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ーー☆ーー
「あー、死んだ。はぁ、今回は仕事だってのに……」
任務失敗、おいしい報酬も無しか。しかも3日潜れんと来た。
ダル過ぎる。
「おい……」
横でパンイチの獣人がなんかボヤいている。
「相打ち狙いは無いだろう……」
「うるせえ黙れ、お前のせいで仕事は失敗したし、暇になった。迷惑料、飯と酒でも奢れよ」
「俺も速度強化の腕輪三つと短刀二つロストしたんだがな……」
「あいつらから買えよ。今回のドロップ全部あいつらの物だし」
俺達は互いに装備とアイテムをロストしたが、あの場にはあの三人が残されたままになっている。
た、たぶん、俺の装備は返してくれるだろう。今回のドロップ品は全て初心者の物、それは俺の装備も変わらない。
でも、それはあんまりじゃん?
でも俺の装備重いからなぁ、あいつら持ちきれないかもしれん。
あんな上層であの装備をロストするのはかなり痛いが……、ダンジョンってそういうもんだしな。
俺とガルバドは慣れた動きでギルドホームへと向かった。
…………。
ギルドホームに入り、いつもの冒険者装備ではなく、街に向かう用の私服に着替える。
俺はペナルティで3日ダンジョンに潜る事が出来なくなったからだ。
街に装備は流石にいらない。
俺がギルドホームから出ると、続くようにガルバドもホームから出て来る。
普段の黒布ぐるぐる巻きではない、街で買ったような私服だ。
端的に言って、すっごい似合わない。
だが、口には出さず、共にギルドへ向かう。
「すみません、失敗しました」
「え?」
リュミレさんを呼び出して、報告する。
なんか久しぶりにリュミレさんの驚いた顔を見た。
「コイツと遭遇して、相打ちました。初心者三人組は置いてけぼりです」
「あー……」
俺は後ろで知らん顔しているガルバドを親指で指差す。
リュミレさんもこれには何も言えないようだ。
ギルドとしては苦言の一つも言いたいだろうが、対人戦はダンジョンのシステム的にむしろ推奨されている。対人戦を繰り返す事で開放される職業もあるくらいだからな。
「まぁ三人を待ちましょうか。予定通りだと日が暮れる前には余裕で帰って来れる筈ですし」
俺は流石に待つつもりだった。ガルバドに飯と酒を奢らせようとしているのはそのためだ。
ごめん! 死んだ(笑)じゃ、帰るわ(笑) と、仕事でミスして定時前に帰るようなマネは流石に出来ん。
7階で帰るように言ったし、そのまま帰りも探索無し真っ直ぐなら早くて1時間くらいか。探索込みで長くても3時間は掛からないだろう。
「で、お前も待つのか?」
俺は食堂の席に座ってガルバドに問いかける。
この食堂は夜は酒場になるが、一応昼からでも酒は飲める。久しぶりのまともな昼食でも食べながらガルバドと話すとしよう。
当然支払いはガルバド持ちだ、不満そうに会計をするガルバドの顔が忘れられない。
「ああ、武器も大事だが、腕輪はなかなか出回らんからな。同じ能力の物を3つとなると毎日フリマに通う事になってしまう」
腕輪は種類が多い分、自分が欲しい腕輪を狙うとなると本当に見つからない。
フリーマーケットと呼ばれる冒険者の市場が存在するが、そこでは本当に高い腕輪しか出回らない。
攻撃速度強化というニッチな腕輪は見つけても持ち帰る程じゃないし、フリマで売る程でもない。こういう腕輪は探すとなると本当に見つからないのだ。
「相場より高く売るぞ?」
「何故お前が決める? まぁ多少色を付けるくらいはしよう。相場ならそんなに大した額じゃない」
そうなんだよなぁ、あの時拾った綺麗な腕輪の方が高いくらいだ。
「じゃあ銀貨3……」
「相場の倍なんてもんじゃないな、銀2」
「まあそれくらいが妥当か、でも値段決めるのあいつらだからな」
普通にギルドで売ったら1個あたり大銅貨1枚って所か。それを3つで銀貨2枚なら破格だろう。
そして研修の延長線上として、交渉について教えるいい機会だ。これから先拾ったアイテムをギルド以外に売る機会は幾らでも来る。
今回のポイントは、安いアイテムを拾ったがそれを欲しがる冒険者がいる、という点だ。ギルドが付けた価値とソイツが付けた価値は全く別物だという事だ。
「じゃあ武器は?」
「……ギルドの売値ぐらいまでなら買おう」
もーちょい吹っ掛けても大丈夫そうだな。
まあ物によるか。腕輪もそうだが、ちゃんとあいつらが持ち帰るかも分からないし。
とりあえず酒をちびちびと飲みながら久しぶりのまともな昼食を味わうとしよう。
ダンジョン生活だと昼は殆どダンジョン内で携帯食料になるからな。食堂の昼食なんて久しぶりだ。
俺は肉にかぶりつき、そのまま酒を一気に半分まで飲み干す。
ぷはあ……。
昼間から肉と酒! 最高だな。
見るとガルバドも似たように肉を食いながら酒を飲んでいる。
……俺から誘ったし理由も分かるが、俺が殺した相手で俺を殺した相手、なんでこんな奴と俺は酒を飲んでいるのだろう。
俺もこの世界に大分毒されたなぁ。
ーーーー
「あ、いたー!」
あれから3時間。俺達は食堂でギルドの受付が見える席でちびちびと酒を飲みながら延々とガルバドと近況を話していた。
最近斬った冒険者だとか、この前フリマで見た短刀がどーとか、パオレンさんがまたダンジョンで寝落ちしたとか、コウのチームが上層ラスボスに挑んだらしいだとか、くだらない話をした。
そうして時間を過ごしていると、遠くから若い女の声が響く。
「隊長!」
「教官!」
「おーぉ、帰って来たかー」
あと隊長ではありません。今は教官かどうかも怪しいので面倒だから訂正はしない。
「うわ! 飲んだくれになってる!? 私達すっごい悲しかったのに! 帰って来たら飲んだくれになってる!!」
ルピナは俺を指差して言いたい放題言う。
ここまで酔ったのはお前達の帰りが遅かったからだよ。1時間くらいだと思ったのに。
「遅かったな」
「しかもなんでコイツもいるの!!?」
ルピナは当然のように座って酒を飲んでいるガルバドを指さして叫ぶ。
「俺の装備を拾っただろう、買うから売ってくれ」
「金貨1000枚!」
「殺すぞ?」
おお、いきなり素晴らしい交渉だ。相手の足元をこれでもかと見ている。
「まぁ落ち着け、先に受付に報告してこい」
交渉も良いが、やる事終わってからだな。
リュミレさんも三人を待っていた筈だ。
「あ、はい。でもなんて報告すれば?」
「普通に、冒険者に襲われて10階は行けなかったけど、帰還は出来ましたってさ」
帰って来てくれて本当に良かった。
体験ツアーで初心者を置き去りにした挙句、皆死にました。が最悪のパターンだった。
参加費に加え、三人の装備代まで俺に請求されていたかもしれない。
「行きました!」
「うん? え?」
シーニアに即座に否定される。
行った……?
「教官が言ってたじゃないですか、これならボスも大丈夫そうだなって」
「え? え?」
「三人で10階ボス突破して来ました」
ネルファが自信ありげに言う。
え? 行ったの?
10階ボスを、初心者の、初見三人で?
「あ、あぶ、な……おま……」
お前達が持っているのは中層冒険者クラスの武器と装備だぞ!? それも二人分!!
それを持って初見ボス!? あ、あわわ、、、。
リ、リスキー過ぎる……超ハイリスクローリターン、10階報酬を10個並べても全く釣り合わんぞ……。
叱りたい、怒鳴りたい。
だがダメだ、こんなにキラキラした笑顔で、こんなにやり遂げた表情してるのに、ここで叱っては可哀想だ。
い、いかん。怒ってはいかん……。
「硬い敵だったんですけど、隊長の剣使ったら余裕で斬れちゃって」
そりゃあ、あれ中層装備だもの……。10階ボスに中層装備なんて過剰もいいとこだよ……。
仮にレッサーガーゴイルが来てもバターみたいに斬れるだろうな。
「う、あ、うん、す、凄い、よくやったな……」
「あら、10階攻略されたんですねー」
俺が愕然としていると、受付から話を聞いていたか、リュミレさんがこちらまで来てくれた。
すげぇ、受付さんが受付から出てる。滅多に見れるもんじゃないぞ。
「では任務達成ですねぇ。お疲れ様ですー」
「え?」
「だって10階体験出来たじゃないですかぁ。じゃあ体験ツアーは達成ですねえ」
体験? 実践の間違いでは?
「では~こちらをどうぞ~。今回の報酬の銀貨2枚ですー」
リュミレさんから雑に手渡された銀貨を俺は受け取る。
本当にいいのかこれ?
途中から職務怠慢ってレベルじゃなかったんだけど。
分かりやすく言えば修学旅行中に教師が突然家に帰ったようなもんなんだけど。
……三人組に飯でも奢ってやろう。高いやつ。
勿論ガルバドには何も無し。今日の俺の報酬が消えたから奢らせてたんだけど、それでも何も無し。
言いたい事だけを言ってリュミレさんは受付へと帰って行く。
「で、俺の装備だが、そもそも全部持ち帰ったか?」
「短刀二本と、腕輪と、投げナイフが数本あります。服は血だらけだったんで置いてきました」
ガルバドの問いにネルファが答える。
あの黒布ローブたしか地味にレアだったんだけど、まあ仕方ないか。普通に見たら血まみれで穴開いたローブだもんな。
破損した装備はギルドの修繕所に持っていくか、修繕の書を使うと直す事が出来る。
しかし両方とも高い。上層では余程良い装備以外使う事は無いだろう。
「教官のバッグが大きかったんで、なんとか教官の装備も持って帰れました!」
「おお、ありがたい、それでだが……」
シーニアが俺のバックと、その中にある装備を見せてくれる。
俺はこの言葉の先を言わない。
「てことでこっちが教官の装備でー……」
「ちなみにダンジョンで拾った物は全て貴方達の物ですねー! 今回の講師が落とした装備も含めて!」
俺が何食わぬ顔でシーニアから装備を受け取ろうとすると、受付から横槍が入る。
クソがっ! 絶対気付いてなかったのに!
「えっ!」
その言葉にルピナが反応する。
おい?
「いや返しますよ! 命がけで守って貰ったのにそんな事出来ません!」
少しの悩みすらなくシーニアは俺に装備を返してくれる。
ああ、ええ子や……。育ちがええんやろなあ……。
俺はうるうると目に涙を浮かべながら装備を受け取る。
「うちでも高く買い取るんですけどねぇ、ああ白鱗装備……」
こらそこ、勝手に鑑定するな。
☆白鱗の聖剣
深く清い水に棲む白竜から作られた剣
神聖属性を持ち、霊体をも斬り裂き祓う事が出来る
軽く、鋭く、美しく、その刃は濁りを拒み、清き意志のみを斬り結ぶ
☆白鱗の聖盾
深く清い水に棲む白竜から作られた盾
神聖属性を持ち、霊体からの攻撃を大きく軽減する
軽く、堅く、美しく、その守りは濁りを拒み、不浄なる者を拒絶する
俺はこの二つの装備を確認し、安堵の息を漏らす。
ああ良かった! 俺の白鱗セットが生きて返って来てくれた。
60階からの森エリアの湖で中層装備相当の呪い装備を投げ入れて長時間待つと、湖から白い鱗の可愛い竜が出て来る事がある。
これはソイツからのレアドロップで、見た目と性能が優れた大人気の剣と盾だ。見た目も人気な事からお値段は性能以上にする。
戦士系じゃ手も足も出ない霊体系の敵すら斬れるこの剣は、俺のソロ探索の安定感を大いに引き上げてくれる素晴らしい剣だ。
超暇人しか入手出来ない装備と言われ、超暇人な俺はフリマで安い呪い装備を買い込んで一週間湖の前でキャンプした。
売るつもりで粘って入手した装備だが、正直苦労と値段が釣り合わなくて結局自分で使う事にした俺の思い出の装備だ。
「じゃあ俺の武器も返してくれ」
「返すわけないでしょ」
ネルファがガルバドの装備をテーブルに並べていく。
俺がおもむろにその短刀を一本取ってみる。
☆闇刻狼の爪刀
闇刻狼ルガの爪から作られた短刀
ルガを前にして逃げるという選択肢は存在しない
逃げた先もまた闇なのだから
「ガッツリ中層装備じゃねーか!!」
「うぐ……」
なんか怖い色してると思ったんだよ!
何がギルドの売値程度なら買う、だよ! コイツ初心者からとんでもない金額騙し取ろうとしてやがった!!
「鑑定済、ただ能力は無し、純粋な切れ味特化か、相場だと大銀貨7枚とかからか? しかもそれが二本でーー」
「ま、待て、勘弁してくれ、それは最近買った物で、おかげで今俺は金が無いんだ」
さてはコイツ上層で試し斬りしてたな?
これを四本分も買ったら大体金貨3枚に匹敵する、ガルバドからしたら相当な痛手だ。
ネルファが短剣とガルバドを交互に見つめながら何かを考えている。
「さて、どうする? ネルファ」
「えっ?」
「この装備いくらで売る?」
現状で唯一思考を巡らせているっぽいネルファに問い掛ける。
この初心者組の中で一番そういう計算が得意そうなのはネルファだ。ルピナは大きな金額を聞いて目が遠くなってるし、シーニアは交渉が得意そうには見えない。
「いや普通にこれも教官に渡すつもりで一緒に置いたんですが……、教官が倒した相手の装備ですし、教官の物ですよ」
「いや、お前達のだよ? 今回のドロップは全てお前達の物。ダンジョン入る前にも言ったし、さっきも受付の人が言ってたろ?」
「いや、でも……」
「気持ちは分かるが、俺は白鱗装備返して貰っただけで十分だよ。実はこの二つはそこの短刀よりずっと高い。報酬を正当に分配したとしても俺が一番貰ってる。これ以上は流石に貰えないよ」
嘘だ、流石にチームのメンバーが落とした装備は報酬の分配に数えない。落とし主に無償で返すのが普通だ。
でも良心で装備を返して貰った手前、これ以上は流石に受け取れない。
「交渉の練習にも良い機会だ、俺に遠慮せず三人で割るつもりでガルバドに値段を提示してみな」
その短刀が欲しい奴がいるなら話は別だが、と付け足す。
ルピナは盗賊なので短刀とも相性が良いが、流石に中層クラスの短刀は初心者にはまだ早過ぎる。
金に換えてその金で上層用の装備を揃えた方が何倍もマシだろう。
「……腕輪三つは幾らくらいになるんですか?」
「売値自体は大したことない、ただ、ガルバドが欲しがっているからその分値段が上がる。三つで銀貨2枚取れたら十分過ぎるな」
俺はさっき聞いていた額を提示する。この三つより短刀の方の値段が高過ぎる、こちらにはガルバドも文句は言わないだろう。
「……全部合わせて大銀貨10枚でどうですか」
「えぇ!?」
お、おぉ?
ネルファが額を提示する。後ろのルピナから悲鳴に近い驚愕の声が上がる。
ルピナはちょっと黙ってような?
「……構わない」
俺の相場読みでは恐らく大銀貨14枚前後、明らかに安い。
しかし相場通りではガルバドが諦める可能性があった。金欠みたいだし。
もしここでガルバドが買うのを諦めてしまうと、この三人でフリマで売る事になってしまう。そして中層性能の短刀というのはそう簡単には売れない。何日もフリマに籠る事になってしまうのだ。
だが相場以下となると話が違う。金欠のガルバドでも買った方が得という状況になる。金に厳しくなったら相場で売るだけで儲かるのだから。
落としどころとしては絶妙、だが若干安いか?
大銀貨もう2枚は乗せても大丈夫そうだが……。
「ただ、それに加えて、今度15階までの指導をしてくれませんか?」
「ネルファ!?」
シーニアが驚きの声を上げる。
これには俺も驚いた、自身を危険に晒した相手に教えを乞うと言うのだ。
「本気か?」
「本気です」
ガルバドが訝しげに確認する。
「どどど、どういう事ネルファ!」
「ガルバドさん、そこまで悪い人じゃなさそうだし。私今回の冒険でとにかく情報が欲しいって思った。中層の人に教えてもらえるのって、本当に大きいよやっぱり」
そんな大きかったかなぁ、俺途中で帰ったんだけど。
変態先輩に教わった事を話しながら歩いてたくらいだ。でも当時の俺には確かにタメになる話だったなぁ。
変態先輩元気かなぁ、2年くらい前に結婚して本土の方に引っ越したんだよな。
「あとシーニアに対人戦教えてあげてくれませんか?」
「何で私!?」
「だって今回で対人の危険さ分かったでしょ? この人たぶん凄いからこの弱みに付け込んで教わった方いいよ。シーニアなのは私じゃたぶんついていけないし」
すげぇ、一回で全部教わる気じゃん。
シーニアは戦闘の筋は良い。ただ対人の経験はたぶん無い。
あの才能にガルバドの対人技術を教われば鬼に金棒だろうな。一日じゃ無理だと思うが。
「短刀との相場の差額を考えると、それでも大分安い。俺は構わんが……」
「うー……」
「本人が嫌そうだぞ?」
シーニアが唸っている。
「怪我させない程度に戦ってくれるだけでいいです。それに、教わるのが嫌なだけで、戦いたくはあるみたいですよ?」
「ほう?」
「う…………」
シーニアは目を逸らす。
ああ、コイツも戦闘狂タイプか。
冒険者には結構いるんだよな、お金とか生活のためじゃなくて、戦いたいがためにダンジョンに潜る奴。
そういえば身なりが良いし、確かに金に困っていそうなタイプには見えない。
「ごめん、勝手に決めちゃったけど、ルピナはどうする? 15階探索」
「えー……私は遠慮しようかな……教官に教わる事にする」
「は? なんで俺が」
俺が頼まれたのは今日一日だけだ。また教えて欲しいなら銀貨2枚払って下さい。
「だって装備タダで貰ったじゃん」
「う! ぐ……」
痛い所を突かれた。その分を短刀の売値を受け取らない事で相殺していたのだが、それは俺が勝手に思っている事だ。
今更、じゃあやっぱり短刀の売値を分けてくれ、なんて言えない。
「……分かったよ、でも仕事じゃないからドロップは等分だぞ?」
「わーい」
俺も最近深く潜るのは控えている。暫く15階周回で遊んでもいいだろう。
控えてるというか……そもそもメンバーを集められないというか……。
上層ソロならもう平気だが、中層となると流石にソロは厳しい。
だが俺はコウのように固定メンバーがいない。固定メンバーのいない俺には中層を深く潜るのは安定しないし、下層なんて目指せない。
現状俺は詰んでしまっている。
習熟度上げに勤しんで、いつか出会うメンバーのために強くなるしかないのだ。
俗に言うと、まぁ、俺は暇人だった。
「あ、それと教官」
「俺はもう教官じゃないです」
ガルバドとの交渉を終えたネルファが話しかけてくる。
そろそろ教官呼びは訂正させて貰おう。
「じゃあ先輩」
「うーん……はい、なんですか」
まあ先輩ならいいか……。
名前呼び好きじゃないし、そもそもあれその場の勢いで急遽作った奴が定着しちゃっただけで、俺は名前に愛着が全く無いし。
「これどうぞ」
ネルファが俺に大銀貨1枚を差し出す。
「え?」
「ガルバドさんに売れた装備は大銀貨10枚。私達三人だと一枚余るんです。受け取って下さい」
いつの間にかガルバドとの金のやり取りが終わっていた。
ガルバド、ちゃんと持ってきてたんだな……。大銀貨10枚なんて大金だが、一応短刀の相場分くらいは持って来ていたのだろう。
「いやいいよ、悪いよ。リュミレさんに両替とか頼んだら一割くらい取られるから、それを三等分しな」
流石にリュミレさんもそこまで極悪ではないが、実際両替手数料は取られる。
残った額を三人で割ればいいだろう。
「いえ、本当は大銀貨12枚で交渉しようと思ったんですが、それだと三人で割れてしまうので10枚に下げました。そもそもあの短刀を拾えたのって先輩のお陰なんで、どう考えても先輩も取り分を受け取るべきです」
「そこまで言うなら……じゃあ遠慮なく……」
俺は遠慮がちに大銀貨を受け取る。
今日は銀貨2枚の儲けになる筈だったのが、更に大銀貨までやってきた。
ほくほくである。
「にしてもガルバドを講師にするなんてとんでもない事思いついたな? 怖くなかったのか?」
「いえあんまり、交渉の時に声を荒げたりしなかったし、無理な値下げもしてこなかったし、あと先輩とも仲が悪くなさそうだったので、怖さはあまりありませんでした」
よく見てるなこの子……。
「それに……」
「先輩に短刀の価値がバレた時、顔を逸らして耳ぺたんとさせて、なんか実家の叱られた猫思い出して可愛かったので」
とんでもない事を言い出した。
ネルファは口元を抑えて、フフフと笑う。
「お前……ガルバドに可愛さ見出すなんて、このギルドでもお前くらいだぞ?」
ガルバドはこのギルドではかなり嫌われている方だ。理由は言うまでも無くあの戦闘狂ぶりからである。ガルバドに殺された人は少なくない。
そんなガルバドを猫と一緒にするなんて、コイツもまた狂人か?
戦闘狂と戦闘狂と狂人、この三人の探索は一体どうなってしまうのか。
◇ネルファ
ナナシと出会った頃は暗い感じの魔法使いセットに暗い髪と、一見モブ魔法使いな見た目をしているが、呪術師になると呪い装備をデメリット無く扱えるようになるため全身が呪い装備になる。
かなり厳つい見た目になり、白や神聖さを出すシーニアとは正反対の存在感を出すようになる。
シーニアを軸に立ち回るデバッファー。アイテムの使い方も上手く、道中で拾ったアイテムも有効活用する。他にもチームの財布となり、お金の計算や相場の知識など、シーニアでは難しい判断もこなしていくようになる。
呪術師の恩恵はチームも受けられる。シーニアに呪い装備を勧めるが、死ぬほど嫌がられる。