「え?……千春?」
鈴は目を見開いた。まるで、あってはいけないものを見るかのような眼(まなこ)で。
クラスに緊張感が走る。
「……凰、鈴音……なんで、ここに……いるのよっ!」
千春は机から離れ教室内を駆け出す。目標は凰鈴音、この少女だろう。
「千春!、落ち着け!」
私は怒りに震える千春を止めようとするが間に合わない。
――ダンッ!
一夏の机を蹴り、高く飛ぶ凰鈴音。それはまるで、『相手に飛びかかる』ようだった。
いや、間違いなく千春に向かって飛び掛かったのだ。
机を蹴られた一夏はため息を漏らし、床にばら蒔かれた筆記用具を拾いあげる。
一夏、なぜ止めようとしないのだ!
私が一夏へ向け一瞬だけ怒りを向けた時、事態は急変していた!
◇
「ちっはるー!♪」
「りーんっ!♪」
抱き(だ)っ!
そう、二人とも甘い声で互いを呼びあい、抱き合ったのだ。
「へ?」
私は想わず変な声をあげる。まるでクラスを代表して声をあげたようだった。少し恥ずかしい。
しかし声をあげたくもなる。さっきまでの、一触即発、修羅場、など、様々な言葉が合いそうな雰囲気は一片も残さず消えていたからだ。
「会いたかったよりーんっ!、もうっ、二年ちょい合わなかっただけでこんなに可愛くなっちゃってぇ!、可愛いよぉ!」
普段、喋らなければクールに見える千春の顔が緩みきっている。凰鈴音を抱き締めながら頬擦りする姿は親バカのようだ。
「あたしも会いたかったわよ千春!む、二年でこんなにっ…少しはサイズちょうだいってのーっ!」
凰鈴音もまた嬉しそうに笑い、次いでどこか羨ましげに千春の胸を揉みしだきながら吠える。
「やぁっ、鈴っ、やめっ…んぁっ!?」
相手を抱き締めていた腕を離し、胸を揉まれ悶える千春。
「「「「 ゴクリっ 」」」」
クラスメイト達が生唾を飲む。千春はビクビクと身体を震わせながら凰鈴音に胸を揉まれ続ける。
その姿はすごく扇情的で、とても艶やかだった。
すぱんっ!
丸めたノートで凰鈴音――鈴の頭を叩く。
「変なキャラを演じたと思ったらすぐキャラ崩壊してるし、お前は何がしたかったんだ鈴!つか千春の胸から手を離しやがれ」
「あいたっ!?なにすんのよ一夏っ!、一夏もやる?すっごく柔らかいわよ?」
片手で頭を擦る鈴は俺に振り返り、ニヤリ、と口元を釣り上げ、『悪魔の取引』をしてきやがった。
「おっ、おねが…いっ!?…やめ…て…ひゃあっ!?」
片手で千春の胸を片方揉みつづける鈴は、チラ、と悶える千春の『空いて』いる胸を見た後、
「空いてるわよ?」とでも言うようにニヤリと笑う。
「是非やらせていただきまうぼぉっ!?」
千春の胸を揉もうとしたとき、視界に入ったのは千冬姉。
うつむきながらふるふると震える姿は、現代に蘇った鬼のようだった。
顔を真っ赤にしてたのは怒りからだろうか。やべぇ、殺される。
「お、織斑…席につけ………」
腕を胸の下辺りで組んだ千冬姉は俺をチラチラと、なんども見ながら促す。
胸の下で腕を組んだせいか胸が押し上げられるように強調され………は!?これはあれか!?
「胸を揉みたいようだな織斑、よかろう、胸に触れたら貴様を八つ裂きにしよう。それがいやなら席に座れ」と言う意味!?
た、たぶんそうだろう。『胸を強調』し、怒らず着席を促すからには………そう言う意図があるのだろう。
「はっはいぃっ!」
俺は音を置き去りにするほどの素早さをもってして席に着席する。背筋はピンと伸ばし顎をひく。
席につく、という行為において、これ以上のものはないと言う形で。
「……やはり、胸か…」
千冬姉はどこかガックリしたように肩を落とし、
「あわわわわっ…」
ガクガクブルブルと、千冬姉を見て怯えている鈴の目の前に立つ。
「……もうSHRの時間だ。自分の教室へ戻れ……――― 凰鈴音」
鬼など生温い。今鈴の前に立つは、悪鬼羅刹の修羅の王。
小娘如きが相対することが烏滸(おこ)がましい殺戮の武神。
その一言で、凰鈴音の下着が濡れた。
「ち、千冬さん……」
鈴の顔は青を通りすぎ、一周してまた青になっていた。………つまりは青い。
その表情は死刑を宣告された絶望に色泥れた無罪の少女。
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、でなければ……八つ当たりをする」
それからの鈴の行動は早かった。
千春から離れ、股をスカートの上から抑えて教室から走り去っていった。
鈴………小学生の時からの癖、『チビり癖』、まだ治ってなかったのか。いやまぁ千冬姉何故か切れてたし、仕方ないか。
昔のままの鈴だ。気取った口調の鈴を見たときは驚いたよ。
「つか、あいつ、IS操者だったのか。初めてしった」
そう素直に思って、なんとなく口に出したのが不味かった。
「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?偉く親しげだったな?」
「い、一夏さん!?あの子とはどう言う関係で―――」
「ねぇねぇ!あの子って織斑くんの恋人!?千春とも親しげだったけど………まさか愛人!?」
「千春、あの子とはどう言う関係なの?」
「んぅ……あ、あぁ。私の大親友。中学の時にね…―――」
クラス中からの質問集中砲火爆撃。ああ、馬鹿……。
バシンバシンバシンバシン!
「席につけ、馬鹿ども。ブリュッセル、お前は席の後ろでSHRが終わるまでスクワットだ」
千冬姉の出席簿が火を噴いた。
◇
「お前のせいだ!」
「あなたのせいですわ!」
昼休み、開口一番箒とセシリアが文句を言って来た。
「なんでだよ………」
この二人、午前中だけで山田先生に注意五回、千冬姉に各三回叩かれてる。学習しないんだろうか。
(と思う一夏だが、教室の一番後ろでスクワットをし続けた千春の、『ぶるんぶるん』と揺れる乳房を見ようと何度か後ろを見ようとし千冬に叩かれ、ならばと白式のハイパーセンサーを用いて、『前を見たまま後ろを』見ようとし、シールドを突破した、千冬が降り下ろした出席簿(かど)にて意識を掠め取られたのだった。彼は学習しない、というわけではない。諦めないのだ。)
「まあ文句でもなんでもメシ食いながら聞くから、とりあえず学食行こうぜ」
「む……。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」
「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」
はいはい、ありがとうよ。ありがたくて涙がでるぜ。
「一夏っ、学食行こうぜ♪」
「お、千春。ああ、今行こうとしてた所だ。箒とセシリアもいるけどいいか?」
先程まで筋肉痛で泣いていた千春。
太ももマッサージをしてあげたらなんと動けるまでに回復したのだ。
今も動きこそぎこちないが、俺に後ろから抱きついてくるくらいだ。
ああっ!ヤワラケェ!、当たってるだけで天国に行けそうなくらい気持ちいいっ!!。
―――どこに何が当たってるかは皆様のご想像におまかせします。Rー15が付かないようにするための処置です。綿密かつえっちぃ描写がご覧になりたい方は、製品版をご購入することをお薦めします―――
「ん、全然OKだぜ。むしろ来なかったら呼ぶし」
千春は俺から離れると俺達を率いるように先頭に立ち歩き出す。
さて、俺もいきますか…―――なんで箒もセシリアもジト目で俺を……ん?鼻の下が延びて?…………あれ?なんで二人の拳が眼前に――
「ふ、不潔だっ!」
「不潔ですわっ!」
顔を真っ赤にして二人は食堂へ向け歩き出した。
ちくせう、今日は厄日だ、千春の太ももを触れたのとさっきの抱き付かれたこと以外は。
◇
「待ってたわよ、一夏!」
ちびちゃいな か゛あらわれた
どーん、と俺達の目の前に立ち塞がったのは噂の転入生、凰鈴音(ファン・リンイン)だった。
ちなみに俺や千春は略して鈴と呼んでいる。
しかしこいつほんと変わらんな。
髪型も昔から一貫してツインテールだし。
「まあとりあえずそこどけ。食券撮れないし普通に通行のじゃまだ」
「う、うるさいわな。わかってるわよ」
ちなみにその手にはお盆を持っていて、ラーメンが乗っかっていた。
「のびるぞ?」
「わ、わかってるわよ!大体アンタが遅くくるのが悪いんじゃない!…あっ、千春は悪くないわよ?そいつが悪いんだから!」
なんで早く来ないといけないんだよ。
鈴は元気なく俯いた千春にすかさずフォローする。
昔からこいつは騒がしいくせ、千春には絶対に嫌われるようなことはしなかった。
いや、一度だけ説教され、嫌われたかもしれないと人ん家で泣いてたっけ。
まあとりあえずこのままじゃ俺が通行の邪魔になりかねんので食券を買い食堂のおばちゃんに渡す。
メニューは日替わりランチ。
「グルルルュ~」
「な、何故千春さんは獣のような呻き声をなさっているのですか?」
「ああ、鈴に抱きつくのを我満してんだ」
「千春らしいが、抱きつかないのは何故だ?」
「今ラーメン持ってんだろ?抱きついたら危ねぇし」
「ちっ、千春が自制しているのか!?」
「あ、ありえませんわ!!」
今のやりとりで二人が千春に抱いてる感想が良くわかった。
全く、こいつらも、俺の中学時代からの親友(先日おっぱい談義したバカ)も千春をなんだと思ってるんだ!
あのバカも、『顔はいいが笑い方と生き方が合わん』とか言いやがる始末。友達なら全然OKだが恋人としてならアウトだなんて…とりあえずそいつとは互いにぶっ倒れるまで殴り合った。
「にして久し振りだな、ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」
日替わりランチを待ってる間、隣で俺の事をチラチラと見てた鈴に話をふる。
「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」
「どんな希望だこのバカ」
コツン、と痛くない程度に鈴の頭を小突く。
両手を塞がれていた鈴は恨めしそうに俺を睨むも、すぐに嬉しそうににへら、と笑った。
「あー、ごほんごほんー!」
「ンンンッ!……一夏さん?一夏さん?注文の品、出来ましてよ?」
棒読みで咳き込んだ箒とセシリアに会話を中断される。
おお、今日の日替わりは鯖(さば)の塩焼きだ。
こんがりとついた焼き目が食欲がそそられる。
「向こうのテーブルが空いてるぜ?」
ラーメンセット(どんぶりいっぱいのラーメンと炒飯、餃子と量の多さで学食とっぷのセットだ)をお盆に乗せた千春が先導する。
そう、鈴と同じラーメンを頼んだ千春が。
先程鈴がといったが、実は千春も鈴に嫌われるのを極端に怖がるのだ。
三人で何か食いに行くときも、鈴と同じものを必ず一品たのみ、さらに他に頼んだりしていた。
俺はと言えば、千春と『あ~ん』がしたいために違うものを必ず頼み、千春と物々交換をしていたのだ。まあそうすると必ず鈴も乱入してきたが。
◇
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいものだが」
「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃいますの!?」
昼食を食べている途中、二人は多少棘のある声で聞いてくる。
食堂にいる他のクラスメイトも、興味津々とばかりに頷いていた。
「べつに………こいつとは付き合ってる訳じゃないわよ」
はぁ、と大きな声でため息をついて視線を二人から反らし応える。
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだよ。箒だって小学校の頃に俺といただけで夫婦とか言われて嫌だったろ?」
「へっ!?あっ…あれは…その」
そう。剣道を一緒にやっていたせいで、箒はいわれのない中傷を受けたのだ。
四人組でよってたかって箒を苛めていて、俺が切れて乱闘騒ぎになったが………今思うと、あの男の子達(一応書いておくが、言わずとも一夏と同学年なので今は彼らも15歳)は箒が好きだっんじゃないか?昔から箒は可愛かったからな。
んな事を言ったら、箒は顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏した。?どうした箒?
「あきれた。あんた昔からそんな事続けてたの?」
ほんとに呆れたように鈴がため息をつく。ジト目で見るなよ、なんか悪いことした気分になる。
「昔から……と言うことは、前にも一夏さんはそのような事を?」
「うん。あたしの時にも突っかかってきたガキんちょ五人に蹴りかましてからの大乱闘。なんだっけ?あの相手持ち上げて落とす技」
「ブレーンバスターな」
「ぶははははっ!子供の放つ技じゃねぇよっ」
千春がテーブルをバシバシ叩きながら爆笑。
千春をヒーヒー(笑い的な意味で)言わせてやったぜっ!
「あとは千春の時もあったわね。ナンパされて嫌がった千春を無理矢理連れていこうとしたの、しかもそんなのが三回も」
「それ、鈴が加勢してくれた時だけだろ?一夏に助けられたのは………更に四回プラスしてみて」
「あと四回も!?ああ、そう言えばボコボコになってた時が何度か……あんたあの時転んだって言ってたじゃない!」
「ああでも言わないと、なんで呼ばなかったんだ!とかお前キレるだろうが!」
ギャーギャーと騒ぐ二人を見て、セシリアは眉をひそめる。
「何故、一夏さんはそんなにも人のため、傷ついてでも戦うのかしら……」
その言葉は誰かに対して言った言葉ではなかった。
ただわからなかったから、呟いたまでだ。
だからだろう。答えられたのに驚いたのは。
「人のためっつか……一人によってたかって虐めに入るのが許せなかったからだな。べつに一対一の喧嘩なら様子見に回るさ」
「え…?」
「千春の時は違う理由のくせに」
「ばっ!?鈴てめぇっ!!」
「ちはる~っ、一夏が怖い~」
「よしよし、ほら一夏、鈴が怖いってよ?」
「ぐぬぬ……この泥棒猫が…」
「へへ~ん、悔しかったらアンタが大好きな人に告白でもしてみなさいよ」
「ばっ!?ばばばばっ!!!???」
「へぇ!好きな人がいるのか一夏!なぁなぁ誰だ誰だ?かわいいのか?」
「一夏っ!?、好きな人とは……誰なんだ!?」
突っ伏していた箒が覚醒し、周囲の野次馬たちも騒ぎだす。
当の一夏は顔を真っ赤にして停止(フリーズ)していた。
「件(くだん)の織斑くんに好きな子がが!?」
「ま、まつんだ!こういう時は素数を数えて………素数ってなんだっけ!?」
「お、落ち着いて!まだ慌てるような時間じゃないわ!」
「邪王炎殺黒龍波ぁつっ!!」
周囲の野次馬は総じて慌てていた。つか最後のはなんだ。
◇
「でだ、俺と鈴は小五からの幼なじみだ。箒は小四の終わりに転校したからちょうど入れ違いだ」
周囲のざわめきを無視しながら話を元に軌道修正する。
「ふぅん、この人がアンタの言ってた剣道娘?」
「ああ、篠ノ之箒って言うんだ」
鈴は箒をじろじろと見る。
箒は箒で負けじと鈴を見返していた。
「そ、…これからよろしくね」
「ああ、こちらこそな」
そう言って挨拶を交わす二人の背後に、俺は竜と虎を見た。
膨れ上がる互いの覇気。それは通常状態(いつも)の千冬姉の覇気に、勝るとも劣らない。
相打つ二人の修羅は、今まさに
しかしここで終わるかのように見えた
「ンンンっ!わたくしの存在を忘れて貰ってはこまりますわ!旦那さm――コホン、一夏さんからの寵愛を承るのはわたくしですわよ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)さん?」
ここで現れるはもう一人の修羅。箒と鈴の気質を『剛』と言うなら、セシリアもまた『剛』の者。
ちなみに『柔』は千春だけ。
「?……アンタ、…まさかセシリア・オルコット?」
龍虎の激突に参戦したのは朱雀。これで玄武がいりゃ四聖獣が揃う。
「あら?わたくしの事を知っていますの?……まあ、このわたくしの存在を知らずこのIS学園に転入するはずありませんが!」
腰に手を当て優雅なポーズ相変わらず似合うなそのポーズ。
「まぁね。アンタの噂だけは絶えなかったわ。BT兵器の適正値第二位の化け物…ってね。……ま、でも戦ったらあたしが勝つよ?悪いけど、あたし強いもん」
ふふん、と鼻で笑う鈴。相変わらずだな、コイツ。こいつ妙に確信じみてるし、しかも嫌味でない言い方をする。
素で、そう思ってるのだ。
「言ってくれますわね…………」
途端、空気が変わった。
覇気から殺気へと、威圧から殺意へと変わる。
しかし鈴はそれをニヤリと笑っただけで涼しげに受ける。
そしてなに食わぬ顔でラーメンをすする…………
『なに食わぬ』顔で飯を『食う』、なんつって。
「そう言えばアンタ、クラス代表なんだって?」
「お、おう。成り行きでな」
「ふーん」
鈴はどんぶりを持ってごくごくとスープを飲む。こいつはレンゲとかそういうものは使わない。
『女々しいからイヤ』らしい。そのくせ千春にはレンゲを強要するんだからわけわからん。
「あ、あのさぁ…ISの操縦、教えてあげよっか?」
顔を俺から逸らし、視線だけをこちらに向けてくる。
言葉にしてもやけに歯切れが悪い。
「そりゃ助か―――」
「一夏に教えるのは『私』の役目だ!千春に指名されたからな!」
「あなたは二組でしょう!?敵の施しは受けませんわ!!」
おや…?雲行きが怪しくなって来たぞ?………