IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 9 『形態移行』

「行け!『フェザー』!」

 

 

千春がライフルのトリガーに手をかける。

 

途端、ライフルの銃口とは全く別の場所から幾つものビームが放たれる。

その数六、射線上には『ブルー・ティアーズ』に似たBT兵装……

 

「がぁっ!?」

 

四方八方から降り注ぐビームの雨に、千春に見惚れていた俺は晒される。

 

あ、いてっ、衝撃で舌噛んだ。

 

「『グラデーション』、この機体は『ブルー・ティアーズ』のBT兵装を基に作られたた3.5世代型ISだ」

 

 

ビームの雨から抜け出し、必死に逃げ惑う俺を見ながら千春は説明を始める。

 

 

「セシリアが言ってた通り、イギリスの助力無しには出来なかったISだよ」

 

 

ビットがビームを撃つのをやめ、千春の元へ戻る。

 

 

「まあ『ブルー・ティアーズ』の劣化版みたいな感じね」

 

「劣化版ってな……」

 

「シールドエネルギー見てごらん?」

 

「え?」

 

「あんまり減ってないでしょ?」

 

「いや、『零落白夜』使ったしエネルギー213だ。悪いけどどれだけダメージ受けたかわからない」

 

「あ、そうなんだ。これは『ブルー・ティアーズ』より一回り大きいし、それで威力は負けるし、使い勝手なら『ブルー・ティアーズ』の方が上なんだ」

 

「へえ」

 

 

 

 

 

 

「あれ?一夏のワンオフアビリティって……シールドエネルギー消費するの?」

 

 

「!!??」

 

し、しまった!会話の乗りでついっ………

 

 

「へぇ~、一夏のワンオフアビリティって、シールドエネルギー消費するんだ~。しかも~、その様子じゃすごく燃費わるそ~」

 

 

にま~、と笑う千春。その瞳は悪戯心に満ち溢れている。

 

 

「い・い・こ・と、かんが~えた」

 

 

どこからともなく、『スターライトmkⅢ』より二周りほど大きい、馬鹿デカイ銃を展開。

 

 

「『スターライト』系の強化試作機。七六口径『スターライトブレイカー』って言うんだ。…ちなみに発射可能回数は一回のみ。構造に欠点があって一発撃っただけで銃身が焼け落ちちゃうんだ。…………けど、そのぶん超強力だけどな」

 

 

「!?」

 

『スターライトブレイカー』に、膨大な量のエネルギーが集う。淡いピンク色の光球が風船のように膨れ上がる。

 

やばい。本能で感じとる。あれは受けたらやばい!

 

 

「全力!全壊!スターライトっ……」

 

な、なんか物騒な事いってるし!?

 

仕方ねぇ、無力化するしかないかっ…『零落白夜』発動!

 

 

「ブレイカーっっ!!」

 

 

視界を覆い尽くす光。暴虐の極み。名は体を現すと言うが、『星を軽くぶっ壊す(スターライトブレイカー)』とはよく言ったものだ。

 

 

しかし、いくら星を軽くぶっ壊そうと、エネルギー兵器。

 

対象のエネルギーを消滅させる『零落白夜』ならおつりが来るくらいだ。

 

 

セシリア戦と、千春との戦いでBT兵装の弱点は理解した。

 

セシリアも、千春も、ビットを展開する際は『他の攻撃』をせずに、ビットを操っていたのだ。

 

 

ビット以外の武器で攻撃する際は、必ずビットからの攻撃が止む。

 

 

 

これが正しければ、今最大級の攻撃を放っている千春は隙だらけ。

巨大なビームの中を『零落白夜』を発動して突っ切れば最大の攻撃チャンスを得る!

 

 

「うおおおぉぉぉッッッ!!!」

 

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

なんどこの機動に助けられたことか……今回の戦いはすべて『瞬時加速』が鍵を握っていたといっても過言はない。

 

説明文なんて瞬時加速を連呼してたし。

 

 

スラスターに放出したエネルギーを『圧縮』、それを放出し――――

 

 

ビュッ!―――ガンっ!―

 

 

「な!?」

 

 

体勢が崩された。

 

加速に入る寸前、背後からビームを撃たれた。

 

 

「な…んで……ビットが…」

 

 

もはや驚愕しかない。

 

何故?ビットは、『他の武装で攻撃する際は攻撃出来ない』んじゃなかったのか!?

 

 

さっきだってそうだ。もし攻撃出来ていたなら、ビットで狙い撃ってきた時、ライフルで攻撃してこなかったじゃないか。

 

 

 

「ああ、さっきの?」

 

 

 

極光を前に、踏み出せずその場で雪片を構える。

 

 

「さっきのねぇ?……わざと攻撃しなかったんだ」

 

 

とても楽しげな千春を前に、俺は戦慄した。

 

 

なんて……なんて――――

 

嬉しそうな顔なんだ!!!!

 

 

 

ニコニコと、満面の笑みを見て、俺は不覚にも、ときめいてしまったのだ(テヘっ)

 

 

 

「ちっきしょぉぉっっ!!」

 

 

極光に包まれながら俺は自分の馬鹿さ加減に泣いた。

 

ジュッ焼ける音と共に涙は蒸発していった。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……死ぬかと…思った…」

 

 

極光を受けきった後に残っていたシールドエネルギーは75。

 

ほんとよくもってくれたよ、びゃくし―――――

 

 

「モードセレクト、『深緑の大地(グリーン・ガイア)』」

 

 

目の前には、深緑の装甲を見にまとい、バズーカを担いだ千春。

その砲口は問答無用で俺を捉え――――

 

 

「お疲れ様、一夏。中々かっこよかったぜ?」

 

 

千春の嬉しい嬉しい労いの言葉も、今の場面では死刑宣告と同義だ。

 

いや、すごい嬉しいんだけどね。舞い上がるくらい。

 

 

ドカァァァンッ!!

 

 

赤を超えて白い、その爆発と光に俺は包まれた。

 

 

あれ?デジャヴ?

 

 

 

 

 

 

 

「お、織斑くんがっ!」

 

 

管制室、オペレーターとしてそこにいた山田真耶は、爆発に巻き込まれた一夏を見て今日二度目の悲鳴をあげた。

 

一度目は一夏が単一仕様能力を使った際。まだ一次移行(ファーストシフト)さえ完了してない筈の『白式』が、単一仕様能力を使った時には驚いた。

 

 

至近距離からのバズーカによる一撃。

 

爆煙の中にいる一夏の姿はまだ見えない。

 

煙が濃すぎて、見えないのだ。

 

 

 

「―――ふん」

 

 

自分の生徒である一夏の心配をしていた山田真耶をよそに、千冬は呆れと、嬉しさと、安堵が混じった難しい表情を見せる。

 

 

「機体に救われたな。――、一夏」

 

 

黒煙が晴れた時、アリーナを見て観客席の誰かが声をあげる。

 

「何アレ、織斑くんのISの姿が変わったの?」

 

「まさか…一次移行(ファーストシフト)!?」

 

 

煙が弾けるように吹き飛ばされる。

その中心に、皆、『白』を見た。

 

千春との戦いで、軽微だが損傷していた傷は、まるで癒えたかのように『無傷』。

 

『白式』は真の姿で、そこにいた。

 

 

 

 

―――――フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください―――

 

 

(な、なんだなんだ……?)

 

意識に直接データが送られてくる。それに呼応し、目の前に現れるウインドウ。

その真ん中には「確認」と書かれたボタン。

 

訳もわからずそれを押す。

 

―――完了、正式に形態移行が終了しました。新たな単一仕様能力を確認。発動しますか?―――

 

「え?単一仕様能力って一個じゃないの?」

 

―――『白式』内に、二つの単一仕様能力確認。『零落白夜』、『疾風迅雷(しっぷうじんらい)』の二つがあります―――

 

 

「しっぷうじんらい?……どんなの?」

 

―――発動、しますか?―――

 

 

んー、発動しても良いけど……エネルギーがねぇ。

さすがにバズーカ食らって残ってるわけ……

 

―――シールドエネルギー残量、600。『零落白夜』、『疾風迅雷』、共に発動可能です―――

 

 

え?回復してる?……んじゃま、発動しますか。

 

 

―――了解。準単一仕様能力(ワンオフ・セカンドアビリティ》『疾風迅雷』発動―――

 

 

とたん、一次移行を終えた白式の、至る所に走っていた溝がスライドし、フィン状の内部装甲が顔を覗かせる。

 

 

そこから放出するのは真紅の光の粒子。『白式』から放出される余剰出力。

 

真紅を纏った『白式』が、光の粒子を撒き散らしながら『グラデーション』へ迫る。

 

 

 

 

千春からは、一夏の姿が、幾重にも重なり、分身を残しながら迫るように見えた。

 

 

「な!?速い!」

 

武器すら持たず突撃してきた一夏を紙一重でかわす。

 

すかさず背後へ向けライフルの銃口を向けそのトリガーを引く。

 

しかし、放ったビームは一夏の『残像』を貫いただけだった。

 

 

(そんな!?ハイパーセンサーは今のを『一夏』として捉えていたはず……質量をもった残像だとでも言うの!?)

 

 

千春は舌打ちと共に飛翔する。一次移行を経て、何かしらの機能が発動したのだろうか?

 

 

「『フェザー』っ!」

 

不安を払拭するように声をあげる。

 

六枚の推進翼から六基の羽根が舞い散る。

 

「当たって…っ!」

 

六基の羽根とビームライフルによる、蹂躙が始まる。

 

狙いは付けない。ハイパーセンサーが誤認する。

 

超音速、その一歩手前の速度で飛ぶならば、この雨を避けきれはしないと踏んで、千春は計七つの砲口を射ちまくった。

 

 

(くそっ、俺が白式の反応に追いついていけていない!)

 

 

しかし、ビームの雨を『白式』は避けていた。

 

『疾風迅雷』により、スライドした装甲の至る所にから露出した小型スラスターによる『全方位近距離瞬時加速』。通常の飛行速度が常時超音速一歩手前までくるこの『疾風迅雷』には必要不可欠な機構。

どうやら『白式』は瞬時加速が気に入ったらしい。

 

しかし、そこは人体が至る事の出来ない境地。ハイパーセンサーの助力を得たところで『反応速度』『思考速度』は上がらない。

 

 

「一度『疾風迅雷』を解いて……いや、そんな事してたら撃ち抜かれるっ」

 

 

降りしきるビームの雨を、右に左に時には回転して回避しながら一夏は舌打ちする。

 

千春は言い知れぬ戦慄から、一夏は己の力不足に苛立ち舌打ちをした。

 

先に動いたのは千春だった。

 

周囲に展開していた『フェザー』を散開させ、自身も突撃する。

 

 

ここでセシリア・オルコットと、千春・フレイヤ・ブリュッセルとの、BT適正値の差を語ろう。

 

BT兵装の適正に必要なのは人並み外れた空間認識能力だ。

 

これに関して、セシリアと千春は互角と言えよう。いや、狙撃を得意とするセシリアの方がわずかに上だ。

 

 

ならばなぜ、千春が『BT適正値の世界最高値』を叩き出したのか?。

 

それは、類い稀な『並列思考』と呼ばれる能力故だ。

 

『並列思考』とは?と問われれば、同時に複数の事を考える事が出来る事。と答えよう。

そう、一度に複数の思考が可能なのだ。まったくの同時に。

 

十人の言葉を聞く事をより異常な、人並み外れた異能。

十人から投げ掛けられた言葉を、それぞれ理解し答えを提示出来るのだ。

 

『並列思考』による複数のビットの制御。これはまさに『チート』と呼べる行為だ。

 

他の事をしながら、一基一基のビットに意識を集中し、完璧に操っているのだから。

 

 

セシリアはビットを仕様する際は他の攻撃をしない……いや、出来ない。

今のセシリア…いや、常人では頭がそれを処理仕切れないからだ。

 

故の『世界最高値』。BT兵装のためにあるような能力。

 

 

 

『グラデーション』が『蒼き水面(ブルー・アース)』時のみ展開可能なBT兵装『フェザー』。

 

 

その一基一基が、一夏を捉え唸りをあげる。

 

 

「うおおおあぉっっ!」

 

 

しかし、『並列思考』、『空間認識能力』が高くとも、いくら完璧に操作出来ても、

 

『捉えられない』のならば途端に意味のないものと化す。

 

 

 

残像を残しながら加速する一夏は、手に『雪片・千秋』を展開。

 

『零落白夜』を発動する。

 

 

「くっ、…一夏!」

 

 

銃口を向ける。

 

斬、

 

 

ライフルを真っ二つに切られる。それと同時に後ろへ退る。

 

 

「千春ッ!!」

 

 

一夏が雪片を振り上げ千春に追いすがる。

 

 

「俺の……勝ちだっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、散々盛り上げておいて、この様か大馬鹿者」

 

「すみ…ません」

 

試合が終わって、俺は馬鹿者から大馬鹿者になっていた。

すげぇうれしくないランクアップだった。

ダウンじゃないのが千冬姉らしいと言えば千冬らしいがね。

 

「武装の特性を良く考えずに使うからああなるのだ。身をもってわかっただろう。明日からは訓練に励め。暇があればISを起動しろ。いいな」

 

「……はい」

 

 

頷く。頷くしかないよなぁ……。

あんな大見得切ってエネルギー切れで負けてりゃあさあ。

 

 

「しかし…まあ……オルコット、ブリュッセル両名に良く善戦した。流石は私の弟だ」

 

 

千冬姉は背中を向けて歩いて行く。

 

声が小さくて聞こえなかったけど、なんて言ってたんだろ?

 

 

「えっと、ISは今待機状態になってますが、織斑くんが呼び出せばすぐに展開できま…あ、知ってましたっけ?。ただ、ISを展開するのにも規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はい、これ」

 

ドサッ。

 

ん?今ドサッっていったよ?。つか目の前のこれはなんだ?

 

IS起動におけるルールブックと書いてあるが『アナタの街の電話帳』じゃないのか?

すげぇ分厚いくせに一枚がめちゃくちゃペラ紙なんだが……何ページあるんだよ、これ……

 

「何にしても今日はこれでおしまいです。お疲れさまです織斑くん」

 

 

山田先生はニコニコと笑いながら、歩き去っていった。

 

 

 

「行くぞ」

 

出た。出ましたよ。俺の周りの優しさ欠乏症人物ナンバー2。

名前は箒。俺の幼馴染みなんだけどなー。

 

俺は重い腰をあげて、寮への道のりを歩き始めた。

 

 

「………」

「…な、なんだよ」

 

横にならんでいると、さっきからじろじろと俺を見てくる。

 

 

 

「負け犬」

 

「わおーんっ!」

 

「涙を流しながら喚くな!」

 

「うるせぇ!そ、そりゃ勝つなんて言ったけどよ!仕方ないじゃねぇか!エネルギー切れちゃったんだもんよ!」

 

 

ああ、見苦しいな~俺。なんて思いながらの反論。

ちくせう。幼馴染みにお疲れさま、の一言もねぇのかこの幼馴染みさンはよぉッ?

 

千春だったら、

 

「お疲れさま、一夏。残念だったね、……け、けど!…すごく…かっこ良かったよ!……一夏の頑張ってる姿…すごく……」

 

なんて言ってくれて、

 

「千春…、俺強くなるよ。千春をあらゆる事から守れるくらいに!」

 

「一夏っ!……」

 

「千春!」

 

 

なんて感じに……うへへへへ…。

 

 

「ふん、……それで…どうだ?負けて悔しかったか?」

 

「あ?そりゃまあ。勝てたのに負けたなんて悔しいさ」

 

おっと、妄想世界に片足突っ込んでたぜ。

 

 

「そ、そうか。では、これからも剣道の鍛練をしよう」

 

「え?いいのか?」

 

「い、嫌ならいいが…」

 

「馬鹿、嫌なわけあるか。宜しく頼む箒」

 

「ああ……任せてたおけ一夏」

 

 

 

そう言って箒は嬉しそうに笑って頷いた。

 

 

 

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