……」

 

 やれやれ、嫌われたものである。

 まぁ、どこぞの馬の骨とも分からん奴が聖都へ来るや否や、女神様のお告げの威光で聖女様と二人きりだ。

 本来、聖女様は神聖なるお方。それをズカズカと立ち入る者がいりゃあ、敬虔なる女神教徒が嫉妬まがいの感情を抱くのも納得である。

 

 オレだって意味わからんポッと出の男にルルアを取られたら憤死するぞ。

 

 ルルアに聖女様と、まるで美少女のはしごだぜ。

 

「こんばんは、聖女様」

 

 扉を軽くノックして、お部屋へ立ち入る。

 

 今日も聖女様は豪華な椅子に座っておられる。

 上品に両手を下腹部に添えて、大きく開けた窓に、湖畔へ沈む斜陽を眺めている。

 

 

 その右手首から、湖畔へ滴る赤い夕陽のように、一筋の血を流しながら。

 

 

「聖女様。お怪我をされましたか」

「あぁ……シアンですか」

 

 誤って、果物ナイフで手を切ってしまったのだろうか。オレはポケットから黒いハンカチを取り出し、その細枝のような右手首を抑える。

 

 こーんな時に回復魔法でも使えればイケメンなのだが、オレは魔力量ゴミカスである。

 結局、聖女様は自ら回復魔法の山吹色の光で傷跡の多い手首を包み込み、事なきを得た。

 

「なにか、メルリア様からお告げはございましたか」

「いえ。シアンはどうですか」

「核心めいたことは、なにも」

 

 ただし。

 

「一つ、気になる情報を掴みはしましたけどね」

 

 オレは右手に握った黒いハンカチを、ひらひらと微風に揺らがせた。

 

「『世界を平等にするの会』というものをご存じですか?」

 

 ピクリと、触れると壊れそうなほどに細い肩が震えた。

 聖女様は一瞬の間を置いて、首を横に振る

 

「……いいえ」

「そうですか。聖都に息を潜める邪教です。身分制を嫌っているようで、その発起人は……ライトでした」

「ライトが、ですか……」

 

 まぁなんだかんだと言って彼らが暴走することはないだろう。アイツは良い奴だからな。聖女様へ破れかぶれの特攻を仕掛けたりはしないさ。

 けれど、気になることが一点。

 

「聞くところによると、聖女様とライトは幼馴染なんですね。なにか、聞いていたりはしないですか?」

 

 聖女様は薄水色の瞳を豪華な絨毯床へと逸らし、小さく呟いた。

 

「ライトは……わたくしの為に……いえ」

 

 口を噤んだ聖女様は、やがて、黄昏に藍色の空の眺めて、しっとりとした唇から吐息を洩らす。

 

「どうして、聖女なんて役割が存在するのでしょうね」

「世界が必要としているからじゃないでしょうか」

「世界のためという大義があれば、人はどうあっても良いのでしょうか」

 

 聖女様はぐっと、華奢な手を丸めて拳を作る。

 

 難しい問題だ。

 例えば、オレは勇者が魔王に敗北する未来をなんとかしようとしている。

 それは確かに、世界のために繋がる行動かもしれない。しかし、オレはそんな大義のために身を粉にしているわけではない。

 

 普通に好きな女の子が死ぬとか嫌だろ。

 

 要は、世界とかあくまで副次的なものであって、オレはオレの目的のためだけに汗水を垂らしているのである。

 

「世界なんて、大切なものを救うついでに拾う程度のモノだと思いますよ」

 

「オレは、オレの救いたい人のために、役割を遂行するだけです」

 

 クソほど自己中人間の爆誕である。

 

 魔王候補に相応しいクソ発言を真顔で決めるものだから、聖女様は呆れを通り越して嘆息されてしまった。

 水色の長髪を揺らし、聖女様は湖畔を拝む。

 わずかに湖畔を映るようになった月明かりを浴びて、弱弱しく微笑む。

 

「あなたは……お強いですね」

「まさか」

 

 オレとか世界でも下から順番に数えた方が早い魔力量ゴミカススライムだぞ。そのうえ精神面まで脆くて、ヤなことがあったらすーぐ師匠にギャン泣きで助けを求める所存だからな。

 聖女様の勿体なすぎるお言葉に笑って首を横に振る。

 

 聖女様は薄暗がりのお部屋の中で、ポツリと零した。

 

「──宣託の儀。三日後に控える、祈りの儀式です」

 

「わたくしが死ぬとすれば、その時でしょう」

 

 

 ♦♦♦

 

 

 なぜだか聖女様はいつも情報を出し渋りがちだ。

 

 もしや、オレが謁見初日に回りくどい言い方で殺人予告をしたことを根に持っているだろうか。

 心当たりがあるならもっと早く教えて欲しいもんだぜ。準備期間が三日は少なすぎるぞ。

 

 あの人は生きる気があるんだろうか。

 

「シアン殿はいかが思われますかな?」

「いや勇者とかマジでクソだと思います。今すぐこの世から存在しなくなればいいのにアレの存在のせいでオレはどれだけの汗水を──」

「流石ですな。その憎悪、新入りとは思えませぬ」

 

 今宵も密会においてブツクサ呟くオレである。初めは情報収集のためだけに潜り込んだのだが、いつの間にかズブズブと嵌ってしまった。

 

『先生』の洗脳から逃げ出したと思ったら、今度は魔女に洗脳され。そして聖都に逃げ込んだというのに、またもライト様に洗脳され。

 自慢じゃないが、オレは洗脳されることに定評のある寝取られ属性持ちだ。

 

「やぁ、シアンくん」

「ハッ、教祖様」

 

 我が主に声を掛けられて、すぐさま跪く。

 ちょちょんと肩を叩かれた。個室に来いとのことだ。何の話だろう。

 地下酒場の個室席に座ると、向かい合うライトは爽やかに笑う。

 

「シアンくんは本当に熱心に取り組んでくれているね」

「まぁ」

「そんな君に、一つ、お仕事があるんだ」

「布教活動か?」

 

 ライトはニコニコと美麗な笑顔で、制服の下から一本の短剣を取り出した。

 

「明日──僕と一緒に、聖女様を暗殺しよう」

 

……ダメだこの組織。今すぐ壊さなきゃ(使命)。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで迎えた、宣託の儀の当日。

 

 それは月が完全な円を描き、大陸に最接近する日だ。

 白い月光は大聖堂の尖塔にちょうど重なり、煌々と、湖畔を照らし上げる。

 春の仄かに冷たい夜風が、聖女様のお部屋を撫で抜けていく。

 

 今宵は、聖女様がメルリア様と深く交わる日。

 故に、警護の兵すら一室に立ち入れない。聖女様の部屋の扉の守りを任されたライトを除き、近くに、他人の目はない。

 

「……ようやくだ」

 

 だから、ライトはそっと聖域に踏み入る。

 

 目的は、聖女様を殺すこと。

 手段は簡単だ。まず聖女様は、オレが振るった昏睡毒付き短剣に倒れる。ライトはそこへ止めを刺す。

 

 淡い月光に照らされ、寝具を覆う神秘のベールは夜風に揺らぐ。ベッドに祈りの姿勢のまま眠るその人影へと、ライトは近づいていく。

 

「これで……救われるよ」

 

 そしてライトは右手に携えた直剣を振り被り、ベッドのレースを勢い良く剥がして。

 

「よぉ、ライト。今日は月が綺麗だな」

「……ッ!?!?」

 

 残念だったな。ベッドに居るのは、カツラを被った身代わりのオレだぜ。

 

 

 




 ということでシアンくんからのクリスマスプレゼント(ドッキリ)です。

 次回の更新は27日の土曜日朝九時頃。
 よろしくお願いします。
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