タイトルの英数字は必ずしも時系列とは限りません。
特にBは年単位で飛びます。
基本的にタイトルを見ない方も、そのページのタイトルがAかBかだけは見て頂けると幸いです。
「はい、本日教官をします。ナナシです」
今日はリュミレさんに頼まれた新人研修の日だ。
中層冒険者になった俺は時折リュミレさんに新人を任されるようになった。
数年前に新人研修を受けた側としては感慨深い気持ちだ。自身の成長を強く感じる。
そしてこの依頼結構おいしいんだよな。10階行って帰ってくるだけで銀貨2枚と来た。ギルドが支援金出してるって本当だったんだな。
「今日は君達三人で10階までを攻略するサポートをします。危なくなったら助けますが、戦闘は基本的に君達だけで行って下さい」
ギルドの待合室兼食堂のテーブルを借りて、そこの椅子に座りながら、三人の少女に語り掛ける。
今日の俺は教官モードだ。普段の口調は止め、学校の先生の様に振る舞う。
「えー」
「はい」
「はい!」
三人の少女達が各々返事をする。既に性格が垣間見える。
「では順に、名前と職業をどうぞ」
まず一人、手の平を向けて発言を促す。
「ルピナでーす。盗賊やってますけどまだ罠解除怪しいです」
軽装の少女が話す。白い髪にうっすらと緑が入っていて、顔の両サイドに濃い碧のメッシュが入っている。野性的な小動物を感じさせる子だ。
罠解除は俺も簡単なのは解除出来るようになったが、難しいやつは戦士系の俺じゃ流石に無理なんだよな。専門の道具も持ち歩いて無いし。
10階までだからそんなに難しい罠は出てこないと思うが、俺でも無理そうな奴はスルーするか。
「ネルファです。魔法使いです」
二人目の子だ、こちらも少女に近い。
今回は三人とも女性で、歳の近い子で纏められているそうだ。たしか全員15歳前後だったか。
こちらはギルドの魔法使い用のローブとハットを身に着けていて、体を支えるように杖を持っている。ローブは打撃にも斬撃にも全く防御面を期待できない防具だが、魔法使いの能力を上げる効果があるらしい。杖も同様で、一見劣化こん棒だが杖によって魔法の威力を上げたり等様々な魔法を補助する効果がある。
髪は長髪で、一見黒に見えるが紫も入っている。後ろで髪を縛っているのか、そこから分岐してツインテールみたいになっている。
「シーニアです! 魔法剣士です! よろしくお願いします!」
三人目は剣士の軽そうな鎧を身に着けて、元気に……え? なんつった?
「うん……? 職業もっかい聞いていい?」
「魔法剣士です!」
は? 魔法剣士は就きやすい部類とはいえ中級職なんだけど。
ここ初心者研修だよな?
「ダンジョン潜ってどれくらい?」
「二週間です!」
「…………もう魔法剣士なれたの?」
「最初からありました!」
「はぁ!!!?」
そんなわけあるか!! とは一概に言い難い、が、でもこんな少女にあってたまるか!!
転職に必要な習熟度は、別にダンジョンだけで稼げるとは限らない。
才能と経験が必要になる。経験を稼ぐのに最も向いているのがダンジョンというだけだ。
たとえ話、俺は日本でただの一般人だったが、仮に俺が戦国時代に最前線で何年も戦い続けた武将だったとしよう。
その場合恐らくこの世界に来た時点で既に剣士の習熟度をカンスト※1していて、剣士の上位職が開放されていた筈だ。
この様に過去の経験次第でいきなり中級職といったロケットスタートを切る事は理論上可能である。
が、魔法剣士???
「異世界人だったりする?」
「いえ! 生まれも育ちもここです!」
おかしい。魔法剣士に必要な習熟度は剣士と魔法使い。
ここは異世界だが、当然ダンジョンの外、この街の外に魔法なんてものはない。
魔法の経験なんて積める筈がないのだ。
「あ、あー……そうか、分かった」
ま、まぁ、教える相手が強いに越した事は無い。
この世界このダンジョンにおいて、悪は存在するがズルは存在しない。この世界の神はそんなものを許さない。
この子が言っている事が全て真実だとしたら、恐らく才能だ。
生まれ持って、魔法剣士の才能がズバ抜けてある。そういう事だろう。
気を取り直して、もう一度シーニアを見る。
白い剣士の鎧を身に纏った活発で元気そうなキラキラした子だ。綺麗な金色の長髪がキラキラと輝いている。
いいとこのお嬢さんか? 一見無鉄砲そうな元気さを感じさせるが、身なりや姿勢がどことなく綺麗だ。手入れされた綺麗な髪もそうだ、なんというか、気品を感じる。
白いドレス着せて頭に王冠乗せても違和感なさそうだ。
「ちなみに三人は初対面?」
同年代の女の子が同じ街、冒険者。知り合い同士でも全くおかしくない。
「私とネルファは一緒に冒険者始めました!」
「……」
シーニアが返答する。
「私は二人とは初対面です」
続く様にルピナも答える。
ふむ、二人が友達で、一人はここに突っ込まれた感じか。ならこの二人はある程度の連携は大丈夫だろう。
一人の方は気まずいだろうが、剣士と魔法使い、ここに入れるなら確かに盗賊だ。この二人とは相性がとても良い。前衛中衛後衛が完成している。これなら大丈夫だろう。
「うん、まあ頑張って」
「ええ?」
「じゃあ行きましょう。各自忘れ物の無いように」
「えええ?」
しょうがないじゃん。二人組に入る一人に掛ける言葉なんて無いよ。
友達になれるといいね! ってか? そんなん言われたら逆になりにくいわ。
俺は先陣を切るようにダンジョンに歩みを進めた。
ーー☆ーー
「ここが……こうで……」
「ゆっくりでいいぞー、その罠は開けるまで作動しないから」
ルピナの宝箱の罠解除を後ろから見守る。
初心者らしい拙い動きだ。こういうのは経験が大事である。何度もやって覚えるんだ。
幸い引いた罠も大した事がない罠だ。解除に失敗しても何度も挑戦出来る奴で、事故の心配がない。
「ここを、こうして、出来た!」
ルピナは確かな感触を掴み、宝箱を勢いよく開ける。
するとピシュっと、箱の奥から針が飛び出した。
「キャー!!」
「嘘だろお前」
しっかりと罠が作動してしまった。嘘だろう? 解除が出来たかどうかの判断も怪しいのか?
ルピナの腕には小さな針が一本刺さっている。一見大したことは無いが、これ毒針だな。
「大丈夫!?」
シーニアが心配そうに駆け寄る。
「大丈……夫? 思ったより痛くないや」
「いや毒針でしょそれ」
「えーーー!?」
ネルファの指摘に悲鳴を上げるルピナ。慌てて腕から針を抜く。
なんだ? 漫才でもやってるのか?
「ほら、これでも咥えとけ」
俺は鞄から草を出した。
☆解毒草
手に持った瞬間それが何か分かる。
ここまでの道中にこっそり拾っておいた解毒草だ。
「なんですかこれ?」
「持てば分かる」
ルピナにそれを渡す。
「解毒草! ありあ……これ飲むんですか?」
嬉しそうな顔から一転して暗くなる。
明らかに不味そうな草を食べる事に抵抗がある様だ。
「咥えながら噛むだけでいい、飲んでも良いが、ちゃんと噛んでないと効果が遅い」
解毒草の味は不味い青汁にミント混ぜた感じだ。噛んで飲み込むのが最も効果があるが、胃に入れると消化されるまでずっと口にキツい匂いが残り続けるんだよな。
大した毒でも無いなら口に咥えて噛んで、薬効を胃に流し続けるだけでいい。
「はーい、あむ」
ルピナは草を横に咥えて、もしゃもしゃし始めた。
「まっず」
「そりゃあ、草だし。腸内環境が良くなるぞ、良かったな」
「あふぃがふぉうふぉざます……」
ルピナの顔色がどんどん悪くなる。これは毒だけのせいでは無さそうだ。
お礼を言ってもらった所悪いが、実は俺はアンチドーテを支給されている。なんなら実は今日のドロップは全てお前達の物なのでこの草も本当はお前達の物だ。
ハハハ、悪いな。こんなアホらしい自体にアンチドーテなんて勿体ない! ポイズンモスの毒でも食らってから出直すんだな。
「シーニア、中身は何だった?」
何故か盗賊が弱っているので、シーニアに中身を検めさせる。
「えっと……あ、腕輪です!」
「お、レアドロだが……装備しないように、持ってみろ」
腕輪か……手袋や籠手とも一緒に装備出来る腕の防具だ。だが防具としての性能は期待出来ない。
腕輪には大体何かしらの能力が付いている。毒に対する耐性を獲得したりとか、体の筋力を上げたりだとか、腕輪に付与される能力の種類は百を超えていると言われている。
基本的には良い能力だが、たまに逆も存在したり……
「綺麗な腕輪、だそうです!」
「お、当たりかな。未鑑定じゃなくて良かった」
「アタリ! どんな腕輪なんですか?」
「なんの能力も無いただの腕輪だ」
「え?」
うん、見た通りの綺麗な腕輪だよ。それだけ。
「ハズレじゃ……?」
ネルファが疑問を抱く。その認識は正しい。
「なんでかは知らないが、それをギルドで売ると高く買い取ってくれるんだよ。装備としては大外れだが、売る用としてなら小さくて軽くて高価なソイツは大当たりだ」
「おお~」
「銀貨1枚はいけるぞ」
「たっか!」
そうなんだよ、ポーションを除けばこの辺りで取れるアイテムの中では最高峰に高い。
何故かギルドではこういう一見何の価値も無いアイテムを高値で買い取ってくれる事がある。しかしどれを高価で買い取るかは教えてはくれない。自身で確かめるか、こうして誰かから聞くしかない。
「今回は鑑定済だったから大丈夫だが、たまに名前が読み取れないアイテムが出て来る。それを俗に未鑑定と俺達は呼んでいる。特にこういう腕輪だったり指輪だったり、杖には未鑑定が出やすい」
ダンジョンに深く潜ると、未鑑定には必ずと言っていい程遭遇する。
未鑑定品を分からないまま使う『漢鑑定』という荒技も存在するが、俺は推奨しない。
回復が困難なこのダンジョンにおいてリスクは出来るだけ避けた方が良いからだ。
「未鑑定の物は基本的には装備したり使ったりしない方が良い。中には呪い装備という物もあって、冒険者に不利な能力が付いている上に装備が外せなくなるという最悪のシロモノもある」
「呪いへの対処法はないんですか?」
「手っ取り早いのが中級職の神官や呪術師を連れて行く、解呪の書を使う、装備箇所を切断する、呪いと和解する、帰る、くらいだな」
「なんですか和解って」
「そのままだよ、呪いを受け入れて進むんだ。呪いも場合によっては結構耐えられる呪いだったりもするからな」
例えば戦士に魔力が下がる呪いとか、場合によっては全く意味を成さないパターンもある。
呪いの装備はデメリットが付く分装備の性能が高かったりする事もある。デメリットを踏み倒せる呪い装備はむしろ強力な装備だ。
「あふぁまいふぁくなっふぇきふぁ……」
ルピナがなんか一人でボヤいている。
たぶんイントネーション的に、頭痛くなってきた、だろう。毒が効いて来たんだろうな。
少しふらふらしているが、まぁ大丈夫だろう。先に進むか。
「たぶん10分程度で治る、その間戦闘は控えろ。シーニア、ネルファ、暫く盗賊が欠ける、その間の索敵と罠警戒を怠るな」
「はい!」
「分かりました」
「ダンジョンでは急に盗賊が欠ける事も当然ある。罠は仕方ないが、索敵くらいは常日頃からして慣れておかないといざという時に困るし、死ぬぞ」
シーニアを先頭に、ネルファがルピナを気遣いながら俺達は先に進んだ。
ーーーー
「はあ!」
三人……というより主に一人がモンスターを蹴散らしていく。
現在7階、目標の10階ボスまでもう直ぐだ。ルピナの体調も回復し、チームの状態は万全だと言える。
というか、シーニアが想像以上に強い。身長くらいあるロングソードを軽々と振り回し、敵を一刀両断している。
しかもこれ武器に振り回されてないな? ずっと見ていたが、斬る箇所がかなり正確だ。大振りで相手を両断する事もあれば、最小限の動きで相手の首を斬る事もある。
初心者としては余りに十分過ぎる動きだ、ただ前衛が彼女一人という事もあって殆ど彼女任せになってしまっているのは良くない。
「この様子なら10階ボスは大丈夫だろうし……」
少々魔法使いが腐ってしまっているのが気になる。
魔法使いはMPの温存が大事だ。なので魔法使いの出番が無い事はとても良い事なのだが……。
このままだと10階まで出番無さそうだなぁ。研修としてそれは如何なものか。
「ネルファ、MPに余裕はあるな?」
「そりゃまあ、余裕ですが」
「シーニア、盾貸してやるから次タンクとして立ち回ってみろ」
「えっ! はい!」
俺はシーニアに持ってきた小盾を渡す。
シーニアはロングソードなのでそれを片手で扱うのは大変かもしれないが、まあ大丈夫だろう。
「あっ……凄い盾……見た目も良い……」
シーニアが目を輝かせて盾を受け取った。
そうだろう、それ高いやつだからな。大事に使えよ。
「シーニアは次から暫く攻撃を控えて、攻撃は魔法使いと盗賊で行って下さい」
「えー」
「……」
このままではシーニアのワンマンプレイになってしまう。
俺はチームに指示を出す。ルピナはダルそうに、ネルファは何も言わない。
10階ボス攻略が怪しかったらこんな事は言わなかったが、今回は強い前衛とMPをほぼ使っていない魔法使いがいる。流石に大丈夫だろう。
最悪俺が手を出せばいいし。
「隊長!」
「教官です、なんだ?」
「盾使った事ないです!」
「身を守る道具だが、はっきり言って武器と変わらん。それで攻撃を防ぐのは当たり前として、余裕があったら敵を押し飛ばすように使ってみろ」
ここから暫くの間、モンスターとの戦闘を見守る。
やはりシーニアは筋が良い。盾も問題無く使えてはいる。
だがどことなく向いていない? 何か違和感がある。回避型に盾を持たせているかのような違和感だ。
だがおかげでルピナとネルファの動きを見れる。
ルピナはシーニアが小突いたモンスターを短剣で刺し、ネルファは後ろから氷の魔法で攻撃する。
うん、普通だ。これこれ、こういうのが見たかったんだよ。
多少無理やりではあったが、チームの動きとしてはとても健全だ。
「ちょっと待って、この先に敵がいる……けど、大きい? 大きな布が擦れるような音……?」
先頭を歩くルピナが通路の手前で止まる。
今までは小型のモンスターが多く、これまでと違う音に困惑しているようだ。
7階で中型モンスター? スケルトンかコボルトか?
「む……?」
通路の先から影が伸び、その姿を現す。
人型、しかしソイツはそもそもモンスターではなかった。
マジ、か。ここで、こんな所でコイツが出て来るなんて。
「コボル……?」
「違う」
俺はルピナの判断を即座に否定した。
ルピナが言いかけたコボルトとは、人型で二足歩行の獣のようなモンスターだ。
しかしコボルトは成人男性の半分くらいの大きさだ。今目の前から現れたのは俺よりも大きい。
「人の気配に近付いてみれば、ナナシじゃないか」
「ガルバド、なんでこんな上層にいる?」
俺は話を続けながらルピナを引っ張って後ろに下がらせ、前に出る。
途中でシーニアから盾を返して貰う。
「別に、丁度良い野良チームが無くてな。流石にソロで中層は効率が悪いし、上層で小銭稼ぎしているだけだ」
「隊長、この……人は?」
「俺の友達だよ」
シーニアが言葉に詰まるのも分かる。
目の前にいるのは冒険者だが、人間ではない。
獣人、ガルバド=ラガ。
この街では珍しい獣人である。職業は暗殺者。
全身が黒い体毛で覆われた狼の獣人だ、その上から更に黒い布をぐるぐる巻きにしたような風貌をしている。
獣人の国はこの国からかなり遠く、このダンジョンに用があってわざわざこんな人間の国で暮らす変わり者だ。
「じゃあ、敵ではない?」
「いや、むしろ……」
コイツの性格的に……
「見たところ初心者だな。そうか、研修か、ご苦労なことだ」
「ああ、邪魔しないでくれるか?」
「分かってる、安心しろ」
そう言ってガルバドは腰から二本の短刀を抜いた。
「初心者には手は出さん」
◇ネルファ
職業【魔法使い】
どことなく暗い雰囲気を出し、口数も少なく警戒心も高い少女。
腰まで長い長髪で、黒と紫のグラデーションがある。うなじの辺りで髪を縛っており、そこから左右に分岐してツインテールになる。目はジト目で薄く隈もあり、若干猫背で姿勢が悪い。
一見消極的でやる気も無さそうに見えるが意外にも熱血寄り。自分の仕事はキッチリこなすし、サポートも手厚い。
後にシーニアとチームを組むが、シーニアが強過ぎるのが悩みになる。
強敵と思われたボス戦をほぼ自分抜きで圧倒してしまい、魔法使いという自身の運用に頭を悩ませる。
このチームに後衛火力は不必要という判断を下し、そして自身に近接戦は向いてないという判断から後衛支援職に目を付け、魔法使い系統である呪術師を目指す。
◇シーニア=イルフィリア
職業【魔法剣士】
■隠し職業【勇者】
実直でリーダー気質で表裏の無い性格をした少女。
キラキラとした金色の長髪が特徴で、真っ直ぐな目と活発な動きも合わさり、戦場では一際目を引かれる存在感を出す。
白を基調とした剣士の軽鎧を好み、ダンジョンから持ち帰った装備を自身でカラーリングする事もある。本人の着こなしもあり、ただの安鎧が輝いて見えるため神器装備と間違われる事もしばしば。
この街では珍しく家名がある。ただ家名持ちは少ないという程でもなく、家名があるからと言って貴族とは限らない。
家名持ちを敵に回すという事はその家名に属する者全てを敵に回すという事であり、家名持ちは家名を持たない者からは避けられる傾向にある。
同じ家名を持つからと言って血縁であるとは限らない。基本的には家族やその一族の証として使われるが、自分一人で使う者もいれば、村全員が一つの家名を名乗る場合すらある。
名前と違って家名は自分一人の意思で変えたり外したりする事が許されない。
名前と違って家名はその国での登録が必要である。勝手に付けたり他者の家名を名乗る事は大きな罪に該当する。
ギルドカードに表記されない隠し職業『勇者』を持つ。
これは如何なる者にも視認する事は出来ない。