ダンジョンは浅い付き合いで   作:未来遡行

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A-1-2 ダンジョンって結局何なんですか?

 

 

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 俺はダンジョンの中を駆けていた。

 俺はあの変態先輩から話を聞き、ダンジョンに潜るのが現状最善であると判断した。

 

 

 

 ーー☆ーー

 

 

 

「記憶がねぇ、金がねぇ、家がねぇ、服もねぇ……終わってんな。お前もしかして異世界人か?」

 

 変態先輩は俺の話を聞いてある結論に至った様だった。

 

「え、あ、たぶん」

 

 その質問に俺は正直言って困惑した。

 異世界人、なんとなくそれを言うのは憚られる気がしていたからだ。それを言い当てられたようで若干の気まずさが走る。

 

「あー、なるほどな。しかも来たのは今か。まぁ詳しく話すと長くなり過ぎるからギルドで聞け。俺はこんな格好でここに長居する気は無いからな」

 

 ほれ、ギルドはあそこに見える建物だ。と付け加える様に説明してくれる。

 見るととても大きな建物と独特な旗が見えた。日本においてもあれほど大きな建物はなかなか見ない。海外の文化遺産のような外観だ。

 

「まぁとりあえず金も服も無いお前は先にあのギルドの正面にあるダンジョンに入るのがオススメだ」

「ダンジョンって結局何なんですか? 私の感覚だととても危険な場所という認識なんですが。そんな場所に裸で行って何になるって言うんですか?」

 

 ダンジョン、ゲームにおいてそれは危険な魔物が徘徊する場所だ。ゲームの主人公ならそこには探索であったり、必須ルートであったり、そういう目的で向かう場所。

 断じて裸で向かって良い場所ではない。たとえゲームだとしても俺は主人公の装備も無くパンツ一丁で向かわせるなんて酷い事はしない。

 

「ダンジョンは主に金稼ぎする場所だな、この街で最も金を稼げる場所だ。確かに危険な場所だが、死んでも失う物が無いお前にはノーリスクだ。ダンジョンなら衣服も手に入る、今のお前に最も必要な物だ。衣服と少しのアイテムを拾えたら速攻帰ってギルドで売れ。それを繰り返して数日分の飯代と宿代と確保しろ」

 

 ぐぅ、確かに金が欲しい。とりあえず服が欲しい。

 異世界転生? ゲーム世界召喚? 何でも良いがあまりに理不尽過ぎる。初期装備すらくれないのか。

 

「そこからはお前の自由だ。どっかで働いてもいいし、そのままダンジョンに潜ってもいい。まあアレだよ、第二の人生スタートってやつだ」

「第二の人生……」

 

 俺は死んだのか? 思い残す事は……流石にそれなりにある。突然の事態過ぎて死んだ実感なんて欠片も無かった。

 

「ダンジョンに初めて入ってから最初の3ヶ月はノーペナだし、3ヶ月は潜ってみてもいいかもな。迷信程度だが、初心者はレアアイテムと遭遇する確率が上がるらしいし」

 

 そういや異世界人は何も持たない分更に確率が上がるとか聞いたな、と変態先輩は続けた。

 ダンジョン、レアアイテム、確率、どう聞いてもゲームだ。

 

「ノーペナ?」

「ペナルティだよ。ダンジョンで死ぬとペナルティで3日入れなくなるんだ。初心者にはそのペナルティが無くなる。ああ、装備や持ち物は死んだらその場でロストだからな? これはペナルティ関係ない」

 

 ああ、全ロス※1はなんか察してたよ。あんたパンイチだもの。

 しかしペナルティという割に3日入れない程度か、そんなのペナルティにも入らないな。

 

「だから初心者に限りパンイチ連打ダイブが出来る」

 酷い単語だ。

 

「先にギルドに寄ってもいいけど、金無いなら何の意味もないぞ、職員と気まずくなるだけだろうな。先にダンジョンにパンイチダイブして何とか銅貨15枚分稼げ、たぶんそれでその日の飯と寝床はなんとかなる」

 

 銅貨15枚……間違いなくここでの通貨だろう。高いのか安いのかも判断付かない。

 

「じゃあ俺はそろそろ帰るわ、流石に恥ずかしいし。これ以上聞きたかったら何か拾ってからギルドで聞きな。ギルドならそのまま買い取りもしてくれるし、異世界人ですって言えば色々お前が知りたい事も説明してくれるだろう」

「説明にもお金がいるんですか?」

「いや、説明にはいらんと思うが、あいつら銭ゲバだから。金が無い上にダンジョンにビビってる奴とか相手にもされないだろうよ」

 

 なるほど、まずダンジョンから金を持ち帰って度胸を見せろと。この世界、異世界人に優しくない。

 

「逆に言うとダンジョン始める奴は金のなる木みたいな扱いを受ける。まぁこれからの金ヅルだから大切にされるだろうよ。じゃあな」 

「あ、はい。色々とありがとうございました」

「いいよ、初心者には優しく、ダンジョンの鉄則だからな」

 

 このゲーム世界は意外にもマナーが良いらしい。

 変態先輩はギルドとは反対方向に歩いて行った。

 俺は結局どうすべきか考える。それに確かめたい事もあった。

 

「あ、そうだ」

 

 ふとそんな声が聞こえる。見ると変態先輩が振り返っていた。

 

「最上層のレアドロ※2はポーションだ。見つけたら速攻帰って売れ。もし酷い怪我をしていたとしてもダンジョンから出れたら入った時の状態に戻るから、怪我しても帰れそうなら絶対使うな。どれがポーションかは拾えば直ぐ分かる」

 

 じゃあな、最後にそう言って先輩は去っていった。最後まで優しい人だった。

 それにしてもポーションがレアドロップ扱いか、どうなっているんだこの世界は? その最上層という区間にはゴミしか無いんじゃないか?

 

 

 

 

 ーー☆ーー

 

 

 

 

 俺はあれからあの場にこっそりと待機し、墓場から人が這い出て来るのをもう一度確認して、変態先輩の言っていたダンジョンに向かった。

 ダンジョンの場所はとても分かりやすく、巨大な白いピラミッドの様な建物と、淡い光を放つ入口が一際異世界感を感じさせていた。

 先程の土の地面と違い、ダンジョンやギルドの周囲に限り地面が整備されており、まるで高級感のあるアスファルトのような地面が更にこの辺りの異質さを際立たせている。

 

 両脇に憲兵の人がいたので、更に聞いた。

 

 このダンジョンでは人が生き返るというのは本当ですか? 

 

 俺は正直未だに信じられずにいた、人が生き返るという原理が。

 

 憲兵は二つ返事で答えた。

 はい、生き返りますよ。勿論ここ、ダンジョンより外で死亡された場合は別ですが。

 

 やはり皆生き返ると答える。信じられないが、本当らしい。実際墓から這い出る人間だって見た。

 もう信じるしかない。何より金が無い。行くアテもない。信じてダンジョンに潜るしかない。

 

 俺がダンジョンに入っても大丈夫ですか。

 ええ、犯罪者以外は誰でも入って構いません。子供でも、老人でも、パンイチでも。

 

 憲兵は淡い光を放つ魔法陣を指差した。すると今も誰かがその場所に立ち、そして消えていくのが見えた。

 もはや魔法だ、あれが入口とは末恐ろしい。生き返る事といい、この入口といい、強大ななにかの力を感じずにはいられなかった。

 

 そして俺も、その魔法陣に立った。パンイチで。

 

 

 俺の異世界生活が始まった。

 

 

 

 

 

 ーーー☆ーーー

 

 

 淡い光に包まれて、光が収まった時には俺は先程までとは全く別の場所にいた。

 室内、いや、洞窟内? 石の壁、土の通路、それでいて天井は遠く、暗くて何があるかすら見えない。

 通路も狭いという事は全く無く、五人くらいが横一列で歩いても余裕があるくらいの広さだ。

 

 数分歩いても今の所人と出会わない。自分より先に何人もあの魔法陣を通ったのを見届けたのにも関わらず、だ。

 地面を足で強く擦ってみれば、当然そこに足の跡が出来た。つまり足跡、人がここを通ったなら痕跡が残っている筈なのだ。

 しかし地面には何の跡も残っていない。たぶん今日ここを通った人間はいない。

 別の場所に飛ばされている? 正直誰かに助けて貰いたかったが、ダンジョンというのはそこまで甘くはないらしい。

 

 

 暫く進み、あれから俺は三つの小部屋を発見した。

 

 部屋の中は様々だったが、全部ハズレだった。

 一つは椅子やテーブル等の古惚けた家具が置いてある部屋、木製の家具以外売れそうな物は無かった。

 二つ目は壺が沢山置いてある部屋だった。全てひび割れていたし、穴も空いていた。それでも壺の中まで何かないか探したが水すら入っていなかった。

 三つ目の部屋は木の扉を開けた瞬間緑色の化物がなんか3匹くらいいた。即閉じして逃げた。

 見たのは一瞬だったが一番何かありそうな部屋だった。が、あの部屋を探索する度胸も装備も俺には無かった。

 

「やはり戦闘は全て避けていこう」

 

 今も先程すれ違った緑色の化物……てかコイツが変態先輩が最初に言っていたゴブリンだろう。

 俺の思うゴブリンのイメージとほぼまんまだし。

 今も先程すれ違ったゴブリンが俺を背後から追っている。汚い奇声を上げながら。

 だが体格も歩幅も速度も全て俺が上回っている、軽く走る程度で撒く事が出来るだろう。

 問題なのは追われてる間は探索が出来ない事か、既に怪しそうな部屋を二つ程スルーしてしまっている。

 

 早く諦めてくんねぇかな。一発くらい蹴り入れとけばよかったか?

 余談だが俺に格闘の経験なんてものはない。運動部ではあったが空手や剣道等の武術は習った事が無いし、誰かと喧嘩した事も無い。

 普通の公務員で、ゴブリンみたいな客が来るくらいだった。

 

「おっ」

 

 十字路を右に曲がると直ぐそこに木の扉があった。

 曲がって直ぐのこの部屋ならゴブリンも見られていない。ゴブリンなんてどうせサボテンくらいの知能しかないだろう、この部屋に入ったとは思うまい。

 

 俺は勢いよく扉を開ける。

 そーっと開けないのは中にヤバそうな奴がいないか瞬時に確認するためだ。

 

 …………ゴブリン無し! ヤバそうなの無し!

 確認した後は物音を立てないように中に入り、そっとドアを閉じる。

 そしてそのまま動かず扉の裏で待った。

 

 …………。

 

 中に入ってくる気配は無い。扉の前にいる様子も無い。どうやら諦めたらしい。

 

「さて探索たんさ……おお!」

 

 あ、あれは!!

 俺は古惚けたテーブルに掛けられていた物を手に取った。

 

「布だあああああああ!!」

 

 もし前の世界でこんな古惚けて埃を被った布を見たら俺は即座にゴミだと判断するだろう。

 しかし今の俺には神アイテムに等しかった。

 羽織っても良し、腰に巻いても良し、ついに俺はパンイチから解放され……

 

 

 ☆布のマント

 

 

 不意に脳裏にそんな言葉が過った。

 ヒュッ……と、頭が急激に冷えていくのを感じた。

 

 布を広げると確かに首元に該当する部分があり、確かにそれはマントだった。

 

 あー、そういう……

 本当にゲームだ。ウィンドウも何も無いが、確かに頭の中に文字が浮かんだ。

 戸惑いつつも、念入りに埃を払って、マントを首に掛ける。

 これでパンイチマントに俺は進化した。変態から変質者ぐらいまではレベルが下がった事だろう。

 

 先程まで危険な状態にあったという興奮が冷えてゆくのを感じながら、俺は久しぶりに感じる布の暖かさに身を寄せた。

 確かに変態先輩は言っていた。ポーションは拾えば分かると。そういう事だったのか。

 

 

 ここは本当に元の世界とは何もかもが違うのだと、俺は本当に異世界に来たんだなと実感しながら、俺は部屋の探索を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

※1
全てロスト、の略。ここでは衣服も含めて全ての持ち物を失う。

※2
レアドロップ、珍しいアイテムが落ちる事。この世界ではダンジョンから得られるアイテムの事をドロップと呼ぶ。






☆初期パンツ(男)
 墓場から蘇る場合、強制的に装備されるトランクス。絵柄はランダム。
 外すと空気に溶けるように消える。尚、衣服を一切所持していない状態で外すとどこからか雷が落ち天罰が下る。
 プリンターすら無いこの世界で精巧な絵柄がプリントされたこのパンツは明らかなオーパーツであり、何人もの研究者がこのパンツに挑み、敗れた。

 防御力は一切上がらず、刃物は素通りするように貫通する。だが、切れる事はない。
 斬り刻めば中の肉だけが切り刻まれ、パンツだけが無傷で綺麗に残る。
 それは明らかにこの世の理を超えた、神のパンツであった。


 
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