いきてきたるものがたり   作:かに3

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げんさくまえ
誘拐された三男はもう何年も親自ら捜索を続けているらしいよ


 転生して一年未満バブ期くらいで気づいたんだけど、これおしまいかもしれん。

 たまにやってくる不審な巨人が父親であるということは理解してたのだが、あれって轟炎司……テレビに出てるエンデヴァーってやつと同一人物だよな……?

 国民的コミックの世界へ転生、というものを果たした興奮より、双子の弟が焦凍であることで詰んでる。いまはまだ元気に訓練受けてる長男の燈矢くんも、あと数年後には毎秒SAN値減らしてなつくんに地獄のウザ絡みをするようになっちゃうんすね……。バブの焦凍にのしかかられてもみくちゃにされつつ、将来を悲観するしかなかった。どうなっちゃうの俺、どうなんの未来。

 俺がスーパーさいきょーつよつよ転生者ならなんやかんやハッピーエンドじゃない?! と思ったが、そもそも俺、ヒロアカ全話は見ていない……! 友達の付き合いで映画は見た……! あと、作者の過去作が好きだったからギャングオルカだけは記憶に残ってる……! 嘘だろもっと適任いただろ。この流れならギャグマンガ日和あたりに転生させて貰えませんか? アニメもコミックも全部見てたんです。基本1話完結だからダメか……名探偵うさみちゃん世界とかで良かったんですけど……。

 

 俺がどうしようもないことで悩んでる間も、バブの焦凍が俺の髪を無慈悲に引っ張ってくるのでバブの涙腺は勝手に緩んでンギャーと泣いた。 まだ辛うじて元気な母が助けに来てくれたけど、俺からはなされた焦凍がンギャーと泣く。お前お前お前、お前が悪いんだぞ泣くな。被害者やぞこっちは。強制仲直りのちゅーで喧嘩(仮)は終了とされる。俺は何もしていない。このバブが突然暴力を……。まあ、中身は成人過ぎてた記憶が辛うじてあるので、こっちが大人の対応しましょうね。あの、母上、これちゅーじゃなくて捕食入ってませんか? 噛まれてます。生えかけた子供の歯が! 頬に食い込んで! ンギャー!!(エンドレス・号泣)

 

 

 

 

 さすがプロヒの家ってことで衣食住は安定してるし、俺は髪が真っ赤……まあ良くて炎系の個性があるってくらいだろうし、将来のメインキャラである焦凍が隣にいるくらいで俺は原作に関わらずに生きていけばいいか……英雄だか雄英だかいうとこに進学しなきゃいいだろ多分。

 

 そんなふうに呑気に生きてたら、バブの俺の横でなんかイベントが発生したらしくて長男燈矢くんのブチ切れで双子諸共殺されかけたりして終わりかけてた。

 

 最高傑作である焦凍だけ隔離されて、俺は他のきょうだいと一緒に分けられたのであった。ふ、ふつう赤ん坊の双子を引き離すか!? まだ俺いたいけなバブよ!? もっと未来に期待してくれない!?

 エンデヴァー、キャラとしてみたらだいぶ好きだけどこいつが父親なの最悪か……? だから燈矢くんが闇堕ちするんだよ。それはそう、ほんとそう。

 どうすんの俺、二卵生とは言えだいぶ焦凍と似てる顔してるけど代わりに憎まれて八つ当たりされたりしたら可哀想じゃない? そう警戒してたけど、ベビの俺の面倒を一番みてくれたのは燈矢くんだった。

 

 たぶん俺、「父さんからいちばん期待されてない可哀想な弟」だと思われてるから可愛いんだと思う。あと普通に懐いてくる弟だから我ながら可愛いと思うよ。最初に言ったの「とやくん」だからな、親より先に兄を呼んだぜ。構ってくれるから。

 

 

「俺だけは陽火くんを見放さないから陽火くんは俺だけを信じてね」

 

と、毎日せっせと呪いの言葉を吐いてくる燈矢くんに「わかったあ」と律儀に返事を繰り返す。

 返事をしないとメンヘラ彼女のように「なんで陽火くんもおれのことむしするのおれのことあきらめんのなんでおれ陽火くんにやさしくしてんのに」と馬乗りになってくるからだ。

 なつくんが気づいてくれたら助けてくれるけど、気づかれなかったらたぶんこのまま首でも締められるのでは? 俺が中身そこそこ大人の意識があって良かったね……。「よしよし、とやくんいいこいいこ」と抱きしめて頭を撫でておくと、そのうち泣きじゃくって大人しくなる。

 いつかの未来でヴィランになるのかあ。悲しいなあ。

 

 

───────

 

 

 本邸の2階から見下ろしてくる焦凍に手を振ると、焦凍が反応を返すより先に燈矢くんが俺の事を抱きかかえて隠す。

 

 意地悪だねえ。でも眼が瞳孔ガン開きのやばい状態なので無抵抗で「とやくん、いいこいいこ」と抱えられたまま背中に手を回して撫でた。

 焦凍はどんな顔で俺たち見てるんだろ。嫌われてんだろうなあ、虐待じみた特訓してる中で俺たちだけ楽しく遊んでんだもんよ。燈矢くんはボソボソと「俺の弟は夏くんと陽火くんだけ」と言ってたので、俺も「俺の兄ちゃんはとやくんとなつくんだけよ」と言っておいた。事実である。焦凍は弟なので。ガチガチに固まってた燈矢くんはゆるりと緊張をといてちょっとだけ笑った。

 

「俺、陽火くんが自慢できるヒーローになってやるよ」

「エンデヴァーをこえてね」

「陽火くんは俺がエンデヴァーを超えられると思ってんの」

「おもってるよお」

 

 ぶっ倒すよ。そこらへんだけ読んだことある。おじさんの曇らせシーンが好きな友人がとりあえずここだけ読んでと各種漫画のおじさん曇らせシーンだけ見せてくれた過去があるから……。

 ヒーローにはなってないしぶっ倒し方がアレだけど、確かに致命傷あたえることはできるんだよな。

 

 俺がそんな前世の遠い過去、今世の遠い未来を思い出してる間も世界は進んでるし、燈矢くんはまともじゃない顔でへらりと笑っていた。

 

 この段階で家族分断するんじゃなくて、適切なメンタルケアをするべきだったんだよな。 なんか我が家、お母さんは被害者……って感じだけど実際あれも消極的虐待だと思うよ。かかろうぜ、メンタルヘルス。そっち方面に特化してるヒーローもいるんだから重要性なんてわかりきってるだろ。

 それともあれかな、プロヒの家の子供がメンタルぶっ壊れてるのって外聞が悪いとかかな……最悪な世の中では……? これ原作始まる始まらない以前にどっかに逃げた方がいいのでは……?

 

 

「陽火くんだけ、陽火くんだいすき、ずっとおれだけしんじててね、陽火くんはおれのたいせつ……」とテディベアのように抱きしめてくる長兄と、なんとも言えない目をして見守ってる次男と、俺たちと2階を交互に見て心配そうな長女。おしまいの家庭。

 

 

 

───────

 

 

 燈矢くんが『死んだ』のはそれから少し経ってからだった。俺は昼寝して起きたら真っ暗で、なにゆえ誰も起こしてくれぬのかと憤りを隠せなかった。

 夜ご飯食べ損ねたが!? しかしそんな怒りを口にする前に、なつくんが飛び込んできて俺を揺さぶった。泣いてて何を言ってるか分からないけど、半端に原作知識がある俺は察したのだ。『轟燈矢が死んだ日』なのだろうと。なので「だいじょぶだよ、とやくんは生きてるよ」と慰めたけど、なんにも分かってないチビの妄言とされたのであった。ちゃんちゃん。

 

 

 

  危険人物燈矢くんがいなくなったからか、以前より焦凍と我らきょうだいの仲が近づいたが、焦凍とふゆちゃんの仲は良好だけどなつくんは焦凍とどう関わったらいいか分からないみたいだし、俺はなんか裏切り者を見る目でみられて「お前はいいよな」とか「俺とおまえは違う」とか言われて睨まれるので、別に仲良くはなれてない。

 赤子の時は常に俺のちぎりパンのごとき腕をハムハムしていたというのに。まあ仕方ない。普通にムカつくよな、自分だけボコボコにされてるのに同じ日に産まれた俺だけ見えるところでなんか平和に遊んでた訳だし。殺されないだけ優しいよな……さすが未来のヒーロー……。

 

  せめて不快な思いをさせないようにとの配慮で、焦凍がいる時は部屋から出なかったり逆に友達の家に泊まったり、学校で双子? と聞かれた時は「親戚」と答えて距離をとったりした。二卵生がゆえか、成長したらあまり似なくなってきたのだ。俺の方がツーランクくらい顔の出来が悪い。上に補正かけてくれよ。無理か? 無理そう。

 

  なんか家では俺だけ燈矢くんの死を認めていないということになってる。仏壇にある遺影を毎回丁寧に倒しては「いやいや、生きてるんで」と言ってるからだ。実際生きてるし……。燈矢くんはどのタイミングで荼毘るかわからないけど、なんか仏教用語で死に関する言葉じゃなかったっけ? 縁起の悪さがここから来てる。

 

 俺が燈矢くんに1番懐いていたからという理由だと思われてるが、「死体が出てないから死んだとは言えない」とか「あのとやくんが簡単に死ぬわけない」とか「とやくんは俺のヒーローになってくれると言ったので……」という俺なりの理路整然とした理論は全て、なんか健気で物悲しい現実逃避だと思われている。なんでえ……。これが……原作の強制力……!

 

 

 今日も仏壇の中の燈矢くんの写真を倒して「生きてるから」と言って、いい加減諦めろと言われるのを無視して家を飛び出す。やっべ焦凍とニアミスしかけた。慌てて家を出たせいで行ってきますが言えなかったけど、まあいっか!

 

 

 

 

そして俺は突然、暗がりに引きずり込まれたのだった。

 

 

 

 

「陽火くんだけ陽火くんだけ陽火くんだけおれには陽火くんだけ陽火くんだけおれのことずっとしんじてまっててくれた陽火くんだけおれのこといきてるってしんじてくれた陽火くんだけおれのこと陽火くんはおれのことあきらめなかった陽火くんだけおれをまってた陽火くん陽火くん陽火くん」

 

「うわあこれ絶対とやくん! ぜって~~~間違いなくとやくんだね!」

 

「おれ、の、こと、わか、る、の、こえ、ちが、ぜんぶ、おかし、く、かわっ、」

 

「変わっとらん変わっとらん大事なとこぜんぶ変わっとらん。これでとやくんじゃないって言われた方が怖い」

 

 実弟にメンヘラ彼女ムーヴする男、この世で1人だけでいいです……。

 

 

 しばらく黙ってから、暗がりに目が慣れてきた俺にもわかるくらいズタボロの燈矢くんが笑った。選択肢ひとつ間違えたらデッドエンド確定の壮絶な笑みで「陽火くんだけだったんだ」と何度も繰り返した言葉を改めて呟く。

 

 

 

 そして俺は実兄に攫われたのだった。これ俺も仏壇に写真飾られるエンドですか? なつくんふゆちゃん、割と諦め良いから一通り探したら泣いて悼んでくれちゃいそう~~~! 両親は知らん。 焦凍もわからん。 言うて俺、マジで強くないからとやくんもとい荼毘くんの足枷にしかならんのよな……どうなる、未来。

 

 

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