ダンジョンは浅い付き合いで   作:未来遡行

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 とてもとても今更ですが、言い忘れていたので明記。
 この小説は体に剣を刺したり体の一部が吹っ飛んだり首が吹っ飛んだりしますが、グロテスクな表現は基本的に避けるように書いています。怪我や傷に対する状況説明は最小限にするつもりです。たぶん。


 


A-4-2 もうMPKしようかな

 

 

 

 

 現在4階、進行は思ったよりも順調に進んでいく。

 というか10階までは俺一人でも十分に進める。流石にそこまでは躓く事は無いだろう。

 

 ただまぁ正直イラっとする事はかなりある。

 

「はっ!」

 

 今も俺がモンスターの一人を斬り捨てる。

 そして俺はドロップが無いのを確認して、横に退けて立つ。

 

「…………」

 

 数秒、待つ。

 その内男の一人が前に出て進み始める。

 

 これだよ。

 コイツ等盗賊の癖に道中前に出ようとしねえ。隙あらば女と話そうとする。

 百歩譲って戦闘で前に出て来ないのは分かる、盗賊だし。だが道中の警戒は間違いなく盗賊の仕事だ。変態先輩にもそう教わった。

 俺がやったって別に良いが、せっかく盗賊が二人いるんだ。前後の警戒くらいはしてもらおう。

 

 何よりコイツ等全員を背後にしたくない。

 実は、俺はずっとコイツ等が裏切って俺を攻撃してくるんじゃないかと警戒していた。戦闘中もずっとだ。

 チーム結成からダンジョンに入るまでに俺はギルドホームに寄れていない。まさか話し合いも無く即出発となるとは思っていなかった。

 一応初めての野良、初めての15階という事もあって舐められないようまともな装備を着て来ている。それを背後から仲間に襲われて奪われたとあっては悔し過ぎて一週間は眠れないだろう。

 

 しかしコイツ等は俺の警戒に気付く様子も無く、前を歩く男はダルそうに、もう一人の後ろの男はいちごねこみるく氏とずっと話している。

 前を歩く男はともかく、後ろの男は背後の警戒を全くしてないな。本当に盗賊か?

 まぁいいや、それで死ぬのアイツだし。

 

 逆にもうMPK※1しようかな……。いや、流石にそれは低マナー過ぎるか。

 こんなんでも初めての野良だし、善良な冒険者を心掛けよう。

 

 

 ーー☆ーー

 

 

 続く10階ボス、さぁここが鬼門か?

 俺達いちごねこみるく隊は快調にダンジョンを進み、既に10階のボス扉の前に立っていた。

 ここまで驚くほど何もなかった。当然と言えば当然だが、俺がソロでここまで来るより楽だったくらいだ。

 戦闘はほぼ俺がメインだったものの、複数体現れた時は流石に何体か引き付けてくれるし、罠の発見や処理もしてくれる。久しぶりのチーム探索だが、やはり仲間の存在の大きさが染み渡る。

 

「やっと10階ボスですね! 弱いボスが来ると良いんだけどなぁ」

「そうですねー、弱いの来るといいっすねー」

 

 俺は軽く返事を流しながら答える。

 ただ、それでも正直俺は帰りたかった。

 やはり戦闘が俺メインになっているのは不安要素でしかない。せめてコウのような頼れるアタッカーがもう一人欲しかった。

 15階で俺一人で勝てない敵が現れてしまったらどうするのだろうか。

 

「じゃあいきますよー!」

 

 いちごねこみるく氏がボスへと続く扉を押す。ゴゴゴゴゴゴと重く扉が開かれる。

 

 ガーゴイル来いガーゴイル来いガーゴイル来いガーゴイル来いガーゴイル来い……。

 クォブツを殺しかけたアイツならコイツ等全員まとめて吹き飛ばせる。

 事故ならしゃあない、事故は仕方ないよ。一人でも死んでくれたら今からでも引き返せる。

 

『グルォオォオオオオオ!!!』

 

「きゃっ! レッサーガーゴイル!! 強いボスだぁ……」

「ッ……厳しい戦いになりそうですね」

 

 しゃああああああ!!!!!!

 運だけは舐めんなよコラ!!! 俺は運だけでこの世界生きてんだよ!!!

 

 ヤバい、あまりに運が良すぎて吹き出しそうになった。

 顔を無理やり真剣な表情に切り替えて女に同意する。

 

「盗賊さん、アイツの注意引き付けられますか?」

「えっ?」

「無理すか、じゃあ俺注意引くんで、攻撃お願いしゃっす」

 

 ちなみに俺はソロでも討伐出来る。俺は既にコイツの攻略法を熟知しているつもりだ。

 あれから俺は一ヶ月も10階を周回していたんだ、レッサーガーゴイルと当たったのも一度や二度ではない。

 正直慣れてしまえばコイツはあまり強くない方だった。

 攻撃が単調で、動きも遅い。直前の動作からどんな攻撃をしてくるか読みやすく、それさえ分かれば受けやすいし、避けやすい。

 このダンジョンでは回復が高価な関係上、手数や速さで攻めて来る敵の方が何倍も辛い。包帯のような常識的な治療具も存在するが、以降の戦闘に響く骨折や刺し傷等の怪我は実質致命傷に近い。

 一撃が重い代わりに避けやすいコイツは俺から言わせれば良心的な方だった。

 

 最大の難点は、剣の耐久度を大きく摩耗する事。

 砂や岩に近いコイツを剣で斬ろうとすると剣が持たないのだ。実際過去に一度戦闘中に剣が折れた事もある。

 戦闘中に武器を失った俺は焦りのまま盾で殴りつけた。そしたらなんと殴った箇所があっさりとヒビが入ったのだ。

 打撃が極めて有効だと知った俺はそこからちまちまと盾や折れた剣で殴り続け、全身を削るように倒し切った。

 結果として剣で斬るよりずっと時間は掛かったが、剣無しでも勝てる事を知ったのだ。

 ちなみに鞘に入れて殴るのは駄目だ。何故ならこの世界では拾える鉄の剣より、オーダーメイドになる鞘の方が圧倒的に高いから。

 

 てことで、俺はコイツを斬りたくない。回避に徹させて貰おう。

 俺の剣はこの先も必要なんでな、メンツを揃えてから会議も武器の確認もしなかったお前達が悪い。確認しなかった俺も悪……くないな、そもそも話す暇も無かったし。

 

 俺は三人の前に立ち、レッサーガーゴイルへと向かった。

 レッサーガーゴイルに向けて盾を構える。俺の自慢の上質な木の盾だ。レッサーガーゴイルのような打撃主体の相手には心強い盾である。

 

「グルォオオオオオオオ!!」

 

 俺の立ち位置はこのレッサーガーゴイルの射程の端。腕を伸ばしてギリギリようやく拳が俺に届くくらいの範囲だ。

 俺の攻撃は当然全く届かないが、避けに徹するならこの位置が最善だ。

 コイツは攻撃を加えると暴れる事がある。その暴れには前動作が無く、動きが読み辛い。

 だがその暴れの射程は腕を伸ばした時の半分程度、今俺が立っている距離には到底届かない。

 

 レッサーガーゴイルが右腕を上げて後ろに下げる。

 右腕を体より引く形から来る攻撃は間違いなく右ストレート、来るタイミングは……

 

「拳が内側を向いた時」

 

 予想通りのタイミングでレッサーガーゴイルから拳が放たれる。

 俺はその直前に横に飛ぶ事で悠々と避け切る。

 読み通り、というかこの距離でのコイツの行動は近付いて来るか、こうして腕いっぱい使って殴りに来るかの二択しかない。

 

 そして振り切られた拳に、俺の空いた右手で手を痛めない程度に殴りつけた。 

 俺に殴られた事でレッサーガーゴイルの右腕に少し欠ける。

 打撃に弱いコイツなら筋力補正が乗る戦士の拳はそれなりにダメージが入る筈だ。しかしそれはダメージを期待しての攻撃ではない。

 ヘイト管理のための拳だ。

 

「グォオオオオオオオ!!」

 

 この世界はともかく、このダンジョンという施設はとにかく俺の知っているゲームに近い。

 ヘイト管理とは、敵のこちらへの注目度の事。

 モンスターが誰を狙うのか、それは当然モンスターによって変わる。

 目の前の奴を狙うモンスターもいれば、後衛を執拗に狙うモンスターもいる。回復役をとにかく優先して狙うモンスターだっている。

 俺が今やったのは、単純なダメージを与えるヘイト管理だ。

 モンスターの正面に立ち、尚且つ一番ダメージを与えた相手は基本的に最も狙われやすい。余程特殊な狙い方をする相手以外はこれが最適だろう。

 

 勿論この世界はゲームではなく現実だ、ゲームの考えであるこれが有効であるのかは分からない。

 だがそれでいい。検証に無意味なんて事は無いのだ。効果が無くとも、効果が無いという結果が得られる事自体に意味があるのだ。

 せっかくチームで来たんだ、更に言えば戦闘中に検証しても構わないような連中だ、存分に試させて貰おう。

 

「チッ……」

 

 俺が攻撃を避けると同時に盗賊二人がレッサーガーゴイルの左右に回る。

 これで距離は盗賊二人の方が近くなった、レッサーガーゴイルはどっちを向く?

 近い盗賊か、ダメージを与えた俺か。

 

「グルル……」

 

 俺、か。盗賊二人には見向きもしない。

 そもそもあの二人が視界に入ってない可能性もあるか、それとも盗賊に敵からの注目度を下げる効果でもあるのか? 要検証だな。

 

 レッサーガーゴイルがもう一度右腕を引き始める。

 同じ行動を二連続か、俺がその攻撃でしか届かない距離にいるから当然と言えば当然なんだが。

 

 同じようにもう一度飛んできた拳を難なく避ける。

 その攻撃の隙に合わせて盗賊二人が動いた。

 二人は短剣でレッサーガーゴイルの足を斬り付ける。

 しかしレッサーガーゴイルはそれに意も介さず、俺に次の攻撃を仕掛けようとしている。

 

 ……二人とも足を狙ったな? 確かに一番攻撃しやすい部位ではあるが、二人同時だと意図があると考えた方が良い。

 レッサーガーゴイルは足から狙うのが一般的なのか?

 俺はレッサーガーゴイルを警戒しながら思案に耽る。すると……

 

「『ポール』!」

 

 不意に背後からそんな声が聞こえた。

 いちごねこみるく氏だ、彼女のいた方向から半透明の光る白い球体のような物がそれなりの速度でレッサーガーゴイルに向けて飛んでいく。

 それはレッサーガーゴイルの胸元に当たり、弾けた。

 

「グゥオオオオ!!?」

 

 魔法だ! そういえば失念していたが、いちごねこみるく氏は僧侶だった!

 僧侶から攻撃魔法が放たれたのだ!

 一見弱そうに見えた魔法だが、レッサーガーゴイルには目に見えて効いている。困惑の悲鳴を上げ、衝撃にのけぞり、その胸元には円形の凹みとヒビが入っていた。

 当たった箇所で弾けるという性質が功を奏したのかもしれない。打撃が極めて有効なコイツと相性の良い魔法なのだろう。

 

 道中ほぼ何もしていなかった事から、俺は無意識に彼女を置物か何かだと思ってしまっていた。しかしそれは大きな間違いだった。

 全く戦力に数えていなかったのに、そこから有効な攻撃が出て来るなんて思いもしなかった。

 

「ナイス!」

 

 とりあえず賞賛しておく、チーム戦において暇だったら言っておいた方が良い万能台詞。

 

「いいよいちごねこみるくちゃん!」

「最高だよいちごねこみるくちゃん!」

「次溜めます!」

 

 遠くからちっせぇ声でなんか聞こえる。

 とりあえずそれは無視して、俺は明確に僧侶の前に出た。

 先程までは誰か死んでくれねぇかなという様子見の立ち位置だったが、ここからはこの僧侶を守るタンクとして動く。

 

「グルル……」

 

 レッサーガーゴイルはこちらを見ている。が、どちらかというと俺より僧侶を見ている気がする。

 やはりヘイトの概念はありそうだ、とりあえずコイツは一番大きなダメージを与えた相手か?

 だが威力はともかくとして、射程距離なら圧倒的に僧侶が上だ。動きも鈍重、これを繰り返しているだけで間違いなく勝てる。

 

 レッサーガーゴイルがこちらに一歩、歩を進める。

 しかしその隙に、

 

「しっ」

 

 盗賊二人が再び足に斬り傷を入れる。

 そして二人は再び左右に距離を取った。

 

 連続での足への攻撃、斬ったと言うより削ったという方が正確か?

 俺からは見えないが、もしかしたら既にレッサーガーゴイルの足はかなり削れているのかもしれない。もう二度くらい攻撃を加えれば足から崩せるか?

 

 足から崩れるのが先か、それとも魔法で倒すのが先か。絶望的な相手に嬉々として立ち向かった俺だが、実際は真逆。

 俺がソロでやるより遥かに楽に勝てそうだ。こんなんでもやはりチームというのは偉大なんだな、手数も手札もソロとは段違いだ。

 

「『ポール』!」

 

 真後ろから僧侶の二度目の詠唱が聞こえる。

 二発目が発射されたらしい、さて次はどこに命中す……

 

「ボワァ!!?」

 

 突如、俺の背中にバットで殴られたかのような強い衝撃が加わる。

 俺は悲鳴を上げながら衝撃で地面に転げ回った。

 

「ああ!? ごめんなさい!!」

 

 いちごねこみるく氏がなんか謝っている。 

 どうやらいちごねこみるく氏の放った魔法は、俺の背中に直撃したらしい。

 背中にも守りがあるタイプの軽鎧を着ていたのが幸いしたか、強い衝撃こそあったものの、痛みはそこまでなかった。

 

「大丈夫です! 気にしないで次溜めてください!」

 

 俺は痛みを堪えて即座に立ち上がり、再びレッサーガーゴイルに盾を構える。

 なるほどね……後衛がいる時は後衛の攻撃の射線も意識しないとダメか。

 いい勉強になった。

 

「もー! 私ったらまたドジしちゃったぁ!」

「あっ、次やったら殺しますね」

「えっ?」

 

 あまりにも反省が見られないリアクションについ素が出てしまう。

 え、じゃねぇよ。次があるだけ感謝しろ。

 

 

※1:
Monster Player Kill(モンスター・プレイヤー・キル) モンスターを利用してプレイヤーを殺す事。





□狂戦士(バーサーカー)
 過失による味方への攻撃や殺害が一定値に達すると強制的にこの職業になる。元の職業が盗賊や魔法使いであろうと、戦士系統であるこの職になる。
 この職業はチームで一定回数ダンジョンに潜るまで変える事が出来ない。更に途中で一度でも味方を攻撃すれば計測がリセットされる。
 チームでダンジョンに潜る際、貴方はこの職業である事を公表しなければならない。
 
 下級職でも中級職でもなく、ユニーク職という分類に入る。悪性の職業ではない。
 性能だけなら戦士を軽く凌駕する。しかし戦闘中は強制的に"超高揚"状態となる。
 ※超高揚 高揚状態の更に上。戦闘中に痛みをほぼ感じず、状態異常"恐怖"を完全に無効化し、怯み攻撃を無視する。しかし明らかにテンションが高くなり、些細な事を見逃しやすくなる。
 スキル『狂化』を持つ。
 『狂化』
 全てのステータスが大幅に上昇する。幾つかの強力な戦闘スキルを習得し、勝手に使う。交戦中に限り自由に動けるが、様子見や待ちといった行動は許されず、体が勝手に相手に向かって攻撃を放ってしまう。
 全ての生き物が全く同じ赤い影のような化け物に見え、それら全てが動かなくなるまで解除することが出来ない。

 一見、完全ソロ向け職業だが、探索スキルを一切持たず、己の身を省みない戦闘を強いられるこの職は戦士よりも遥かに使い勝手が悪い。チームでないとかなり厳しい探索になるだろう。


■裏切者(トレイター)
 悪意による味方への攻撃や殺害が一定値に達すると強制的にこの職業になる。以降、悪性の職業の者以外とのチームが組めなくなる。
 冒険者への攻撃に上方補正が入る。
 相手の背後への攻撃に上方補正が入る。
 ギルド内への侵入が犯罪行為扱いとなる。


 あくまで対象になるのは不注意による攻撃と悪意による攻撃のみ。
 故意でも悪意さえなければ味方への攻撃と殺害は問題ない。

 
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