タイトルの英数字は必ずしも時系列とは限りません。
特にBは年単位で飛びます。
基本的にタイトルを見ない方も、そのページのタイトルがAかBかだけは見て頂けると幸いです。
ーー☆ーー
「先輩先輩! なんか出ましたよ!」
「んー? 何が出た?」
「見て下さい! 杖です!」
ルピナは宝箱から出た杖をこれでもかと見せつけて来た。
「置け」
「はい?」
「今すぐ置け、俺が持つ」
俺はそれを手でシッシッと、距離を取り警戒しながら置く様に促す。
「え~~~? なんで~~~?」
「危険過ぎる、お前にはまだ早い。間違っても振ろうとか使おうとか思うな」
ルピナは渋々といった様子で杖をその場に置く。
「アイテム名はなんて出た?」
「???の杖でした、未鑑定っすねー」
「超危険物じゃねぇか」
まさかの未鑑定、こんな上層で未鑑定杖が出るなんて珍しい。
「これの何が危険なんです?」
「杖を見たら印を確認するまで絶対振るな。超印とか付いてたら大体即死だぞ」
「えっ?」
ルピナは驚いた様にその場から下がった。
おもちゃを見つけて遊んでいたら、実はそれが爆弾だったようなものだろう。
「ところで印ってなんですか? 蝶印?」
「超印な、印ってのは武器とか杖とかに付いている追加能力みたいなもんだ。武器には稀だが、杖には結構な確率で付いてる。超印はその中でも最も危険な印だな」
「どんな印なんですか?」
「威力10倍」
「え?」
「杖の使用回数が1回切りになるが、その代わり威力が10倍になる。やっすい雑魚杖が一気に凶悪な切り札に早変わりだ」
「凄いじゃないですか」
「問題なのは杖の力は使用者も巻き込むって事だな」
「あー……」
「火球の杖なんてよくある杖でも、超印付いてたらボスですら余裕で吹き飛ぶ。勿論使用者もな。そんなのを試しに使ってみよーみたいなノリで振ってみろ。お前みたいな軽装じゃ塵も残らんぞ」
「ひん」
ルピナは体を抱き寄せて身を竦ませた。
「中でもヤバいのが毒の杖の超印だな……杖の先から20mくらいまで毒で充満するし、毒対策付けてても余裕で死ぬ。毒の完全無効装備なんて下層レアドロの超高級品だし、それをチーム四人分用意するなんて考えただけでも……」
「ひ、ひえ~~」
あれは良い経験だった。正直死んだ後も何が起こったのか分からなかったし、なんなら印の存在を知るまでずっと知らないままだった。
リュミレさんが勧めてくるから仕方なく買った本に書いてあったんだよな。
「だから杖見たら即鑑定するか、そのまま持ち帰るのが一番だな。さっき言った火球の杖の超印だったら上級者にはかなりいい値で売れるぞ」
一発きりとはいえ、火球超印はそれ一本でボス部屋をスルー出来るくらいの威力がある。ボスより爆発した火球の爆風を防ぐ事の方が大事と言われるくらいだ。
しかも買う相手が中層以上の相手になるから、お値段も銀貨3枚まで伸びる。たった銅貨3枚の杖がたった1個の印で大出世である。
「ただまぁ例外なのが、深く潜る予定の時に序盤で発見した杖の処理。売る用として持っていても嵩張るし、ぶっちゃけ杖の大半はあんまり売れない。そこでだ」
俺は自前の鞄をまさぐり、一枚の紙を取り出す。
「鑑定書~」
「なんですかその声」
まぁ伝わらんよなぁ。
「ごほん、これがあると大体の物は鑑定出来ます。お値段も銅銀貨1枚とそこまで高くない」
「いやそこそこ高いですよ」
「ギルド鑑定が銅板1枚だからなぁ。ダンジョンでそれが出来るってなったらそれくらいはする。でもこれは結構ダンジョンで拾えるからな。これも拾ったやつだし、実質タダだ」
「ブルジョワ~」
なんかすげぇ翻訳されてるけど、本当はなんて言ってんだろうコイツ。貴族階級~とかだろうか。
反応に困るも、俺は気にせず鑑定書を使った。
☆雷の杖(7)
杖の先から正面へ雷を発生させる
「分かったぞ、雷の杖の印無しだな」
「どんな杖なんですか?」
「雷の杖だ」
「そういうのいいんで」
あ、はい。
「杖の先から雷を出す杖だな。威力はあんまりないが、着弾までが瞬時で相手を痺れさせる効果がある。敵の厄介な後衛とか飛んでる奴とかに開幕で撃っとくと戦闘がかなり楽になるぞ」
「おぉ~、ネルファが好きそうな杖っすね~」
「アイツは珍しい支援型魔法使いだからなぁ、MP消費の無い即時発動杖は使い勝手が良いだろうな。あげてもいいぞ」
「いいんですか?」
「売っても銅貨3枚くらいだぞそれ、なんなら今捨ててもいい」
「じゃもらいまーす。ありあり。」
俺達は部屋を出て通路に戻る。
今いるのは12階。廃墟の様な薄暗い洋館の通路だ。10階までは洞窟の様な場所だったのに対し、一変して今度は建物内である。
ここでは通路だけではなく、上や下に移動する階段すら存在する。一軒の大きな洋館全体が一つの階層として存在しているのだ。
次の階層に進むには下の階段を下りるのではなく、どこかの部屋にある魔法陣を見つけなければならない。
「……! 先輩。」
「……ん」
俺は瞬時に振り返り、剣を抜いて後ろにいたモノに斬り掛かる。
「ギッ!」
赤いフードを被ったゴブリンがそこにいた。不意を突かれたゴブリンは一瞬で斬り裂かれる。
「……場所まで完璧、気付いてたんですか?」
「そりゃあ、音全然消せてなかったし」
「聴力強化無いくせに凄いですねー。てか気付いてたんなら教えて下さいよ」
「お前が気付かないと意味ないじゃん。盗賊が敵に気付かず死亡なら自業自得過ぎるし、死んでもいい経験だよ。俺がいるからロストも無いしな」
良い経験である。一度死んだ方が口で教わる何倍も覚える。俺だってそうだった。お前もそうなれ。
「ひどーい」
「酷くない、あんなのに気付かない盗賊を先の階層に進ませる方がよっぽど酷い」
「優しくないですねー」
「お前が優しいの意味を履き違えているだけだ」
最も、優しくないのは認めるが。
「進むぞ、今回の目標は15階のボスだ。ボスドロ※1拝んでさっさと帰るぞ」
「はーい」
ーー☆ーー
「お疲れさまーっす」
「いや少しは手伝えよ……」
「手伝ってましたよ! 背後取って気を逸らしてました!」
「背後取れたなら殴れや※2」
15階、俺はボスを即座に片付けた。
コイツには手に余る敵だっただろうが、こんな敵は普段俺が歩いてる中層の雑魚よりずっと弱い。
俺は霧となって消えたボスに近寄って、ボスが落とした物を確認する。
☆蛇牙の短刀
「さて、ボスドロは……お! 蛇牙の短刀か。お前向きの武器だぞ」
かなりの当たり、やはりボスドロは質が良い。毒付与を目的とした使い方なら中層まで使える良い武器だ。
「短剣ですか! 強いんですかそれ?」
短剣と短刀、ちょっと違うが、ダンジョンでは短刀は短剣の部類になる。
刀と思われる武器もあるが、あれは長剣に属する。
剣は短剣、片手剣、長剣、両手剣に分けられる。見分け方が少し難しいが、基本的にダガー、ショートソード、ロングソード、グレートソードぐらいの違いで見分ける事が出来る。
「切れ味は悪いが毒と麻痺の両方の効果を持つ短剣だ。麻痺の方はちょっと動きが鈍る程度のオマケみたいなもんだが、毒の方はそれなりに期待していい。ただ切れ味が悪いから普通の剣としての使い方は微妙だな。ろくに攻撃しないお前向きの武器だ」
「おー! いいですねそれ!」
喜ぶなよ。
うーん、売ってもいいが、ここは投資か。
「やるよ」
俺は短剣をルピナに渡す。
「いいんですか? 今日の儲けが大分減っちゃうんじゃ……」
「いや、お前はコレでせめて一撃入れる努力する所から始めろ。探知と罠だけしてたら上位職なった時に絶対苦労するぞ」
こいつ盗賊だからってマジで攻撃しないからな。確かに盗賊は戦士系より火力※3が出しにくいが、その気になれば戦士系以上に活躍する事も出来る。
単純な雑魚処理なら動きの速い盗賊の方が向いているくらいだ。
「うーん」
「うーん、じゃない。やるの。仕事なの。役割なの。盗賊ってやる事多いけど、だからって戦闘中棒立ちが許されて良いわけないんだから」
盗賊マジで仕事多いんだよな、索敵に罠警戒に罠解除。その上やる奴は戦闘でも活躍する。所持重量の問題さえなければ俺も盗賊になってソロ潜りしてたかもしれない。
「毒武器だから帰ったら鞘買えよ、帰るまでは気を付けて使え。帰還途中の雑魚でボス想定の立ち回りも練習するぞ」
「うぇー」
「うぇー、じゃない。やるの。今のうちに練習しとかないとシーニア達と組んだ時大変だろ」
「シーニア強いし」
「まぁ……うん……」
あいつちょっとおかしいんだよな……、なんか最初から魔法剣士だったし……。
今まで色んな奴見て来たけど、初心者であそこまでの奴は初めて見た。
「強い仲間か……俺にもそんなのがいればあんな思いも……」
「はいはーい。時間無いんでしょ先輩? 行きますよー」
ハッ、そうだった。15階帰還だと日が暮れる頃に帰れるかギリギリなんだよ。
食料の類はもう飲み物しか残っていない。ダンジョンから帰ると体の異常は全て入る前の状態に戻るが、空腹だけはそのままなのだ。
ギルドは24時間営業だが食堂は違う、ダンジョンでは外の時間が分からない。帰ったら深夜で、腹が空いてるのにどこも店がやっていないなんて事になりかねない。
それなら朝帰りの方がまだマシだ。
「じゃ、帰りましょ! ナナシ先輩!」
◇ルピナ
後輩ちゃん。盗賊。
白い髪に、碧色のメッシュが入ったショートヘアーをしている。ジトっとした気だるい蒼い目をしているが、元気はある。
元気はあるがやる気は無く、ダンジョンにもどちらかと言うと遊びに来ている。
盗賊で罠探知や解除もするが、たまに罠解除にミスって死ぬ。
先輩にダル絡みするのが最近のブームで、その延長線上で先輩がいると仕事をサボりがちになる。逆に自身より後輩がいると真面目になる。
公私を分けれる程器用ではない。彼女も彼女でお金が欲しいが、楽しさが勝ればそれはそれで良いと思っている。ダンジョン都市で育ったせいか死に対してもあまり抵抗が無い。そのせいかどこか完璧になり切れず、細かいミスや手抜きをする。自他共に自分を支える人間が必要だと思っている。
「先輩せんぱーい。あ、プギャ」
「うん? あ、死んでる……」