俺は部屋の探索を続ける。
「お」
いい感じの棒が部屋の隅に落ちていた。恐らくこれも……
☆長い棒
やはりアイテムだ。これは武器か? なんにせよありがたい、これでゴブリンとも戦えるだろう。
しかしこんな棒、数回使ったら折れそうだ。まだ戦闘は避けるべきか?
「そして……」
部屋の一番奥に如何にもな箱がある。ただの埃の被った古惚けた木箱ではあるが、箱全体に彫りで細工がしてあってほんの少しだけ高級感を感じる。
「最低ランクの宝箱、って感じだ」
見たところ鍵も掛かっている様子はない。
…………。
箱を棒でつついてみるが、特に反応もない。
よし、開けよう。ダンジョン、宝箱とくれば罠だとかミミックだとかを警戒するが、こんな序盤でそこまで酷い罠は無いだろう。
あえて正面には立たない。箱の斜め前に立ち、俺は宝箱の蓋に手を掛けた。
「はっ!」
そして勢いよく上に開き、後ろに飛ぶ。
………。少し待つが、罠が作動する様子はない。
「まぁ流石にこんな序盤じゃね」
そして改めて俺は宝箱を開けた。
中を覗けば暗い箱の中に何かが見える。
「なんか入ってる!」
俺はまるで餌にでも飛びつく様に、その何かを手に取った。
☆皮のブーツ
「靴だ! やったぁ!!」
それは靴だった。しかも布のマントだの長い棒だのとは明らかに違う、脛まで高さがあり靴紐も靴底もある、とてもちゃんとした靴だった。
日本で売られていても違和感は無い。初めて手にしたちゃんとしたアイテムだ、棒だの布だのは売れないだろうがこれなら間違いなく値も付くだろう。勿論履いたっていい。
俺は足の裏をマントで拭い、ウキウキで靴に足を通す。
何故か靴は俺にピッタリだ。サイズは拾った者のサイズで固定になるのか、それともゲームパワーで自動的に履く人のサイズになったりするのだろうか。
凄い、文明の利器を感じる。しかも靴底もしっかりと加工されていて土の地面を滑らない。しっかりと滑り止めの加工までされている。
そうか、大事なのは足だったんだ。
これなら武器を振った時にしっかりと下半身も使って振れるだろう。足で踏ん張りが効くというのは靴を得るまで全く気付かなかった。
「この部屋はこんなもんか」
後は調べられそうな箇所も特に無い、大収穫だった。
さて、今既に履いてしまっているが、売れそうな物は手に入れた。これが高く売れる事を祈ってここで引き返す選択肢もあるが……
「正直売りたくない」
欲が出る。というかこれは欲に入るのか?
靴くらい履いたっていいじゃないか。確かに現状の俺じゃ身の丈に合わない靴だが、もう裸足で土の上を走るのは嫌なんだ。俺は文明人なんだ。
と言う事で探索継続。俺は部屋の扉を開けた。
「ギギッ!」
部屋から出て即座に左右を確認すると、左、俺が来た方向に一匹のゴブリンがいた。
さっきの奴がまだいたのか? モンスターは倒さないとどんどん探索が困難になるのかもしれない。
……戦おう。
「ハッ!」
俺を見つけるなり即座に向かってきたゴブリン。俺はそれに合わせて持っていた長い棒で本気で突きを出した。
長い棒と言うだけあって長い、2mくらいあるか。しかし木製だ、こんな長い棒で叩きつけなんてしては直ぐ折れてしまうだろう。
「ギッ!?」
俺の突きはゴブリンの胴体に当たり、ゴブリンは後ろに大きく吹っ飛んだ。
うわぁ、なんかやっちまった感が凄い。体格だけなら子供だからなゴブリン。
日本であれくらいの体格の子供に本気の突きなんて出したら俺も子供もタダじゃ済まないだろう。
だが相手はゴブリンだ、ヨロヨロと起き上がり、再びこちらに襲い掛からんと体制を整えている。
流石に一撃じゃ倒せないか、だが見るからにダメージはある、これを続けていけば倒せそうだ。
「もう一丁!」
今度は俺から近付いて突きを出す。
突きはあっさりと頭に当たり、ゴブリンはその場に倒れ伏す。
そして体が空気に溶けるように塵となって消えた。
「うおお……」
驚いた俺は咄嗟に塵を吸い込まないように口を手で覆う。
害はないだろうが、流石に吸いたくない。
それにしても死体は残らず消えるのか、ゴブリンが手に持っていた棍棒までしっかり消えている。
その場には何も残っていない。
敵が落とすアイテムとかもあるんだろうか、ありそうだなこの感じ。
「さて……」
俺は考えを続けながらも探索を再開する。
ゴブリンは木の棒で2発か、弱い。だが最初の敵ならこんなもんか。
素手だったら厳しかったかもしれない、長物を拾えて本当に良かった。
……ん? いや、違う。
そういえば俺はコイツが小部屋で3匹固まっていたのを見ている。
コイツ等に複数で襲い掛かって来られたら……?
……かなりキツい戦いになる。3匹でギリギリ、5匹同時になんて来られたら流石に死ぬかもしれない。
……防具だ、防具がいる。多少直撃を受けてもビクともしない防具が。
こんなパンツじゃひとたまりもない。
「そもそもパンツだけでこんな場所にいる事自体間違いか……」
俺はこの世界で初めて目にした人達の事を思い出す。厚手の服、鎧、腰から剣のような物を下げている人もいた。
ここでの普通の人はあんな風に良い剣持って、良い防具を纏って、複数人でここに来るのだろう。こんな事してる奴なんて俺みたいに余程切羽詰まった奴だけなんだ。
「お、また小部屋」
俺は再び木の扉を発見する。
周囲に敵は無し、俺は扉を開けた。
「わーお」
部屋の中に敵はいない。そして明らかに目立つ物が一つ。
「魔法陣だ」
部屋の中央に床に幾何学的に描かれた大きな魔法陣が一つ、何かを待つように青色の淡い光を放っていた。
これに似た魔法陣を俺は見た事がある。このダンジョンに入る時に踏んだ魔法陣だ。光り方もそれに近い。
俺がこのダンジョンに入った後は、背後に赤い光を放つ大きな魔法陣があった。俺は状況から推察してその魔法陣は外に出れる魔法陣だと勝手に思っている。
外に出れる魔法陣が赤、だとすると……
「次の階層か」
俺はこのダンジョンを先に進むには階段を下ってどんどん下に下がっていくものだと勝手に思っていた。
だがこのダンジョンでは階層の移動は全て魔法陣で行うのかもしれない。
「まぁこの魔法陣がただの罠だって可能性も全然あるが……」
こんな堂々とした罠は無いだろう。
とりあえず今はスルーだ。最初の入口の魔法陣の場所からここまでの道は覚えている、ここからはここを中心に探索をしよう。ここから離れすぎると流石に覚えきれない。
「さて、この部屋はこれしかないが……」
部屋の中に目ぼしい物は無い。が、一つ今までとは違う構造になっていた。
「部屋の中にもう一つ扉がある」
俺が入って来た扉の反対側、そこにもう一つ扉があった。
あの先には更に部屋があるのか、それとも新しい道があるのか。
うん、あっちから調べよう。
俺は魔法陣を踏まないように端を歩きながら、次の扉を押した。
「……通路か」
その先は部屋ではなかった、先程まで走っていた道と同じ様な通路が広がっている。見飽きた石の通路だ。
「そしてまた扉」
左右に広がる新しい通路、見渡せば遠くだが右にも左にも壁に扉があるのが見えた。
敵はいない……? いや、なんかいる。
右の道に水たまりのような物が見えた。だがそれはやたら立体的で、微かにだが動いている。
「スライム?」
目は付いていない、口も付いていない、ただゆっくりと動くゼリーという印象。
ゲームで動く液体と言えば真っ先に思い浮かぶのがスライム。RPGならどんなゲームにも大体出てくるアイツだ。
「…………」
そーっと、近付いてみる。勿論長い棒を構えて。
だがスライムは俺など見えていないかのようにゆっくりと前に進んでいる。
「えい」
俺は棒の先でスライムを叩いた。
するとぴしゃりと水の音を立ててスライムは飛び散った。
そのまま空気に溶ける様に消えていく。
「えー……」
弱いとかいうレベルじゃない。実は敵じゃなくてただの環境生物だったんじゃないか?
ダンジョンのお掃除をしているのがアイツ、みたいな。
人の家で勝手にルンバを壊した気分だ。
「はぁ、先に進もう」
既に右側に見えた扉が直ぐ近くまで来ている。
俺は気落ちした気分を抱えながら次の扉を開けた。
「うっ!?」
直ぐ閉じた。そして逃げる様に後ろに下がり扉から距離を取る。
少し待つが、扉に動きは無い。
ヤバい物が見えた。巨大な蝶、いや、巨大な蛾か?
大きな複眼が二つ、大きな花びらの様な翅、口にはストローの様な管が丸まって纏められていた。
大きな翅もあり、全長だけならゴブリンよりも大きい。俺の上半身くらいの大きさはある。そんな感じの奴が空にふわふわと浮いていたのだ。
スライムのせいで完全に油断していた。しかも空に浮いていたから一瞬気付かなかった。
すっごいびっくりした。虫は苦手じゃないが、デカい虫は基本的に怖い。なによりアイツはゴブリンより強そうだ。
扉から離れて、追って来ないか警戒したが、そもそもよく考えてみればアイツに扉を開けられる手なんて無いか。
危険、この部屋はスルーが妥当……。
だが一瞬アイツに気付かなかったせいで俺には見えてしまった。
部屋の奥、古惚けた棚にあった物。
あの棚はパッと見だが薬品棚だった。割れたビーカーや空のフラスコが何個か見えた。
あるかもしれない、ポーション。
仮にポーションが無くとも、ポーションが高価が世界だ、それに類する薬品のアイテムを見つけられたらそれなりに高値が付くだろう。
しかし、あそこを調べるにはアレと戦わなければならない。
……
…………。
……怖い、が、行こう。
戦おう。一階でチキっても*1仕方ない。結局はただのデカい蝶だ、棍棒持ったゴブリンより強い攻撃なんで出せないだろう。
俺は先ほどの扉の前に立つ。
心臓が高鳴る。
……よし、行こう。
☆皮のブーツ
足首からふくらはぎまで覆う丈があり、しっかりと本革が使われている。
外側の厚手の皮には防刃効果があり、内側は柔らかい革張りで足当たりが良く滑らないし暖かい。
足を使う速度に若干の上方補正が掛かる。
□ゴブリン
身長1m程度、知能が低く、体力も低い。棍棒を所持しているので攻撃力はそこそこ。
攻撃を避けようとすらせず、ただ目的に真っすぐ攻撃を加える事だけを考えている。
裸足なので足音が殆ど無い上、相手に気付かれていない場合奇声も上げないし積極的に背後を狙う様になる。
1階での死因の殆どがゴブリンによる背後からの頭部攻撃である。雑魚であると同時に実はかなりの初心者キラー。
序盤の雑魚筆頭ではあるが、ゴブリンは種類が多く、うっかり他の上位種と見間違うと痛い目を見る。ゴブリンの装備や肌の色を良く観察しなければならない。暗所は特に注意。