「と、いうわけでっ!織斑くんクラス代表おめでとう!」
「「「おめでとう~!」」」
パン、パンパーン!
クラッカーが乱射される。
俺の頭になってきた色とりどりの紙テープは、その実質重量よりもはるかに重く俺の心にのしかかってきた。
ちなみに今は夕食後の自由時間。
場所は寮の食道、1組のメンバーは一人を覗いて全員揃っていた。
各自飲み物をもってやいのやいのと盛り上がっている。
「…………」
めでたくない。ちっともめでたくない!なんだこのパーティーは。
ちらと壁を見れば、そこには『織斑一夏クラス代表就任パーティー』とデカデカと書かれた紙がかけてある。そうか、就任パーティーか。……はぁ。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねぇ」
「ほんとほんと」
全校生徒の前で戦ったせいか、ますます押し掛けてくる女子で、俺の部屋も盛り上がってますよ。
その時、千春と同室なのが箒とセシリアに知られ、殺気を向けられたんだが、あれはまたなんでさ。
「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」
「いいなぁ~、私達のクラスにちょうだいよっ!」
「ダメダメ~、織斑くんは私んちのクラスメイトだからね~」
もはや所有物らしい。
あれ?てかさっきから相槌ついてる娘って二組の女子だった気が………
つかおかしいだろう。あきらかにクラスの人数以上の人間がいるだろ!
「人気者だな、一夏」
「そう見えるなら眼科行け、もしくはISのハイパーセンサーを使って人の顔をよく見てみろよ」
「ふん」
隣で座っていた箒は鼻を鳴らしてお茶を飲む。
なんでこいつは機嫌が悪いんだろうか。
「ところで千春はどうしたんだ?……同室なのだろう?」
「ん、走らされてグッタリ。千春って運動出来るけど体力ないんだよ。今部屋で早々と襲ってきた筋肉痛でうつ伏せになって寝てる。」
「……なるほど、筋肉痛か。あれほど辛そうだと可哀想に思えるな」
「え?……千春っ!?」
箒が視線を食堂の入り口へ向ければ、壁を這うように歩く千春の姿。
脚がぷるぷると震えてる。
俺は席から立ち上がり千春に駆け寄る。
「い~ち~か~……」
声までぷるぷるしてる。涙声だし。
「千春!まだ動いちゃダメだって、今は安静にっ…」
「だって~、楽しそうなんだもん」
タパー、と涙を流しながらぷるぷると脚を震わせながら食堂内をあるこうとし、壁から手を離した時、
「わっ!千春!……ほら、危ないだろ?」
「う、うう~…ゴメン一夏…でもなぁ」
倒れかけた千春を抱き止める。途端、女子特有の甘く、それでいて清々しい気分にしてくれる香りが鼻をくすぐる。
「仕方ねえ…ち、千春…すこし我慢してくれ?」
「え?いちっ――ひゃあ!?」
思わず、抱き止めていた千春を両腕で抱き上げる。お姫様だっこだ。
千春は、俺が太ももに触れてしまったせいで筋肉痛の痛みが走り、俺の首に手を回し抱きついてきた。
ん?何故冷静なのかって?
食堂中の女子に見られ、もうなんか羞恥心とか吹き飛んじゃったんだよね。
「あ、あれは!?」
「伝説の!?」
「「「「 お姫様だっこだ~!! 」」」」
あ、いやゴメン。超恥ずかしかった。
「おお~、楽チン楽チン」
当の千春と言えば、お姫様だっこされ、心地良さげに目を細めた。
犬とか猫とかの喉を撫でてあげたりするのとどこか似てて思わず笑ってしまう。
超かわええぇ~!!
「えっと、俺のと、隣で……いいか?」
「ん?一夏がそうしてくれると助かる。今腕も上がり難いし…飲ませてくれると、わたくしとっても助かるなぁ~。ああ、飲ませてくれないかなぁ~?」
さっきまでいた席に戻ると、自然に相手いた隣に千春を座らす。
片目を閉じ、いたずらっこのような笑みを浮かべた千春。任せろ、言われなくてもしてたから!
「おう、何がいい?コーラから?」
「え?じ、冗談だってっ…それくらい自分で…」
「問答無用!ほら、口開けて」
「わっ、バカ一夏!そんな、子供のじゃないんだからっ」
コーラの入ったコップを持ち、千春に飲ませようとした俺は、顔を背けた千春の頬にコップを突きつける。
なんつーか、悪戯心が沸き上がる。
「ん、じゃあほら、自分で飲んでみろよ千春」
「え?…っ!…う、……うぉっ…」
片手にコップを無理矢理持たせる。
そうすると、力の入らない千春は両手で持つことになり、ゆっくりとそれを持ち上げ飲もうとする。
そこで思い出してほしい。千春は腕が上がらない。故に、限界まで上げて胸より下までしか届かない。
「と、とろからいよ~、いちは~っ…」
それでも頑張って飲もうとした千春。舌を出して嘗めようとしても届かない。
またしてもタパー、と涙する千春は降参の意思を表し、俺はニヤニヤと笑いながらコップを奪い、飲ましてあげる。
なんか雛鳥に餌を与える親鳥みたいだ。
すげぇ可愛いぜっ!!
「いっ、いいいいつまでやっとるかぁっ!」
「あいだっ!?」
「ひゃうっ!?」
イチャイチャ(一夏はイチャイチャしてた気分だが、千春からしてみれば一夏にいじわるされてただけ)してたら、竹刀をとった箒がそれを俺の脳天に叩きつけられ、思わず、というか衝撃でコップを手から離してしまう。
そうするとコップの中のコーラは千春に零れてしまい、……胸にかかってしまったのだ
◇
「ち、ちは…る…」
ゴクッ、生唾を飲む。
「う…わぁ…」
周囲からも熱い吐息が漏れる。今の千春の姿は同性であっても魅了する。
ゴクッ、またしても喉がなる。
「つ、つめたぁ~、っひぃうっ!?」
胸に冷えたコーラをぶちまけられた千春は制服を脱ごうとし、上がらぬ腕を上げようとしてまたしても筋肉痛に痛む。
「千春…お前…下着付け―――」
バシィンッ!!
濡れて肌に密着した制服からは、「下着」を付けているようには見えず、何しろその大きな胸の先っちょには…
とまで思考した所で箒が放った竹刀を後頭部に受け意識を掠め取られた。
ナイスだ箒。あのままだったら酷いことになってただろう。
千春を俺なんかの血で
……あれー?ここだけ抜き取るとカッコいい台詞になるんだけどな~。使う場面を間違えてる感がバリバリ感じるんですがー。
それは、千春と仲の良い
「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君にインタビューをしに来ました~!」
オー!と食堂にいた一同が盛り上がる。オーじゃねぇですよオーじゃ。
「あ、私は二年の
受け取って一応頭を下げる。なんというか様式美だ。
「ではではさっそく~、織斑君!君の本命の相手はやはり千春・フレイヤ・ブリュッセル女史!?」
オイあんた、何イキナリ核心ついてんだ。
ガタタッ!
「そ、それは違うぞ!」
「あ、あり得ませんわ!」
俺の時が止まった隙に立ち上がり抗議するのは箒とセシリア。
え?なんで?
「えぇ~?だってほら。この写真を見てそう思わない子はいないよ?私がここに来たのもこれの調査だし」
ペラ、と渡して来たのは一枚の写真。
ISを纏った千春と俺が向かい合い、手と手を重ねて勝負を誓いあった時のものだ。
てかこの真横からのアングルだとアリーナのシールドに突っ込んでる気が……まあいいか。
「すんません。これ一枚貰えます?」
「お?構わないよ。インタビュー代と言うことで」
「クラス代表就任パーティーの入場料としていただいておきます」
「なかなか賢しいものだ。しかたない、スクープの時使わせて貰ったし、…いいよ!」
「まて、スクープってなんぞや」
「熱愛発覚!?かの織斑一夏の恋人はカレンデュラ!?、の見出し一大トップで使わせて貰いました。あの号の売れ行きはヤバかったな~」
それはあれか?俺と千春の
「一夏っ!」
「一夏さん!」
「一夏くん!?」
「おりむーっ」
食堂中の女子の視線が俺に向けられる。
あ、なんかやばい。捕食者の気持ちがわかった気がする。
「の、ノーコメントで」
ボコボコにされました。
「じゃあ本題に移りましょうか」
「あれ?さっき千春の件でって…」
「ああ、あれ嘘。インタビューついでにスクープGETなるか!?って気構えで聞いて見ました」
こうやって一般市民はマスコミに人生を変えられてしまうのか。ちくせう。
「ではズバリ織斑一夏君!代表になった感想をどうぞ!」
ボイスレコーダーをズズイっと俺に向け、無邪気な子供のように瞳を輝かせている。
「まぁ…面倒くさいことになったな……とか思ってたんですが、…こんなパーティーまで開いてくれたんだ、皆の為にも負けられない……いや、俺が負けるのが嫌だから勝ちに行く。全力で、俺の全身全霊を賭(と)して戦いに勝ちに行きます………こんな感じ…かな?」
思わず力んじゃったよ、はずかしい。
ボイスレコーダーを下げた先輩は、どこか熱を持った瞳で俺を見上げていた。
「う、うん…すごく…かっこよかった……が、頑張ってね織斑くんっ、応援してるから!」
モジモジとスカートを弄りながら見上げてそう言った先輩は……なんかさっきまでと別人だった。
「あ、ありがとうございます?」
「じゃあ次、セシリアちゃんもコメントちょうだい」
「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが…仕方ないですわね」
とかなんとか言いつつも満更でもなさそうに立ち上がるセシリア。
心なしかいつもより髪のセットに気合いが入っている気がする……写真対策だろうか?
「コホン、ではまず、一夏さんとわたくしの馴れ初めを……」
「却下。写真だけちょうだいな」
「なっ!最後までお聞きなさい!」
「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、君も織斑くんに惚れたからってことにしておこう」
ポッと赤くなるセシリア。きっと怒り心頭だろう。怒髪天なセシリアが懐かしい。
「なにをバカな」
ここは援護射撃し、セシリアの怒りを抑える。
「え、そうかなー?」
「そ、そうですわ!なにをもって馬鹿としているのかしら!?」
あれー?俺が悪いのー?
「大体あなたは―――」
「はいはい。とりあえず二人並んでね。写真撮るから」
「え?」
意外そうなセシリアの声。しかしその声色はわずかに喜色を含んでいた。
「注目の専用機持ちだからねー。ツーショットもらうよ。握手とかしてるといいかもね。あ、ただし個人的に腰に手を回したり、腕を組んだりしなだれたりとかはNGね」
「こ、腰や腕くらい!」
「やだ」
「…まあ、良いですわ……ん…」
何故かモジモジとし始めたセシリアはチラチラと俺を見てくる。
なんだろうか、この『チャンス到来、ただし安く見られないように気を付けなくては』的な雰囲気。あれか?この間の試合の雪辱を晴らすつもりか?
「あ、あの…撮った写真は当然いただけますわよね?」
「そりゃもちろん」
「でしたら今すぐ着替えて―――」
「やらせると思うてか、時間かかるからダメ。はい、さっと並ぶ」
黛(まゆずみ)先輩は俺とセシリアの手を引いて ――俺の手を壊れ物のように触れて―― そのまま握手まで持っていく。強引な先輩だ。
「…………」
「…………」
「な、なんだよ?」
「べ、べつに、何でもありませんわ」
「…なんでもない」
こっちをじろじろと見てくるセシリアと箒。
何か言いたいのか、と思ったが違うらしい。紛らわしいやつらだ。
「それじゃあ撮るよー。織斑くん、かっこよく撮るよーっ!」
は、はぁ、そりゃありがたい事で。
「織斑くんに、一を足すとー?」
「「「「「 に一! 」」」」」
シャッターが押される瞬間、一年一組が一人を除き全員フレームのなかにいた。
箒なんて俺に抱きついてカメラに写ろうとするくらいだ。
「箒……」
「つ、つい、転んだのだ。決して抱きついたわけでは…っ」
「ああ、わかってる箒、俺はわかってる…」
人見知りが激しい箒にしては頑張ったほうだ。
本当はクラスに馴染みたいんだ。
俺はセシリアと他のクラスメイトが騒いでる中、頑張って一歩を踏み出した箒の頭を優しく撫でるのだった。
「一夏ぁ……」
その表情は、惚けていて、擬音でいうなら、ほにゃ、と音がつくような笑みだった。