今更ですが、この作品はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとはあんまり関係ありません。
「15階に行きたい」
最近俺はそんな思いを募らせていた。
10階周回をソロで繰り返した俺は大分実力が付いてきた自負がある。
というか、行けると思う。だって15階行ってる奴で俺より初心者いるもの。
ただ俺は大きな失敗が出来ない身の上だ。コイツ等は失敗しても暖かいお家と親の溜めた資産がある事だろう。冒険者を辞めたとしても他に進める道が沢山あるんだろう。
俺は全て失ったら、終わりなのだ。
しかし俺には降って湧いた幸運のお陰でそれなりに資産に余裕が出来た。10回連続で死んでも大丈夫なくらいの余裕だ。
だからこの余裕がある内に先に進みたい。
「はぁ」
俺はそんな胸の内を受付さんに相談していた。
「うーん、ソロ初見なら流石に死ぬかもしれませんが、貴方なら大丈夫そうにも見えますけどねぇ」
「そこなんですよ」
果たして俺はこのまま進んでも良いのだろうか?
このまま一人で、階段を一段づつ上るように、一歩一歩。
余裕が出来たんだから、もっと欲を出しても良いんじゃないか?
「俺、野良チームに参加してみようと思うんです」
野良チームとは、その日その場で募集して集まったメンバーでダンジョンに潜る事である。
そう、俺は切実に仲間が欲しかった。
正確には仲間に慣れたかった。
このままずっと一人でダンジョンに潜り続けたら、俺はいつか仲間が出来た時に正解の立ち回りが出来なくなる。
経験豊富なバンドのメンバーに一人、腕だけは良いギターが入るようなものだ。一人で弾けても、チームで弾けない。このままでは俺はそういう人間になってしまう。
俺には仲間と立ち回る経験が必要だった。
「あー……いや、うーん……」
珍しく受付さんの歯切れが悪い。
「野良チーム、悪くない判断だと思いますー。でも一概にオススメは出来ないんですよねぇ」
「それはどうしてですか?」
「野良、そんな場所に集まるのは基本的に仲間が出来ない人だと思って下さいー。コミュニケーション能力に問題があるとか、ダメな所を直そうとしない頑固者だとか、何かしら問題がある人が集まりますぅ」
「ああ……」
それは分かる、俺も昔はネトゲで基本的に野良で動いてたからな。たまに現れるヤベー奴を楽しむのも野良の醍醐味だ。
というかネトゲのランク戦とかだと固定は禁止されて味方は野良にされる場合が殆どだし。
「勿論そうじゃない人も多くいますぅ。いつものチームの誰かが休みだったとか、新しいチームメンバーを探すためとか、そういう目的で募集を掛けている方も多くいますぅ」
いいなそれは、俺もそういう募集を掛けてそうな所を狙ってみるか。
上手くいけば一気に三人の仲間が出来るかもしれない。
「明確に違うのは、固定チームには固定の、野良チームには野良の立ち回りがある事ですねぇ」
ああ……、それはそうだろう。ネトゲでも仲間内ではわいわいと楽しめるが、野良でやると立ち回りが軍隊そのもので、セオリーと少し違う動きをするだけで睨まれるんだよな。
「なんとなく分かります。たぶん大丈夫です」
「うん? まるで野良に経験があるかのような口ぶりですね? まぁそれなりの自信と覚悟があるなら大丈夫でしょう。別に失敗しても所詮野良ですからねぇ」
ゲームの無いこの世界じゃ野良なんて無いよなぁ。
「野良募集の掲示板はあちらですぅ、募集主になる場合はこちらで募集用を紙を差し上げますがー」
「あ、参加にします」
初見で@3※1は流石にキツいよ。
ーーーーー
俺が向かった掲示板には多数の紙が貼られていた。俺はそれを一つ一つ読む。
・15階日帰り 求)二人 盗賊1他自由
・25階 求)二人 僧侶1前衛1
・51~60階 日帰り 求)周回経験者のみ、二人、誰でも
・15階 求)一人 こちら戦士盗賊。全員女性のため女性のみにさせていただきます。
・51階 求) 二人 こちら戦将と氷魔。ポ持ち込み必須。集まったら会議します。
・15階 つよいひと はちみつください
・探索無し35階上層ボス 求)前衛二人募集。前衛3僧侶1で駆け抜けます。
・15階 求)1~2人。前衛のみ募集
色々書いてある……。なんだろう、親近感すら覚える文章だ。
10階の募集は無いな……。簡単過ぎるからだろうか。初めての野良だし、10階でも全然構わなかったんだが。
俺はその中から一枚の紙を手に取る。
・15階 求)一人 前衛のみ
素っ気ない募集文だが、俺の希望と合致している。
相手側が何人かは書かれていない。まぁ俺の今回の目的はクリアではなくチームを経験する事にある。俺はそのチームで最善を尽くせばいいだろう。
この募集の紙の右上に色付きの記号が書いてある。この色と記号の木札を持っているチームが今回俺が参加するチームだ。
俺は食堂と併設しているホールで、座っているチームを一つ一つ確認していく。
野良で募集をしているチームは分かりやすいようにテーブルの端に木札を置いていた。あれも違う、これも違うと俺が木札を眺めていると、ついに探していた色と記号の木札を発見する。
そこには男が二人、女性が一人座っていた。
三人は一見仲が良さそうに話している。
あ、これ、3パだ……。
説明しよう! 3パとは!
三人いるくせに四人目が見つけられないチームの事である!
これはチームの最大人数で可変する! 五人まで組めるチームで四人でノーマル戦に行ったりする奴に俺が付けた言葉だ!
つまり仲の良いメンツで組んで、残り一人を野良にするという、野良からすれば最悪極まりない行為である!
どうしよう、やっぱやめとこうかな。このチーム。
いや、早計過ぎるか。受付さんも言ってたし、この人達も普段は本当は四人で、今日だけ一人休みなのかもしれない。
「あ、どもー」
俺は直前まで考えていた初めましての挨拶を全て忘れて適当に声を掛ける。
一応募集の紙を見せながら。
「……」
「……」
「あ、チーム募集受けてもらえたんですねー! よろしくお願いしますー!」
「どうもー! 宜しくお願いしますー! 戦士ですー!」
女性の方だけが反応してくれる。
そのテンション合わせて俺も、まるで営業にでも来た他社の社員のように返事をする。
男二人はこちらを一瞥して、一転して無表情になり暗い顔で目を逸らす。
「ああ! いいですねー戦士! 私僧侶やってます! 怪我したら任せて下さい!」
「……盗賊です」
「っす……盗賊です」
…………うん! 男二人は挨拶すら無し!
つーか目すら合わねえ、声もボソボソで聞き取り辛い。さっきまでそれなりの声量で喋ってた癖に。
もういいや、肩肘張って損した。適当にやろ。
つーかこの二人なんて言った?
俺の聞き間違いじゃなきゃヤバい事言ってなかった?
「……すみません、三人の職業もう一度聞いてもいいですか?」
「あ、僧侶に盗賊二人ですねー」
俺は反応が期待薄の二人には聞かず、女性に問い掛けた。するとさっき微かに聞こえた言葉は聞き間違いではなく、正しかったのだと再確認させられる。
いやなんで?
チームに一人いれば十分と言われる盗賊が二人?
「チーム集まったし早く行かね?」
「行こうよいちごねこみるくちゃん」
え、名前やば。
「あ、うん。じゃあ行きましょうか!」
席から男二人が立ち上がり、いちごねこみるくちゃんを男二人が挟むように三人はダンジョンへと向かった。
三人はとても仲良さげ……じゃない! あくまで女性が中心で、男二人はお互いに目も向けず、全く仲良さそうじゃない!
あ、俺気付いちゃった。これ…………
姫プだ!!!
説明しよう! 姫プとは!!
姫プレイの略で、女一人にモテない男が群がって女一人をチヤホヤする現象の事である!!
凄い、こんな異世界でこんな馴染み深い現象に遭遇するなんて。
男と女さえいればこの現象は異世界だろうが関係無いのだろうか。
感動で冷や汗が止まらない。もう嫌な予感しかしない。
しかしなんだろう、この止まらないワクワクは。まるで酷評されているB級サメ映画を衝動で買ってしまったかのようなワクワク感だ。
俺は今から時間と金を無駄にする。その覚悟無しではこの道は進めないだろう。
しかもこれ能動的姫プだな?
姫プには受動型と能動型がある。俺がそう名付けた。
受動型は本人と意志とは無関係で姫プの状態になってしまう事。ネトゲでは女性の人口が少ない事もあり、女性が意図しないまま男が勝手に張り切って姫プになってしまう事が多いのだ。
そうして貢がれる環境や勝手に男が争う環境に耐えられず辞めてしまう女性も少なくない。
能動型はその逆、女性本人が狙って姫プの状態に持ち込む事だ。
男しかいない漫研等に一人入り込み、特別扱いを望むような女性の事である。強い承認欲求を持つ女性が行う事が多いが、これには同時に強い精神力も必要になる。これは男の性欲や良心を逆手に取る行為であり、心が弱い女性では罪悪感で潰れてしまう。
今回は見た感じ能動型。恐らくは受動型から能動型に変化したタイプだ。
気が付いたら今みたいな感じになっていて、それに気付いた上で受け入れて利用している。そういう風に見て取れる。
俺は三人と後に着いて行きながら推理を開始する。頭の回転が止まらない。
まず分かる事がある。コイツ等は弱い。
15階は三人いれば十分と言われている。にも関わらずどうして四人目をわざわざ募集したのか?
勿論四人集めて万全を期そうとしたのかもしれない。だが俺はそうじゃないと睨んでいる。何故ならこの男二人がこうして他者の存在を疎ましく思っているからだ。仲間内ですらこの有様、赤の他人の男など目にも入れたくないだろう。
では何故それでもメンバーを募集したのか?
勝てなかったからだ、もしくは安定していないか。
例えば俺が初めての10階で出会ったレッサーガーゴイル。戦士も魔法使いもいないこの三人では相当厳しいだろう。その更に上の15階ボスは言うまでもない。
今回俺は剣を置いて鈍器でも持ってくるべきだったか?
いや、いいか。鈍器系は重いし、今回は特に重量を意識しておきたい。
盗賊盗賊僧侶だぞ? コイツ等普段誰が荷物持ってるんだよ。言っておくが俺は自分の取り分以外は持つ気無いからな?
挨拶もしてこない奴の荷物など持つわけがない。
ああ、これだよ。この突然足元が闇鍋になる感覚。敵にではなく仲間同士で暴言が飛び交い、それがもはや挨拶や日常となる。
野良はこうでなくちゃ。ああ、俺が知っていた世界はここにもあったんだ。
そう、俺は重度のネトゲプレイヤーだ。それもピリピリギスギスの複数人での対人戦が大好物である。
思えば仕事するかネトゲするかしかない人生だった。
こうしていちごねこみるく隊は闇鍋の癖に闇の中へと向かうのであった。
□ダンジョンの場所
ある日漁師がいつも通り漁をしていたら、見慣れぬ島を発見した。その島は見逃していた事があり得ない程大きく、人が住むには十分過ぎる程の大きさがあった。
調査の結果、その島には見慣れぬ動植物が生息しており、どれも美味で動物は家畜としても優秀だった。山からはその時希少で価値の高かった鉱石すら採れた。
国はそこに街を作り、その街は驚くほど幸運に恵まれ、瞬く間に発展していった。
街が十分に発展しきった頃、突如として街の中心部がごっそりと消えてなくなった。そこにあった建物はまだ使われていなかった土地に移動されていた。そしてその街の中心部には掘る事すら出来ない謎の大地と、見慣れぬ光を放つ不気味な建造物があった。
□一等地を確保していたのに街の端に店を飛ばされた商人
「は?」
□後日その謎の土地の権利を主張し再び店を構えるも落雷で開店一日で全焼した商人
「は?」