この作品はカクヨム様からの転載となっております。
第13話・オルソンとエル
リアナ大陸の東の果てに有るエレノア半島の東の果ての辺境に有る名もない村では……トマトやニンジン、葉野菜や麦と芋などを老人や孤児達が細々と栽培し、狩人のバスカルが野生の野兎や鹿、猪などを狩って日々を過ごしています。
そんな何も無い小さな村では、アリシアは異常に腕の良い魔獣の狩人として、現在は既に他界した養い親の老夫妻の小さな家で畑を作って一人で生活していました。
輝く銀髪に蒼い目、スラリとした体型のアリシアは容姿に優れ、この村では唯一で有る薬師として誰も入れない魔物の棲む森ルシオンの地にも入れ、魔物の棲む森で採れる貴重な薬草で村人の傷を癒す事が出来る医師です。
アリシアは師匠にあらゆる知識を教わっていた為、非常に優秀な狩人、医師兼薬師として村の人々との交友も広く、大人達や孤児仲間達にも慕われていました。
もちろん、アリシアは日々あらゆる技術の研鑽を続け、師匠が残した魔物の棲む森の浅い場所の作業小屋では薬草の調剤や各種の魔道具製作を行い、空間魔法の収納には様々な品を日常的に大量に集めています。
アリシアは日々を楽しく慎ましく過ごし、今日も何時もと変わらない日常を過ごす筈でした。
孤児仲間が伝えてくれた伝言でアリシアが向かうのは村の外れに有る小綺麗な小さな家、その家の周りには木材が切り出され、枝切りされた丸太が小山を作り、切り出された木材からは清々しい木の香りが充満しています。
カツーン!カツーン!「よっこらせ!」
そこには上半身を剥き出しにし、身体全体がムッキムキと筋骨隆々とした姿ながらも、愛嬌のある顔には優しさが滲み出るような素朴な容貌をした20代半ばの青年が、年季の入った斧を奮って丸太の枝切りに汗を流していました。彼は名もない小さな村で唯一の木こりで優秀な大工のオルソン二十五歳です。
筋骨隆々のガチムチ巨漢で素朴な気の優しい、子供達の兄貴分で天職は斧使いであり、木こりや大工の真似事もする器用な青年であり、年老いて足腰の弱った母親のエルと二人で村の外れに住んでいました。
カツーン!カツーン!「ほいさ!」
「オルソンさんこんにちはー!」
カツーン!「うん? 誰かな……」
「こんにちはー。エルさんがお呼びと聞いて伺いましたー」
「おっ、アリシアちゃん。うちの母さんの為に来てくれたんだね!ありがとう!」
「はい!エルさんは大丈夫ですか?」
「ははは、母さんなら家の中かな? たぶん近くにいる筈だよ。ちょっと探してくるよ!」
タッタッタッタッタッタッ……ガラガラ……「母さーん!」
アリシアは何時ものようにオルソンに声を掛け、オルソンも薪割りの手を止めてアリシアに応えました。
アリシアにとっては何時も笑顔を絶やさないオルソンは優しくて力持ちな頼れるお兄さんで有るようです。
「うん、エルさんはどこかな~」
「おーい、母さーん! 何処だーい!」
「オルソンや、私はここよ」
「ああ、母さんが見つかったよアリシアちゃん! 今、家の奥で寝てる。やはり今朝から腰の調子が悪いんだとさ」
「やっぱりね、湿布を用意してきて良かった。中に入るね」
「おう、助かるよ!何時も悪いね!」
やはり、エルお婆さんは腰痛が酷かったようで、アリシアは事前に用意してきた湿布をガサゴソと籠から取り出して家の中に入る許可をオルソンに求めました。
「お家に入って良いかな?」
「ははは、もちろんさ!」
「お邪魔しま~す」
そして、何時もと同じように木こりのオルソン宅に気軽に上がり込みます。
ちなみに、オルソンさんの母親であるエルさんはアリシアをとても可愛がっており、早くに亡くなった養い親の老人夫婦とは従姉妹の関係でアリシアにとっては大事な家族みたいなものだったりもしました。
地方の名も無き小さな村では住民間では個人のプライバシーの概念はほぼほぼ薄く、誰が何をしているだとか、誰が誰を好きだとか等は筒抜けであり、村人全てが家族みたいなものなので気にしてはいけない雰囲気です。
ここは、あくまでも長閑で娯楽が少ない田舎の村なのですから。
エル婆さんは名もない小さな村ではガル厶村長に次ぐ長老の一人であり、村全体の相談役をしている人でした。
息子のオルソンと共に暮らす優しいおばさんであり、アリシアを実の孫のように可愛がっており、何時もはアリシアの為に美味しい干し芋や料理を振る舞ってくれましたが、ここ最近は畑仕事の無理が祟り、持病の腰痛を悪化させており、アリシアが作る師匠直伝の特製湿布を腰に貼って生活しているようです。
「おはようエルさん、腰の調子はどう?」
「まあ、まあ、アリシアちゃんおはよう。今日はちょっと……腰が痛くて身体が云うことを聞いてくれなくて歩けなくてね。ほんと困ってたのよー」
「エルさんも年なんですから無理しないで下さいねー」
「もう、アリシアちゃんたらー、私はまだまだ現役ですよ!」
「はーい!ごめんなさーい」
「うふふ、気にしないで」
エルさんは年相応のシワ混じりの笑顔でアリシアと談笑します。
エルはアリシアが名もない村で生活する以前、オルソンが産まれて暫くして夫が他界した二十年程前から無理を重ねて長年腰痛を患っており、近年はアリシアの作る薬効が高い湿布が無ければ歩くのも儘ならないようでした。
ちなみに、このアリシア特製の湿布はエレノの町で購入するならば銀貨5枚以上(村の生活では数年暮らせる金額)以上はするのでしょうが……アリシアを含む村人全てが金銭には割りと無頓着なので自分の薬の価値は全く知りません。
稀に来る悪質な行商人が名もない小さな村では貴重品と云われている塩や、かなり割高な布製品や生活用品などと物々交換していくので、アリシアの薬の価値は精々で材料費価格のリム銅貨が数枚程度の認識です。
実際、悪質な行商人はエレノの町では銀貨数枚から金貨数枚の高額でアリシアの薬を転売し、莫大な財を成していたりするのですが、この時のアリシアが知るのはまだ先の話でした。
「あはは、そうですねー。エルさんにもまだまだ頑張って貰わないとー、私達は美味しい干し芋が食べれませんからねー」
「そうね、私もまだまだ頑張らないといけないわね。アリシアちゃん、悪いんだけど何時もの湿布を貰えないかしら?」
「はいはい、ちゃんと用意してますよー」
アリシアはエルの腰に薬草やハーブを練って作った特製の湿布を貼りつつ、師匠に使うなと言われている治癒魔法を分からない範囲のおまじない程度の弱さで使います。
魔物の棲む森を出たアリシアは師匠の封印もあり、様々な魔法をほぼほぼ使えないのでおまじない程度の回復魔法では有りますが……それでも確かな効果が有ったりしました。
読了ありがとうございます。