ダンジョンは浅い付き合いで   作:未来遡行

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 前書きや後書きで書かれている情報は読まなくても問題ないよう書いてるつもりです。

  


B-2-2 黙って見てろ

 

 

 

 ガルバドは即座に二本の短刀で俺に斬りかかって来る。

 俺はそれを自前の盾で防ぎ、腰に携えたショートソードを抜いて追い払うように正面を薙ぎ払った。

 ガルバドはそれを察知していたか、既に身を引いている。

 

 俺のショートソードの刀身が白く輝く。

 今回の探索で抜くつもりの無かったショートソードだ。それなりのレアドロで鉄の剣より遥かに硬く、そして軽い。

 こういう手合いにはとても頼もしい武器だ。

 

「教官!」

 

 ネルファの悲痛な叫びが後ろから聞こえる。

 

「いいか、絶対手を出すな。仮に俺が死んでもそのままだ。コイツはお前達が手を出さない限り手を出せん」

 

 今の一撃は挨拶みたいなものだ。コイツの職業は暗殺者アサシンだが、対人で不意打ちはしない。

 戦うぞ、という意思表示だろう。

 

「そうだ、もっと下がっておけ。言っておくが、攻撃を構えるだけで俺は敵だと見做すからな」

「きょ、教官! なんなんですかコイツ!」

「コイツはわざわざ遠い国から殺し合いの技術を磨くためにこの街まで来た超変わり者だよ! 冒険者と出会ったら相手が何人だろうが問答無用で襲い掛かる超迷惑野郎だ!!」

 

 俺はコイツと何度か組んだ事がある。

 はっきり言って強い。対モンスターにおいても時間を稼いでいればコイツが勝手に全て片付けてくれる程だ。

 ただ冒険者に必ず襲い掛かるのだけは本当に困る。四対一だろうが勝負を仕掛けるし、流石に負ける事も多い。一緒にチームで入っていた俺は突然一人にされるわけだ。相手にも迷惑だし味方にも迷惑で本当に困る。

 ちなみに俺はその時は魔法陣に速攻で逃げて待機する。冒険者は階層を跨ぐと会えなくなるので、ガルバドがやられても逃げられるようにするためだ。

 

 そして俺は、ガルバドの相手が一人の時、負けているのを見たことが無い。

 

「これは本当は秘密なんだが、ある程度の冒険者が意図的に初心者狩りをするとギルドから追放される事がある。アイツはそれを知ってるから初心者には攻撃はしない」

「そういう事だ、手さえ出さなければ本当に攻撃しない。経験にもならんしな」

 

 本当はこういった偶然の遭遇では対象にはならない。だがこうして研修にまで参加出来るレベルの初心者を狩ってしまうとギルドから嫌な顔をされる。

 人口は正義だ、その恩恵は俺達にも響く。人口が増えると食堂が広くなったり売店が広くなったりするし、メニューも増える。ギルドホームの選べる設備の項目だって増える。

 一方その逆、ギルドではむしろ犯罪より低マナーの方が重罪とされているまである。素行が悪かったり受付でいちゃもん付けたり態度が悪かったりすると買い取りを拒否されたり売り物の値段を割り増しされたりする。

 

 ガルバドは目立つので俺はコイツがこの街に来た頃から知っているが、ガルバドはここに来た当初本当に態度が悪く、ギルドから悪待遇を受けた事がある。

 今でこそ丸くなったが、その時の事を気にしているのか、基本的にギルドでは無言を貫き、他人に絡まなくなった。

 

「でも……」

 

 シーニアが遠慮がちに言う。

 あ、既に手に持つロングソードに力が入ってる。コイツ手出す気満々じゃん。

 ここまで快進撃を繰り広げたシーニアだが、流石にそういうのを隠せる程の経験はないか。いや、そもそも対人が初めてか、それは無理もない。

 ガルバドもそれに間違いなく気付いている。だから攻撃してこない。シーニアを警戒しているのではなく、本当に初心者を狩りたくないからだ。

 このままガルバドが俺に斬りかかれば、シーニアは反撃に出るだろう。そうなればガルバドはシーニアも斬らざるを得ない。下手をすればそのまま連鎖的にルピナやネルファも動く可能性がある。

 不可抗力とはいえ初心者を3キルするのはギルドの判定に引っかかるかもしれない。だからガルバドは待っているのだ。

 ガルバドが待っているのは……

 

「まぁ、なんだ、力抜けシーニア」

 

 シーニアがビクリと震える。そして握るロングソードからも力が抜けた。

 恐らく無意識だったのだろう。

 

 

「とりあえずアイツ片付けるから、黙って見てろ」

 

 

 俺は振り返らないまま、言い切った。

 

 その一言を切っ掛けに、ガルバドが動き出す。

 

「クク、大言だな。人間相手だといつも影から見ているだけの癖に」

 

 ガルバドが狼の口を歪ませながら笑う。

 うるせえよ、お前は俺が初心者に手を出させない一言を待ってたんだろ。

 そんなんカッコつけるしかないだろうが。

 

「ああそうだ、お前は見ている。俺の強さを知っている。だから戦ってみたかった。俺を知っている奴はどういう動きをするのか。俺に対する対策は何なのか。それを知れば俺はまた強くなれる」

 

 ガルバドは俺に何度も攻撃を仕掛けてくるが、そのどれもが様子見に近い。

 コイツは俺を試している。俺がどう動くのかを見ているんだ。

 

 ガルバドの言う通りだ、俺は今も考えている。

 コイツの強みは何と言っても速さだ。獣人特有の生まれ持っての速さに加え、それが職業によって更に強化されている。

 そしてコイツはズルいことに腕輪を3つ付けている。そう、腕輪を3つだ。本来腕一本に腕輪は一つしか付ける事が出来ない。

 コイツは尻尾に腕輪を付けている。なんと尻尾は腕判定にもなるらしい。ふざけんな。

 それを利用して普段は攻撃速度強化の腕輪を3つ重ねて、持ち前の速さで敵に急接近、速度強化が三重に乗った二刀流で一瞬で敵に六連撃を叩き込む。これがコイツの必勝パターンだ。

 事実対人においてもコイツに接近を許した相手は即座に微塵切りにされている。

 

「……」

 

 まず対策としては接近自体許さない事。だがそれでは俺も攻撃出来ない。よってこれはボツ。

 次に雷の杖。光の速度で電撃が飛ぶこの杖ならガルバドでも避けるのは容易ではない、他の杖は見てから避けられるので無しだ。だが今は持っていない。よってこれもボツ。

 最も簡単なのがガチガチの防具で攻撃そのものを無効化してしまう事だ。六連撃は脅威だが、一発一発はただの短刀の斬り付けでしかない。堅い鎧を纏っているだけでも大分楽になる。

 しかし俺は今回上層探索だからと言う事でいつものような鎧は止めて軽装程度に留めてしまっている。ガルバドの短刀の前では布と変わらないだろう。つまりボツだ。

 

 以上、これがガルバドへの対抗策である。全ボツ。終わった。

 だからーーーー

 

 

 奥の手を使うしかない。

 

 

「ハッ!」

 

 俺は接近して、ガルバドに斬り掛かる。

 

「む?」

 

 ガルバドはそれを難なく躱す。

 しかし突如攻めに転じた事で警戒しているようだ。

 そうだろう、盾を構えていたとはいえ、俺からガルバドに斬り掛かるのはリスクが高い。

 俺が剣を一回振るまでに、ガルバドなら六回攻撃出来る。俺のこの一回の攻撃はガルバドにとって絶好の攻撃のチャンスだった。

 しかしガルバドは攻撃をして来なかった、警戒しているのだ。俺がガルバドを知っているように、ガルバドもまた俺を知っている。

 ガルバドからはこの隙だらけの攻撃が何かしらの罠にしか見えないのだ。

 

「よし、目も慣れてきた」

「ほう?」

「次の一撃で俺はお前を殺せるぞ」

 

 俺はガルバドに剣を向けて煽る。

 これでいい、俺が現状で唯一勝てる点、それは心理戦だ。

 とにかくガルバドにとって理解出来ない行動を取る。そして俺の狙いを悟らせない。

 俺は深く姿勢を下げ、盾に隠れるように身を屈める。

 

「来いよ」

 

 そしてそのまま挑発を続ける。

 俺はいつまでも待ち続けたって構わない。そっちが逃げるならその時点で俺の勝ちだ。俺が攻めなくともガルバドは、この何かするつもり満々の俺に攻撃せざるを得ない。

 

「…………」

 

 動かない、数秒間完全な静寂が訪れる。

 俺も動くつもりは無い。

 

「……チッ」

 

 そして遂にガルバドが動く。

 右手に構えた短刀を少しだけ上に投げた。

 

 俺がその短刀に目を奪われた、その刹那。

 ガルバドは空いた右手を背中へと回し、そこから小さなナイフを抜き取って俺へと投げ放った。

 一秒にも満たない、呼吸を挟む暇もない動作だった。

 一瞬反応が遅れたが、驚きはしない。俺はガルバドが投げナイフを持っている事を知っていたからだ。ガルバドが敵に接近するために牽制に使う投擲武器だ。

 

 そして宙に浮いた短刀を右手で掴み、そのまま流れる様に投げたナイフと共に迫って来た!

 

 俺はその投げナイフを完全に無視する・・・・・・・。

 顔にさえ当たらなければ問題無い。そしてこの深く姿勢を下げた状態では顔にはほぼ当たらないだろう。それにこのままなら盾に当たる可能性が最も高い。

 なんなら肩に刺さろうが、足に刺さろうが構わない。

 それよりも、ガルバドの本命・・から目を離すほうが何倍も危険だ。

 

 そのままガルバドは左手の短刀で斬りかかって来る。上段からの斬り降ろしだ。

 俺はそれに合わせて盾を向ける。

 その時何か盾に当たった気がした。短刀か、それとも投げナイフか。

 

 次に右手の短刀も向けて来る。

 来た。これがガルバドの六連撃。上下左右、死角も関係なく、鋭い刃が次々と迫ってくる技だ。

 この小盾で防ぎきるのは至難の業だろう。

 

「フーッーー」

 

 俺は盾を押すように前に投げた・・・・・・・・・・。

 そして右足一歩分後ろに下がり、低く構えていた体を一気に張るように反動をつけ、剣を両手で上段に構える。

 ガルバドの右手の攻撃は空を切る。

 

「ーーハァー!!」

 

 そのまま剣を即座に振り下ろした。

 盾を囮に、ガルバドの攻撃を空を切らせ、その隙を斬る。

 俺の渾身の一撃だ。

 

 

「ーーーー甘い」

 

 俺の一撃も、空を切る。

 ガルバドは俺が剣を構えた時点で既に体制を整え、俺が振り下ろした瞬間にはもう身を逸らして俺の剣の軌道上から避けていた。

 

 そして隙だらけの俺の体に、

 

 

 俺の心臓に二本の短刀が突き刺さる。

 

 

「確かに良い一撃だった、が……ーー」

 

 ガルバドがなんか喋っている。

 ありがとうーーーー

 

 

 ありがとう、狙ったのが心臓で。

 

 

 俺は既に構えていた剣をガルバドごと自分に突き刺した。

 

 

「がッ!? お前!? まさ……ッ!?」

 

 そう、俺の剣は最初からガルバドを狙っていない。

 勿論当たれば儲けものだとは思っていたが、その程度の駆け引きならガルバドは何度も経験している。期待薄だった。

 俺は最初から自分の命を囮にするつもりだった。

 空を切った剣に力は殆ど入っておらず、むしろ振った後に力を入れていた。

 人の体は死んでからも数秒程度なら動く事が出来る。首ならともかく、刺されたのが心臓ならば尚更だ。むしろ俺は心臓が狙いやすいようにわざわざ盾を捨て、剣を上段に構え、胸の軽装を見せつけるように斬りかかった。一見この軽装の守りを頼りにしているかのように。

 案の定ガルバドはわざわざこの軽装の上から俺の心臓を狙ってきた。

 誤算はガルバドが思ったより俺の体に近く、俺の腕の間にいた事だろうか。これでは剣を振ってもガルバドに当たらない。

 だから俺は即座に剣を逆手に持ち替え、自分ごとガルバドを刺した。

 

 マイホームイズジャパン、アイアムブシドー、ハラキリは日本人の嗜みだぜ?

 

「そう、最初からこれが狙いだよ」

 

 そもそもの話、この状況でガルバドが相手では、俺は百回戦っても一度も勝てないだろう。これは単に俺がガルバドより弱いからという話ではなく、現状の相性の話だ。

 例えばゴーレム。ゴーレムは動き遅い代わりに高い攻撃力と防御力を兼ね備えた厄介なモンスターだ。だが、防御力が一切無いゴーレムがいたら?

 それがガルバドから見た俺である。薄い鎧を着た攻撃の遅い相手などガルバドからすればカモでしかなく、最も相性の良い相手なのだ。

 俺の剣を目で追いながら避け、その上で攻撃を入れる事が出来る程余裕のある相手。

 ならば向かい合っての剣の振り合いなど無意味でしかない。俺の勝負は如何にして俺の剣をガルバドの視界から外すかだった。

 俺の剣から目を逸らせる程の囮なんて、俺の命しかないだろう?

 

 そして最後は賭けだった。ガルバドが俺の首を斬るか、心臓を刺すか。

 首を斬られていたら俺の剣はガルバドを貫けていたか分からない。というかガルバドの位置的に無理だったろうな。首無しになった俺が最後の思いで剣を振れたとしても当たらなかっただろう。

 

「ひっ……!?」

「隊長!!」

 

 薄れゆく意識の中、背後から声が聞こえる。

 

 

「お前ら! もう帰っていいぞ! これで今ーー回のーーーー」

 

 

 俺は言葉を言い切らないまま、死んだ。

 

 

 

 

 






□暗殺者(アサシン)
 中級職。盗賊の上位職の一つ。
 盗賊の上位職だが、罠解除の上方補正は無くなる。その代わり敵探知力が大幅に上昇する。
 速度に大幅な上方補正が入る。中級職の中では速度の上昇率が一番高い。
 短剣短刀暗器の切断力に上方補正が入る。相手に刃が入った時、綺麗に素早く斬れるようになる。筋力に補正が入っているわけではないので注意。
 スキルは一切覚えないが、優秀な敵探知と高い速度がスキルと言える程優秀。
 所持出来る重量は盗賊の頃と変わらないが、重い物を持つと速度が下がるため、そもそも荷物を持つ事自体向いていない。
 装備は軽装までだが、盗賊とは違い長い剣も装備出来る。
 
 
◇ガルバド=ラガ
 職業【暗殺者】
 狼の獣人。この街とほぼ反対側と言えるほど遠い国からダンジョンの話を聞きつけて人種すら違う国にやって来た変わり者。黒色の体毛が全身を覆い、そこに更に黒のマントと黒のローブを体に巻き付けるように纏っている。
 暗殺者は盗賊の上位職だが、ガルバドに盗賊の経験は無い。そもそも獣人は種族にもよるが、手先が器用ではないため盗賊に就く事が出来ない。
 ガルバドは元々ダンジョンの外でも戦闘狂で対人の経験が豊富だったため、最初から幾つかの中位職が開放された状態だった。暗殺は好みではないが、補正が自分と非常に合っていたためこの職業を選んだ。
 暗殺者の聴力補正と自前の嗅覚で恐ろしい程正確な敵探知を可能とする。ナナシ曰く、敵に先制された事が無い。
 対人においてもその嗅覚は遺憾なく発揮され、相手が懐に隠した武器やアイテムすらも嗅ぎ分ける。それにより相手の切り札を先読みし、後の先を取る事が出来る。
 獣人にもよるが、顔や体付きが人間とは違うため、人間が誰でも装備出来る物が装備出来なかったりする。ガルバドは人間の兜や籠手が形次第で装備出来ない。その代わりではないが、ガルバドは尻尾が太く、その尻尾に腕輪を装備出来る。

 一匹狼だが、わりと誰とでもチームを組む。ナナシもその一人。
 ガルバドは荷物を持つ事を嫌うため、重い物を沢山持てる職と相性が良い。
 趣味は元々戦う事くらいしかなかったが、ダンジョン都市に来て魅力的な武器達と出会い、短剣短刀と収集と散財を覚える。
 ダンジョン攻略に全く興味は無かったが、強い相手と戦うため、そして欲しい武器が自身の生涯で見たことがないくらい高額だったため、初めての金策を覚える。チーム探しもその一環である。

「結局人を斬るのがどこの国でも一番儲かる」
 

 
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