いきてきたるものがたり   作:かに3

62 / 103
ドライバー・フォールト

「じゃあ今日は頼む」

「任せて」

 

 スピナーの言葉に、俺は深く頷いた。こちら、用意いたしますは所有者不明のミニバンです。スピナーくんの、運転練習。はじまるよ~!    たすけて。

 

 履歴書の所得技能に『運転』があったけど、まさかそれがGTA由来の自信とは……。

 ゲームでできるから現実でもできるだろうという、やばいタイプのゲーム脳だった。やめてください。それって同乗者の命がかかっているんですよ!?

 あと俺、君と一緒に遊んでるから知ってるけど、割と横転大破炎上してるからな。なんであれで自信が持てるんだよ。

 

 とはいえ、スピナーという男は存外繊細だ。自分ではできると思っていることを正面から無理と言われたら、普通に傷つく。なので方針はひとつしかない。できるようになってもらおう。その根拠のない自信を、地道に本物へ変えていこうね。

 

 俺は前世で運転技能取得済みなので、今世でも「運転? 9歳頃からやってたよ」という状態である。懐かしいな。初めて運転した時は、三台が絡む爆発炎上事故を起こしたっけ……。

 まあ、あれは実兄が助手席から親愛のタックルをかましてきたのが原因なので、俺の責任は薄いと思いたい。かなり薄めで換算してほしい。

 

 さすがのスピナーも、これからの連合活動で一発本番で走るのは自分でも怖かったらしい。

 運転ができて、なおかつ連合内で比較的話を聞きやすい俺に同行を頼んできた。ちゃんと人に聞けるの、えらいよ……。運転って運動神経が出るところもあるし、たぶん最終的には俺より上手くなると思う。

 

 そんなわけで、山道での練習を開始です。

 道の状態はあまり良くないが、何かあっても人は来ないし、俺たちが車移動を必要とする場面では道を選んでいられない可能性の方が高い。

 

 逃走中に公道をぶっ飛ばすこともあるだろうし、民家の庭を突っ切ることだってあり得る。ほかの車に体当たりして止めるとかも、まあ普通にある。GTA生まれの無免許運転手は倫理観が最初から壊れているので、たぶん全部「そういうもの」だと思っている。

 

 ドアを開け、助手席に座り、シートの位置を何度も調整した。乗り込んだあともシートベルトを確認し、上着を畳んで腹の上に置き、用意していたクッションを腰の横に差し込み、ネックガードを装備して、フルフェイスのヘルメットを被る。

 

 最後に深呼吸をしてから、「……よし」と気合を入れる。やれることは全部やった。あとは生存率を神頼みで上げるだけだ。

 

「なんか今日の装備、重課金してないか?」

「ここ来る前に生存十連引いてきたからね……」

 

 今年の初詣で荼毘くんが買ってくれた無病息災のお守りを、バックミラーに吊るす。

 本来なら交通安全のほうが正しいんだろうけど、そっちは買っていなかった。仕方ない。今日のところは、病気も事故もまとめて災いとして処理してもらうしかない。何も起こってないのに走馬灯みたいなものが見えてきたな……。あんなに平和だった正月から、こんなところに来てしまった。甘酒美味しかったな……。

 

 俺が走馬灯(偽)の実兄を思い浮かべつつ生きて帰ると覚悟を決めているというのに、何故か自信満々のスピナーが「あまり心配するなよ、任せろって」と運転席に乗り込む。

 これから出来ることは何も無い。あらゆる祈りの言葉を脳内で繰り返しながら、彼の運転に命を委ねた。

 

 God help me. Dios mío, protégeme. Seigneur, ayez pitié. 天啊,保佑我. Боже, спаси меня.

 

 もはや神の国籍は問わない。助けてほしい。

 

 

 しかし不安に反して、思っていたよりスピナーは運転が上手かった。

 根が真面目だからだろう。急にスピードを出したり、変に格好をつけて無茶をしたりしない。ヴィランらしからぬ堅実さである。大変ありがたい。

 性格的に考えるなら、慣れた頃に格好つけて大きめの事故を起こしそうだけど、今日を乗り切れれば俺としたらそれで良い。俺はほら、自分の車は自分で運転出来るんで……。

 

 そのうち俺の緊張もすっかり解け、最近出たゲームの話で盛り上がる。ゲームの話から自然と車の話になり、つい気が緩んでいった。むしろ最初から車の話だけしてろよという気もしたが、和やかなのは良いことだ。そう思って、軽い気持ちで雑学をひとつ披露した。

 

「車って機能的にデザインされてるから、アクセルより踏みやすい位置にブレーキがあるらしいよ」

「なるほど!」

 

 後方に重力を感じる急発進。考えるより先にサイドブレーキを引いたが、山道の荒れた路面では焼け石に水だった。

 車体は派手に跳ね、変な角度で乗り上げ、そのまま横転する。天地が入れ替わった車内で、ぶら下がるみたいな姿勢のまま、呻いた。

 

「ごめん、足元みてなかった。基本的に運転というものは右足のみを使用してください。ブレーキは中央側に寄っているのでアクセルより踏みやすくなっております……」

 

「なるほど……これで運転は完璧だな……」

 

 ただの雑学を一般論みたいに説明もなく言い切った俺が悪い。まさかその場で実践確認されるとは思ってなかったけど。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。