ダンジョンは浅い付き合いで   作:未来遡行

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A-1 どうして俺がこんな目に

 

 

 

 

「はっ……! はぁ……!」

 

 土と岩が入り混じった通路。俺はただひたすらその道を駆けている。

 

「どうして俺が、いきなり、こんな目に……ッ!」

 

 走りながら背後を横目見る。

 ……そこには皮膚が緑色の人型の化物。大きさは人間の6歳児くらいだろうか。手には棍棒を持っており、ゲラゲラと奇声に近い声を上げている。

 そんな化け物が俺を後ろから追っていた。

 

 大丈夫、問題無い。体格は明らかに俺の方が大きいし、この速度で走っていればまず追いつけない。

 知能も低そうだ、戦えば俺でも勝てそうか?

 

 だが俺には戦えない理由があった。

 

 俺は今、素手だった。

 

…………訂正しよう。

 

 

 俺は今、全裸にパンツ一丁だった。

 

 俺は今、ほぼ全裸でダンジョンに潜っていた。

 

 

 

 

 時は30分程前に遡る。

 

 

  ーーーーー☆ーーーーー

 

 

 

 

 

 これは夢だ。

 俺がこの世界で意識を持った時、真っ先にそう思った。

 

 

 しかしそれは夢にしてはあまりにも現実的過ぎて、それは夢にしてはあまりにも非現実的であった。

 賑やかな街並み。屋台のような店が路上に立ち並び、煉瓦とも言い難い石で作られた建物が散見している。踏み固められた堅い土、ザラザラとした感触が俺の足をちくちくと刺激する。

 少なくとも日本ではない。街を歩く人達の見た目や身なりを見れば分かる。

 髪の色が様々で、黒髪もいれば青髪もいるし赤髪の人もいる。衣服も様々だがどの人もファッションを重視した見た目には見えない。それどころか鎧まで身に着けた人間もちらほらといる。日常から鎧を着用する国なんてあるのだろうか? とりあえずここが日本で無い事だけは明らかだった。

 

 そして、そんな周囲の人達の、俺を憐れむような目。

 理由は明白だった。

 

 

 俺は全裸だった。

 

 

 正確には俺は全裸にトランクスを履いていた。身に覚えのないピカピカの花柄のトランクスだ。

 これは夢だろう、夢であって欲しい。既に俺の精神は焦りと困惑と羞恥で訳の分からない事になっていた。

 

 俺はこれが夢であってくれと言わんばかりに、とにかく体を痛みで刺激した。

 しかし夢が覚めることは無かった。いつまでも。周囲からの憐みの目に磨きが掛かっただけだった。

 俺は逃げるように物陰に足を走らせた。ああ、裸足で駆ける土の痛さが生々しい。認めざるを得ない。

 

 これは夢ではない。これは現実だ。

 

 

「畜生がぁ! なんで毒持ちが10連続で現れるんだよボケ!!」

 

 不意に怒号が聞こえた。俺がさっきまでいた場所だった。

 よく見るとそこだけ柵に囲われ、ふかふかの土に適当に十字の石が何個も立てられた場所……控え目に言ってそこは墓場だった。

 そこから這い出るように、一人の人間が現れた。

 

 俺はこの場所で初めて仲間を見つけた。

 可愛い美少女? 優しい若者? 強そうなモンスター? 全部違う。

 

 変態だった。

 

 物陰に潜むようにコソコソと隠れていた俺は、墓場から這い出る様に現れた一人の人間に出会った。

 男もまた、トランクス一枚の全裸、変態であった。

 

 元の場所、日本であれば俺は叫び声を上げていただろう。警察に通報していただろう。

 しかし俺はこの変態を見た時、真っ先に仲間だと思った。

 

 俺は今、この変態と仲間だった。

 

 

「あの……」

 

 意を決して俺は話しかけた。もはや確信に近いものがあった。今俺を救えるのはこの人しかいない。

 何でもいい、情報が欲しい。今俺は何でこんな場所にいるのか、そもそもここは何処なのか、何故俺はパンイチなのか。どんな些細な情報でも今の俺には値千金の情報だ。

 

「あ゛? あぁ……」

 

 声を掛けて返って来たのは苛立ちの声、そして俺を見るなり直ぐに憐れみの表情へと変わる。

 こいつ、俺と同じ変態の癖に俺を憐れむのか。

 

「すみません、私、なんか記憶が無くて……」

 

 嘘だ、いや本当か。俺はこんな状態になるまでの記憶が一切無い。俺は昨日は会社から帰って自宅で食事をし風呂に入り数時間ゲームをしてから眠りに着く、至って普通の日常を送っていた筈なのだ。断じてこのような街中全裸トランクスになる状態ではなかった。

 よって俺は記憶が大きく欠落している。きっとそれは間違いない。

 

「えぇ? どっから? ダンジョン潜った記憶くらいはあんだろ?」

 

 ダンジョン? 何を言っているんだコイツは? とは思わない。この場所は既に俺の常識の中に無い。何かの仕事の事をダンジョンに潜ると言い換えているのだろう。

 

「いえ……その記憶も無いですね……」

 まるでダンジョンは知っているかのように、そのまま話を続ける。

 

「はぁ? 一層開幕でゴブリンにでも頭割られたのかよ」

 

 ごぶりん。凄い聞いたことある単語だ。日常で普通に使う事があるのか。

 

「いえそういうのではなく、そもそもそんな事になったら死んじゃいますよ」

「あぁ、だから死んで蘇ったんだろ?」

 

 ん?

 

「それはどういう……?」

「もしかしてダンジョン初だったのか? ダンジョンで死んだら横の墓場から蘇れるんだよ。パンツ一丁でな」

 

 シンダラ、ヨミガエレル、パンツイッチョウデ。

 

 ?

 

 理解が追い付かない。だがこの変態が言う事が正しければ……ダンジョンがあって、ゴブリンがいて、死ぬと蘇る。

 ああ、やはり、薄ぼんやりと可能性に入れていた事が確信に近くなった。

 恐らくここは異世界だ。

 そして、ダンジョン、ゴブリン、蘇生。

 

 

 つまりここは、ゲーム世界だ。

 

 

 

 俺は訳も分からないまま、ゲームの世界に放り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

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