未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()   作:うずつるぎ

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第49話

 

 心臓に穴を空いた幼馴染が、ドサリと、王の間に崩れ落ちる。

 

 いっそのことうるさいまでの静寂が、周囲を凍り付いた。

 気が付くと、オレは床に両膝を突いていた。

 

「…………るる、あ…………?」

 

 声が細く震える。

 

 もう動かない幼馴染の姿。

 虚ろに天井を見上げる、拡散した蒼穹の瞳。

 縋るように触れた真っ白な頬は、温もりの残滓だけを、オレの指先に伝えた。

 

「……」

 

……なるほどな。

 オレはそっと、ルルアの頬から指先を離す。

 

 ここまで来ちまったら、やれやれ。オレも認めざるを得ないぜ。これはアレだ……うん。死んだ。完膚なきにまで死んだぞ。()()()()()()()()()()()()

 

 オレはそのことを、心の奥底で理解し。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残ったのは発狂だった。

 

 

 それしかなかった。

 

 

 なんで……なんでなんで分からなかった! コイツがオレの身代わりになるだろうことぐらい!!

 あぁ。そうだな。ルルアはオレのことを嫌いになったんだ。だからそんなことはしないだろうと無意識に思ったさ!

 それに、コイツが土壇場で三秒の未来視を超える動きをするなんてオレも予想できなかったんだ!!

 

 

 ンなこと関係ねェんだよボケカスがッッッッ!!!!

 

 理性なき獣が吠え上げる。両手で頭皮を握り込み、爪を立てて髪の毛を引き千切る。血が滲もうと構わず強く掻き毟る。

 

「しょ、少年! 撤退戦だよ!! もう退かないと!!!!」

「……クソッ! クルークハイト!! アイツはもう駄目だ!! 全滅は不味い、俺達だけでも──」

 

 拳の形が抉れようとひたすらに床を殴り続ける。

 魔王は恍惚と頬を歪ませ、長い爪先にオレの右眼を指差す。

 

「未来視を使ってもこの程度。やはり、所詮は()()()にすぎぬな」

 

 その一言で、ようやくオレは思い至る。

 

…………あぁ、そうか。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ッ!!!!」

 

 赤黒く染まる視界。自ら突き立てた魔力の刃を消失したくなる。

 が、オレは喉奥から溢れる痛苦の喘ぎを噛み殺し、右眼を抉り潰すように刃を掻き立てる。

 

 だって──()()()()()()()()()()()()()()()

 

「き……貴様! まさか!!」

 

 こんなものに頼ったから、現在(いま)が見えなくなった。いつもそのせいで足元を掬われてきた癖に、オレはなおも未来を見続けた。

 甘えていたんだ。この右眼がクソで、魔王の邪悪なモノであることを見て見ぬ振りして。

 

 だからこの結末。何から何までオレの弱さの招いた結果。

 ならばこんな右眼は捨ててしまえば良い。

 

「貴様ァ……俺の目玉を……!!」

 

 右も左も赤くて暗くて、もう、何も見えない。

 

 両目を盲したことで聴覚が過敏になったのか、激情する魔王の低声が良く聞こえる。魔王が怒りのままに右拳を振り下ろす様子が()()()()()

 オレは徐に顔面へと迫る拳へ左手のひらをかざして。

 

 パシンと、魔王の一撃を確かに受け止める。

 

「な、に……?」

 

 あぁ……そういうことかよ。オレは固まる魔王の拳を軽々と握り込んだまま、舌を鳴らす。

 

「……クソ」

 

 身体から、溢れる。

 抑えきれぬ悪態が。

 そして──これまでずっと、身体の中で小さく丸まっていた温かい感触が。

 

 

 それは魔力だ。湯水のごとく沸き立つ、オレの魔力なのだ。

 

 

 今なら、大気に満ちる色とりどりの魔素を肌で感じる。魔力を伸ばせば、そこに居る生物の放つ魔力の輪郭を捉えられることができる。

 だから、どこに何があるのか、視覚に頼らずとも、よく見える。

 

「……クソ!」

 

 全身が震えるような苛立ちを抑えられない。オレが右腕を振るえば、それだけで以前はどれだけ訓練しても出来なかった風魔法が暴風を吹き荒れた。

 

「クソがッ!!」

 

 血を吐きながら叫ぶ声と同時に、今度は大氷塊を魔王へとぶちかました。雷撃を降り落とした。魔力の弾丸を無限のように撃ち放った。

 魔王は両腕を重ねて一撃一撃を耐え忍び、少しは遊びがいのある虫けらを見つけたように獰猛に嗤った。

 

「クソッ! クソッ!! クソッッ!!!!」

「ほぉ。我が器に選ばれるだけのことはあるらしい、見事な魔力量だな」

 

 ずっと、ずっとずっとオレは間違っていたんだ。

 オレが器として機能したのは、魔王復活の為にコイツへ魔力を食わせていたからなのだ。

 

 だから、シリウスは自ら左眼を抉り取ることで魔法を使えるようになった。なのに、オレはいつまでも右眼に甘え散らかして、遂にはルルアを死なせ──クソッ! クソッ!! クソッ!!!!

 

 オレの八つ当たりを、魔王は大魔法に相殺しながら不敵に笑う。

 

「だが──それだけでは、我には勝てんぞ?」

 

 勘違いするなよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 オレは膨大な魔力のままに、魔力の牢獄へオレと魔王を封じ込める。そして──己の中にある膨大な魔力を、体内の一点に凝縮する。

 

 それはまるで星の終わりを示すような、眩い光だ。

 オレはその光を心臓へと急激に圧縮し、呑まれていく。その姿に、魔王はカッとギョロ目を見開く。

 

「……貴様! 自爆する気か!!」

 

 ()()()()()()

 

 ルルアの死んだ世界にオレの生きる意味があると思うのか? 

 もう、全部どうでもいいんだ。アイツのいない世界に価値なんてないんだ。

 

 お前が死のうと生きようとどうでもいいが、オレの右眼のせいで散々かき乱した世界の運命だ。お前だけは、オレが地獄へ道連れにしてやる。

 

 だから死ね。死ねよ。今すぐ死ね。死ねって言ってんだろ。オレも魔王も世界も全部死んじま。

 

 

 

 

 

 

 

 

ばぁっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ちょっと待て。一回、死ぬのやめるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 ふぉんと霧散する、オレの胸に凝縮した光。

 そしてオレは盲した目の代わりに、声の聞こえた正面へジィッと魔力をかき集めてみる。

 

おはよっ!!

 

……おかしいな。

 

 なんか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

「さては都合の良いオレの幻覚だな!」

 

 消えろ幻覚めッ!! 或いは知らん間にオレもあの世に来たか!!

 

「違うもんっ!」

 

 違ったらしい。

 まぁこの子、オレを驚かすついでとばかりに魔王のどってっぱらを貫いてきてるからね。

 

「ぐ……ぉおお……!?!? き、貴様……!? 死んだはずでは!?!?」

 

 魔王様が目を剥いて腹を抑えている。

 はい、同意見です。オレも説明を求めます。

 

 ルルアはキャッキャと楽しそうに宙中で踊った。

 

「実はボク、ちゃんと生きてました~!!」

 

 やはり──コイツは性格カスナチュラル煽りモンスターでしかないな。

 

 いや待て。冷静になれ。喜ぶな。鳥肌の立つ感覚を抑えろ。コイツが生きているはずがない。だって見てみろ。身体の輪郭が覚束なくて半透明。そのうえ、ふわふわと浮いている始末だぞ。

 

 今のお前の正体は、恐らくはオレが絶望するあまり無意識に作り出した魔法のお前とかだろう。

 

「そうだ。そうに違いない」

「違うよ?」

 

 黙れオレの後悔が生み出した悲しき生物め。

 これはぜぇぇぇっっったい現実じゃない。オレを二度と這い上がれぬ絶望に叩き落すための世界の悪意か何かに違いないんだ。

 この世界はオレに対してやけに理不尽だからな。

 

「えっとね、細かい説明は後にしたいんだけど……」

 

 ルルアはもじもじと、人差し指を合わせる。

 

 そして蒼穹の瞳を上目に覗き上げ、コソッと、オレの耳元に囁いた。

 

 

「実はボク……()()()()()()()()()()()

 

 

「なんだと……」

 

 衝撃のあまりそれ以上は声が出ない。ぜんぜん気が付かな、いや、他人を驚かして煽ることが性根ってそういうことか……。

 点と点が繋がった気がして大納得である。

 

「だからね、肉体的な心臓がダメになっても……こっちの魔力的な心臓で息できるんだ!!」

 

 ルルアはバッと、霊体となった身体で両手を広げて、元気いっぱいな調子を披露してくれる。

 なるほど。道理でいつものアホな幼馴染の能天気な笑顔なわけだ。

 だがなぁ……どっちにしろ、お前はこれからずっとその霊体なのか? それならやっぱりオレは病むぞ。

 

「大丈夫! ちょっと待ってて!!」

 

 ふわふわ宙を漂う奇妙な生物は、にゅるりと、心臓に穴の開いた肉体へ入り込む。

 

 途端に蒼穹の瞳は光を取り戻し、むくりと起き上がった。

 

「……ばっ!!」

 

 両手を頬の横に添えて、いつものようにオレを驚かしてくれるルルア。

 どうやらオレは病まなくていいらしい。でも幼馴染の心臓に穴が開いたままなのは不憫なので、速攻回復魔法を掛けてやる。

 

「わっ、シアンも回復魔法使えるようになったんだ! 回復合いっ子あげるねっ!!」

 

 もう心臓が貫かれたのが嘘だったのかってぐらい、幼馴染はピンピンしている。

 

…………なるほどな。

 

「とにかく、お前は生きてるんだな」

「うんっ!」

 

 ドチャクソ可愛い笑顔。

 ってことはサァ~~~~…………。

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ~~~~…………。

 

 

 

 

 

 

「ふざけんな! オレの頑張りを返せよ!!」

「うぇ!? な、なに!?!?」

 

 これまで必死にオレが血と涙を流しまくって頑張ってきたあれこれが馬鹿みたいじゃねぇか!!! 

 思わず声を荒げてルルアに迫る。オレがどんな思いで今日を迎えたかまるで知らない幼馴染は大困惑だ。

 やれやれ。やれやれやれ。クソ、クソだな。あぁ、本当に。

 

 

 クソ最高じゃねぇか……ッッ!!

 

 

「……ルルアッ!! 好きだッッ!!!! 愛している!!!!!」

「……え˝!? こ、このタイミングなの!?!?!?!?」

 

 ニヤリと歪んだ口元が抑えきれない。感情のジェットコースターでオレの情緒はぶっ壊れてしまったのだろう。もう歓喜に魔力が体中からドバドバ溢れ出しそうな気さえする。

 オレは以前の魔力量ゴミカスだったオレからは想像もできないほどに上質な魔力の刃を腕に纏う。

 

「サッサと魔王ぶっ倒して帰んぞッッ!!」

「珍しくやる気だね??」

 

 当たり前だろ! お前が生きててどんだけ嬉しいと思ってんだ!!

 今ばかりは汗水垂らすのさえもが許容できてしまうほどの興奮っぷりだ。オレは魔力の刃を構え、師匠の剣を構えたルルアと並び立つ。そして、傷を塞いでいる魔王と相対する。

 

 オレは一足先に床を蹴飛ばし──尻目に、蒼穹の瞳を覗いた。

 

「遅れるんじゃねぇぞ!!」

「……あっ、よわよわシアンの癖に生意気じゃんっ!!」

 

 一瞬きょとんと目を丸め、それから、出遅れたことを楽しそうに笑うルルア。

 青い悪魔を置き去りにするとかいう、オレの人生史において絶対にありえなかっただろう現象を実現したこの瞬間には絶頂を禁じ得ない。

 待ち受ける魔王はズバッと右腕を前に突き出し、オレへと向けて魔力の波動を放つ。

 

「き、貴様らが二人になったところで──」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 オレは溢れんばかりの魔力による魔力強化で余裕に躱す。

 左腕を振るえば、吹き荒れる暴風。右腕を振るえば、燃え上がる豪熱。

 オレの撃ち放つ魔法と魔法の間に生まれる僅かな隙を埋めるように、ルルアは神速の剣撃を割り入る。

 

「ぐ……ぉお……!?!?」

「ハッ! どうしたよ、魔王様ッ!!」

 

 クソッ、才能ある連中はこーんな楽しいことを毎日していたというのか。

 だのにオレはと言えばゴミカス魔力量を必死こいて工夫する毎日で、やはり世界は理不尽極まりないぜ。

 

「そこだっ!!」

 

 花吹雪のごとき一閃が、魔王の脹脛を斬り裂いた。

 ふわりと、ルルアは白っぽい紫髪を揺らしながらこちらへ大きく後退する。

 そして隣に立って──横目にオレを覗く。

 

「シアンッ、一緒に終わらせよ!!」

「あぁッ!!」

 

 縺れ合う螺旋の流星のごとく、共に魔王へ飛び掛かるオレとルルア。

 

「ば、馬鹿め! 真正面からの攻撃など──」

 

 魔王は防御の大氷壁を作り上げるべく、その両手をかざして。

 

 

 とそこにめり込む、雷光の拳。

 

 

「ぐッ──!?!?」

 

 魔王は衝撃に仰け反った。

 その微かな動きが仇となり、隆起した氷壁の位置がずれる。

 魔王の頬へ不意打ちを浴びせたカスねぇは、ニヤリと、ヤサグレ目元を緩める。

 

「やだなぁ、お姉さんのことも忘れないでよ」

「む、虫けらが……!」

 

 それに続くように──紅蓮の蒼槍が、魔王の太股を貫く。

 

「が、ぁ……!?!?」

 

 どうやら、治癒は上手く行ったらしい。

 レッシュとシリウスは王の間の外縁に立ち、共に大魔法を作り上げて、得意げに笑う。

 

「当然、俺達もここにいるぞ」

「ようやく僕の一番嫌いな奴を倒せそうで清々するよ」

 

 それら崩しの一撃を喰らった魔王は──決定的な隙を晒して。

 

「し、しまっ」

 

 魔王のギョロ目に映り込む、白い闘気を纏った剣を振り絞るオレとルルア。 

 闇を払う二閃の光芒。

 決着の一撃。

 

「やぁぁぁぁぁあああああッッッッ!!!!」

「おおおぉぉぉおおおおおッッッッ!!!!」

 

 聖なる十文字は魔王の胸を貫き──天をも貫く白光を、王の間に横溢した。

 

 

 




 これが筆者のやりたかったことなんだ……ということで、そろそろ成仏の時間が近づいております。

 次回の更新は1月21日(水)。
 よろしくお願いします。
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