この小説英数字と漢数字の使い分けが難し過ぎて禿げそう。
基本的な数字の使い方に加え、階層や通貨等の二桁を超え得る数字は英数字にしてます。
そのせいか一文に英数字と漢数字が混ざる場合があります。読みにくいけどごめんね。
「あら、意外と元気そうですねぇ」
「まぁ……」
あれから一週間が経った。
「どうです? 稼げていますか?」
「初日を除いても、なんとか収支はプラスになってます」
今は稼ぐためにダンジョンに潜っているというより、探るために潜っている状態に近い。
潜るたびに知らない事を知り、新しい事を試す。余程ドロップが良くなければ一歩更に踏み込む。
ギリギリ赤字にならずに済んでいるのは単純に運が良いだけ。初日の収入もあり、俺は赤字覚悟でダンジョンに突っ込んでいた。
「何階まで行けました?」
「7階まで行けました」
「え、5階超えたんですか。5階の魔法陣の所にボスがいた筈ですけども」
「普通に倒しました。拾った装備が良くて、やっぱり盾あるとモンスターには負ける気しないですね」
実は初めてのボス戦を経験している。
5階を探索している途中、いつもは部屋の扉が木製なのに対し、一つだけ大きな鉄の扉があった。
開ければとても広い部屋で、中央に人と同じ大きさくらいのゴブリンのような敵がいた。剣鎧兜の3点セットを装備していて、今まで強みにしていた体格も相手の方が勝っていた。
が、はっきり言ってあまり強くはなかった。
俺は道中で盾とショートソードを拾えていた。初手で相手の剣を盾で受けて、無防備な足を斬り付けたら相手が立てなくなり、そこからは消化試合だった。
「おめでとうございますー。盾を使うのは良い判断ですねぇ、初心者は盾を軽視しがちなんですが。ちなみに出て来るボスはランダムなので油断しちゃダメですよぉ」
「ランダムだったんですかアレ、俺より身長が少し大きいくらいのゴブリンでした」
「たぶんデミオークですねぇ、オークより小っちゃくて細いオークです。ゴブリンは強い奴はいますが身長はあまり変わりません。デミオークはわりと当たりですね」
「当たり?」
「貴方からするとハズレはポイズンモスですねぇ。蝶みたいなモンスターです」
「あ、そんな感じの奴に殺されかけた事あります」
忘れもしない初日の出来事だ、あの日頑張ったから今がある。一週間経って分かったがポーションは本当にレアだった、今じゃカスりもしない。
「それはたぶん普通のモスですねぇ、普通のモスの毒は時間経過で治りますよぉ」
「マジっすか」
初日、あんなに辛かったのに。実は部屋で大人しくしているのが正解だったか?
まぁ終わり良ければ全て良し。辛い道を通ったかもしれないが、結果として俺はポーションを持ち帰れたのだ。この情報を知ってて、あの場で座ってたらあそこで別のモンスターに襲われたかもしれない。結果として俺の行動は正解だったのだ。
「ええ、でも治るまでは戦いが困難になるので、じっとしてるか解毒草噛んでも良いですよぉ」
「解毒草?」
そんなアイテム見た事無いな、そもそも草系のアイテム自体見たことが無い。
「あ、その感じ、たまに生えてる草とか無視してましたね? 実は抜いてみると薬草だったり解毒草だったりしますよ。見た目に注目です」
うっそぉ!? あれアイテムかよ!?
余裕でスルーしていた、たまに部屋の隅に草が生えている部屋があるのには気付いていた。確かに何度か花咲いてて綺麗だなーとか思った事がある。たぶんアレか?
「ただ解毒草は即効性が無いので、緊急時だったらアンチドーテですねぇ」
「アンチドーテだったら拾った事あります。ちなみにアレは高かったり……?」
「そうでもないですねぇ、ダンジョン外で毒に侵される事って滅多にないので。せいぜい食中毒になってようやく出番ですねぇ。うちの売店でも銅板1枚で売ってますよぉ。売りなら銅貨2枚くらいですねぇ」
しょっぱい……。
「ポイズンモスはそのモスより大きくなった紫色のモスですねぇ。その名の通り鱗粉に毒があり、高所に飛ぶので攻撃が届かないです。弓士や魔法使いならカモですけどねぇ。解毒や遠距離攻撃が無いなら諦めて帰るのも大事ですよぉ」
あー、それは確かに相性が悪い……。遠距離毒持ちか……、ちょっと無理かもしれん。
「で、どれくらい死にましたぁ?」
「3回っすね、毒と、罠と、普通にモンスターに殺されました」
「ああ~、良い死に方ですねぇ~。でも色々と学びがあったんじゃないですか?」
「ありましたね、1回死ぬたびに何に警戒するべきか、何が必要かが見えてきてます」
「いいですねぇ。5回死んで来いと言いましたが、3回死んでその調子なら大丈夫でしょう。本格的に冒険者の案内をしましょうか」
来た、これでようやく俺はここで冒険者として扱って貰えるらしい。
初手が5回死んで来いだった、その次となれば更にその上の要求が来るという事だ。一体どんな過酷な案内をされる事やら……。
「じゃじゃーん」
受付さんは1枚の紙を出す。
それを台に、こちらに見えるように置いた。
「……ダンジョン初心者研修……参加申請用紙?」
「はいー。初心者が参加出来るダンジョン体験会ですねぇ。中層冒険者に案内されながら10階のボス討伐まで行って帰ってくるツアーですー」
おお、俺が今まさに警戒していた10階の体験ツアーか!
ありがたい! 10階まで行くのは大変だからな、その上で初見のボスと戦うのは正直怖かった。初めてのボスを想定するとなるとそれなりの装備をしなきゃいけないし、それがロストするかもしれないと思うと怖くて踏み込めずにいた。
「はあ、それはありがた……銅銀貨3枚!?」
俺は書いてある金額にビビる。
この街で暮らして気付いたが、銅銀貨はかなり価値が高い。ここではバンバン取られるが、街ではほとんど銅貨と銅板しか使ってない。
銅銀貨は高いのだ。
街で銅銀貨など家具等を買う時くらいしか使ってない。
更に言うと家財道具はギルドで買うと高い。とても高い。
「そりゃあ中層冒険者を1日雇うわけですからねぇ。中層冒険者となると1日で銀貨1枚は余裕で稼ぎますぅ。更に言えば参加者で割ってますから、かなり安いですよそれ」
「はぁ……まぁそう言われれば……」
「しかもそれギルドから補助金出してますからね? ギルドとしてみたらそれ普通に赤字ですよ」
「えっ!? 銭ゲバ集団が補助金を!?」
俺は驚く。ギルドと言えば初心者にたっかい服買わせたりポーションを安く買ったり無駄に高性能な財布とか買わせたりするヤバい奴等だ。
そんな奴等が補助金を!?
「……まぁ、初心者が成長してくれればそれだけこちらの実入りも大きくなりますからね。実際は皆が幸せになれる企画ってわけです」
なるほど、収穫するためにちゃんと太らせるわけか、理に適っている。
「参加者は初心者三人と引率が一人。これに参加すれば上級者からたくさんの知識と、チームでの立ち回り、そしてもしかしたら仲間が出来るかもしれませんよ?」
「仲間……」
ほ、ほしい。なかま、ほしい。
この前遂に罠で死んでしまった。それ以前にも罠で何度も酷い目に遭っている。
盗賊が欲しい。
初めはあんなにキラキラと輝いていた宝箱が、今では死神が手招きしているようにすら見える。宝箱の罠が酷くて帰還したのも一度ではない。
「この研修をきっかけにチームになる人はかなりいます。異世界からいらした貴方は友達はおろか共に育った知り合いすらいない。顔見知りを作れるだけでも大きいと思いますねぇ」
人の触れ辛い所をグサグサと。こんな異世界じゃデリカシーなんて概念はまだ早いか?
だが正論だ。実際これ、かなり俺向きの研修だ。
「もちろんソロで活動される場合でも、時としてチームで活動する機会はあるので、その時にチームの動きを知らないと大分辛いですよぉ」
「参加します」
俺は参加用紙に記入していく。
日本語で文字を書いているつもりだが、実際に見える文字はこの世界の文字だ。
「はぁい、毎度ありがとうございますぅ。うん、文字もちゃんと書けるようでなにより。実は明日なんですけど大丈夫ですかぁ?」
「え、はや」
「丁度良い枠が今一つあるんですよねぇ。ダメそうなら次回でも構いませんがー」
「いや、明日で大丈夫です。参加します」
別に予定なんて無い、明日もまたダンジョンに潜って帰って街を散策するだけの予定だった。
「はいー、この用紙持って明日の朝8時にいらして下さいー。装備は自由ではありますが、冒険者セット相当の装備でお願いしますー。無いなら今のうちに買って下さいー」
「いえ、初日に買ったやつがまだ使われずに残ってるんで」
結局潜る時は布服棍棒で始めて、後は現地調達が俺の基本になっていた。
現地調達が下振れした時は潔く帰って、ゴミをギルドで小銭に変えてちょっと装備を良くしてまた潜る、そんな感じの日々だった。
お陰で初日に買ったピカピカの冒険者セットはもはや普段着になっている。街に行く時の背伸びした服装だ。
「それは良かった、一応これくらいの装備を整えれる冒険者というのも選考基準に入ってますのでねぇ」
冒険者セット相当か、それに加え前にボスを倒した時の装備が残っている。
次に深く潜る時に持っていくつもりだった盾も持っていこう。
「あ、ちなみに拾った物は全て初心者3人の取り分ですよぉ。アイテムの分け方とか報酬の割り方とかも教えてもらって下さいねぇ」
報酬の割り方! 素晴らしい、チームを組む上で一番揉めそうな所だ。そこを第三者から基準を教えて貰えるのはとても大きい。
ーー☆ーー
次の日、俺はギルドで食事を終え、約束の時間まで待つ。
「ん?」
ギルドの食堂のテーブルでぼんやりとギルドを行き交う人々を眺めていたら、見知った顔があった。
「あ、貴方は!」
「あぁ? うん? お前は……」
前とは完全に風貌というか、衣服が違うが、見紛う筈もない。
だってその人は、俺がこの世界で初めて出会った……
「変態先輩!!」
「ぶち殺すぞ」
最初に俺に沢山の大事な事を教えてくれた、同じパンイチ仲間の、大先輩だった。
■異世界の時間
元の世界、地球と全く同じ基準になります。
一日24時間。一ヶ月が大体30日。一年が365日。
これは神がどーたらではなく、単純に私がこれらの時間や日数を変えた場合の不都合を想像しきれないからです。
1日の日照時間、時間が変わる事での生活リズムの違い、一年が長くなったり短くなったりする事での年齢の数え方とか動植物の生態の変化だとか、想像するだけで頭が痛いのでそのままです。
これは作中で触れられる事はありません。