あの日、初めてドーパントになってから、メモリを使う事に一切の躊躇が無くなった。
ドーパントに襲われた時、何の躊躇いも無しに私もドーパントへと変貌してその命を奪うのだ。あのガラの悪いオジさん以降、既に5人ほど殺っちゃっている。
適合率が高いからか、ドーパントになっている間はその全能感に陶酔しているが、人間に戻るとスンッ……と気分が落ち着くのだ。賢者タイムみたいに。
まだ人間の倫理観も残っている為、殺人以外の犯罪に手を染めていない。その殺人もギリギリ正当防衛……と言えるか?ぐらいだし。けれど、着実に自分が風都の女に染まってきている感があり、最近は溜め息が多くなってしまった。
「ぐ……うぉっ」
どしゃっ
今回鉢合わせてしまったコックローチドーパント(今回は劇中に登場していたから名前が分かった。)をいつもの通り殺し、その場にポイ捨てしていると、
パチパチパチパチ
と、何処からともなく拍手の音が聞こえた瞬間、俺は身構えた。
ドーパントになってからは匂いや音、視線や気配といった物に敏感になっているのだが、いまだに拍手の音だけでどこにいるのかが感じ取れなかった。
……いや、この状況で出てきそうな奴で、今の俺が察知出来ないとしたらあいつしかいない。
前世の原作知識からあたりを付けていると、ぬるりと何処からともなく気配が出てきた事を感じ、振り返る。と、そこには、
「いやはや、見事だったよ。躊躇いもなく敵を排除するその冷酷さ。まさに狩人だった」
胡散臭い笑みを浮かべた紳士然とした態度の男がそこには居た。
「……どっから湧いて出やがったお前」
「私の場合はね、そうは言わない。“降って来る”のさ」
そう言って笑う男……万灯雪侍に俺は鼻を鳴らす事で返事をするのだった。
万灯との初邂逅を果たした後、私は家へと帰り着いた。
脱衣所で着ていた制服を脱ごうとして、スカートのポケットに突っ込んだままにしていたものを取り出す。
手の上にあるのは黒いカード……ビゼルと呼ばれるもので、例の万灯から渡されたものだった。つまり、私は裏風都へと勧誘されたのだ。
万灯の話によると、私に目を付けた切っ掛けはあの5本のメモリだったようで、あれらは元々万灯たちが保有していたものだったそうだ。
それがある日突然消えてしまい、その行方を探していると無くなった1本でレア物である筈のウルフを使う女子中学生、つまり私を偶然にも見つけたらしい。
最初は私を殺して回収しようとしていたそうだが、私の生活や暴れている時の様子を見て、私がハイドープであると考えて勧誘へと切り替えたらしい。
つまり、私は彼ら裏風都陣営からしたら盗人で、万灯は「仲間にならないか?仲間にならないなら殺す」と言っているのだ。
死にたくない私からすると、選択肢は有って無いようなものの為、素直に頷いてビゼルを受け取るしかなかったのだ。
「はぁーっ……」
疲れからか、思ったよりも長かった溜め息を吐いてビゼルを棚に置くと、頬をパチンと軽く叩いて気持ちを切り替える。
出来れば余り仮面ライダー達と関わらずに済むように!と強く神様に念じながら、シャワーを浴びに浴室へ入るのだった。