未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第44話

 

 死の大地に取り残された廃村が、時の重圧に沈んでいる。

 

 畑は荒れ、家屋の骨組みは壊れ、人の声は聞こえず。

 そこがもはや生きた村ではないことは、遠目に眺めるオレ達にさえ、すぐに分かる。

 

 まるで荒野に浮かぶ幻のような廃村の姿に、魔王城を目指す人影は、ピタリと立ち止まった。

 

「……村?」

「開拓村だったんじゃないかな。こんなところにあるのを見るに」

 

 開拓村。

 

 それは、迫害を受けたり、異教を信仰したり、或いは罪を犯して街に居られなくなったり。

 そういった事情のあって世間と迎合できなかった者達が生きるための、最後の拠り所である。

 

 そんな場所が無法地帯であることは言わずもがなだ。

 どんな蛮族が隠れているか分かったものではないので、サッサと移動を。

 

「……もうすぐ陽が暮れる。気味は悪いが、ここで野営するぞ」

「うそだよな……?」

 

 このオレに地獄のような記憶を掘り起こせと言うのか。

 思わず絶望の眼差しをレッシュへ向ける。

 が、遮蔽物もない荒野で夜を明かすのと比べて、廃屋で身を休める方が楽であることは確実であり。

 

「うーん。正論パンチ」

 

 つまりはオレは、久しぶりに真なる故郷へ帰らねばならぬのだった。

 

「みんな、気を付けてよ。野盗が潜んでいるかもしれ、」

 

 表情を張り詰めるカスねぇへ割り入る言葉。

 

「安心しろ。もう、ここには誰もいない……誰もな」

「……少年?」

 

 オレはそっと、壊れた村へと踏み入った。

 

 所々に爆発跡を残して、静まり返る村の光景。かつてオレが実験施設から逃げ出した頃と、まるで変わった様子がない。

 家屋の壁をよく見ると、風魔法で切り裂いた跡や氷魔法で貫いた跡なんかも見受けられる。

 

「……シリウスがやったのだろうか」

 

 同じく先代魔王の残滓を埋め込まれたはずなのに、アイツが魔法を使える原理が読めない。

 もうこうなってくると、オレが魔法を使えないのは、魔王の依代とか関係なくフツーに世界から嫌われてるからなのかもしれない。

 

「だとしたら世界が理不尽すぎて涙を禁じ得ないんだが」

 

 なーんて余裕を演じながら、オレはコソッと、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……人骨か」

 

 クソッ、気が付かれたか!

 レッシュの重々しい言葉に反応して、ルルアは蒼穹の瞳に、白骨化した頭蓋を映し出す。

 

 そして。

 

「……殺されたのかな」

 

 

 まつ毛を伏せて呟くその一言が、酷く、胸に痛かった。

 

 

「……」

 

……なんでだ。オレは生きるためにやったんだ。間違ってないだろ。

 気負う必要はない。ズキズキと苦しい心へ免罪符のように繰り返し唱える。

 なのに──脳裏にはあの日の村人達の怨嗟が過って、思わず足が止まる。

 

 それはまるで、オレの殺した村人の亡霊が、廃屋の影からオレの足を掴みかかったように。

 

……しかし足が動かないな。なんだ? 何かに引っかかりでもしたか? 

 オレは何気なく、オレの右脚へ視線を落として。

 

許縺輔縺ェ薙?

 

 オレの脚にしがみつく、腐った瞳をしたキメラの赤子を見た。

 

「──ッ!?!?」

「少年!!」

 

 今にもオレの足へ齧りつかんとするキメラ。足をぶん回して振り払い、そのまま宙に浮いたキメラの首へ魔力の刃。

 

「よし」

 

 これで脅威は去ったな。

 と思ったのだが、今度は、人族程度の背丈のキメラが廃屋の垣根を分けて登場する。

 

「わっ……!」

 

 オレの幼馴染を驚かすなんてやるじゃないか。

 キメラはドッキリ大成功の看板を廃屋から取り出そうとしていたのだが、その前に、ルルアの炎魔法でボッと消滅してしまった。

 

 なんて恐ろしい奴なんだ……。

 血も涙もない一撃に唖然と口を開いていると、レッシュは残った胴体を見て、険しく眉間へ皺を寄せる。

 

「これは……」

「ローリエ大森林の……だよね」

 

 その言葉が合図となったように──四方から迫り来るキメラの影。

 

「みんな! まだ来るよ!!」

 

 カスねぇがキメラを蹴り飛ばすと同時に、闘いは始まった。

 けれどもローリエ大森林で出会ったキメラと違い、強さはそれほどまで。オレは魔力量ゴミカスだが、他の三人が優秀なのでよゆーの対処である。

 

 いや、そんなことより。

 

「……」

 

 ここにキメラが複数体いるということは……()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ルルアッ!!」

 

 予感があった。

 

 だからオレはキメラを蹴飛ばし、バッと振り向いて幼馴染の名を叫ぶ。キメラ相手に剣を美麗に振るう華奢な背中が、そこにある。

 そしてオマケとばかりに、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……チッ!」

 

 こんなことなら最初から未来視を使っておけば良かった。

 オレは魔力の弾丸を右手から撃ち放ち──間一髪、揺らいだ空間から伸びた錆びた刃をへし折る。

 

 その音で、背後の異変に気が付いたのだろう。

 ルルアは大きくこちらへ跳ね飛び、空間のひずみから距離を取った。

 

 ぬっと──『先生』は妖艶な身を捩って、闇の渦巻きから姿を現す。

 

「──あらあら? どうしていつも私の邪魔をするのかしら?」

「『絶空』……ッ!!」

 

 ルルアが吐いたとは思えんほどに鋭い声である。カスねぇとレッシュは周囲のキメラを一掃し、こちらへ向き直る。

 

『先生』は紫色の手先で口元を隠し、いつもの余裕な佇まいだ。

 が、その全身は傷だらけ。師匠に斬り刻まれただろう身体の負傷は、完全には癒えていない。

 

『先生』は爬虫類のような瞳に、ルルアを映し出す。

 

「どうしてそんな怖い顔をしているのかしら? 四代目を瀕死にしたのは魔王様なのに」

「シリウスちゃんはそんなことしないもん……っ! おまえが誑かしてるんだっ!!」

 

 クスクスと、人の精神を逆撫でる嘲笑。

 

「アレはあの子の意志よ。だってあの子は──」

 

『先生』の嫌な眼差しはオレを映して。

 

「──どうしても、許したくないみたいだもの」

「……」

 

 どうやらシリウスは、一人実験施設から逃げ切ったオレを相当に恨んでいるようだ。

 

 もはやオレは実験施設から逃げ出さず、一人寂しく魔王にでも成り果てていた方が幸せな人は多かったんじゃないだろうか。

 ふと心を過った弱気を目敏く見抜いたかのように、『先生』はゆらゆらと、オレに手招きをする。

 

「さぁ、愛しい愛しい私の子、こちらへ帰っていらっしゃい?」

「……子? シアン……?」

 

 不安そうに、蒼穹の瞳が横からオレを覗く。

 まずい。これ以上ルルアに妙な情報を与えるわけにはいかない。『先生』は口元を危険に歪め。

 

「そうよ。この子は私の──」

「黙れよ」

 

 オレはその唇が動き終える前に、音速の拳を叩き込んだ。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 空気を破裂するような一撃が、『先生』の頬を抉り込んで、周囲に重々しい衝撃波を吹き荒れている。

 なーんてことはなく、オレの拳に伝わったのは、ぼすんと、スライムでも殴ったような感触である。

 

「……ッ!?」

 

 想定外の事象に、自分の手元へ視線を落とす。

 オレの拳は紫色の肌に届くことはなく、濃密な魔力の膜によって阻まれている。

 

 甘くオレの耳元へ囁く『先生』。

 

「まだまだねぇ?」

「……クソがッ!」

 

 師匠に散々傷を負わされているというのに、まだ、オレ一人では相手にならない次元にいるとでも言うのか。

 

「そんなに勇者ちゃんが大切なのかしら?」

「当たり前だが」

 

 オレはクソデカ感情を抱かされたあまり、ルルアが生存の未来のためだけにこんなところまで来る異常者だぞ!

 幼馴染の死を回避するまであと一歩なんだ。こんなところで──ルルアに不信を抱かれるわけには、いかないのだ。

 

「師匠のおかげで深手を負っている! 一気に畳み掛けるぞッ!!」

「う……うんっ!」

 

 と、オレは声を張り上げたのだが──当然、始まった戦闘にオレが付け入る余地はない。

 未来視とかいうカス能力しか持たないクソ雑魚ナメクジなオレは当然、未来視を使った司令塔になるのだ。

 時折、申し訳程度に魔力の弾丸を撃ち放つも、『先生』からは見向きもされずに跳ね返される始末である。

 

 もう街に帰ろうかな。

 

「いけるよ、少年! その調子でお姉さんたちの支援を頼むよッ!!」

 

 未来視の不正指示によって、三人は的確に『先生』へ攻め入っている。そして遂には魔力の膜を食い破って、『先生』の腹に一撃をぶち込む。

 

「く……ふ……!」

 

 うっすらと血を吐く『先生』。

 

 勝ったな! ガハハハッ!!

 と、勝利を大宣言をしたいところではあるが──残念かな。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……フフッ。流石は勇者御一行様ね」

 

 不穏な笑みを残して、『先生』は、闇の渦巻きへ消えた。

 

「気を付けろッ! あちこちから飛び出してくるぞ!!」

 

 そこからは一方的だった。

 

 レッシュが肩から血を弾けた。カスねぇが脚を斬られた。ルルアの頬に血が流れた。

 その癖、闇の渦巻きから出たり消えたりな『先生』には、一切の打撃も斬撃も魔法も当たらなかった。

 

「ど、どうしよ……」

 

 魔法で自己回復とかいうチートのおかげでなんとか無事だが、三人の息遣いは荒い。徐々に劣勢へと押し込まれている。

 そしてなぜだかオレには一切攻撃の手が飛んで来ず、この後の展開が不謹慎すぎてもう嫌になってしまう。

 

「……チッ。これでは魔法も当たらんな」

「このままだとジリ貧だね。せめて、『絶空』の出てくる位置さえ絞れればいいんだけど」

 

 未来視に頼ろうとも、『先生』が闇の渦巻きから現れる場面は瞬間的にしか映らない。2秒前の告知では、なかなかどうしてカスねぇ達も躱すので精いっぱいなのだ。

 

 姿を隠した『先生』の妖しい笑い声だけが、寂しい廃村を響めく。

 

「フフッ……フフフ……この場でお仲間一人ぐらいは──」

 

 と、その時である。

 

「──分かった!!

 

 クソデカボイスが、行き詰まりの壁をぶち壊した。

 

「みんな! よく見ててっ!!」

 

 オレは言われるまでもなく常日頃からお前ばかりに見惚れているんだが。

 

 ふぉんと、ルルアを中心に白の光が溢れる。

 その眩い光は、世界を覆うように周囲を発散していく。……やべっ。このままだとオレの中の魔王が浄化され──。

 

「……ッ! これは──」

 

 あまりの眩しさに腕で目元を覆うレッシュも、その意味に気が付いたようだ。

 ルルアは迸る聖力で周囲を覆い尽くすことで──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ま……まさか!」

 

 慌てたように闇のひずみから姿を現す『先生』。

 

 そうだ。これは、聖力の影響による魔瘴とのぶつかり合いだ。

 そしてそれを利用した、強制的な位置の特定だ。

 

「そこだぁぁっっ!!」

 

 ルルアにしては頭を使った戦法に──剣閃が、『先生』の肉体を貫いた。

 

「く……ふ……!」

 

 聖力を纏った一撃を諸に喰らった『先生』は、がくりと、その場に膝を突いた。

 

「流石は……勇者一行と、褒めるべきかしら……」 

 

 顎から汗を滴りながら、息を切らしてオレ達を見上げる『先生』。

 ダメージは大きいらしい。オレは直接的な戦闘においてまるで役に立っていないという悲しき事実は無視するものとする。

 

 カスねぇは油断なく、膝を突いた『先生』へと近づく。

 

「その傷でここに出てくるなんて、お姉さんたちのことを舐め過ぎたみたいだね」

「そうかも、しれないわね……」

 

 答える『先生』の声は、依然、余裕に溢れている。

 

 そしてオレは──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『先生』は顔を伏せたまま──ニヤリと、邪悪に口元を歪めた。

 

「で~も♪」

 

『先生』の足元に闇の渦巻きが生まれる。と同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。気が付いているのはオレだけだ。

 

 もちろんオレは、それを拒むつもりはない。

 

「初めから目的は」

 

 いいぜ。

 ルルアに妙なことを暴露されても面倒だ。タイマンがお望みなら、誠に嫌だが付きやってやんよ。

 

「その──右眼だけよ♪」

 

 オレと『先生』の視線が交錯した瞬間、ばくりと、闇の世界が視界を呑み込んだ。

 

 

 




 次回の更新は1月10日の土曜日です。
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